「・・・・・いつだろうな。」
「さあね、憶えが無いからね。」
 梅雨に突入していた。・・・・何処が、と言われても困るのだがどこか湿気った空気があたりに満ちて、つい先日まで眩しいくらいの新緑だった山々に今は霞をかけている。
「・・・・・どこだろうね。」
「まあね、それも憶えが無いのだよ・・・・・。」
 アムロとシャアの二人は、大学の中庭へと下る階段に、今二人して腰を降ろしていた。もちろん、カフェテリアから通じるこの中庭にはベンチもあって、そこに腰掛けても良かったのだが、なんだか。
「・・・・・つーかさ。」
「なんだ。」
 二人は妙に距離を置いて座って、しかもそれぞれに明後日の方向を向いていた。・・・・喧嘩をしたわけではない。いやあ、喧嘩の方がまだマシだったかもなあ。つまるところ、『距離が近すぎた』ということに関して話しているのである、そうしたら勝手にこんな座り方になった。まあいい。・・・・アムロは思った、まあいい、顔なんか見えなくても声が聞こえりゃ会話なんてモノは出来るから。・・・・別に困りゃしねぇ。
「これ返す。・・・・・つーかさ。」
「返されてもな。・・・・・私には彼を納得させることは出来なかったしな。」
 そう呟きながらも、シャアは御丁寧に裏返しで戻って来た一枚の写真を受け取る。そこで、初めてアムロの方を向き直ると、アムロときたらもじゃもじゃの自分の頭をさらにもじゃもじゃにかき回していた。
「つーかさ。・・・・・・ああもう、ハッキリ言っていいかな。」
「言いたまえよ。」
 シャアは軽く首をすくめてそう言う。・・・・・何も知らない学生達が、二人、三人、集団になって笑いながら通路を歩いていった。・・・・男の二人連れもいる、だけど、まあ、





「・・・・・・・なにやってんの?・・・・俺ら。」





 まあ、おそらくあの二人は普通の友人同士で、寝ちゃあいねぇよな。・・・・・・それが『普通』だから。
「・・・・・何をやっているんだろうなぁ・・・・・」
 シャアがそう答えて、今度は肩をすくめるのではなく本当に笑いだした。・・・・・苦そうな笑い顔だった。あー、あんたまで、そんな顔ついにしちゃって。俺は、あんたの人を馬鹿にしたような笑い顔が嫌いでは無かった。・・・・嫌いではなかったんだ。アムロは顔を回すと、今度は目の前の中庭を見た。・・・・・ああそうだ、思い出した。・・・・・ここ、で、俺とシャアは『きちんと出会った』んだ。タバコの火とか貸してやってさ。
「・・・・・・火を貸してくれないか。」
 面白い事に、今日もまたシャアがそんなことを言った。アムロは無言で、100円ライターを投げた。





