・・・最初に、姿は何となく分かりました。髪の色とか。
・・・それから、においや声も分かりました。煙草を吸うのも。
・・・がっっっっ、総合的にあんたがどういう人間が全く分かりません。
・・・・・・・・・・・・なのに、俺、何であんたと寝たことが有るらしいんだ・・・・・・・・!!??
追いかけても追いかけても
逃げて行く月のように
指と指の間をすり抜ける
バラ色の日々よ
サンボンメノバラ
2000.05.23.
結局の所、アムロにとって『シャア・アズナブル』は相変わらずナゾの人物であった・・・ちょっとずつ、姿が固まりつつはあるものの。
「・・・あったまいってぇ・・・・・・・・」
昨日、夕暮れ時からの雨に振られて家に戻って来たアムロは、盛大な頭痛に悩まされていた。・・・こりゃ、風邪だろう。・・・傘?んなめんどくせぇものは持ち歩かない。
「・・・今日の授業なんだっけ?・・・・大林の『神学概説』?・・・・・・・ミッション系だからって、なんでこんなもんが必修・・・」
ベットにもぐったまま、脇に転がっているはずの鞄の中をごそごそやっていたアムロは、幾冊かのノートを引っぱり出したところで気力が尽きた。・・・ケイタイ何処だ。これだから、一人暮らしってサイテー。アムロの手から、別に探してもいなかったのに手に触れた、『安室 玲』と書かれた学生証がこぼれ落ちた。
その時、さらに最悪なことに玄関のチャイムが鳴った。
「・・・・居ません。新聞は取りません。」
アムロはベットの中で小さく呟いた。が、チャイムは鳴り止まない。
「・・・・・・・だああああああ、うるせぇ!居ねぇっつってんだろ!!」
アムロは遂に死力を振り絞って起き上がると、玄関まで走っていって閉まったままのドアに蹴りをかました。
「留守でーす!留守!帰って!!」
・・・なんて事だろう。それでもチャイムは鳴り止まない!!
「くっそ・・・・」
遂にアムロは、ふらつきながら玄関のドアをあけた。・・・・と。
「・・・・やあ。」
そこには、シャア・アズナブルが立っていた・・・・。
雨の中を何も見えずに走るのは
とても深く生かされるのを感じたような
「・・・・な、なんか用すか?」
思わずアムロは声が裏返った。・・・また雨だ。どうも、昨日から碌な天気じゃ無いな。ベットに寝ていた時は窓のカーテンが閉っていて気付かなかったが、開けた玄関のドアの向こうに、昼間だと言うのに薄暗い冬の空が見えた。
「・・・部屋に帰れないんだ。昨日から。ガトーが、入れてくれない。」
シャアは淡々とそう言った。そうして、アムロの部屋に入ると勝手にドアを閉めた。
「ガトーが?・・・って、ああそうか、留学生会館で同室なのか、あんたら・・・」
「何があったか知らないがアムロと仲直りするまで帰って来るな、だそうだ。・・・面白がってコウまで部屋に来て、立てこもってるぞ。・・・ま、コウは本当に面白がってるだけだと思うが。ガトーは、なんか気付いてるだろうな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そんな事を言われても。
「だ・・・だって、俺達友達でもなかったじゃん・・・それなのに、最初にセックスとかしちゃったらしくて、それなのにこれからじゃあお友達になりましょうとか、そう言う全ての秩序、手順のひっくり返った倫理的に問題のある関係はいかがなものかと・・・・可及的速やかになんらかの抜本策を講じたいのは俺も山々であるからして、えーと・・・・」
頭が痛い。アムロは、ベットにもぐりたくてしょうがなかった。
「・・・何を国会答弁の政治家のような台詞を言ってるんだ。・・・相変わらず汚い部屋だな、ここは。」
フランス人のくせに国会答弁とかいうシャアがムカついた。
「・・・なら来るな!だいったい、どっか他にいく所あるだろう!!女の所とか!!」
「・・・そこに行けないからここに来てるんだろうが!!!」
図々しくも上がり込んで来たシャアが(それでも、靴を脱いでくれたのは不幸中の幸いだろう!)、その時急にアムロを洋服の山ほど掛かった壁際に押し付けたので、アムロは思わず変な声をあげた。
「ひゃ・・・」
「君が、私の指輪を食べてしまったんだ!あの晩!だから、その指輪をもらった女の所に行けんのだ、分かったか!」
「・・・え・・・・」
指輪ならある。有ります。アムロはそう言いたかったが声が出なかった。・・・食った?俺が、指輪を?
