その第一報を、アムロは諜報四課のメンバーと午後のミーティングを行っている最中に受けた。
「……というのが今までの状況である。他に連絡事項のある者は発言するように。」
その日……九月十七日……も、何ごとも無く、終わってゆくかと思われていた矢先の事だ。
「報告!」
ミーティングが行われている小部屋に飛込んで来た保安要員はいつもは地下の本部に詰めているメンバーだったが、少し取り乱して見えた。……諜報課の連中がバタバタするのは珍しい。シャアに何かあったのか?
「……なんだ。」
ウスダが戸口を振り返り、冷たい声でそう答えた。……記憶にある限り彼はいつも落ち着いている。アムロは思った。決して、髪型を崩して慌てたりしない部類の人間だ。
「……アムロ・レイ大尉に、緊急通信です。」
「だからなんだ。……内容を話せ。」
「本隊が攻撃をうけています。」
「……」
アムロは我に返った。そうして戸口に踵を返し、ウスダの許可が出る前に部屋を出た。
時は遡ること数分前。
「……敵襲!」
艦内はアラート音に包まれ、蜂の巣をひっくり返したような騒ぎになっていた。……真空では『音』は伝わらない。……しかし、たった今轟音とも呼べる質量を持って、ラー・カイラムの脇を巨大な粒子の束が掠めて行った。……眩しい。
「……どう言うことだ! 状況知らせ! 今の光はなんだ!」
「……方位南南西、距離一万! メガ粒子砲のようなものかと思われ……」
「思われ、とはなんだ!」
ブライトは艦長席の肘掛けを殴りつけた。
「距離一万だと?」
「距離一万です。……第二波、来ます!」
無音である。……しかしまた光の束が、今度はラー・カイラムの右下をすり抜けて行った。直撃したら沈没しないまでも、行動不能になる破壊力を持った光だった。……これはなんだ。距離一万もの超長距離から、何の前触れもなく直接攻撃されることなど、連邦軍のどの宇宙艦隊も普通想定などしていない。……これでは、まるで地上戦の攻撃方法だ。それもミサイル戦の。
「全艦の位置を知らせ!」
「ラー・エルム後方二千百、ラー・キェム後方二千四百、ラー・ザイム後方二千八百、ラー・チャター後方三千。艦隊は直進列状の布陣を引いています!」
サイド1、コロニー・クスコウ周辺宙域。……ロンド・ベル隊は日常通りの、監視業務に携わっていた。宇宙を回遊していた。それだけのはずだった。
「通信用ブイ打ち出し!」
「アイサー!」
「第四軌道艦隊本部に連絡!」
「アイサー!」
「全速力で回避行動!」
「11ノットで右旋回します!」
オペレーターがそう叫んだ次の瞬間に、腹の底に響き渡るような衝撃が艦全体に伝わった。……ブライトは肘掛けにかける腕に力を込めた。
「……通信用ブイからの画像、出ます!」
「……早くしろ! 通常ブリッジから戦闘ブリッジに移行!」
「アイサー!」
「ミノフスキー粒子の濃度は!」
「0.5パーセントから1.2パーセントに上昇!」
「画像まだか!」
「解析、復元したものが今出ます! ……第三波、到着三秒前!」
「避けろ!」
今度はラー・カイラムの左下あたりを、圧倒的な光の束が通り抜けて行った。
「画像復元完了、出ます。」
メインモニターに解析、再構築された画像が出る。……ミノフスキー粒子の多大に四散するこの宇宙では、通信状況が通常であることの方が珍しい。因って、敵の姿もほとんどセンサーで感知する事は出来ず、辛うじて集められて情報の、コンピューターの手を借りた再構築が主となる。
「……なんだこれは……?」
メインモニター画面に現れた敵は、コロニーの残骸と同化した巨大な無反動砲台のようなものに見えた。メインとなる砲台の周囲を更に多くの細かな銃器がとり囲んでおり、艦が近付けば、一斉に攻撃されるように思われる。距離一万であろうとも、だ。実際敵はこの距離から撃って来た。しかしまたなんだ。何故こんな場所にこんな高出力の砲台が有る?
もともと、サイド1宙域は前大戦の『一週間戦争』で崩壊したコロニーの残骸が多い宙域だが、それにしても妙な場所に無意味に堅固な砲台を作ったものだ。ブライトは思った。
「……ケーラ!」
『待機中の小隊、G2、G3がすぐ出られます。』
「すぐに上げろ。 ……お前は?」
『格納庫到着まで三分。』
「すぐに出ろ!」
ブライトはこめかみを押さえた。……なんだ。なんなんだ、この目的の読めない攻撃は!
「後続の艦隊の足を止めろ。……状況(コード)A13につき、後続艦隊は現状にて待機。……敵の主なる攻撃は高出力のレーザー砲に因るものと思われる。流れたビームに巻き込まれないように注意しろ!
ラー・カイラムは現存の航路を維持! 微速前進!」
「アイサー! ……ラー・カイラム微速前進、全艦隊はコードA13。……くり返す、軽巡洋艦はコードA13で現状を維持!」
ブライトは考え込んだ。……ただこの砲台に近付いては撃沈を待つばかりである。……今モビルスーツ小隊が二班、索敵に向かっているが、その報告をただ待っているのももどかしく思えた。
「……アリスを呼べ。」
数秒の間を置いて考えてから、ブライトは言った。
「アリスを今すぐブリッジへ!」
「アイサー! ……アリスタイド・ヒューズ中尉! ブリッジに上がるように、艦長命令だ。くり返す、アリスタイド・ヒューズ中尉!
至急ブリッジへ上がれ!」
火の車、のような有り様だった。
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2006.07.13.
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