 今日のライターは黄緑色ではなくて水色だった。・・・・・・遂に雨が降り出した。











『バラ色の日々』・・・降ってますか?・・・降ってますね、の、第二話(笑)。












「・・・・・カイさんっ!」
 その時、工学部棟のとある教室に入ろうとしていたカイは、後ろから追ってそう声をかけて来た男に急に回り込んで目の前に仁王立ちされ、さすがにビビった。・・・・少し腰が引ける。
「な・・・なんだぁ?」
 昨日から呼び止められてばっかりだぜ!・・・・そう毒づきたくなったカイの前には、後輩の浦木が立っていた。カイは決して小柄な方では無い。しかし、身長が同じくらいでもヒョロリとしたカイなどより、運動をやっていて体格の良いコウの方が、まったくもって仁王立ちなどには向いているワケだった。
「・・・・・なんだぁ?」
 カイはもう一回そう言った・・・・・言いながら思い当たった。・・・・あぁ。こりゃ、『昨日の』と同じだ、多分。
「あの、この間休講の時・・・・あ、そうだ、あの時はガトーの写真をたくさん有り難うございました、それで、その休講の時なんだけど・・・・・」
 コウは、彼にしては珍しくあたりを気にしながら、そう早口でまくしたてる。・・・・・オイ。大声でそう言っていたらあたりを気にしている意味なんかないだろう。しかし彼は、お礼を言う律儀さは持ち合わせていても、そういうところには全く気が回らないようだった。廊下の向こうから、何ごとだ、という顔で覗き込む同じ工学部の学生達に、カイの方が気が付いて慌ててコウを教室に押し込む。
「・・・・おい、浦木。お前の声はもう少し小さくならねぇか。」
「え?俺声デカいですか?」
 不思議な沈黙。・・・・ドアは閉められないな、この教室は次の講議で使うからな、しかしな・・・・とカイが思い始めた瞬間に、コウが思い出したように(だがかなり大きな声で!)こう言った。
「・・・・違うんです!そういう話じゃ無くてですね、あの、この間・・・・カイさんが俺に聞こうとしてたのって何ですか!ほら、あの『シャア・アズナブルとアムロなんだけどさー・・・』っていうの!!」
「だから、声がよー・・・・」
 ほら、同じだ!カイは勝手に想像を張り巡らした。・・・・・つまるところ『何か』が、その話題に関する『何か』が、つい最近コウとアムロの間で交わされたのだ。・・・・おかげで俺は昨日から急に呼び止められてばっかりなんだ!
「・・・・・あのよ、浦木。落ち着いて聞いてくれ、俺、正直なところ・・・・いくら写真映えが良くてもよ、」
「???・・・・・写真映えが良くても?」
「・・・・・あの、シャア・アズナブル、って野郎がどうしても好きになれねぇんだ。どっちかってーとかなり嫌い。分かるか?」
「うーん・・・・・でも俺は別にシャアさんが嫌いではないし、仲が良いつもりだし、その辺は個人の自由かと思う。」
 コウがシャア・アズナブルとアムロと、それからアナベル・ガトーと言う名のフランス人留学生も含めた『四人』で、とても仲が良い事は知っている。・・・・カイは思った、そんな光景は年中ファインダー越しに見ている。問題はそんなことじゃねぇんだ。しかし、何より最初に人の、つまりこの場合は自分の意見に流されずに本当に思っていることを言ってくれたコウに、カイは少しホッとした。会話がしやすいな。
「おまけに安室がよ。・・・・逆に安室が、おもしれぇヤツだから俺はかなり好きなんだ。いつもからかっちまうがな。分かるか。幾つかの講議が安室と同じだけど、あいつは寝ぼけたような顔をしやがってる割に、センスがいい。講議での質問も問題提議も、研究も実験も目のつけどころが面白ぇ。」
「あ、それは俺も思う。・・・・アムロはぼけぼけっとしてるのに、なんか『発想が』面白いよね、いつも!」
 この際、話したかった内容とは全く違うのだろうに、自分の言った事に大賛成だという様子でぶんぶんと頭を振って頷くコウに、さすがにカイは笑い出しそうになった。・・・あぁ!こんな人間に自分の感じている不満を、つまるところは悪口のようなものを説明するのは一苦労だ!どうしたってこんなコウとアムロがまず仲が良いのか、そのあたりから面白い。
「まあ、それでさ。それはともかくよ。俺が知っている限りシャアなんてのは、写真を撮る度に一緒の女が違うような男だ、人種としては軽くて軽くてしょうがねぇような、どうにも信用出来ねぇタイプのヤツだ、いや実際、ちっとも信用してねぇけどよ。・・・・そいつがどうだ!」
「・・・・どうだ?」
「ある日、たまたまカメラをぶら下げて歩いていたら、まあそうだな、そういう可能性もあったのかもしれない、でも俺は考えてもみなかったんだが、遂に女では無くて・・・・」
「女では無くて?・・・・・・・うわっ、」





