・・・だって、夏じゃんか。









何か企んでる顔
最後の花火が消えた瞬間









 ・・・そうだよ、夏だよ。









浜には二人だけだからって
波打ち際に走る
Tシャツのままで泳ぎ出す









 分かってる?夏だよ?見えてる?・・・・俺と同じ世界が。









『バラ色の日々』・・・季節物が書きたかった管理人の暴走編(笑)。
BGMは真心の『ENDLESS SUMMER NODE』でヨロシク(笑)!











 ガトーは、半ばあきれ顔で海に飛び込んだコウを見ていた・・・・そりゃ、確かにさっきビールを何本かは飲んだ。・・・しかしだな。
「・・・ガトーっ!!すっげえ気持ちいいよ、なんかコレ!」
 目の前の波打ち際では、コウが膝辺りまで波にさらわれながらはしゃいでいた。振り返って、自分に向かってぶんぶんと大きく手を振っているのが見える。・・・そんな事をしなくても貴様がそこにいるのは分かる。・・・他には誰も、この入り江には居ないんだから。
 ついさっきまで、ガトーとコウは花火を見ていたのだった。なんでも、神戸の先、兵庫は明石だか須磨の方で大きな花火大会が有ると言う事で、ガトーとコウの所属する某私立大学の剣道部の面々も、夏期合宿前の景気付け、ということで大挙して京都から出かけて来ていたのだった。その大半の連中とは、洗われるような人並みの中で、あっという間にはぐれた。そうして二人は、気が付いたら群衆が花火を見上げる浜辺からは少し離れた、人っ子一人居ない浜辺に辿り着いていたのだった。
「・・・貴様は犬か。」
 ガトーが小さく呟いた。
「・・・えー!?なにー!!??聞こえないよ−!!!」
 コウが、それでも波を蹴り上げながら答える。・・・耳がいいな。聞こえないと思ったのに。ガトーは、少し空を見上げた。・・・月だ。下弦の月。その夜空の元、海に向かって走って行って、突っ込んだり逃げ戻ったりしてふざけているコウ。・・・まるっきり嬉しそうな子犬だ。
 ・・・しかし、コウは本当に変わってる。ガトーは、ひさしぶりにそんな事をしみじみ考えた。例えば、話し方一つにしても。ガトーはフランスからの留学生なので知らなかったが、日本の大学の『体育会系』と呼ばれる運動部では、本来は上下関係が非常にハッキリしていて、年上の者に向かって『タメ口』を聞く事はもちろんの事、謙譲語で話すのが本当らしい。もちろん、ガトーも他の部員にはそう扱われていた。しかし、コウだけは自分に『タメ口』で話し掛ける。ガトーは、フランス語には無い『尊敬語』やら『謙譲語』が嫌で、部に入った当初に『頼むから普通の言葉で対等に話してくれ』と言ったのだった。・・・しかし、その通りにしたのはコウだけだった。更に上下関係の厳しい大学では、上級生に『付き人』が付く大学まで有るらしいが。その点、ガトーが留学した大学は、ミッション系でアメリカナイズされていて良かった。『体育会系』でも、さすがにそれは無い。
「ガトーったら!・・・来いよ!」
 コウが、海の中からまたそう叫んだ。・・・来いと言われてもな。見れば、コウはもう腰の辺りまで波に浸かってぶんぶん腕を振り回している。そうして、何を思ったか海水に濡れて重くなったTシャツを脱ぎはじめた。・・・そしてそれを、浜にいるガトーに向かって放り投げる。
「・・・おい。」
 それを受け取ろうと、急いで投げられたTシャツに向かって走ったガトーの足に、波がかかった。・・・やられた。
「・・・おい、コウ!」
 一部濡れてしまえば、もう同じ事である。ガトーは、沖に向かうコウを引き止めようとして自分も、ずんずんと海の中に入っていった。受け止めたコウのTシャツは浜に放り投げた。・・・いいか。前期試験も終ったし。目の前では、コウが相変わらバシャバシャやりながら、はしゃいでいるし。









5秒に一度だけ照らす灯台のピンスポットライト
小さな肩
神様にもバレないよ 地球の裏側で









 近くまで辿り着いたガトーに、もちろんコウは面白そうに両手で海水をぶっかけた・・・海で遊ぶのに、他に何をやるっていうんだ?
「おい!・・・ふざけるな!」
「やだね!」
 コウはそう答えて、水をすくうと思いきりガトーに向かってぶちまけ続ける。・・・あまりに濡れたので、その肩まである髪をうるさそうにガトーが掻き揚げた。
「コウ!」
 水車のように腕をぶんぶん振り回し続けるコウを、ガトーはやっとの思いで捕まえた・・・ああ、自分のシャツも海水でベタベタだ。・・・何をやってるんだ。自分は。この、威勢がいいだけが取り柄の様な、年下の男に、この日本に来てから振り回されっぱなしじゃあないか。
「残念でした!・・・もう片方の手で、水ならかけられるんだなあ、何と!」
 ガトーが片腕を掴んでいるのに、コウはまだ楽しそうにもう片手で水をかけてくる。思わず、ガトーもコウの手を掴んでいない方の手でコウに水をぶっかけた。
「・・ははっ、やる気出て来た!?」
 コウはまだ面白そうに水をかけてくる。掴んだ手は、何時の間にかからみ合って、しっかりと繋がれていた。
「・・・酔うほどビールを飲んだか?おい、コウ!」
「べっつにー。だいたいいつも、ガトーといる時って、俺、こんな感じ!・・・戦わなきゃって。・・・なんか、身体の奥の方から!」
 そうして、二人はまだ水をかけあう。









