(この話は、「ばらいろのなつやすみ」直後の話で内容が続いていますので、そちらを読み直してから読んでいただけますと嬉しいです。)
ポンコツフィアットは京都の町に戻って来た・・・・・それは綺麗な。
朝焼けの中を。
『バラ色の日々』・・・なんでこの曲なんだ?って言われると、二年前に思い付いていた話だからです(笑)。
・・・ってことで、BGMはポルノグラフティの『ミュージック・アワー』でヨロシク(爆笑)!
ガトーの住んでいる留学生会館の前にコウが車をつけたのは、朝の八時半のことだった。神戸の明石を真夜中に出て、一般道で帰って来くると大体こんな時間になる。・・・・・あと、考え事をしていたり、途中のコンビニでコーヒーを買ったり、海水と砂でザラついた自分のTシャツについて学生的感慨に浸っていたりすると。ともかく、夏の朝の八時半というのはそういう時間だった。
「・・・・・んじゃ、」
コウはそう言って、車を降りようとするガトーに声をかける・・・・・と、その時に気付いた。・・・いる。自分の肩ごしに向こうを眺めたまま、コウの動きが急に止まったのでガトーも気付いたようだった。振り返って留学生会館の入り口を自分も見てみる。と、確かにいた。
・・・・そこに、いた。なんだか、見慣れた人物がひどく小さく身体を丸めて、座り込んでいる。・・・陽気な金髪の頭。・・・・シャアだった。
「・・・・・んじゃ。」
そこにシャアがいることに気付きはしたものの、コウはもう一回そう言うと、すぐに車を出す。・・・・・おそらくコウは、すぐに自分の家には戻らずに、アムロのところへゆくのだ。ガトーは思った。その、竹田の下宿に。だらだらと悩む柄じゃないコウの性格ならば迷わずそうすることだろう。だって、もう『仲直りをする』と決めたのだ。すべて理解した上で。
「・・・・・・・・おい。」
京都の細かい通りの中に消えてゆくポンコツフィアットをしばらく見つめてから、ガトーはゆっくりと歩いてゆくと上からシャアに声をかけた。なにしろシャアはしゃがみ込んでいたし、おまけに膝に顔を埋めていたからだ。
「・・・・・・・・おい。」
返事がない。ついに、ガトーは軽くシャアを蹴り飛ばした。ついに、シャアが顔を上げた。ガトーは言った。
「ここで何をしている。」
「・・・・・・ああ。入れないんだ。」
「どこに。」
「・・・・・・部屋にだよ、鍵を無くしてしまった。それで、君が戻ってくるのを待っていた。」
・・・・バカかこいつは!ガトーは思った。この間のように、もう二、三発こいつを殴ってやろうか?しかし、それより先にシャアが辛うじて立ち上がった。
「それならば・・・・例えば、アムロのところとか、他の女のところとか、どこかに行けばいいだろう。何もこんな入り口の前で私を待っていることはあるまい。」
すると、シャアはなんとも言えない笑い顔でガトーを見た。
「・・・・・いや、だが行って無いんだ。」
ガトーは一瞬耳を疑った。が、念のために聞いてみた。
「・・・・・何処に?」
「・・・・・アムロの家に。ああ、ええっと。もちろん他の女の家にも。」
「・・・・・っ、」
そこまで言った時にガトーが猛然とシャアの首を掴むと急に歩き出した。・・・・留学生会館の中へ、ではない。最寄りの、京都市営地下鉄丸太町駅へ向かって、だ。
「・・・・って、君!?」
「いつから行って無い。」
ガトーは本気で怒っていた。・・・・もう殴るものか、殴ってすらやるものか、こんな馬鹿を!