 次の瞬間、先ほど自分の前に立ちふさがったコウの比では無く巨大な影に、カイの視線は遮られていた。





「・・・・失礼、」
 それだけ言うとその影は、コウの腕を掴んで引っ張ってゆこうとする。
「・・・・って、ガトー!?なんだよ、なんでこんなところに・・・・」
「アンタ何・・・・・」
「邪魔したな。・・・・『これ』は連れてゆく、面倒をかけた。」
 ・・・それは、らしからぬ強引さで割り込んで来たガトーの背中であった。・・・・その更に次の瞬間、カイとコウは同時に叫んでいた。
「・・・何だよ!だからアンタら、何の権利があって、あのな!!」
「俺、モノじゃない!!」
 ガトーは一瞬沈黙したが、しかし負けじと大声でこう言い放った。
黙れ!・・・・・問題は切迫している、それくらいの事は汲んでもらえぬものなのか、そこの!・・・・やたらとプライバシーを侵害した写真を撮る男!」
 容赦なかった。
「・・・・・俺のことかよ!」
 何だか、カイにもだんだん読めてきた。・・・・・コイツ、コイツは知っていやがる!そして、そうしてコウは逆に何も知らないのだ、だから俺を引き止めた、彼は知りたがっている、しかし周りの人間がそうならないように仕向けている!!ああ、そうかよ!俺が悪役かよ!!カイはキれそうになった。・・・しかし、ここは自分が・・・過去にコウのプライバシーを無視したような写真を撮って更に学内報にまで載せてしまった自分の方が、確実に分が悪い!
「そうだ、貴様だ。・・・・・察しろ。そして放っておけ!・・・・・頼む!」
 そこでカイは急に気付いた。・・・・・最後の『頼む』だけは、ニュアンスが違った。顔を上げてみると、コウはまだ苛立たし気に頬を膨らませて真っ赤な顔をして立っているのだが、ガトーは、
「・・・・・何だってんだよ、」
 ついにカイはそれだけを呟いた。
「・・・・・何だってんだよ、アンタらは・・・・・・・!!!」





 ガトーは実に心配そうな顔をしていたのだ。





「・・・・・言わねぇよ!」
 と、工学部棟のその教室である、次の講議を取っていた全く事態に無関係な学生が一人、二人、とその教室に入ってくるに至って、遂にカイはそう言った。
「カイさん!・・・・・何で、俺まだ何も聞いて無いっ・・・!」
 コウが悔し気にそう言った。が、もはやガトーは待とうとはせず、ともかくコウを引きずった格好でその教室を出てゆく。
「待てよ・・・何だよ、みんなして、クッソ・・・・・!」
 そこへ、たまたまその教室の次の講議を取っていたミライさんがやってきて、ガトーに引きずられながら出てゆくコウと、それから悔し気に下を向いて舌打ちしているカイを交互に見てこう言った。
「・・・・・・あら?あらあら、どうしたの、カイ?・・・・・コウ君も、ねぇ、二人とも喧嘩はダメよ?」
 ・・・・・・・そんなんじゃないんです!!





「・・・・方法は幾つかあるな。」
「ほう、聞くだけは聞いてみようじゃないか、タダだしな。」
 アムロとシャアは、まだ妙な調子で、歩きながら話し続けていた。・・・・・講議があった。それぞれに講議があったはずなのだが、もちろん出る気力などミジンコほども残ってはいない。二人はともかく雨が降り出してしまった中庭を離れて、どこへ向かうというわけでもなく学内をうろついていた。
「・・・・あの写真なんだけどさ。」
「話を蒸し返すのかい、君、進んで無いよ、さっきから話が。」
「それは分かってるけどさ。」
 遂に二人は空き教室を一つ見つけるとそこへ勝手に入り込んだ。・・・・用心して教室のドアを閉めた挙げ句に、窓からも見えない壁際に、二人は立ちつくす。・・・あぁ!何やってんだ、ほんと、俺達!
「やっぱ信じらんねぇ、なんで学校でキスなんかしたんだ、俺達?ホントにしたのかよ。」
「共に覚えて無いあたり笑えるが、多分したのだろうな、写真に撮られているところを見ると。」
「しないよ、学校でなんてさ!」
「可愛く無いな、君、黙りたまえ。」
「俺が可愛い必要なんか全然無いだろ、バーカ。」
「黙らないとキスするぞ。」
「へぇ!出来るんならしてみろよ。」
 キス。・・・・・しばらく触れて、それからお互いに気まずくなって唇を離してからまずアムロが頭を抱えると、シャアがため息がちにこう言った。
「・・・・・・ほらな。多分こんな調子で、あの写真の時も何も考えずにキスしてしまったに違い無い。」
「あー・・・・・・そう言われるとそんな気がして来た・・・・・あったような気がする、確かに・・・・」
 覚えてもいないようなたくさんのキスの中の一つだった。・・・・考えてもみなかった、それをカイさんに写真に撮られて、疑いを抱かれるとか。・・・・今まで黙って見て見ぬフリをしてきてくれたガトーが、あんなにも恐ろしい顔になるとか。・・・・・なにより、コウに『知られてしまう』かもしれないなんて!
「・・・・・で、方法は。」
 講議が無いので電気を付けていない、薄暗い教室の中で窓の向こうに聞こえる静かな雨の音を聞いているのにも飽きたのか、シャアが遂にそう言った。
「方法ってのは・・・・・」
 そこまで言った時に、教室のドアを開いて恐ろしい勢いで、ガトーが駆け込んで来た。・・・・部屋を見渡す。そうして、シャアとアムロの二人が居るのを確認するとこれまた凄い勢いで歩いて来た。・・・・ガトーらしからぬ急ぎっぷりだ、いやその勢いは真実ガトーらしいと逆に言うべきなのか。
「・・・・・やっと見つけた、もう限界だぞ、二人して、コウからこの先ずっとコウから逃げ回っているわけにもゆくまい!・・・・私もコウがカイ シデンとやらと会わないように二十四時間見張っている訳にもゆかない!あの男に真実をばらされる前に、さっさと結論を出せ!」
 ・・・・・ダメ押しだった。





