2004/04/07 お題:マジコさん

 ばらいろ小咄。『真剣勝負』

 加茂川の川べりというのはなかなか快適な場所であり、そこは遊歩道のようでもあり、公園のようでもあり、またちょっとしたグラウンドのような場所でもある。・・・・日本でこれほどまでに、有意義に整備されている川岸というのは珍しいだろう。
「・・・・・なぁ、俺、ちょっと思ったんだけど、」
 その川岸を、四人で歩いていたとき・・・・四人というのは、日本人の大学生二人と、フランスからの留学生二人のことである・・・・ともかく、アムロが急に思い付いたようにこう言った。まだ冬が本格的にはなってはいない、十一月の過ごしやすい午後のことだった。
「なに?」
 コウが答え、足をとめる。・・・・なので、結局四人とも立ち止まってしまった。場所は、三条から二条にかけての右岸あたりである。何故この日、四人が加茂川の河原を散歩していたのかという理由は、また別の話なのでともかくとして、まあ良い天気のこんな午後に、そんなに人生を生き急ぐ理由というのも見当たらない。そこで、さっそくシャアなどは、河原に腰をかけてのんびりすることにした。
「とりあえず、みんな座らないか。・・・・カップルも居ないことだし。」
 加茂川の河原には、カップルが等間隔で座る。・・・・いや、コレは本当である。しかし、それは四条あたりのことであって、確かに二条に近いこの場所には、カップルはおろか人陰もまばらだった。
「・・・・うん、あのさ。・・・・コウ、『ゾロの技』って、出来るか?」
 ・・・・・意味不明である。そんなアムロの台詞に、コウはしばらく考えたが・・・・座らずに、立ったままこう答えた。
「あー・・・・・うん、まあ、マンガの中のハナシだからなー・・・・出来るのも、幾つかはあると思うけど・・・・なんだよ、見たいのか?」
「・・・・・・うん。」
 見ると、アムロはコウが肩に担いだ、竹刀の袋に注目しているらしかった。その日、コウとガトーは剣道の防具一式ではなく・・・・何故か、竹刀だけを持って歩いていた。
「・・・・・二本しかないけど、それでもいいか?」
「ぜんっぜんオッケー!」
 なにやら非常に期待してアムロが自分を見ているようなので、コウは嬉しくなって来てしまって、ガトーにこう言った。
「竹刀貸してくれないか・・・ガトーのも。」
「・・・・何をするというんんだ・・・・」
 ガトーは呆れつつも、自分の竹刀を袋ごとコウに放ってよこした。



