「てめぇら、気張って行きやがれ!」
「アイサー!」
「撃てるのはたった一発だ! その意味は分かってんだろうな、あぁ!?」
「アイサー!」
「砲列甲板の意地見せてやろうぜ!」
「アイサー!」
0091、十二月二十四日宇宙時間午後十六時五十分。……阻止限界点突破までは残り十分ほど。砲列甲板はいつも通りの汗臭い雄叫びに満ちていた。
『作戦を確認する。砲列甲板が主砲を発射し、コンテナをコアブロック……つまりガンダリウムの積まれた中央部以外破砕した直後に、全艦からモビルスーツ隊が発進、残骸に向かって攻撃を開始』
「……って艦長が言ってるぜ!」
「アイサー!」
『元気なのは良い事だ』
その砲列甲板の雄叫びを聞きながら、艦橋でブライトはやや頭を抱えた。元気なのは良い事だがな。
『で、俺はそのモビルスーツ隊が攻撃をし終わった後で落下するコンテナの下に……まぁつまり大気圏ギリギリのところに回り込み、下から更に最後の射撃を仕掛ける……という事でいいんだな?』
所は変わって同時に、あまりに短い休息を既に終え、格納庫での待機に移ったアムロからも通信が入る。
「そうだ」
『分かった』
とりあえず通信を一回切って、アムロは脇にいるアストナージに話しかけた。
「作戦概要的に見て、俺がリガズィからコンテナを攻撃出来る回数は?」
「リガズィは大気圏突入能力があるが、体勢的に撃てるのはやはり一発……ってとこだろうと思う」
「で、その装備は?」
「はあ……大尉的にはすっごく使いたく無いでしょうけど……」
「何だ」
「百式のハイパーメガランチャー……って知ってます?」
……確かにすごく使いたく無いな、それ。
『宇宙で「シュバリエ」に追走している、第四軌道艦隊所属ロンド・ベル隊旗艦ラー・カイラムから通信が入りました!』
ほぼ全てのセッティングが終り、オークリー基地の新しい司令部となった地下300のシェルターからそんな通信が入った。他の司令部とは面白いくらい繋がらない。一番重要な、北米方面総司令部やラサなどにだ。全く、自分達とラー・カイラムだけでこの現状をどうにかしろと言われているのも同じだ。……いや、ラサあたりはもうこの基地には誰もいないと思ってるかもな。
「宇宙は何だって?」
愛用の機体(しかもジェガン)の前に設置された、明らかに異様な大きさの武器を眺めながらウラキは返した。さすがにノーマルスーツに着替えた。……0091、地球現地時間の午後十二時直前。
『ミノフスキー濃度がかなり高くなっているらしく、途切れ途切れの電文なのですが……』
地上もかなり濃くなって来ている。きちんと通信が繋がるうちに、北米上空の航空管制は敷かれただろうか。何時もあまり役に立たない上層部だが、それくらいはやっていて欲しかった。民間機に落下物が運悪く激突、なんてことだけは避けたい。
「確認出来た範囲で構わない」
『以下、ロンド・ベル隊の今後の行動予定です。……地球時間イチニーフタマル時、宇宙時間のイチナナフタマル時に旗艦ラー・カイラム主砲による射撃を実行。これにより輸送艦『シュバリエ』のコアブロック以外の撃破が可能と思われますが、同時に後方からの射撃のため地球突入角に更に勢いがかかってしまう事が予想されます。そこで次に、その落下するシュバリエコアブロックに対し、まずは艦隊全モビルスーツによる一斉攻撃。スピードが速いのでモビルスーツしか追いつけないそうです。ただ、モビルスーツの装備程度ではガンダリウムの巨大な塊に対してほとんど効果が無いのではないかと。更にその後、下方からのピンポイント射撃の為にアムロ・レイ大尉が出ます。……リガズィによる最終狙撃を、目標物の大気圏突入直前に行うそうです』
「……他に打つ手が無かったのがありありとわかる作戦だなあ」
そしてアムロ・レイ大尉にも止められなかった場合、その残りが……この基地に向かって降ってくるわけだ。ウラキは少し歩いて、砲身が三十メートルはあろうかという超長距離試作メガ粒子砲に少し触れた。
『どうしますか! ウラキ大尉!』
どうしますと言われてもな。聞かれてウラキは焦った。……が、まわりの皆を見渡して合点が行く。俺より上級の士官が、もうこの基地には残ってないじゃないか。
「今現在、予想されている地点に……目標物はどれくらい見える?」
『まだ何も見えません……』
画面に映る小柄な通信兵が答える。この男は確か最近入隊したばかりの新人だったはずだ。こんなところで死なせる訳にはいかない。
「……分かった。やはりデジタルじゃ補足出来ないようだな。予定通り狙撃は、光学モニター、目視で行おう。標準の準備を」
『イエスサー』
「そんなもんで成層圏の狙撃対象を狙うなんて、まあここ数百年聞いた事も無いが……」
『大尉……』
「皆聞いてくれ。数百年前の人々はそうやって自分の目で『狙撃』をしてたんだよ。きっと俺達にもやれる。……仕事の済んだ人員から、順に地下へ避難!
全員シェルターへ!」
『ウラキ大尉』
すると、何故か通信にボギーの声が入った。いつの間にやら自分はさっさと地下に避難していたらしい。
「……あ、そうか。よく考えたらアンタは俺より上官ですね」
『どういう嫌みだ』
ジェガンに戻り、うんざりした顔でモニターに話しかけてみたら、嫌みだという事は通じたようだった。
『いい男になったなぁ』
「切りますよ」
『まあまあ。遺言じゃあんまりだが、そうだな……最後の希望があれば聞いとくぜ? なんかあるか。食いたいもんとか』
「……アムロ大尉と」
『は?』
「アムロ大尉と直接話をしたい」
ウラキは本当にモニターを切って、ジェガンのシートに横になった。少し休もう。粒子砲への充電は既に開始されているが、一発撃つのに一時間もかかる。しばらく出来る事は何も無い。
……俺の願いなんかいつも叶えられやしないくせに、こういう気の使い方がほんとムカツクんだ、ボギーって。
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2008.01.01. あけましておめでとうございます!今年もヨロシク。
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