 言わねぇよ!・・・・・と叫んだカイの言葉をコウは放り込まれた教室で思い返していた・・・・・目の前では、松永先生がいつも通りの講議をやっている、窓の外を見たら雨だった。・・・・放り込まれた。この表現が一番正しい、くっそ、なんだよ、俺はカイさんに聞きたい事があった!なのにガトーが邪魔をした、おまけに自分を見張るみたいに俺の次の講議の教室まで連れて来て、そしてその中に放り込んだ!
「・・・・・まてよ。」
 コウは思い付いてちいさく呟くと、教室の後ろの方の席で携帯を引っ張り出した。・・・・・言わねぇよ!さっきの言葉がまた頭をよぎる、またカイさんに会おうとしても、何故かは分からないけれどもきっとガトーに止められるのだろう。・・・・だったら。
「・・・・あった、よし・・・・」
 言わないなら、メールでなら教えてもらえる?・・・・松永助教授は後ろの方の席で夢中になって携帯に向かっているコウに気付いたのだが、普段真面目な学生であるし、何より、
 コウがそんな風に講議を放り出して何かに必死になっているのは初めてのことであったのでそれを、許した。





 全く講議なんて気分で無くなってしまったカイは、受けるはずだった次の授業もサボることにして(その前にミライさんに何故か頭を下げて謝る事も忘れなかった。)ちょうど前庭に出ようと雨の様子を伺っていたところだった。図書館の前あたりで、院生の天田さんとスレ違って「おっまえ、またさぼったのか!」と声をかけられる。熱血の天田さんに捕まったら、延々と説教を垂られることマチガイナシだったので、カイは慌てて結構な降りの雨の中に逃げ出した。・・・・ああ、祟られてやがる、今日の俺!
「・・・・あぁ?」
 その時携帯がなった。・・・・雨の中でバックから携帯を取り出して見ると、メールが着信していた、コウからだった。・・・・・カイはしばらく考えてから、そのメールをひらく。
『メールでなら教えて貰えますか』
『知真館 112教室』
 カイはそれだけを打ち返した。それを受け取ったコウは、ガタリと椅子を鳴らして立ち上がる。・・・・松永助教授は止めなかった。彼にも、そんな青春時代があったからだ。・・・・ああそうだ、他のモノなど何も見えなくなる、何も考えられなくなる、そういう季節が自分にもあった!コウは、適当にそこらにあった荷物を掴むと容赦なく教室を飛び出す。出たばかりのところで、廊下を歩いて来た柔道部の小林くんと、その友人のトルコ人留学生のギューちゃんにぶつかりかけた。
「・・・・・ごっめん!」
「なんだよ!」
 とりあえず謝るだけ謝って、コウは全速で知真館に向かう。「こ・・・こわいね」などと片言の日本語でギューちゃんが言っているのが聞こえて来た、ああ、ほんとゴメン!でも俺、急いでるから!!・・・・工学部棟から知真館までは実は結構な距離があるから、山を半分くらい下らなければならない。・・・・この大学は広すぎる!!
『その教室で、俺は見たんだけど、それで写真を撮ったんだけど』
 カイは続けて雨の中、濡れながらメールを打った。よもや、コウがその教室に向かっているとは思いもせずに。
『何を?それが、シャアさんとアムロに関係している話?』
 そう返事を打ち返したコウは、次のカイからの返事を読んでピタっ、と足を止めた。
『あいつらキスしてたんだ、その教室で。俺はそれを写真に撮った。それで疑問に思った。心配になった。シャアってのは男の相手もするのか?』
「・・・・・・・・なに、」
 ちょうど中庭の、カフェテリアから出て来た中庭の真横あたりだった。・・・・工学部と一般教養知真館の、中間地点。
「・・・・・・・・なに言ってんだ?カイさん・・・・」
 コウには理解出来なかった。アムロとシャアさんがキス?・・・・・なんで?本当に?でも、カイさんは写真に撮った、って言ってる。そのあたりでようやっと、コウにも知真館112教室に来い、という話ではなくて、その教室でかつてシャアとアムロがキスをしていた、と、そういう話なのだと理解出来た。が、逆に全く理解出来なかった。・・・・なに言ってるんだ、カイさん。どうしてあの二人がキスなんか?しかし、カイからメールは入り続ける。
『俺はあいつが好きじゃ無い。シャアが。上面ばかりいい人間に見える、どうなんだ真実は。男同士なのに付き合ってるのか?お前知ってるか?』
「・・・・・知らない。」
 コウは返事を打ち返さなかった。・・・・だって、知らない!俺、何にも知らない!
「・・・・・知らないってば・・・・!」
 コウは足下に携帯を投げ付けそうになった。・・・・が、それは思い直して、どうなるワケでもないのに知真館112教室へ行こうと思った・・・・どうなるワケでもないのに!!