 アムロはもちろん知らなかったのだが、その竹刀は三尺九寸というサイズの、一般に出回っている竹刀の中では一番長いサイズのものだった。成人男性はこのサイズの竹刀を使うのが普通である。
「・・・・よっしゃ!」
 コウはそう言って、二、三回腕を振り回したあと、袋から取り出した竹刀を両手に持った。ジャケットを脱ぐのも忘れなかった。楽しそうに笑う。
「そんじゃ・・・アムロ、リクエストどうぞ!」
「ええっと、現実に出来そうな技だろ・・・・んじゃ、『虎刈り』から!」
「ええっと『虎刈り』は・・・・確か両方を左の上に構えて・・・・・」
 コウがすっ、と竹刀を持ち上げた。構えの姿勢に入る。少し腰が落ちた。ガトーはやや呆れ気味で、シャアの脇に座り込んで「二刀流なんてナンセンスだ」と話している。そんなガトーに、シャアが「マンガのキャラクターの真似なんだよ、本当は三刀流なんだ」と説明してやっていた。アムロは少しワクワクしているらしく、中腰で構えに入ったコウを眺めている。・・・・次の瞬間、
 コウが、竹刀を二本いっぺんに降り降ろした。その竹刀はアムロの鼻先寸前をかすった。・・・・・ブンッ、とかなり大きな風を切る音がした。
「・・・・・・・こうだよな。・・・・あってるよな?」
「・・・・・・・・・・・うん。・・・・・うん、あぁ・・・・・・」
 アムロはあぜんとして目の前に降り降ろされた竹刀を見ていた。・・・・・驚いた。・・・・驚いた!!その竹刀は、地面につくのではないか、という一歩手前で止められていた。・・・・驚いた、竹刀を振るだけで、こんなにも迫力があるものなのか!!
「んで、次は?」
 しかし、次の瞬間にはコウがまったくいつもの調子に戻って、アムロにそう聞くものだから、アムロは思わずつられて返事をしてしまっていた。
「・・・・え?・・・・んあー、それじゃあ・・・・『蟹取り』・・・・」
「えっとあれは・・・・やっぱり両方左横に構えて・・・・あ、俺いま気付いた、ゾロって左利きか!?・・・逆手だから加減出来ないかも、アムロ、ちょっと避けて・・・・」
 そんなコウのつぶやきにもちろんアムロは一歩後ろに下がった。・・・・さっきの『虎刈り』を見て思い知った、竹刀でも大怪我をしそうだよな、あれじゃ!
「・・・・交差して・・・・抜く!・・・・・・で、良かったよな?」
 ・・・・またしても空気が切れた。・・・・ブンッ、という凄まじい音がして、竹刀が二本目の前を横切ってゆく。・・・・すげえ。アムロはどこか感動していた。・・・・すげえ、なんかすげえぞ、これ!!
「・・・・楽しそうだねぇ・・・・」
 シャアはそんなことを言いながら遊んでいる二人を眺めていたし、ガトーに至ってはあくびをしはじめていたが、アムロは本当に感動していた。・・・・・すげえ!
「んじゃ『三千世界』・・・」
「無理だろ!・・・ありゃ無理だろ!『三十六煩悩鳳』とかも無理だから!!先に言っとくけど!!」
 コウはそう答えて笑った。・・・・しかたがないので、アムロはこう言った。
「えー、じゃあ、逆に、あと出来そうなヤツはなんなんだよ、あー?」
「・・・・・うーん、『鬼切り』くらいじゃねぇ?・・・・うん、それくらいしか無理。ありゃマンガだからなー、ほんと。」
 そういうと、さっさとコウは左右に腕を組んで竹刀を構える。・・・・そして、思いきりよく腕を振りきった。・・・ブンッ、と竹刀が抜けて、そして見事なまでにピタリ、と止まるのをアムロは見た。
「・・・・・・・・・・おぉー・・・・」
 変な感想だが、実際そんな言葉しか出て来なかった。・・・・自分は中学校の授業でくらいしか剣道はやってないし、詳しいことは何一つ知らない。・・・・が、凄いと思った。竹刀というのは、そんなに軽いモノには思えない・・・・なのに、その竹刀が風を切る。かなりのスピードで。さらに、コウはそれを振り回した挙げ句に、ぴたりと止めている。止めたいと思った場所で、だ。そのあたりが凄いと思った。
「・・・・・動き足りないなー・・・・」
 見ると、準備運動万全です、という感じで、コウは首を鳴らしているところだった。・・・・確かに、マンガのキャラクターであるゾロの技を真似てみる、というのは面白かったのだが、なんというか・・・物足りないよな、これじゃ。そこで、ヒマそうにしているガトーに目をやった。
「・・・・・やる?」
 軽く一本の竹刀をガトーに向かって放り投げる。・・・・・それはもちろんガトーから借りていた竹刀で、ガトーはそれを当たり前、と言わんばかりに受け止めた。
「・・・・・ルールは。」
 あくびをしていたガトーが、ゆっくりと立ち上がる・・・・って、おいおい。ここで手合わせするのか、加茂川の河原でか、マジかよ!??アムロはやっと正気に戻ってそう考えはじめたのだが、シャアを見ると軽く首をすくめている。
「・・・・長くなると思うよ。・・・・いや、私の勝手な予想なのだがね。・・・・君、飲み物を買ってこようか?」
「・・・・・Cooのオレンジ味。」
「分かった。」
 シャアも立ち上がった。少し後ずさるアムロの目の前で、コウとガトーはルールを決めているところだった。
「胴着も面も無いなー・・・」
 コウがそう言う。シャアは、さっさと逃げ出すことに決めたらしい。河原を登って、市街地の自動販売機に向かう後ろ姿を、アムロはひとりぼっちで心細く見送った。
「・・・・そうだな。それじゃあ、ルールは・・・・」
 ガトーが髪の毛をまとめながら・・・・なるほど、面をかぶるには髪の毛はおろしていないとダメだろうが、面をつけずに戦うには、髪の毛は縛っていないとダメだろう、逆に・・・・・あっさりとこう言い放った。
「『どっちかが倒れるまで』、で。」
 その言葉を聞いてコウが心から・・・・・心から、嬉しそうに笑った。



