「先行したG2、G3からの画像、出ます。」
 ラー・カイラムのメインモニターに再構築されたものではなく、先行した小隊の機体が装備している光学カメラで捉えた画像が出た。……ゴツい。異様なまでに守りを固める強固な砲台である。しかし土台はやはりコロニーの残骸だ。少しブリッジがざわめいた。
「……これを何だと思う。」
 ちょうど、砲列甲板から上がって来たアリスタイド・ヒューズ中尉が艦長の脇に立ったところだった。
「……イカれてやがるな。コイツは固定式の砲台で、おそらく無人だ。……本来は基地の守備防衛などに使われるタイプで、主砲は一万ミリのガイア級メガビームキャノン。」
 アリスタイド・ヒューズ中尉というのは老練な兵士で、幾多の戦乱を今や時代遅れとも言える砲兵という仕事を貫き通して来た人物である。少し柄は悪いが、その正確無比な射撃の腕を買われて、現在はロンド・ベル隊旗艦ラー・カイラムの砲術長に納まっている。……そろそろ軍人としては年を取り過ぎ、定年を迎える年頃だった。
「他に分かることは。」
「兵隊は今すぐ戻せ。みんな潰されるぞ。周囲にあるのは180ミリ機関砲、320ミリ自走式キャノン砲、400ミリAI搭載稼動式アサルトレーザー。」
 そしてアリスタイド・ヒューズ中尉は口も悪かった。言っている側から先行した小隊が攻撃を受けて、ジェガンの手足を吹き飛ばされる画像が入ってくる。
「こちらG201! 敵の攻撃を受けた、指示を乞う。……こちらG201!」
「ケーラ! 先攻を下がらせろ!」
『アイサー。……自分は今離艦しました。宙空にいます……どうしますか。』
「待機だ、少し待て。……どうやらこの件は、砲列甲板の仕事の様だ。」
 ブライトは艦長席に座ったままアリスタイド・ヒューズを見下ろした。
「中尉。……君の意見が非常に重要だ。……どうしたらあれを潰せる?」
「第四波接近!」
「三秒後、来ます!」
 音こそしなかったが、ラー・カイラムの右上をまた巨大な光の束が通り過ぎていった。
「これ以上近付くな。……一番効率的なのは、『天才的な奴に任せる』って方法だな。……『身軽な兵隊一機で敵の攻撃を確実に避けながら距離3000くらいまで近付き、遠隔操作の出来る装備兵器であの砲台を潰す。』……それが一番確実な方法だ。」
「……今、アムロ・レイ大尉はこの艦にいない。」
 ブライトはヒューズの意図することを理解してそう答えた。……その作戦を実行出来るのは、この艦隊で唯一アムロ・レイだけだったからだ。……しかし、その本人が今は居ない。
「そりゃ、御愁傷様。……モビルスーツで近付いた瞬間に蜂の巣にされてしまう巨大砲台を、艦隊の甲板員だけでなんとかしなけりゃならないなら……」
 アリスは少し考えた。
「……距離5000まで接近。十秒間艦を固定して貰えたらなんとか主砲で狙いをつけてこの砲台を丸ごと落とせる。」
「距離5000!? こっちが蜂の巣になるぞ。8000でなんとかしろ。主砲の着弾距離は、設定では8000のはずだ。」
「距離5000で五秒。……これでどうだ。」
「6000だ。……機関室!」
 ブライトが叫んだ。オペレーターが返した。
「機関室、繋がります!」
「今から敵砲撃範囲内に突入する。……敵座標は4:2:1。そこから距離6000の場所で、艦を五秒間固定することは可能か。」
『……はぁ!?』
 機関室からは中途半端な悲鳴が返って来た。
「……可能か?」
 ブライトは辛抱強くもう一回そう聞いた。
『……アイサー! 最大戦足で距離6000まで接近後、艦を五秒固定します!』
「よし。」
 ブライトは息をついた。
「……こんなところで得体の知れない固定砲台の攻撃を潰せず、艦隊が撤退するとなったら一生の恥だ! ケーラ! モビルスーツ隊は艦に張り付き、主砲の放射を援護!」
『大尉がいたらもう少し活躍出来たのに……』
「お前の主観など聞いてはいない!」
 ブライトは前を見据えると、ブリッジを降りてゆくアリスタイド・ヒューズ中尉に軽く敬礼を送った。
「……突入!」




「……固定式の無人砲台?」
 ……アムロは地下にある本部で、宇宙からの通信を受け取っていた。
『かなり攻撃力の高いものです。ネオジオンが罠を張って待っていたのだとしたら、ミノフスキー粒子がどうこう、ではなくて、ともかく設定範囲内に侵入してくる全ての敵に攻撃をしかける、時限爆弾のようなシステムだったのではないかと。……あ、ブライト艦長に変わります。』
『……アムロ?』
「俺だ。」
 直接通信で顔を見るのも久しぶりのような気がした。
『……やられたよ。だが、これで敵の張った大きな罠と、それから新たな可能性に気づくこととなった。』
「新たな可能性?」
『そうだ。』
 画面の中のブライトが大袈裟に首を振っている。
『……この艦隊から「アムロ・レイ」を引き離す為に、今回の『狂言』が仕掛けられたのではないか、という可能性だ。』
「……」
 アムロは考えた。……今回は砲列甲板の人々のおかげで事無きを得た。……俺をロンド・ベルから引き離すため? その為に、『シャア・アズナブル』を、しかも十分に本人かも知れない人物を囮にして仕立てあげる。……そんなことがあり得るか?
「……皆が無事で何よりだよ。」
『まあな。』
 ブライトは軽く首を振った。
『……お前。さっさと白黒付けて戻って来い。』
「出来ることならそうしたい……」
 アムロは軽く笑った。……俺を引き離す為。……ただそれだけの理由の為に?
「ここにいる……『シャア』さ。」
『なんだ。』
 ブライトは眉一つ動かさずにそう答えた。
「……『シャア』さ。……時々、凄く、本物っぽいんだ。」
 アムロは独り言に近くそう言った。……九月十七日が暮れてゆく。











2006.07.14.




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