「いつからだ、言え!」
「あれからだよ、あの・・・・だから、アムロとコウ君が喧嘩してから・・・・」
「・・・・馬鹿か貴様は!・・・・・いや、間違えた、貴様は馬鹿だ!」
ガトーの大きな怒鳴り声は、明け方の京都市内にそれはもう恐ろしい勢いで響き渡った。・・・・ああ、朝の涼し気な空気は一瞬のもので、もう低くじっとりとした、そういう夏の一日が始まりかけている。容赦なく蝉が鳴き始めた。京都御所に近くて大きな木立が付近にあるのも一層よくない。あっという間に日は登り、濃い色の影が、付近には落ちはじめることだろう。
「・・・・そうは言うけどね!」
「そんなことを今さらしてもらっても、大喧嘩をしたコウもアムロも嬉しいものか!」
「だけどね!」
「だけどもへったくれもない!コウとアムロが喧嘩をしました、責任は自分にありました、」
「聞きたまえよ、君、だけどね・・・・」
「だからアムロと会うのを辞めました、他の女のところにも行かなくなりました、さあこれで満足ですか・・・・・って誰も満足する訳がないだろう、そんな結論!!」
「だけどね、私も辛いんだ!」
ついにシャアが悲鳴のような声を上げた。・・・・・ガトーは思わず足を止めた。見ると、ゴミを出しに来た途中の主婦なのだろうか、通りすがりの人物が、通りの角から怒鳴りあう二人の外国人を見て完全に固まってしまっている。・・・・・ガトーはさすがにシャアの首根っこを掴んでいた手を離した。・・・それから、深くため息をついた。
「・・・・・辛いんだ。」
「泣くな。泣いてくれるな。貴様、本当に馬鹿だな。」
「泣いていないとも!・・・何故私ともあろう人間が、こんな世界の裏側で上手く行かない人間関係のひとつやふたつで泣かなければならないんだい!」
「・・・・泣くな。」
「泣いていないだろう!」
「・・・・・・モナミ(友よ)!」
面白い事に、ガトーがそう言った瞬間に、シャアは本当に泣き出してしまった。
「・・・・・君。・・・・・・君、なんて事を言うんだい・・・・今までそんなこと一度だって言ったことがないくせに!!・・・・・心臓に悪い、」
「私達は友達だろう、友達を友達、と呼んで何が悪い。いいか、悪い事は言わない、まず泣き止め、私は人に泣かれるのが嫌いだ。それからすぐにアムロのところへ行け、さもないと・・・・・」
「君も友達を止めるっていうんだね、ああいいよ、すぐ行くとも、だがしかし私は泣いてなんかいないだろう・・・・・・・・だけどちょっと君、」
セミは本格的に鳴き始めていた。・・・・・・暑くなるな。ガトーは空を見上げた。シャアは図々しく片手を出した。顔はガトーの胸に突っ込んだまま。
「ちょっと君、今はハンカチを貸してくれないか。・・・・・すぐに返す。」
この番組では、みんなのリクエストをお待ちしています
素敵な恋のエピソードといっしょにダイヤルをして
アムロは枕に顔を突っ込んでいた。・・・・・もう、何週間も何ヶ月も何年も、そうしているような気がしていた。
「・・・・・・くっそー・・・・・・」
学校は夏休みに入っているはずだった。・・・・ああ、でもそんなのどうでもいいなぁー。大体今って何時?・・・へえ、朝か、そういえば空が明るいもんなぁー。いつも俺の部屋でワイドショーを見ているバカが居ないから気付かなかったよ!・・・・前期試験は散々だった。ああ、でもそれ以外もさんざんだからなぁー。別にもういいか。どうでもいいか。・・・・・大体どうして。
「・・・・・・くっそ、ふざけんな!どうして俺がこんな目にあわなきゃならないんだよ!!」
急にアムロは激しい怒りに襲われてうつ伏せに倒れていたベットの上に起き上がると枕を掴んだ。そうして、それを思いきり部屋の隅に向かって投げ付ける。
『・・・・・す!さーてではここで、おハガキを一通御紹介したいと思います、ラジオネームは、「青春くん」・・・・・うわ、あのさー、一言言っていいかなー・・・・君、この名前はかっこ悪いよ、かなり?!』
投げ付けたラジオはMDコンポに直撃したらしく、更にそのせいで珍しく、めったに聞かないラジオのスイッチまでもが入ってしまったらしく、いつも通り汚れた、いつも通り暑苦しい、だけど何かの足りない殺風景なワンルームマンションに、陽気なDJの声が響き渡りはじめた。・・・・・うわ、俺の部屋にラジオって似合わねぇ。
