「いいか? この『爆導策』というのは、ちょっとあり得ない兵器だ」
「あり得ない?」
「俺も資料でしか見た事が無い。……ただ、こういう兵器を装備した機体が当時あった事は事実なので、同じ年代設定のこのステージでだけ使える様にした」
「……なるほど」
ラー・カイラムに設置されたシュミレーターの脇では、アムロによる種明かしがまだ続いていた。
「俺の計算で行くとこうだ。ジム・ライフルで落とせる敵は、全弾命中させ更に誘爆を招いたとしても、せいぜい二十機。それを使い終えて90mmマシンガンで落とせる敵が大体十機。そのあとビーム・サーベルで切り掛かって、よほど腕が良かったとしても時間内に倒せるのは十五機程度」
「……その通りですね」
ここまでで四十五機、と言いながらアムロは続けた。
「残りは体当たりで行って、運良く殴り合いと頭部バルカンで十機程落としたとしても、お前の六十八機というのはずば抜けたスコアだ。俺がやってみたって似たようなものだろう」
「そりゃどうも」
サットンは画面にしがみつく様になりながらその説明を聞いていたが、しかしアムロは面白そうに『爆導策』を選択した場合の画面を表示して見せた。
「……ところが、だ。最初に『爆導策』を選択し、頭部バルカンを付けなかった場合、全てが変わって来る」
「……全てが?」
「戦い方のすべてが、だ」
実際、目の前でアムロがそれをやって見せていた。……贅沢な話である。
「まず『爆導策』を選択した場合には、最初にビームライフルを使わない。……出来るだけ動きまわり、敵を一カ所にまとめて追いつめる」
アムロは軽く操縦桿を握り、布陣を変えて見せた。
「……凄い」
サットンは素直にそう答えた。……いや、答えざるを得なかった。まずこのような布陣を、自分では到底思いつかない。
「自分以外に『誰一人味方が居ない』と想定しないとこんな戦い方をそもそも思いつかない。……そして、その密集した敵に向かって『爆導策』を使用する。……ザンジバル級なら戦艦でも一発で沈められる程の火力が有る」
「……」
サットンはもう言葉もなくただ画面を見ていた。……今、一発も砲を発射せずに、敵を追い込んだ宙域に向かってアムロが一本『爆導策』を放ってみせた。……その導火線は敵の周囲に綺麗な輪を巻き、そして一気に火が点く。一瞬で敵三十機が宙に消えた。
「……『爆導策』は二本使える。……計、六十機を一瞬で撃墜出来る。これが、」
アムロが画面を消した。
「……」
「これがウラキ大尉が『百三機』撃墜出来た種明かしだ。……分かったか?」
「……」
サットンはしばらく黙ったまま何も言わなかった。……では、
「違いはなんですか。……つまり、俺とウラキ大尉の違いは」
サットンに素直にそう聞かれ、アムロはつい言葉を失った。
「そうだな。……一番の違いは『洞察力』だ。このステージでだけ、この武器が使える事に気づいたウラキ大尉の洞察力の勝利だよ。俺はわざと目立たない場所に『爆導策』を隠しておいた。しかしウラキ大尉はこの武装を『知っていた』。……もっと簡単に言うなら、」
アムロはポン、とサットンの肩を叩いてシュミレーターを出た。
「……『年の功』かな」
アムロがそう言った瞬間、艦内にけたたましいアラート音が響き渡った。
『総員、第一種戦闘配置。繰り返す、総員第一種戦闘配置。作戦士官は至急ブリッジへ。……繰り返す、』
「サットン少尉! ノーマルスーツに着替えて格納庫で連絡を待て。」
「アイサー!」
それだけ会話を交わすと二人はシュミレーターの前で別れる。
『繰り返す、第一種戦闘配置!』
アムロが飛び込んだブリッジは、意外に落ち着いていた。
「ブライト」
「途切れた。……もう一回回線を開け。通信を試みろ」
「アイサー!」
目の前でオペレーターが答え、パネルを幾つか叩いた。
「……応答有りません」
画面には、米粒大になった輸送艦『シュバリエ』の姿が依然映っている。
「……どう思う」
「『シュバリエ』と連絡が取れなくなったんだな?」
「その通りだ」
「……第四軌道艦隊本部より入電!」
アムロがブライトに問いかけた時に新たな通信が入った。
「回線を開け」
「アイサー」
モニターに本部からの通信が入る。月に在る第四軌道艦隊本部はいささか混乱しているようだった。
『……Sクラスの通信以外は全てサブコントロールに回せ! 全艦隊は状況を現時点を持って放棄! ラサからの連絡は……ああ、そう、』
「……ワイアー少将」
ブライトがモニターに向かって呼びかけた。
『ブライト・ノア艦長』
「現状の報告を」
そう促されたところでやっと、軌道艦隊司令はブライトの存在を思い出した様だった。
『緊急に済まない。……「シュバリエ」との連絡が先ほど途絶えた』
「で」
ブライトは冷静だった。再度、モニターに向かってそう問うとワイヤー少将がこう答える。
『軍所属のオノバン級輸送艦「シュバリエ」はサイド7宙域に向けて航行中だった。……連邦軍の最重要機密に属する物資を運んでいる』
「我々は現在、『シュバリエ』が目視出来る宙域に居ます」
『そうか』
モニターに映る第四軌道艦隊司令が襟元を正し直した。
『……それは奇遇だな、そのまま追ってくれ。……「シュバリエ」からの連絡が途絶えた。そしてこの艦の大きさ、航路からすると……テロリストに乗っ取られた場合、地球への落着コースを取る可能性が非常に高い」
「……」
ブライトは無言で、アムロの方を振り返った。……アムロも無言だった。
……地球に巨大輸送船が突入する、それも大気圏で燃え尽きないかもしれない、大きな質量を保ったままで。
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2006.12.24.
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