「犯行声明は」
『出てねぇ。……っていうか出せないんじゃねぇか』
「どういう意味だ」
 全長百メートル以上ある巨大な輸送機から、これまた非常に巨大なコンテナが運び出され……作業用モビルスーツと、それから支援の通常モビルスーツまで使って、滑走路には超長距離試作メガ粒子砲がセッティングされようとしていた。
 ここは北米、オークリー基地。
 一緒に到着したらしいアナハイム社の作業員と、軍人である整備兵達が寄ってたかって一つの巨大な兵器をセッティングして行く様は、スピード感と緊迫感にに満ちている。それを横目で眺めながらボギーはカイとの会話を続けた。
『犯行声明出したら、地球に何かを落とそうとしているのがバレちまうじゃねぇか。で、落とそうとしているのがバレちまったら、該当地区の人間はみんな逃げちまって被害が出せないってことだろ』
「……」
 カイ・シデンは今回地上の何処かにいるらしいのだが、良くは分からない。武闘派のジャーナリストという微妙な肩書きの彼は、ボギーにとって商売敵でもあり、ライバルでもあり、そして良き友でもあった。
「作戦自体に、ひどく矛盾を空気を感じるな」
『そこだよ。……俺もそこがひっかかった。考えても見ろ、ガンダリウム200tだぞ。それを奪取し、大気圏に突入しても燃え尽きない隕石として利用する……くらいなら、普通はもっと別の事に使わねぇか?』
「ああ。……ガンダムを五機作る為に、とかな」
 滑走路のど真ん中に仁王立ちになっているウラキ大尉の後ろ姿が見えた。まだ、通常の軍服のままだ。まあ、落着は午後三時頃の予定だし、標的はまだ宇宙で阻止限界点突破してもいない。地上から光学で落下物が確認出来るようになるのはどう考えても落着の一時間前、ってところだろう。今からあの暑苦しいノーマルスーツは着ねぇわな。
『そうだよな。俺は、その線で調べてみる。アナハイムの上層部あたりが臭いと思う。だからまあ……そっちも死なない程度に頑張れよ、大佐サン』
「どうだろう」
 新しい煙草に火を付けながらボギーはもう一回ウラキ大尉の後ろ姿を見つめた。
「……ウラキ大尉次第だなぁ、俺の命は」



「完全な無人、か……」
 ノーマルスーツのまま副隊長であるケーラと一緒に艦橋に上がって来たアムロは、ヘルメットを投げ出しこそしないものの、かなり苛立っていた。……まるで毛を膨らました猫のようだ。ブライトはそれを眺めながら、さてどうしたものかと艦長席の肘掛けを指で弾いた。
「報告は以上。……余計な時間を取らせて悪かったな」
「いや、構わない。……それより泣くな」
「誰が泣くか。……全ての結果がブライトの言った通りだったくらいで」
 まったく、シャアってのはアムロの神経を逆撫でする天才だよなあと妙に呑気な事を思う。クリスマスってなんだ。愛を込めて、C・A? 馬鹿げている。ケーラが心配そうに、アムロに付き添っていた。
「大尉……大丈夫ですか?」
「俺、思ったんだけどさ。……最初から、出航したときからあの艦には、誰も乗って無かったんじゃないのか」
「最初から?」
 あの艦は何処からか……宇宙の何処からかの軍基地から出航し、重要な物資をサイド7近海のアナハイム社関連施設に運んでいた……あぁ。
「……そういうことか」
「そういうことだ。わざわざあの艦に乗り込んで進路変更なんかしなくても、貨物船にはオート航行の機能が最初から付いている。出航前にコンピューターにちょっと仕掛けをしておけば、後は勝手に落着コースに直進もするし、加速もする」
「……アナハイムか」
「それと、連邦の上層部辺りかな。……いつもの事ながら」
「頭は潰して来たんだったな?」
「あぁ。……だが、もうスピードがついてしまった後だったから、大して効果はないと思う。問題はもっと根本にある。この時期の資材輸送、地球寄りのコース。……それらが決定され認可された時点でもうこの『事故』は、成功したも同じだったんだよ」
「おそらく、その方面にはカイが探りを入れていることだろう」
「……」
 アムロは心底悔しそうだった。それはブライトも同じだ……だが、ここで怒りに任せてすべてを投げ打ったたところで、おそらく良い方向には何も進むまい。
「で、次の作戦だが。第二波は、予定通りに主砲による対象の狙撃で行く。異論は無いな」
「……」
 アムロから返事は無かった。ブライトは艦長席から降りると、下に立っていたアムロの頭をポンポン、と数回軽く叩いた。
「……泣くな」
「泣いてない」
「そうだな。……第三波は、後続する艦隊からも全モビルスーツを発進させて、主砲で叩き落とせなかった残骸の一斉壊滅を行おう。で、第四派だが」
 アムロが顔を上げた。……泣いてはいなかった。
「この隊ではリガズィだけが単機による大気圏突入能力を持っている。……お前が行け。下まで回り込んで、最後まで抵抗してやれ。……どうだ」
「アイサー」
 泣いていなかったアムロは代わりに、ひどく落ち着き払って澄んだ目でブライトを見つめていた。
「艦隊射撃をしている間、短いがお前は休め。いいな」
「分かったよ」
 阻止限界点突破まで、あと二十分弱。












2007.12.26.




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