ここでおハガキを一通・・・ R.N”恋するウサギ。”ちゃん
「なぜ人を好きになると、こんなにも苦しいのでしょう?」
なんでこんな目に。アムロは、自分の半年間を思い返していた・・・・何故か男と寝てしまいました、それは親友にはヒミツだったけど、それはそれで楽しかったです。ウソじゃないです。
『さて、その「青春くん」・・・・男の子だね、しかしこの名前は・・・・まあ、それはいいか!おいておいて、では読んでみよう・・・・・「聞いて下さい。僕には最近、好きな人が出来ました。」・・・・うーん!本当に青春っぽい内容だねぇ!』
ラジオのDJは、相変わらず明るい口調で話し続けている。アムロは枕の無くなったベットに、トランクスいっちょの適当な格好でもう一回うつぶせに突っ込んだ。・・・・楽しかったです。ウソじゃないです。友達四人で、いつも一緒で、バカ騒ぎをしたり、マジメに話したり、食事をしたり、本当に楽しかったです。ただ、1つだけ、
『・・・で?えーと、「だけど僕が好きになった人というのは・・・・部活動の先輩だったんです!その人も男なんです。僕も男です。・・・・・こういう時はどうしたらいいと思いますか?僕は今、悩んでいます。」・・・・・・・・うーん!』
・・・・・ただ、1つだけ。DJは手紙を読み終わってそれだけ唸った。こんな時に、なんて話題だよ!今、朝だぞ、午前中!・・・・・アムロはもう投げ付ける枕は無いのに、もう1つ枕を投げ付けてどうしてもそのラジオを消してやりたくなってきた。
それは心が君のこと、急かして蹴飛ばしているからで
シンプルな頭で聞けばいいのさ Let's get to your love!
コウは京都市内を南下し、竹田に向かう途中で思い付いて車のラジオのスイッチを入れた。実を言うと、ガトーが車の中に音楽が流れているのがあまり好きではないので、二人だけの時にはいつも切っているのだ。
『・・・・・えー。うーん、まあ、そうだね、「青春くん」・・・・・・まあさあ、若い時っていうのはそういうもんだよ、男なのに男を好きになっちゃうとかさ!憧れと本当の恋の区別とかがつかなくてさ。そういう事も、あるものかもしれないよ、でも、君は男の子だろ?』
まるで苦笑いしているような口調のDJの声と一緒に、そんな内容が流れて来てコウは焦った。・・・・そうか、そんなこともあるとか。俺が悩んでいる事とか、そういうみたいことを、まるで軽い口調で言わないでくれよ。今急いで、死ぬほど急いで、アムロのところへ向かっている意味とか無くなってしまうから。そんなこと言われなくても、俺はたくさん考えた、どうして俺はガトーが好きなんだろうとか。・・・・どういう風に好きなんだろうとか。・・・・・それをまるで分かったような口調で、ラジオの中から話さないでくれよ、現実のそういうのって、
本当に、本当にみんな必死で苦しいものなんだよ。・・・・・そして俺は今アムロにあやまりたい、それで仲直りをしたい。
キミが胸を焦がすから、夏が熱を帯びてく
そして僕は渚へと、誘うナンバーを届けてあげる
ただ1つだけ、良く無いことがあったんです。・・・・俺、楽しいのは本当だったけど、
『・・・・・だからさ!「青春くん」も是非この機会にたっぷり悩んで。本当にその先輩が好きなのか、考えてみるといいよ、ね?どうかな、俺はその結果君がホモとかなっちゃっても否定しないねー。それも、またありだって!』
アムロは本当にラジオを切ろうと思った。・・・・もう一秒だって聞いていられるか、こんなラジオの内容!・・・・・好きになりました、ってそれ、始まっていない。・・・アムロは思った、それ始まってすらいないじゃないか!これからどうとだってなるじゃないか!・・・・そんな余裕すら無かったんだ俺は、気がついたら何もかもが始まっていた後だった。悩む余裕すらなかった。・・・・それで、1つだけ良く無い事があったんです、俺、その親友に、
「・・・・・・・アムロ!」
その時凄まじいイキオイで、アムロのワンルーム・マンションのドアを蹴り飛ばしながらのそんな声が響き渡ってきた。