「あの・・・頭・・・・」
シャアが、目の前で小さく舌をうちながら眼鏡を外すのを、アムロはぼうっと見ていた。
「俺、頭・・・痛くて・・・」
・・・青だ。面白いくらいに透き通った淡いブルー。くっそ、この人言葉遣いが丁寧な割にはやること無茶苦茶だぞ・・・。
「・・・アムロ君?・・・おい、君!」
とっとと指輪を返さなきゃ、ほんで、出ていってもらおう。・・・そう思いつつ、アムロはその場に遂に倒れ込んだ。熱が限界だった。
だけど茨が絡みついて偶然の生け贄
試されているのが悔しいね
ざあざあざあ、雨の音。
「・・・いいニオイ・・・・」
アムロは、食べ物のにおいで目を覚ました。
「・・・なるほど、君は、食べ物のにおいがすると目が覚めるんだな。・・・ほら、飯が出来たぞ。食いたまえ。」
「・・・・・・シャア・・・・」
目を開いたアムロの目の前では、シャアが随分とぞんざいな態度で持って来たコップとお椀を枕元に置こうとしているところだった。
「食べないのか。」
「食べます・・・どーも・・・」
アムロは、しばらく事態が理解出来ずぼうっとしていたがやがて起き上がると何だか良く分からないが暖かいその食べ物を口にかき込んだ。
「・・・美味い。なに、これ。」
「知らないな、私も。その辺にあるもので適当に作った。」
思わずアムロはその謎の料理を口から吹き出しそうになった。体調は、一眠りした事で大分良くなっていた。
「・・・知らないって、あのね・・・!」
「あまりに何も冷蔵庫に入っていないので、作りようが無かった。君は、何を食って日々生きているんだ?この器だって、どう見ても学食から盗んで来たように見えるぞ?」
「そうです・・・ごめんなさい・・・」
プラスチックの器を指差しながらシャアが言うので、アムロは仕方なしに答えた。
「・・・あのさ。実は、嘘なんじゃ無い?俺とセックスしたって。それで、昨日知り合ったところで、これから友達とかなるんじゃねーの?俺ら。」
今、あまりに普通にシャアと話が出来るので、思わずアムロはそう言った。あの痣も、謎の液体も、いや、4日前の飲み会自体がマボロシだったのでは。いや、きっとそう。そうあってくれ!・・・そんな無茶なことをアムロは考えていた。
「・・・・ほんっとに何も覚えて無いのだな、君は・・・」
シャアは、少し変な顔をしてアムロを見た。・・・眼鏡してない。
「・・・あんた、綺麗な目の色だね。」
口をモゴモゴさせながら、非常に場つなぎ的にアムロがそう言うと、シャアは遂にがっくりと肩を落とした。
「・・・・あの晩も、君はそう言ったぞ・・・」
「・・・はあ・・・・それは・・・どうも・・・・」
覚えてません。忘れて。無かったことにして。・・・男に、そんな場面でそんな事言うな、俺!!自分が信じられない。いや、信じないでおこう。そうしよう。
「あんた、何・・・男とも寝れるような人だったわけ・・・・?」
「いや、全く。あの晩が初めて。」
「!!!なら、やめろよ!あんたも酔ってたわけ!?」
「いや、全く。非常に素面。」
「−−−−−−−−−−−っ、じゃなんで・・・・・!」
「君が、セックスしようって言ったんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ・・・・・」
あまりのシャアの発言に、アムロはコップに入っていたこれまた良く分からない謎の飲み物を思わずごくり、と思いきり飲んだ。
「・・・って、これなに?・・・酒じゃん!」
「ああ、それなら名前があるぞ。ホット・バタード・ラム。・・・風邪をひいた時に飲むカクテルだ。」
「・・・って、うそ!俺、そんな事言わない!」
「言った。私だって、君の事なんか『運悪く』送ってゆかなきゃならなくなるまで、ガトーの友達のコウの友達のなんか小さい奴、くらいにしか認識が無かった!」
二人は思わず睨み合った。シャアは運悪く、のところを非常に強調した。