 二人の腰が共に落ちた。構えの姿勢だ。・・・・竹刀の先を触れあわせたまま、何故か固まっている。
「・・・・アムロ、早く言えよ!」
 コウにそう怒鳴られて、アムロはやっと気付いた。・・・・っていうか、アレか!!スタートの合図するの俺なのか!!・・・・えっ、いつの間に!!ともかくアムロは必死で叫んだ。・・・・ああクソ、剣道の授業なんて大昔にやったきりだから、良く憶えていねぇー!!
「えっと・・・・構え・・・礼・・・・」
「きちんとした試合ではないのだからそれはいい。」
 ガトーが冷たくそう言った。
「・・・・・んじゃ『始め』!!!」
 やけっぱちでアムロがそう叫んだ次の瞬間に、バシィ!!と乾いた竹刀のぶつかりあう音が響いた。



 目の前にバカが二人いる・・・・・そう思いながら、アムロはコウとガトーが戦う様を見ていた。
「・・・・やあ、ただいま。Cooのオレンジ味がなかなか見つからなくてね。・・・・どうだい、その後。」
 そう言いながら、シャアが戻って来たのは十分ほど経ってからだった・・・・アンタさ、ほんと世渡りが上手いよね!・・・・その十分の間、痛いくらいガトーとコウの戦いを一人で見続けることになっていたアムロは、ため息と共にCooを受け取った。いつ割れてもおかしく無いような、竹のぶつかりあう音が、目の前では響き続けている。
「・・・・これ、疲れるんですけど・・・・・・」
「だろうな、だから私は出来るだけ見ないようにしている。」
 ・・・・やっぱムカツクくらい世渡りが上手いね!!アムロはシャアを殴ってみようかと思ったが、リクエスト通りにCooを買って来てくれたのでそれはやめることにした。ガトーとコウの戦いはまだまだ終わりそうにない・・・・・・酷い音を立てて竹刀はぶつかり合い、そしてまた離れた。折れるんじゃないのか。これ。竹刀のことだけど。「摺り足」というらしいが、腰を低く落として、互いの間を探り合うガトーとコウの二人は、想像していたより動きが早かった。・・・・そうか。こういうものなのか、剣道って。いや、厳密には、この加茂川の河原で繰り広げられている戦いは、剣道ではないのだろうが。
「・・・・・・・っ、ノヤロー!」
「・・・・・遅い!」
 最初のうちこそなにか会話を交わしていた二人が、そのうち何も話さなくなった。・・・というか、厳密には唸ったり叫んだりしかしなくなったのだ。
「・・・・汗が凄いな・・・・今は十一月のはずなんだが・・・・」
 シャアがそう言うのももっともで、かなりのスピードで動き続ける二人は、確かに汗だくになっている。
「・・・・そりゃそうだろ。もう十分もこのイキオイなんだから。」
 アムロが答えたのでシャアが聞いてきた。
「剣道ってのは・・・本来こんなスポーツでは無かったかと思うんだが・・・・」
 言われて、アムロはCooを飲みながら少し考えた。・・・・ああ、道行くヒトビトの視線がやや痛いな。
「・・・・そうだな、もっと間合いとかとって・・・あんなに接近しないし、試合だってこんなに長い時間はやらねぇだろ・・・・」
 目の前では、コウがうぉおおお!と凄まじいかけ声と共に何度目かの切り込みをガトーにかけて、それを力任せにガトーが弾いたところだった。・・・・これは剣道というより格闘技に近いな。ドツキあいだ。
「・・・・後どれくらいかかりそうなんだ・・・・人だかりが出来はじめているように思うのは私だけか・・・?」
 シャアが煙草を取り出して火をつけたので、アムロも右手を出した。・・・・シャアはしばらく考えていたが、自分がくわえていた火のついた煙草の方を、アムロの口につっこんでよこした。
「・・・・・他人のふりをしてこのまま帰るか・・・・・?」
 アムロは煙草をくわえたまま少し頭をかきまわした。・・・・ああ、確かに人が集まって来ている!!釣りをしていたはずのどこかのオッサンまでもが川から訝し気な顔をして上がって来たとき、アムロはもう逃げよう、と思った。・・・・・・だが、なんてことだろう!!・・・・なんてことだろう!!



