「……すっごく命中率が低いんだよな、確か」
「いや! 少しは改良したんで。まんま百式のハイパーメガランチャーってことじゃありませんよ」
「その上、エネルギーパックをしょって歩かなきゃならないし」
「まあ、一発分くらいなら大した分量じゃないし、使ったら後は捨てれるし」
主砲発射まで後五分を切ったラー・カイラムの格納庫で、アムロとアストナージは装備のことで揉めていた。……後数分で、おそらく発射体勢に入る為に艦は固定される。
『我が儘を言うな、アムロ』
「別に我が儘ってわけじゃない」
艦橋にいるブライトが口を挟む。
「とにかく、現時点ですぐ使えるこの艦にある手持ちの装備で、一番破壊力があるのがハイパーメガランチャーなんですよ」
『決定だな』
「……」
アムロはまだ渋っていた。隣に立つアストナージを見る。それから、壁に埋め込まれた通信パネルに映るブライトの姿も。
「……シャアがあれだけ的に当てられ無かった装備を、俺が使えると思うか?」
『自信が無いのか』
「クワトロ大尉が当てられなかったのは、あの兵器が外付けにしては大き過ぎて、本来射撃に必要な『固定』があまりにし辛かったからですよ。そのへんは改良してあるんで」
「……」
『アムロ』
「……」
「大尉!」
「ああもう、分かったよ! ……使用する装備はハイパーメガランチャーにする! リガズィの出発と同時に、射撃予定箇所……大気圏突入直前に受け取れる箇所にエネルギーパックと一緒に射出!」
「そうこなくっちゃ」
アストナージは何処か楽しそうだ。さっそく他の整備兵に指示を飛ばしている。
『アムロ』
「何だよ」
見れば、モニターの向こうでブライトも面白そうな顔をしている。
『大丈夫だ……クワトロ大尉は確かに命中率が低かったが、アムロならやれる』
「どんな気休めだよ」
『百式はガンダムタイプだったからな。……クワトロ大尉は相性が悪かったんだ』
「……」
納得出来るような納得出来ないような理論だ。……ついに主砲発射のため、艦が止まる。アムロは無言でノーマルスーツのバイザーを降ろすと、格納庫に立つリガズィに向かって身体を流した。
「はいよ、こちらボギー」
『あ、まだ生きてたか?』
「残念ながら。あと残り三時間くらいは生きてるんじゃねぇか、俺も」
地球連邦地上軍、第三特務部隊所属諜報部部長、ハンフリー・ボガートは……オークリー基地の地下シェルターでざっくばらんに謎の通信を受けて、まわりの通信兵達をオロオロさせていた。相手はもちろんカイだ。
「で、どうだ」
『アナハイムエレクトロニクスに、ちょっと桁違いの出所不明金が流れてるな。十二月の半ばだ』
「オイオイそれって」
『ああ。……で、思ったんだがな、あのコンテナ。外装だけがガンダリウムで、中身はやっぱり別のもんなんじゃねえのか? そうは言っても連邦だって、ガンダリウムくらい貴重な鉱物資源となったらしっかり管理しているはずだ。それでもネオジオン側がそれを手に入れたい、ってなったらさ。……テロ組織にシージャックして奪われました、くらいしないとカッコつかねぇよな?
そこで商売上手なアナハイムの登場だよ。連邦軍がネオジオンに売りました、うちの社が仲介し正当な金額で……とはそりゃ言わないわな』
「……」
『しかも奪われたガンダリウムは、明らかに目に見える形で、例えば……成層圏で撃墜されて宙に消えるわけだ』
「……ふざけるなよ」
『ふざけてねぇよ。でも蒸発したとなったら、追求もそこまでだよな』
「ふざけるなよ!」
『……前っからそういう連中だよ、ネオジオンもアナハイムも……連邦も!』
珍しくボギーは本気で怒っていた。……聞かせたく無い。こんな話だけはウラキに聞かせたく無い。アムロ・レイにもだ。そう思った。何をやっているんだ、連邦もアナハイムもネオジオンも!
あまりの剣幕に若手中心の通信兵達は少し後ずさる。他の部屋にいた整備兵達ですら、何事かと顔を出すような大声だった。
「だけどそれを……その『作られた隕石』を、死ぬ気で止めようとしてるやつらがいるんだぞ!!」
『ああ! そんなのは分かってるよ、だからこそやってらんねぇんだろ……!』
「……」
ボギーはしばらくモニターを睨み続けていた。……今回は負けた。俺達は完全に後手に回ってしまった。シャア・アズナブルが作戦の主幹を考えたのだとしたらその才能に恐れ入る。
「……一つ頼みがあるんだが」
『なんだ』
音声だけのカイの通信はやけにクリアに地下シェルターに響いた。
「この回線な。……テロリスト御用達の違法通信用ブイを経由して、ここに繋いでるよな?」
『ああ。そうでなきゃこの状況下で通信なんか出来ねぇよ』
その会話にまわりの兵達がギョっとしていたが、そんなことは知った事じゃない。
「今、思いついた。わざとテロリストの……アングラの回線を使おう。そして会話なんぞみんな向こうに聞かせてやればいいんだ。頼みがある」
『あぁ?』
カイが分からないような声を上げた。ボギーは構わずに続けた。
「ウラキ大尉がアムロ・レイと話したがっている。……敵に筒抜けでも構わない、二人の間に回線を繋いでやってくれ」
『……』
余程の沈黙のあとカイが言った。
『……分かったよ』
堕ちて行くコロニーを眺めた事がある。もうずいぶんと昔に、宇宙から。
堕ちて行くコロニーを眺めながら、俺ときたらずいぶん関係無い事を思っていたんだ。
地球が、綺麗だな、とか。
地球が綺麗で、たとえようも無く綺麗でこの星に。
……この星に。
何かが墜ちてしまうなんて。
とても嫌だなあ、とか。
……でも、地球が、綺麗だな、とか。
『……大尉! ウラキ大尉、聞こえますか!』
「なんだ」
ずっとよく見えもしない光学数万倍だかのフィルターを眺め続けていたウラキは、その声に眉を顰めた。
『通信が入りました』
「誰から」
『レイ大尉です。ロンド・ベル隊のアムロ・レイ大尉』
「……嘘だろ」
奇跡ってのは起こるのかもしれない。ウラキはそう思いながら、コックピットに座り続けで強ばり始めていた身体を慌てて起こした。
―――繋がったんだ、本当に。話したくて話したくて仕方の無かった人に。
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2008.01.03.
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