「・・・そんな証拠、何処にも無いぞ。」
・・・ああ、また頭がぼおっとするぞ。今度は酒のせいだろう。しかし、都合良く気を失えるなら喜んで失いたいぞ。たった今。悔しくなってそう言ったアムロに、シャアは恐ろしい事を言った。
「証拠ならある。」
「うそっ!何処に!」
「この中。」
そう言うと、シャアはアムロの部屋のこたつの上に載っていたパソコンの電源を入れた。
それでも
「・・・・・・・・」
パソコンの中に写し出される、IEの履歴機能でとんだサイトの有り様に、アムロは絶句していた。・・・それは、海外のアダルトサイトだった。・・・それも、ゲイ専用の。
「・・・・手短に説明しよう。君は、私におぶってもらってこの部屋まで戻って来た上に、部屋に辿り着くなりうっしゃあ、もう一杯!と冷蔵庫に入っている酒を飲もうとしたので心優しい私は止めた。」
「・・・・・・・・・」
「私に腕を掴まれて酒を飲む事をとめられた君は、非常に怒ったらしかった。そのまま、私をベットに突き飛ばした。おかげで、私は眼鏡を吹っ飛ばされた挙げ句にビールをしたたかに頭からかぶった。」
「・・・・・・・・・・・」
「更に、何を思ったか君は私の上にのしかかって来た。そうして、急に思い付いたようにこう言った。『あんた、女みたいに綺麗な顔してんね。あ、なんか俺セックスしたくなってきたなあー、よし、やろう!』・・・当然私は断った。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうしましょう。ここが自分の家で無かったら、家に帰りたいところです。アムロは、思わず天を仰いだ。
「だが、君は全く聞いていないようで犬か何かのように私の顔をぺろぺろ舐めた。私は、理論的に断ろうと思って『男同士でやる方法なぞ知らん!』と言った。すると君は、信じられない事にそこら辺にあるもの全てにつまづきながらパソコンに向かって突進し・・・」
「わー、もういい!やめて!」
遂にアムロはそう言った。・・・だから、本当に覚えて無いって!・・・この酒、強いんじゃ無いの、割と。からっぽになったホット・バタード・ラムの入っていたコップを見つめた。頭、ぼうっとする。
「・・・・どうにかネットに繋ぐと『そんなの調べりゃいいじゃん〜。』と妙なサイトを検索した。それが、ここだ。・・・まだ続きがあるのだが。」
シャアは、言われた通りに話を止めた。アムロは、気まずい空気の中で沈黙していたが・・・やがて、ふと思って言った。
「・・・・でもさ。それじゃ何で、俺がヤラれてんの・・・・・」
あの時感じた夜の音 君と癒したキズの跡
幾つもの星が流れていた 慰めの日々よ
「そりゃあ・・・・私の性に合わなかったからだ。それから、君が・・・・」
シャアがしばらく沈黙した後、急にこたつの脇から立ち上がるとアムロの寝ているベットの方にやって来た。そうしていきなりアムロを押し倒すとキスをした。からになったプラスチックの器とコップが、ベットの脇に転がり落ちる。
「−−−−−−−−−−−−−−−っっ!」
アムロが、なんとかシャアを突き飛ばすとシャアが言った。
「・・・君が、指輪を食べたからだ。・・・・思い出したまえ!!」
「そんなの・・・知らない・・・やめ・・・・っ!!」
が、シャアはどうやらやめてくれそうに無かった。・・・・うそ。アムロは、ぼうっとしたままの頭で、窓の外に降る雨の音を聞いていた。・・・服脱がすな。俺、男・・・・。
明日は明日の風の中飛ぼうと決めた
バラ色の日々よ バラ色の日々よ
やっと、目の色が分かりました。
それから、こいつのキス、知ってるなあ、俺・・・・・・・・恐ろしい事に。
ソシテサイゴハ、バラノハナタバ。
2000/05/23
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