『作戦の概…を説明する。こ……り、敵テロリストにより制圧されたと思われる「シュバ……」内部に潜……』
『その、大…の、何時如何なる時も真……に軍規を守ろ……いう姿勢を愛しています!』
『……総員、ウェ……少尉の戯れ言…今後一切聞くな』
『え…えー! 大尉、なんでー!』
格納庫内に響き渡る不明確な通信音声を聞きながら、なんでもクソもあるかい、とアストナージは、待機中の恋人が準備を進める後ろ姿を眺めていた。
『このま……と「シュバリエ」は宇宙時……後五時には阻止限界……突破。残り一時間ちょっと……な。……ブライトに無理を言……艦内索敵の許可を得たんだ、とにかく急い…友軍を救い出せ』
『ア…サー!』
『以上!』
アムロ達が『シュバリエ』に再度取り付き、艦内索敵に取りかかった頃、ラー・カイラムの艦橋には一人の人物が顔を出していた。
「アリス」
「まぁた面倒くさいことになってるなぁ、艦長」
ラー・カイラムの砲術士官、アリスタイド・ヒューズ中尉である。
「仕事だ」
「分かってる」
「耐えろ」
「耐えてるんだがなぁ?」
「じゃあその顔は何だ」
目の前のモニターには、地球落着までに予想される輸送艦『シュバリエ』の進行軌道、及びそれに追随するラー・カイラム、以下ロンド・ベル艦隊の軌道が映し出されていた。
「こりゃアレかい。要するに先行する妙にデカい輸送艦を撃墜しろ、とかそういう事ですかい」
「その通りだ。今、アムロの小隊が艦内の索敵行動に向かっている。それが済み次第、即後続艦隊による狙撃行動に移る予定だ。それで中尉を呼んだ」
「……」
アリスタイド・ヒューズ大尉はややぼさぼさな頭をバリバリと掻き……それからつまらなそうな声を上げた。
「無理ですよ、艦長」
「と、言うと」
ブライトは表情一つ変えずにそう聞く。……あの輸送艦の中身がガンダリウムであるという事はアリスに伝えていない。それでもこのプライドの高い砲撃手が即座に『無理』という理由は何だ。
「地球に落としたくないんだろ? アレを」
「その通りだ」
「ありゃ、どれくらいある」
「全長千メートル弱、総質量1000t。……資料では」
「……」
アリスはもう一回頭を掻いた。……オペレーター席に座っていた女性の通信兵がアリスの付近に舞い散る埃にやや顔を顰めたが、ブライトは見なかったふりをした。
「いいかい、艦長さんよ。このスピードで追いかけて、射程圏内に入り次第即標準を合わせて主砲をぶっ放す。……ドン! 阻止限界点ギリギリの微妙な場所でな。そこで一発。一発が限界だな」
「いい着目点だ」
ブライトは素直にそう言った。確かに先行する『シュバリエ』はかなり足が速い。ラー・カイラムが何とか背後に追いついて80MVある主砲を撃てるチャンスは一度きり、一度きりだろう。
「ところが、だ」
アリスはひょいと無重力の中飛んで出ると、モニターの前に立って、ラー・カイラムとシュバリエの間に勝手に矢印を引いた……一直線に。
「よく見ろよ、艦長。ある程度、ある程度ってのはあのデカブツに余計なモンが積んでなかった場合の話だが……うちの主砲でぶっ飛ばしたとする。サイズを小さく出来たとする。だが、角度が悪い」
「……」
「主砲をぶっ放すとな。逆にその砲撃で背中を押しちまう。分かるか?」
「……」
「この艦の速度で先回り出来ない以上、後ろから艦砲射撃食らわしたら……大気圏突入、落着を逆に手助けする事になっちまう、って言ってるんですよ」
「……そうか、よく分かった」
「余計なモン、積んでないんだよな?」
「面白い冗談だな」
「……冗談は言わねぇ主義で」
艦橋には微妙な空気が流れていた。……成る程、これで艦砲射撃でシュバリエ全体を撃墜する夢は潰えたわけだ。一発しか撃てないのでは仕方が無い。どうする。
「……」
さて、どうする。アムロ達MS小隊は、慣れない白兵による艦内索敵を開始していた。……阻止限界点突破まであと一時間弱。
「無駄とは思うが、俺はブリッジに向かいこの貨物船のパージを試みる」
『パージ?』
「解体だ。……上手く行けばそれぞれのコンテナをばらばらに出来る。全体の撃墜が不可能までも、地球に落ちる塊を小さくする事は出来る訳だ」
『……なるほど! さすが大尉!』
哨戒用の一機を宙空に残して小隊の内三機はシュバリエに取り付き、パイロット達は内部への侵入を図っていた。
「ウィルは後方から索敵。俺とサットンはブリッジに向かい、俺がパージを試みる間にサットンは前方から索敵を開始しろ。二人が艦中央部で合流した時点で俺に連絡を寄越せ。それがタイムリミットってもんだろう」
『アイサー』
『アイサー!』
たった三人の白兵による潜入。心もとない事この上ないが、贅沢は言っていられない。艦の外部をワイヤーを使って移動し、外部ハッチに取り付くと電磁ロックにハッキングをかける。
「……」
内部はやはり不気味な程に静まり返っていた。……明りも灯らず、人気も無い。
『センサーに生物反応すら出ないですね』
「エアはあるな」
アムロはバイザーを上げるとサットンに向かって手を振った。
「通信は切るな。何かあったらすぐ伝えろ。……行け!」
『アイサー!』
すぐにサットンはブリッジの後方のドアから奥に向かって出て行った。……一人残された無人のブリッジで、アムロはコントロールパネルに向かい合った。
「さてと」
電源は完璧に生きている。手始めに幾つかパネルに触ってみたが、オート航行に設定されているらしい航行システムには入り込む事も出来ずに弾かれた。
「ちっ」
次に艦そのものの保安システムに入り込もうとしてみる。……これももちろん駄目。まあ、元から入り込めるとは思って無かったけどな。試しに、と思って持って来ていた自作のハッキングプログラムを幾つか試してみたがやはりことごとく弾かれた。多少この手のことに自信のあったアムロとしては苛立ちが募る。
「やってくれるじゃないか……!」
何処のテロ組織の、どんな技術者だか知らないが軍に所属する艦にこれだけのトリックを仕掛けるなんて良い腕だ。ダンッ、と腹立ち紛れにコントロールパネルを叩いた時に、艦内を索敵中の二人から通信が入った。
『……大尉、人っ子一人見当たりませんね。おかしいですよ、この艦!誰も……死体すらも無いんです!』
『こちらも同じくです』
するとアレか。この艦から発信された救助信号からしてプログラムで、もう既に……いや、ひょっとしたら最初からこの艦には誰も乗って居なかった……?
「!!」
次の瞬間、何の前触れも無くブリッジのコントロールパネルの幾つかが光ったかと思うと、急に艦内中に耳を切り裂くようなアラート音が響き渡った。赤い警告ランプの輝きと共に。
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2007.12.22.
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