 ・・・・目の前の二人は、本当にお互いしか見えていないようだった。・・・・ガトーがどこか笑っている。コウが射るような目でガトーを見ている。・・・・二人は弾かれるように少し離れると、そこで少し止まった。・・・・それから、また渾身の力を込めて互いに切り込んだ。・・・・・・バシィイイ!という音がかつてなく大きくあたりに響き渡り、そこでまた二人の動きが止まる。・・・・ギリギリと、歯ぎしりをする音が聞こえるような気がした。竹が裂ける音も。それから、鼻先が触れそうなほど至近距離で睨み合った二人から、汗がボトリ、と地面に落ちる音も。・・・耳が痛ぇ。アムロは思った。張り詰めた空気が、こっちにまで刺すように伝わって来て、痛ぇ。肌が泡立って、焼けつくようだ。
「・・・・っく、」
 どうやら力負けしたらしいコウが、左足を引こうとした・・・が、加茂川の河原だったせいか、上手くゆかなかったらしい。
「・・・・・終わりだ!」
 ガトーが次の瞬間に右からコウの胴あたりに竹刀を振って、そして触れる寸前に止めた。・・・・・コウが舌打ちをしながら、自分の竹刀を降ろした。・・・・天を仰いだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・二十分。」
 時計をみながら、シャアが淡々という。
「・・・・・終わったのか?良く分からなかったんだけど。」
 アムロはわずかだけ残っていたCooを飲み干した。ともかく、コウとガトーの二人は竹刀を降ろして、そして動かなくなった。・・・・回りに出来てしまっていた人だかりも、一騒動済んだらしいということで、じょじょに消えてゆく。しかし、いつまでたってもコウとガトーは動かない。ただ、肩で息をしているばかりだ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
 いい加減にアヤシく思い、そんな二人に声をかけようとしたアムロを、何故かシャアが制した。
「・・・・なんだよ?」
「『向こうの世界』にいっちゃってる。・・・・しばらく放っておいた方がいい。」
 ・・・・確かに。二人とも汗だくで、明後日の方向を睨んでいて、声をかけても返事は戻ってきそうにない。シャアがもう一本煙草を取り出して火を付けたので、アムロは右手を出した。・・・・・シャアはしばらく考えていたが、また自分がくわえていた煙草をアムロの口につっこんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・い、」
 よほど経ってから、コウのそう呟く声が聞こえて来た。・・・・息が上がったままの、掠れたような声だ。
「・・・・・・い、つもの・・・・やって・・・・・」
 すると、それが聞こえたのか、ガトーが顔をあげる。ガトーも眉間に皺が寄ったままの恐ろしい顔をしており、シャアとアムロが脇に立っていることなどは、まったく忘れているようだった。
「・・・・ああ・・・・構わんが・・・・・・・・・・そうか、失敗したな・・・・・手拭いが無い・・・・」
 ともかく適当に顔に浮かぶ大量の汗だけ、シャツの袖で拭いながら、ガトーはコウの方に向かって歩いてゆく。・・・・何をするんだ?シャアとアムロがそう思った瞬間に、ガトーがコウの頭に手をかけた。・・・・・・アムロの口から、ぽとり、と煙草が落ちた。



