輸送機のエンジンから吹き出す熱で、滑走路には陽炎が立ちのぼって見える。
軽機関銃を脇に抱えた兵士が、タラップを駆け降りてきた。何ごとかを叫んでいるのだが、二つに連なるローターの音でろくに聞き取れはしない。警備兵であるようだった。輸送機はいわゆる、黒塗りの軍用ヘリコプターで、二連のローターがその羽ばたきを止めた頃にようやく一人の男がドアの向こうに顔を出す。
身分のある捕虜なのだろう。
両脇を文官らしいスーツ姿の男に抱えられ、前に差出された両手に布が巻き付けられたその男は、非常にゆっくりとした歩調でタラップを降りて来る。当然、布の下には手錠がかけられているのだ。
「……」
彼は、ふと立ち止まる。
「……何だ! 進め!」
脇に立つ警備兵がそう言って軽機関銃を構えたが、彼はいっこうに気にしていない様だった。ひどく緩慢な態度で空を見上げ、一言だけこう呟く。
「…見なれない、」
「歩け!」
顔を上げ、空に向かって文句を言った。
「……見なれない高さの空だな。」
目の覚めるようなプラチナブロンドで、だが妙に隙の無い動きをする男だった。……年の頃は三十そこそこ。身の丈は百八十センチほどに見える。……連邦軍に捕われるということは、親宙派のテロリストだろうかそれとも。
目の色は淡い青で、あまりの色の淡さにモノが見えているのか心配になるほどだった。こう言ってよければかなりの美男子である。
それだけつぶやくと男は面を向き直す。……そして、連邦軍キリマンジャロ基地のゲートへと向かった。
……時に、宇宙世紀0091、九月。
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2006.06.30.
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