僕ら今 はしゃぎすぎてる 夏の子供さ









 その、繋がれた手に、目の前で笑うコウに、ガトーは何かを思い出しかけた。・・・・何だったか?








胸と胸 からまる指









「・・・うっしゃあ!」
 その時、少し考え込んだガトーの隙をついて、コウが思いっきり波を蹴り上げて来た。・・・あまりの波しぶきに、ガトーは思わず目をつぶった。・・・・その時。








ウソだろ 誰か思い出すなんてさ









「・・・・・・・・・・・・・え?」
 何かが、触れた。ガトーの唇に。
 それが、コウの唇だったと気付くのに、ガトーはたっぷり3秒ほどかかった。・・・何だと?・・・・見ると、コウもぽかんとした顔で自分を見ている。それから・・・・・・ゆっくりとこう言った。
「・・・・あれ?・・・・・・・・・・・・・俺、何やってんの?」
 しっかりと絡み合ったままの二人の片手。腰まで浸かった、波の打ち寄せるその寄せては返す音。下弦の月。夏の夜。花火を見ていた人々の、帰ってゆく遠くでざわめく声。
 ・・・・何やってんの?
「・・・・それは・・・・私の台詞だ。」
「・・・・ごめん・・・・すいません・・・・あの・・・・・あれ?」
 コウが、ガトーの顔から目を離さないままそう言った。目を離せずに凝視したままそう言った。
「・・・・・何をする。」
「あの、だからすいません・・・・・・・・あれ?えっと・・・・・・・・・・・・だから、挨拶・・・かな・・・・・・・・・・?」
 思ったよりコウにキスされたことにガトーは驚かなかった。・・・それよりその台詞に、ガトーはまた何かを思い出しかけた。・・・何だったか、これは。








響くサラウンドの波
時が溶けてゆく真夏の夜










 とりあえず、驚かなくても急に男にキスなんぞされたら怒って然るべきだ。そこで、ガトーは言った。
「・・・・冗談はよせ。」
 その声がとても冷静でハッキリとしたので、コウはいきなり現実に引き戻された。
「・・・うん。ああ・・・・・うん。・・・・ああ、本当にすいません。俺・・・・酔って無いよ?」
「分かればいい。」
「うん。・・・・あの、でも・・・・」








夜風は冬からの贈り物









 だけど、絡めあったまま離せない片手は何?








止まらない冗談を諭すよについてくるお月様









「・・・俺、急に『初恋』を思い出しちゃって。」
 コウが、下半身を波に洗われながら急にそんな事を言った。・・・・ああ。それで、ガトーも思い出した。そうだ。何かに似ていると思った。














 『初恋』だ。














 真夜中に、波の中で手を繋いだまま動けない二人は、『初恋』に似ている。それは単なる憧れで。それ以上でも、それ以下でも無く。憧れ故に美しく。それ以上の何も欲しくは無く。・・・上手く行かない。・・・・それは綺麗な、至上の片恋に。・・・・自分達は、自分は。









 一体何をしている?こんな、フランスから地球の裏側ほども離れた日本で。真夜中の海で。・・・ガトーはそう思った。・・・恋をしている場合か?









「・・・・俺、今、楽しかった。」
 その時唐突にコウが言った。
「俺、今、楽しかった。・・・何だろう、俺、男だから、ガトーの事別に女の子みたいに好きじゃ無いけど・・・なんだか、すっごくキスしたくて、しかた無くなったんだ、今。本当にごめん。」
「・・・・・・・そうか。」
 ガトーはそう言った。他に返事のしようも無いと言うか。
「えっと・・・俺ね、最近混乱してたんだ。・・・ほら、びっくりしちゃって。・・・だって、アムロとシャアさんがキスしてるんだもん。この間。」
 そう言えば、そんな事があったのだった。アムロとシャアが付き合っている事を知らなかったコウが、たまたま二人がキスしている所を、学内で見かけてしまうと言う事が。前期試験の真っ最中の。夏休みに入る直前に。・・・コウは混乱し、ガトーは本気でシャアを殴ったのだった。他人が何処で何をしていようと平気だ。・・・・が、それは所詮他人の事だ。自分の行動の責任を自分で取れないような人間は大バカだとガトーは常々思っていた。・・・だから殴った。シャアを。
「それで・・・あの・・・なんだか、全然分かんなかったけど、今、なんとなく分かったよ。・・・楽しかったんだね、二人とも。」
 コウが続けてそんな事を言った。・・・ああそうか。そういう結論にコウは辿り着いたのか。・・・それはいい。それはそれで、コウらしい。
「あの・・・ともかく・・・・俺、今・・・・・・・ごめん、『俺は』楽しかった。・・・・ごめん。」
 ひたすらあやまるコウが面白かった。・・・だから、ガトーも言った。
「別に。・・・誰もが、何もかもが、同じ結論に結びつくとは限らん。」