「方法その一。俺達が全く会うのを止める。」
 ーーーーーその、まさに知真館112教室で、アムロとシャアと、後から飛び込んで来たガトーは、会話を交わしていた・・・・偶然ではある。しかし、アムロとシャアの二人は、ここがまさか、例の写真を撮られた教室だとはよもや思ってもいなかった。綺麗さっぱり忘れていたのだ。
「・・・・どうかな。」
 シャアが言った。頷きながらガトーも言う。
「不自然だな、それは。」
「そうだな。主に、そういう事になったらこの集団に、アムロがいない方が『より不自然』だから、つまり私が顔を出さない、ということになるのだろう。しかし、それでもコウ君は妙に思うことだろうよ。」
「・・・・・じゃ、方法その二。・・・・・俺とシャアが『本当に』肉体関係を止める。」
 アムロは半ば諦めがちにそう言った。・・・・・思いきりガトーがため息をつくのが分かった。
「それも却下だ。理由は・・・・・ガトーが信用しそうに無いからだ。」
 言われるまでもなく、ガトーは不審の眼差しを二人に向けていた・・・・・どうする!!アムロは頭をかいた、ああもう、他の方法なんて考えて無かった!
「アンタもちょっとは考えろよ!」
「考えている、君、そんな声で騒ぐな!」
「二人とも、止めんか・・・・!」
 三人は同じ事を考えていた。・・・・どうしたら、コウに嫌われずに済むか、そのことをだ!だが、解決は遠かった。
「・・・・・正直に言ったって、きっとコウには嫌われる。」
 遂に、泣き出しそうな声でアムロがそう言った。手のつけようが無かったので、シャアはとりあえずその身体を慰めようかと思った。・・・・ガトーが居ようがなんだろうが、それを抱きしめてまたキスをする。
「泣くな・・・・・頼む、どうしてこの世には、」
 凄まじいタイミングで112教室のドアが開かれた。
「・・・・・・・こんなにも。」





 思い通りにならない事が。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何してんの。」
 ドアの外には、表情一つ変えずにコウが立っていた。
「・・・・・何してんの、三人で。」
 コウはひどくゆっくりと、順ぐりに中にいる人物を見て回る。・・・・・何もかもを知っていたのに俺に隠していたガトー。親友だと思っていたのに隠し事があったアムロ。それから、その原因らしいシャアさん。
「・・・・・・・・・・・何してんの。」
 誰も答えなかった。・・・・・そこで、コウはその続きの言葉も、自分で吐き出すと思いきり机を蹴った・・・・大教室のように床に据え付けで無かった机とそれから椅子は、コウが蹴ったことにより思いきりひっくり返って恐ろしい音をたてた。
「・・・・・ふざけんな、男同士で抱き合ったりとかしてんなよ、」
 コウは言った。言った瞬間にはもう身を翻していた。





「分かんねぇよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気持ち悪いよ!!」





 それだけ吐き出すように言うと、コウは教室を飛び出してゆく。・・・・・・・・・・・あぁ。見ろ!これが結末だ。










 次の瞬間、ガトーはシャアに殴り掛かっていた。














『ばらいろのあらし。』 (3) に続く。




2002/09/25










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