「アムロ、いるんだろ!・・・・俺だ、コウだ!」
・・・・俺、その親友に長らくウソをついてしまったんです。
『・・・・・ってことで、少しは励ましになるのかなー、これからドラマ多き夏だからね!「青春くん」にはこの曲を送ります、ポルノグラフティーで、「ミュージック・アワー」・・・・イイ夏送れよ!』
アムロは遂に立ち上がると、まずラジオを消した。・・・・・それから、ドアを開きに歩いていった。
淡い恋の端っこを決して離さなければ
この夏は例年より騒々しい日が続くはずさ
「・・・・・君、恋をしたことは。」
京都市営地下鉄はちょうど、京都駅を通り過ぎ、近鉄線に乗り入れたあたりだった。・・・・東寺を過ぎ、あっという間に竹田に到着してしまうことだろう。
「・・・・・何だって?」
「恋をしたことは。」
「ヒミツだ。」
「それじゃあ、生涯忘れ得ぬだろう友を得たことは。」
・・・・・そのシャアの問いには、ガトーは考え込んだ。何とかせねば。その一心で、ここまでこの男を引っ張って来た。何とかせねば。そこまで考えて、青春ど真ん中のような自分の今の状態に急に気付いて、ガトーは妙に笑いたくなって来た。
「・・・・よせ、」
見ると、シャアが涙と鼻水で汚れたままのハンカチをガトーのシャツのポケットに突っ込んで返そうとしている。
「よせ。・・・・その問いには返事が出来る、『今』だ。」
「は?」
シャアはまだ赤いような目をしていたが、そう言ってガトーの顔を見た。
「・・・・・・今、だ。今、生涯忘れ得ぬ友が出来ようとしている。・・・・それから、ハンカチは洗って返せ、」
列車は竹田の駅についた。
「・・・・・アムロの家でな。」
列車をおりると、午前中だと言うのに目眩がするほど夏だった。そして、自分達は目眩がするほど青春の直中(ただなか)だった。・・・・・あぁ!
少しは参考になったかな R.N(ラジオネーム)”恋するウサギ。”ちゃん
そして世界中で叶わぬ恋にお悩みの方
「・・・・・アムロ!」
「コウっ・・・・・・!」
ドアが開いた瞬間に、もんどりうってコウはアムロの部屋に転がり込んだ。・・・・あぁ!
「俺、話さないといけないことが・・・・」
「いや!違うんだ、俺が話さないといけない事があったんだ、俺、いやだ、コウと友達じゃなくなるなんて、シャアが居なくなっても、コウと友達の方がいいと思ったんだ、本当だ、なのに・・・・!」
部屋の入り口あたりで少しごちゃごちゃやってから二人は、自分達のみっともなさに急に気付いた。そこで、コウは慌ててスニーカーを脱いだ。自分ときたら、靴を履いたままでアムロの部屋に飛び込んでいたからである。
「・・・・いいんだ、俺、分かった。いや、良くは分からないけど、シャアさんとアムロがその・・・つきあってたのはやっと分かったんだ。俺、ちょっとそういうの苦手で、勘が悪いんだけど、でも分かったんだ。だから、いい。俺も考えた。」
「聞けよ!俺も考えたんだってば!・・・・・俺、シャアが居なくなってもコウと友達の方がいいと思ってた、こういうの苦手なんだ、深刻で、すごく考えなきゃならなくて、重いのとか・・・大嫌いなんだ、でも俺の本心を聞いてくれ、俺、シャアなんか居なくていいと思ってだ、だけど・・・・」
アムロはそこで一息ついた。・・・・・・・・・・・泣きそうだった。
「・・・・死にそうなんだ!シャアがいないと、俺、やっぱダメだったんだ。・・・・欲張りでわがままだったんだよ!コウがイヤなら俺シャアとなんか別れていいと思ってたんだけど、だけど・・・・!」
コウは思わず笑い出しそうになった。・・・・あぁ。その台詞、聞けて良かったなあ。
「・・・・うん、俺、いいよ。・・・・アムロが誰と付き合っていても、男と寝てても、ちょっとびっくりしたけど、俺、アムロの友達辞めたく無い。・・・・・そう思ったよ。・・・・・そう思ったんだ。」
ああ、俺達はみっともないほど青春です。・・・・誰に向かってかは知らないが、アムロはそう思って天井を見上げた。・・・・それからコウに飛びついた。
たぶん心は迷っていて、壊れかけたピンボールみたいで
ルールがいつまでも曖昧なまま It's game over?