 ガトーはコウの頭を掴むと、思いきり自分の方に引き寄せた。・・・・そして、少し屈んで、目を閉じた。



「・・・・・っ!?」
 何故かアムロの方が変な声を上げそうになってしまった。・・・・・なんだ!!何が起こっているんだ、今!!そんなアムロを慌ててシャアが引き止める。・・・・『いつもの』。・・・・『いつもの』、って言ったよな、コウは、確か!
「・・・・・・・・・・・・」
 何か言葉をかけるわけでもなく、ガトーはそのままゆっくりと、自分の額をコウの額にあてた。その額には汗ではりついた前髪が一筋、残ったままだ。・・・・・コウも慣れているらしく、目を閉じてじっとしている。・・・・・・そのまま二人は、十秒ほど、身動きをしなかった。



 ・・・・・・いつもの、ってなんだよ!!



「・・・・・っがぁあああ!あークソ、また負けたよー!!」
 しかし、二人がパッと離れた次の瞬間には、何故かいつも通りのテンションにコウが戻っていた。・・・・いや、ガトーもだ。
「踏み込み過ぎだとつねづね言っているだろう。・・・・こんな適当な打ち合いでも私に勝てないようでは、試合で勝てる日はいつ来るのやら・・・・」
「なんだと!・・・今日は河原だったからだ、それで足を取られたんだよ!・・・・裸足なら俺が勝った!」
 そんな会話を交わしながら、竹刀を肩に担いで戻ってくるコウとガトーを、アムロとシャアは言葉も無く眺める・・・・・いや、言葉は出ないだろう、こういう場合。・・・・・・なんかとんでもないものを見てしまいませんでしたか、俺達。
「あーあ、そろそろ帰るかー?・・・・アムロ?」
「・・・・・どうした貴様ら、早くしないと日が暮れるぞ。」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・ああ・・・・・そうだな、日が暮れる・・・・・」
 そこで四人は散歩を終わりにして、そろそろ家に戻ることにした。・・・・それぞれの家に。
 コウとガトーが留学生会館に戻っていったので、アムロとシャアはいつも通りにアムロの竹田のマンションに戻ることにした。・・・・・あの二人は留学生会館の大浴場で、これから汗を流すのだろう、おそらく。



「・・・・・・・私が日本で小学校に通っていた頃には、」
 市営地下鉄が京都駅を過ぎたあたりで、ずっと黙ったままだったシャアがやっとボソリ、とこう言った。
「・・・・・『漢字ノート』というのがあったんだ。」
「それ、今もあるよ。・・・・たぶん。コクヨのとかだろ。四角いマス目の。」
「それだ。・・・まさにそれだ、それに、漢字の宿題が出て、それが大嫌いだったんだ。・・・・同じ漢字ばかり五ページとか。」
「ああ、あんた、日本語書くの苦手だもんね。・・・・で、何故今、漢字ノートの話に?」
「それにだな・・・・」
 東寺を過ぎたあたりでシャアがついに唸った。
「それにだな・・・・その宿題を、今出してやりたい、ガトーと、コウくんの二人にだ!!『恥ずかしい』という漢字を五ページ書き取り!!明日までにだ!!」
 アムロは思わず吹き出した。
「・・・・・・・・・十ページにした方が良く無いか。・・・・いや、この際百ページくらい。」
 ・・・・それでも、あの二人が『自覚なくやっているらしい恥ずかしい』行動は・・・・直らないんだろうけど!!・・・・・電車が竹田に着いた。駅から出て、シャアが煙草に火をつけた。・・・・歩き煙草かよ。アムロはそう思ったが、その日はなんだか自分もそんな気分だった。・・・・・そこで右手を出す。・・・・・・シャアはしばらく考えているようだったが、結局、自分のくわえていた火のついた煙草を・・・・・・アムロのくちにつっこんだ。



