+ 制服 +
「制服は大尉のものしかなかったのか?」
責めるつもりで言ったのではないが、
時にストレートすぎる物言いが相手を怖がらせることがあると
アナベル・ガトー少佐は知っていた。
「・・・私が変わるわけではないがね。」
で、一応のフォロー。
軍人にとって階級章の見極めは初歩の初歩。
敵陣のものといえど、間違えようがないほどに。
あれは士官学校時代の座学。
陣を張る。待ち伏せる。
銃に込めた弾でまず狙うのは・・・一兵卒より士官。
指揮命令系統の混乱は現場のもっとも嫌うところだ。
砂の舞う大地の上で、袖を通した連邦の大尉の上下は
ジオンのものより肌触りが良くて、
(・・・上等だ。)
こんな部分にふと連邦の豊さを感じてしまう。
だがそれは、奪われた豊さだ。
苦労して宇宙(そら)に上がった人々から
地球に居残った人々が搾取し続けるこその。
(そういえば連邦には半ズボンの制服もあったな。)
それはコロニー育ちの人間には想像しがたい暑さと湿度ゆえの産物で。
・・・あれだけは勘弁してもらいたい。
トリントン基地の標準服が半ズボンでなくて良かったな、と。
「ガトー少佐、そろそろゲートが見えてきます。隠れてください。」
土煙をあげて走るバギーの中での一瞬の物思いを、
オービルの声が覚ます。
いよいよだ。
(万一ゲートで発見されたら?)
通報される前に門兵を倒さなければならない。
銃を握ったままでアナベル・ガトーは後部座席のシートに隠れる。
(この門の向こうに。)
三年の時が待っている。
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