「・・・・・本当に?」
「本当に!俺、頼りがいのある友達なんだ、知らなかったか?・・・・・ノートは貸すし、CDも貸すし、女の人は紹介出来ないけど、俺のお古で良かったらジーンズもあげる。」
「・・・・・本当に?」
「・・・・・うーん、白状するとシャアさんはちょっと殴ってやりたいかなー・・・でも、それガトーがやってると思うし。」
「・・・・・なあ、本当に?」
「しつこいな!アムロも殴るぞ!?」
「・・・・・だって俺が幸せじゃないか、それだと!」
そこへ、さらにドアを開いて二人の大きな人物が飛び込んで来た。
キミが夢を願うから、今も夢は夢のまま
大好きだから踏み出せない、大好きだから臆病になる
「・・・・・ようし、間に合ったな。こうなったからには、目の前で是非結論をつけてもらおう!」
夏休みに入るまでに、どうしてこんなに時間かかっているんですか、俺達。・・・・・アムロは、コウにしがみついたまま顔を上げた。・・・・・ああ、シャアだ。コウと同じくらい、この一ヶ月間くらい拝めなかった顔が、今目の前にある。
「さっさとやれ。」
かつて無く高圧的な勢いで、ガトーがシャアを引きずり出した。シャアは、少し戸惑ったようで、ドアの脇に突っ立っていた・・・・・・だが、その後順に、自分を引っ張って来たガトー、余分に怒らせたコウ、それからアムロ・・・・・久しぶりに顔を見たアムロ、と順番に眺めていった。コウは、気がついてアムロと抱き合っていた身体を離した。・・・・どんなに恥ずかしくて信じられなくたって、自分はきちんと見ようと思った。だって、その為にこの一ヶ月はあったのだから。
「・・・・・・・・・・・・・愛している。」
シャアは非常に短く、いつものシャアらしからぬ早口で、それだけをきっぱりと言った。
淡い恋の真ん中を泳ぎきって見せてよ
可愛すぎるハートを見守ってるミュージック・アワー
「・・・・・誰を。」
意外に冷静に、アムロは立ち上がるとシャアにそう言った。シャアの方が少し困っているくらいに見えた。
「・・・・・君を、だ。君を愛している、アムロ。」
ガトーとコウは、そんな二人のやりとりを静かに見ていた。・・・・ああ、蝉がうるさいな。それで、俺達に夏は?・・・・・夏は来るんですか、平和で、楽しくて、
「俺を?」
「そうだ、君をだ。」
「・・・・んじゃ、聞くけど。」
思いきったようにアムロが言った。・・・・・ああ、平和で、楽しくて、思わず笑いころげてしまうような、
そういう夏は?・・・・・・・来るんですか?
「俺、実際のところ、すね毛があるんですけど。」
「・・・・・・知っている。」
「あと、胸が無いんですけど。」
「・・・・・・そうだったかもしれないな。うん、言われてみれば確かに無いな。」
「・・・・・・あと、イチモツついてるんですけど。」
「・・・・・極力努力しよう・・・・・。」
・・・・・・ええ、極力努力しますから。幸せになってもいいですか。
強い人にはなれそうもない、揺れてる君でいいよ
「・・・・・不毛だ。」
ガトーが頭を抱えながら、全員の頭を上からぶっ叩いた。・・・・・コウのもだ。
「・・・・・・って!なんで君に殴られなければいけないんだい、それだけ不満だよ!」
「痛いよ!我慢してくれよ、結論をつけろって言ったのガトーじゃんか!」
「・・・・なんで俺までー!!!」
次の瞬間、全員が好き勝手に話しはじめた・・・・・・・冗談じゃ無い、不毛だ!ガトーはあたりを見渡した。そこには、愛すべき友人達がいた。そうして、恥ずかしいくらいに誰もが青春の直中(ただなか)で、
キミが夢を願うから、ミュージシャンも張り切って
また今年も渚には、新しいナンバー溢れてゆくよ
・・・・・・・・・・・夏だった。ああ、間違い無く、今、夏が来た!
淡い恋の端っこを消して離さなければ
蝉の声がうるさい。・・・・・・でも、もう気にならないかな。俺は、ベットにうつぶせになってはいないから。そう思いながらアムロは、コウと一緒に部屋の窓と言う窓を開け放った・・・・・ハンカチを一緒に洗い出すガトーとシャアを眺めながら。そんな夏の始まりが、
悪くはないな、と思える七月の末だった。
・・・・・・・・この夏は例年より騒々しい日が続くはずさ!
2002/09/13
HOME