破壊の衝動が常にあるのだ。
破壊の衝動は常にあるのだ。
自分達が平和な終焉に辿り着く事は決して無い。
二人ともがそれを知っている。
自分たちは曖昧な結論を選ぶ事も決して無い。
(あの二人のように、)
つまりそれが第一条件だったのだ。
そこからどうするかを二人で考えた。
……そしてそうやって日々を過ごすうちに、
自分たちがどんなに残酷で辛い道を選んだのかを知った。
がばり、と身体を起こしたガトーは、一瞬自分が何処にいるのか分からなかった。
コウと共に所属する大学の剣道部がちょっとした練習試合で完全勝利を収めたので、その日は部員総出の飲み会があった。体育会系とはいっても皆試合後の大騒ぎが大好きでサークル活動をしている節がある。それが、良くも悪くもリベラルに開かれたこの大学の校風なのかもしれない。
「……」
それからどうしただろう。何次会かまでは皆に付き合った記憶がある。最終的にはいつも通りにコウと二人きりになって、それでもまだ飲んだ。それからコウのマンションに向かって……、
「……あぁ、それで。」
何とかマンションまでは戻って来たのだが、辿り着くなり二人ともすぐに倒れて眠ってしまったらしい。何度もこの家には来ているが、自分が何処に居るか分からなかったのには理由がある……普段、コウのマンションに泊まる時には自分の寝る部屋が決まっている。シャアと一緒に、大抵リビングに布団を敷いて寝る。……それが何故かその日はコウの寝室で寝ていた。この部屋にはほとんど入った事が無い。どうりで見慣れない天井のはずだ。
ぽたり、ぱたりと窓の外から雨音が聞こえて来ている。何時だろうと思って時計を見たら午前四時だった。……それから隣に目をやった。
「……」
柄にも無くビクリとしてしまった。当たり前といえば当たり前なのだが、隣ではコウが寝ていた。コウのベッドなのだから当然だ。二人ともほとんど前後不覚でベッドに突っ伏したらしく、ジャケットすらまともに脱いでいない。
「……」
とりあえずベッドから降りようと思った。二人とも体が大きいので、セミダブルではあまりに狭い。……リビングに布団を敷かせてもらおう。
「……ん」
……ところが少し身体をずらすとコウが身じろぎする。……気にせずベッドから出てしまえば良かったのだが、一回戸惑ったら何故か全く身動きが出来なくなった。窓の外からは街灯の灯りと、それから降り始めらしい雨音がまだ聞こえている。
破壊の衝動が常にあるのだ。
破壊の衝動は常にあるのだ。
自分達が平和な終焉に辿り着く事は決して無い。
二人ともがそれを知っている。
自分たちは曖昧な結論を選ぶ事も決して無い。
(あの二人のように、)
つまりそれが第一条件だったのだ。
そこからどうするかを二人で考えた。
……そしてそうやって日々を過ごすうちに、
自分たちがどんなに残酷で辛い道を選んだのかを知った。
「………」
分かってはいたが、そんな事は重々分かってはいたのだが、つい眠り続けるコウの横顔に手を伸ばしてみた。……私は酒の飲み過ぎで勝手に目が覚めてしまっていたが、コウはそんなことは無いらしい。良く寝ている。
頬を撫でる。暗くて良く分からなかったが、少しコウが眉をしかめたような気がした。日本人なので高くは無いのだが、それなりに通った鼻筋。開くと少し黒めがちの瞳が現れる瞼、狭いおでこ。その上にふんわりとのる素直な黒髪。
「……っ、」
……頭がおかしいんじゃないのか、自分は。……順々に触れてからそう思った、同性の顔立ちをそんな風に思うものじゃない、そもそも触れたいと思うようなものでもない。手を離そうと思ったがそれすらも失敗し、私は天を仰いだ。コウに触れている右手をもう一方の左手で掴んで引き離そうとしてみたが、その動作がまるでコメディのようだった。……首筋に手を添えて、少し長めの襟足に指を入れたまま、もう自分は動けない。気がつけばコウの上にのしかかるような格好になっていた。
ぽたり、ぱたりという雨音はまだ聞こえる。
コウは静かに寝ている。
……分かっている、分かっている。
本当は酷く愛おしいのだこの男が。
あれほどまでに拒んだ、
「そういう意味」ですらも愛おしいのだ。
私は思いあまって、コウの首に両手を掛けてみた。それでも足りずに、次には首に手を掛けたまま軽く口づけた。……構うものか、どうせ似たようなものなのだ。
……首を絞めるのも口づけるのも、
「……コウ。」
その名前を呼んでみた。
「……なに。」
驚いた事に返事があった。
全て壊してしまえたら、と思う。
全て壊すのだ、そして別の意味で関係を築き直せたら、でも出来ない。
破壊の衝動が常にあるのだ。
破壊の衝動は常にあるのだ。
自分達が平和な終焉に辿り着く事は決して無い。
二人ともがそれを知っている。
自分たちは曖昧な結論を選ぶ事も決して無い。
(あの二人のように、)
つまりそれが第一条件だったのだ。
そこからどうするかを二人で考えた。
……そしてそうやって日々を過ごすうちに、
自分たちがどんなに残酷で辛い道を選んだのかを知った。
「いいか、言っておく。私がいつかおかしくなったら、迷う事無く……」
私は吐き出す様にコウの耳元で囁いた。……いやもうおかしい。十分におかしいんだ。
「……迷う事無く、」
私を殺してくれ、と言おうと思っていた。……ぽたり、ぱたり。中途半端な雨音は部屋の中に響き続けている。コウがにやりと笑うのが分かった。……薄暗い部屋の中なのに、何故かそれだけは確実に分かったのである。
「ああ。」
首に掛かった私の手にそっと手を添えてコウは言った。
「………一緒に行くよ。」
雨が本格的に降り出した。……愛し合えないのならいっそ殺すくらいしか思いつかない自分たちが、ひどく滑稽で、
純粋に思えた。
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