+ 先輩 +
壁に叩きつけた拳には血が滲んでいた。
・・・でも痛いのはそこじゃない。
コウ・ウラキが腰掛けたアレン中尉のベッドは乱れたままだった。
昨日の朝はこのベッドで目覚め、今日はいない。
だがまだ、温もりがあるように思う。
・・・もう先輩はいないのだと認めたくない。
だからまだ、温もりがあるように思う。
士官学校の規律は厳しいもので、
布団の上げ下げの仕方まで、
きっちりと叩きこまれる。
コウは任官された今でもルール通り、
たたんで折って片側に寄せて、上に枕を載せてしまう。
・・・アレン中尉のベッドは乱れたままなのに。
中尉は一年戦争を知っている人だった。
(僕は知らない。)
中尉は一年戦争を本当に知っている人だった。
戦場に出て、モビルスーツに乗って、戦って、生きて、帰ってきた。
(・・・なのに!!)
ガツッ!っと壁に叩きつけた拳には血が滲んでいた。
・・・でも痛いのはそこじゃない。
「ヘタクソって怒ってください。・・・先輩。」
残された写真につぶやく。
コウの胸の奥が初めての傷みに震えていた・・・。
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