 もちろん次の日大学で、アムロはハヤトを捕まえて『真実について』聞いてみた。・・・・ハヤトは体育会系の柔道部に所属しているから、体育館で年中手合わせをしているコウとガトーを見ているはず、なのである。
「・・・・手合わせをした後?・・・・した後?・・・・・・いや、そう言われれば、確かに毎回あの・・・・ガトーって言ったっけ、あの外人が何かコウに話かけていたようにも思うけど・・・・」
 話しかけてた!!??そんなレベルじゃないだろう、とアムロは思ったが、グっと耐えた。
「・・・・・別におかしくも思わなかったけどな。コウって、あの性格だから、試合とかしてテンション上がると、なかなか戻って来れないんだ。それで、アドバイスでもしているのかと思ってたけど。・・・・ガトーってヤツの言うことなら、コウは聞くだろ。」
「・・・・・変だと思わなかったのか?」
 ついに耐え切れなくなって、アムロは聞いてしまった。すると、ハヤトのほうがひどくへんな顔をして答えた。
「・・・・・別に。・・・・だって、手合わせした後って、剣道部の連中はみんな面を付けてるだろ。・・・・面越しに何の会話してるかなんて、こっちには・・・・・分からないじゃないか。」



 ・・・・・・!!



「・・・・・アムロ?おい、なんだよアムロ、それだけかよ話!」
 後ろでハヤトがなんだか叫んでいるが、知ったことじゃ無い。・・・・面か。そうか、それが無かったから、とんでもないモノを見ることになってしまったのか、俺とシャアは・・・・と思った。どうする。漢字ノートを買って帰ろうか。いや、大学の購買部にそんなものはきっと売っていないことだろう。・・・・・会話なんか交わしていないんだ、ただ息を整えているんだ。・・・・・二人で目を閉じて、落ち着くために。・・・・・・・って、言ってやりたい!!ハヤトにバラしてやりてぇ!!いや、ハヤトだけじゃねぇ、全世界のみんなに!!あぁ!・・・・・・・あぁ!!



 後日、シャアは盛大にリボンをかけたコクヨの漢字ノートを、ガトーにプレゼントしたのだが、それがシャアに出来る唯一の、そして精一杯の行動だったのであった。

   






■お題リクエストはマジコさんです!■
・・・・ごめん(><)!!ごめんマジコさん〜〜〜!!
『真剣勝負』は一回書こうとして失敗していまして(笑/この話です)だからこそ頑張ろうと思ったんですが・・・・
変な方向に頑張ってしまいました(笑)!!やはり、私に『真剣勝負』は無理なのかもしれません。
まず、この話は長いです(笑)。小咄としては長過ぎます(笑)。幾つかの本編より長いです。
あと、話したいことがありすぎて、どうしたらいいのか途中で分からなくなりました(笑)。
・・・・すくなくとも何処が『真剣勝負』?という話になってしまいました・・・。
とりあえず、いつか書きたかった、原作の「二度と忘れん」が、ばらいろでも書けて良かったです。
つーいーにー!!書いちゃったな〜〜という感じです(笑)。はっ。ひとりで興奮していてごめんなさい!!
・・・・マジコさん、ダメ出し受け付けますので、御連絡を・・・・(笑)!!





2004/04/07




HOME