「……貨物船が宇宙から降って来る!?」
「えぇえええええっ!」
突然大きな叫び声が滑走路に響き渡って、皆何事だろうとそちらを見る。見れば、アナハイム社の繋ぎを着た十人程のチームメンバーに、ウラキ大尉が囲まれているところだった。
「まさか……お前ら、何も知らずにここへ来たのか?」
「知ってたら来ません!」
「絶対来ません! ……何考えてるんだ、パープルトン女史は!」
大体本社の許可は取れているのか? いや、彼女の事だ勝手に全部指示した可能性もある、むしろそれ俺のクビがヤバくねぇか……?
と、ブツブツ呟き始めてしまったチームリーダーを目にして、ウラキは心底済まなそうに頭を掻いた。
「そうか……あー、いや、それは済まなかったな。まあ、シェルターがあるから大丈夫だろうとは思うんだが……どう考えても本当の事を言わなかったニナが悪いな……」
「ニナって誰?」
「馬鹿、パープルトン女史のことだよ!」
「えっ、あの人そんな可憐な名前だったんスか!」
「っていうかなんでそこでウラキ大尉が謝るんだよ」
「馬鹿、それはウラキ大尉がパープルトン女史の旦那だからに決まってるだろ!」
「……」
ウラキは非常に居心地の悪い気分になってきて、思わず空を見上げた。……当然、月は見えない。
「それより大尉、よくパープルトン女史と結婚しようなんて思いましたねー!」
「……」
「あ、それ! 俺も思いました、あんな兵器メカオタク俺は絶対無理! 無理無理!」
「……」
耐えろ。……耐えろ、俺。
「あれ、ひょっとしてパープルトン女史ってウラキ大尉より年上なんじゃないの」
「……」
「あっ、そうかもそうかも! 大尉、ひょっとして年上の女性に騙されました!?」
「……」
「美人だもんねー、パープルトン女史……」
「それは俺も思う。黙ってればかなり美人。でも話すと超オタク」
「言えてる」
手はてきぱきと作業を続けながら、だがしかしそんな会話が流れて行く。
「かなり美人の兵器オタク。筋金入り」
「そうそうそうそう」
「……子供が出来たからだ! だからニナと結婚した!」
あまりに延々と続く自分の妻に対する同僚からの論評(?)に居たたまれなくなって、ウラキはついに大声でそう叫んだ。……とたんに周囲がシーンと静まり返る。
「まあ、そのくらいにしてやれよ。……お前等、口ではそう言いつつもこの状況ちょっとおもしれー、くらいに思ってんだろ?」
何故か後ろから近寄って来たボギーが、慰めるようにウラキの肩をポンポン、と二度程叩く。こいつに慰められるようになったら俺も仕舞いだ……そんなことを思いつつ、ウラキは脇に立つボギーを見上げた。顔はゆでだこのように真っ赤だ。
「見ての通り。……ウラキ大尉は上手い嘘の一つも付けない真面目な性格なんだよ、だからあんまりからかってやるな」
「……からかう気も失せました」
「うわ、ウラキ大尉カワイイ……」
「可愛い! やべえ、俺達ウラキ大尉を応援します!」
「逃げれば良かったのに!」
「逃げられなかったんだ! そこで頑張っちゃったんだ!」
「すげー! 大尉、尊敬します! 俺達は味方です!」
「……」
そんな尊敬要らねぇよ。……ウラキはそう思ったが、口には出せなかった、だって。
「……あの時間を一緒に過ごした女は他に居ない」
「……分かってるよ」
何故か盛り上がるアナハイムチームとは裏腹に、もう一回ボギーが肩を叩いた。
……こいつに慰められるようになったら俺も仕舞いだ。
仕舞いだけど……まあ、いいか。
『……ブライト』
「カイか。どうだ、その後何か分かったか」
『そっち(宇宙)で全部落とせそうか?』
宇宙時間午後十六時四十五分、ロンド・ベル隊による第二波、主砲による艦隊射撃直前。
「出来る限りはやってみるが、角度が悪すぎるようだ。十五分後に主砲による直接射撃を試みるが、一発が限界。しかも破壊し切れないガンダリウムの入った中央部のコンテナを、落着コースに向けて後ろから後押しする格好になってしまう、というのがうちの優秀な砲撃士官のコメントだ」
『そんなひでぇ場所にいるのかよ!』
「それも自分の判断で先に行動していて、どうにか間に合ったというタイミングでな」
『上から輸送艦の護衛指示、ってのは今回まったく出てなかったワケね』
「残念な事に」
「……やれやれ。まあしょうがない、じゃあオークリー基地の続報だ。残った人間は今、地下シェルターを司令部に変更している。地上も別に諦めちゃいないぞ」
「……って」
『ああ、例のコウ・ウラキ大尉、っての? ……知り合いっつってたよなあ。狙撃用の武器も軍が当てにならないから、アナハイムに直接話をつけて入手したらしい。連邦の軍人にしては仕事が出来る奴だな』
ひどく友達ってほどでも無いんだがな。……ブライトは考え込んだ、彼は本当に逃げ無かったんだ。このままでは間違いなく、ガンダリウムγが振って来るその場所から。
……じゃあ。
ブライトは、今部屋で短い休息中のアムロに連絡を入れるべく、ボタンを押した。
>
2007.12.27.
HOME