 そうなのだ。これは『初恋』に似ている。・・・今はもう、名前すら良く思い出せない、小学校時代の学友の女の子の事をガトーも考えていた。それと同じ結論を、コウに先に言われてしまった。









 とたんに、気を抜いたガトーの隙を突くようにコウが海水をぶっかけてくる。・・・ええい。二人は思いきり水を掛け合った。













 ・・・・何故か、片手はほどけずに絡めあったまま。














 それから、服が乾き切らないままに、ここまで乗って来たコウのポンコツのフィアットに二人は乗った。









走る車の窓に広げはためくTシャツよ
誇らしげ









「ねえ・・・シャアさんとアムロって、結局なんなの。」
 コウがハンドルを握ったままそう聞いてくる。その言葉に、ガトーは今ならきちんと答えられる気がした。
「・・・・付き合ってる。」
「どういう風に。」
「・・・・男と女みたいに。」
「・・・・ああ、そうだったのか。」
 案の定、コウは以外と冷静にそのガトーの言葉を受け止めた。
「・・・俺、アムロと仲直りする。・・・・それはそれで、いいと思う。・・・・二人は、幸せなのか?それで。」
「・・・さあな。そんな事は、私は知らん。」
「・・・そうだね。」









神様さえ油断する 宇宙の入り口で









 だって、自分達が辿り着いた結論は、まるで『初恋』だもの。








目を伏せて その髪で その唇で
いつかの誰かの感触を君は思い出してる









「・・・・こんな詩があったな。」
 兵庫から、京都に向かう車の中で、ガトーが急に呟いた。
「何?」
 コウが答える。
「・・・・・『僕達の愛を 愛というのはよそう』」
「・・・・続きは。」
 コウは、ハンドルを握ってジッと前を見たままで、助手席に小さくなって座るガトーの方を見向きもしない。
「・・・・『もう少し自由で』・・・・・・『もう少し修道的だ』」
「・・・・ああ、そう。」








僕はただ 君と二人で通り過ぎる
その全てを見届けよう















僕達の愛を   愛と言うのはよそう   もう少し自由で    もう少し修道的だ













この目のフィルムに焼こう









「・・・・忘れない。」
 車が兵庫から、大阪に入った辺りでガトーが急にそう呟いた。
「何を?」
 コウは言った。
「・・・全てを、だ。・・・・・・・この地球の裏側で。私が出会った、私がした、全ての事をだ。」
「・・・ああ。」
 コウはその時、やっとよそ見をしてガトーの座る助手席を見た。








そうさ僕ら今 はしゃぎすぎてる 夏の子供さ
胸と胸 からまる指









「今だけ言っていい?」
 コウが言った。・・・・コウが何を言いたいかなんて、ガトーには容易に予想がついた。・・・が、言った。
「・・・・好きにしろ。」
「なんか、朝になっちゃったね。・・・それでさ。」
 確かに、車の窓から見える空は朝焼けに染まりかけていた。・・・夏だ。他に例え様も無く。
 コウは、大きく息を吸い込むと言った。









ごらんよ この白い朝









「・・・・好きみたい。俺、ガトーが。・・・すごく。」








今はただ 僕ら二人で通り過ぎる
その全てを見届けよう









 ・・・・忘れられない。ガトーは思った。この、地球の裏側ほども離れた国でした、全ての事を。それは、誰のせいでも無く。
 男と女がやるような事を、男同士で有る自分達がする事に、何の意味が有る?・・・小さく、ガトーはシャアとアムロを呪った。・・・そうじゃ無いんだ。もっと、他の事になるんだ、本当は。・・・この心の繋がりは。・・・・何だろう、手が解けなかったな。どうしても。・・・ただ繋いでいたかった。それは、『恋』やら『愛』とは違うだろう?









 ・・・・だって、夏じゃないか。









 心のすれ違う時でさえも包むように









 そうだ、夏だぞ?









神様さえ油断する 宇宙の入り口で









 分かっているか?夏だぞ?見えているか?・・・・私と同じ世界が。









目を伏せて その髪で その唇で
いつかの誰かの感触を君は思い出してる














 車は、京都の町に戻って来た。・・・朝が来て、また1日が始まる。














2000/07/26




この話イメージで描いたのが、このコウこのガトーです。
あと、「ばらいろまつり」の時にたちほさんにもこのお話に、ってイラストをいただきました
でかいです、愛を感じる・・・(コウへの/笑)。ありがとうございまスー。









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