2004/03/21 お題:よしつねさん

 ばらいろ小咄。『指』

 アムロがなにやらパソコンに向かって一人で盛り上がっているようだったので、自分はジャンプを読むことにした。・・・・・有り難いことに、それはさほど昔のジャンプでは無かった。アムロは良く、読み捨てられたジャンプを拾ってくる。大学の構内や、電車の網棚の上で。確かにそれは容易く手に入った。日本と言うのは不思議な国で、「少年向け漫画雑誌を通勤途中のサラリーマンが読みふける」ことを許容しているように思える。大の大人が子ども向け漫画雑誌を買うことを誰も疑問に思わないのだ。更に、それを電車の中で読むことも。
 ともかく、アムロのワンルームマンションの、なかなかに狭苦しい部屋の中で、それでも辛うじて快適なベットと机の合間の空間を選んで座り込み、ベットに背もたれて部屋の中を眺めると、テレビと、それからその脇に置いてあるパソコンに向かってウンウン唸っている、アムロの後ろ姿が見えた。・・・・はねっかえった赤い巻毛の頭だ。・・・・・まったくいつも通り。いつも通りの、春の午後だ。そう思って、自分はゆっくりとジャンプを読みはじめた。





「・・・・・・・・・・・・なあ、」
 ナルトは面白いのだけれども、あまりに話が多岐に渡って進み過ぎていて、ついてゆくのがちょっと大変だよなぁ・・・と思いながらページをめくっていたとき、アムロの声が聞こえた。
「何だ。」
 顔をあげてアムロの方を見ると・・・・いつからだろう。アムロが、とてもへんな顔をして自分を見ている。・・・・いつからだろう?
「・・・・・どうした?」
「あのさ。・・・・前から思ってたんだけど、あの、あんたさ・・・ジャンプって、読めてるわけ?」
「・・・・・言っている意味がイマイチ分からないのだが。」
 私がページをめくりながらそう答えると、アムロがへんな体勢で身体をひねったまま、更にこう続ける。
「・・・・だからさ。あんた、日本語を『読む』の、苦手だろう?話すのはベラベラだけどさ。・・・・でも、漫画って日本語で書いてあるだろう。セリフに漢字だって入ってる。・・・・で、『読めてる』のか、それ。」
 もう一ページ、ゆっくりとページをめくる。・・・・なるほど、もっともな疑問だ。
「結論から言うと、『読めている』。・・・・何故なら、」
 自分がページをめくるその手に、妙にアムロが注目しているのが良く分かった。・・・・・アムロは面白い表情をよくする。・・・・自分にとって、だけなのかもしれないが。拗ねた子供のような顔の時があるかと思えば、何もかもを理解したような聖人のような顔もする。今は・・・どちらでもないな、面白いことに。
「・・・・何故なら、だ。・・・・ジャンプの漫画には、いや、ほとんどの漫画雑誌のセリフは、漢字に『ふりがな』がふってあるからだ。・・・・・君、知らなかったのか?」
「・・・・・・・・いや、そりゃ気付かなかったかも・・・・俺、日本人だしな。」
 そう答えながらも、アムロが何故か、まだ私の手に注目したままであることにはっきりと気がついた。・・・・なんだ。自分の手は、今日どこかおかしいかな。・・・・しかしまあ、普通の手だ。自分に言わせれば、いつも通りの自分の手だ。そこで、アムロの視線は無視して、もう一ページ先に進むことにする。息を飲む・・・・というほどでは無かったが、アムロのなんとも言えない表情が、更になんともいえない感じになるのが分かった。
「・・・・・あのさ、シャア。・・・・前から思ってたんだけど、あんたの手ってさ・・・・」
「私の手がなんだ。」
 遂に、話題が手のことに及んだ。・・・・だからなんだ!気にはなるのだが、どうにも理解出来ないのでそのままその先を促す。
「・・・・・あんたの手って、つくづくヤラシイよな。」





 ・・・・意味不明だ。





「・・・・・・・・いや、普通の手だと思うんだが・・・・・・・」
「いや、ヤラシイよ。・・・・・・かなりヤラシイ。」
 ・・・・どう返事をしたらいいのか分からない。そう思った自分は、とりあえずジャンプのページをめくる手を、とても遅くした。・・・・・ゆっくりと。・・・・そりゃあもう、ゆっくりと。紙を掴み、ページをめくり、それから・・・・・・・・それから、ため息をつきながらこう言ってやった。
「・・・・・・・分かった。」
「何が。」
 アムロが、何とも言えない顔だった理由がやっと分かったのだ。その表情の意味が。いや、理解はしたが、同意して良いものか、最後まで一応考えた。・・・・一応。
「だからつまり・・・・・」
 私はそう答えながらジャンプを閉じると、脇に向かって放り投げた。
「・・・・・つまりだ。私の手が『ヤラシイ』わけではない、断じてそんなことはない。」
「そうかぁ?」
 アムロは不服そうである。自分は目の前に手を広げてみる。・・・・指輪をいくつか嵌めた、普通の二十代なかばの、男の手である。日本人より色はやや白い。指は結構長めだ。
「君が今、私の手を『ヤラシイ』と感じるのは、つまり・・・『この手がヤラシイ』というより、」
「いうより???」
 分かっていないアムロに、いや、アムロが逃げ出す前に、次の台詞を叩き付けてやった。笑顔と共に。





・・・・この手がやったイヤラシイことを君の身体が憶えているからだ。・・・・だからイヤラシク感じるだけであって、この手に罪はない。」





 アムロの顔を見た。・・・・・絶句だ。・・・・そりゃ絶句するだろう。子供っぽく拗ねた顔でも、聖人の様に卓越した顔でも無かった理由は、アレだ。・・・・・・・欲情していたんだろう。あぁそうだ、あれはそういう顔だった。そしてその表情を、自分はもう憶えた。そこで、立て続けに次の台詞を投げかけてみた。
「・・・・・・・・・・この手が、欲しいか?」





 ・・・・・・アムロが何とも言えない顔のまま、何冊ものジャンプを踏み付けて自分の懐に転がり込んでくる。・・・・・じゃあしょうがない。







 ・・・・・しょうがない、セックスをしようか。

   






■お題リクエストはよしつねさんです!■
よしつねさんはシャアが、更にはシャアムがお好きな方だったかなーと記憶しているので(笑)、
シャアムだけの話でも大丈夫かな・・・とは思うのですが、実はガトコウ版の「指」も一応考えました(笑)。
ただ一つの話でまとめるのは非常に難しいカンジになってしまい・・・・えー(笑)。
ってことなので、他の小咄にくらべてこの話はやや短いもんですから、開き直ってもう一ページ別に作ってみました(笑)。
ガトコウだいすきよ〜〜!って方はこちらも是非どうぞ(笑)。



ガトコウ版『指』




2004/03/21




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