+ 残されたもの +
何を間違ったの?
ラトーラ・チャプラは、
通いつめていたケリィの家からほど近い
自宅のベッドで横になっていた。
眠たいのではない。
起き上がる気力も
何かをしようという気持ちもなくて
沈むようにシーツに包まっている。
(いったい何を間違ったの?)
脱走兵がいると密告したこと?
ケリィを止められなかったこと?
ケリィを愛してしまったこと?
それともプロポーズしてもらえるほど、
私に魅力がなかったってこと?
何度考えてもここで思考が止る。
(頭が痛い。)
月の貧困層が住むこの階層では
ロクな男がいなかった。
下卑た言葉。
酒臭い息。
荒々しいやり方に、
不器用な仕草。
言葉少ないあの人だけが
違って見えた。
元ジオン兵だと知っていても
片腕が無くっても
あの人だけが
私の愛する人に思えた。
なのに・・・
「死んでしまったわ。」
何を間違ったんだろう。
ありふれた平凡な家庭で良かったのに。
子供は二人ぐらいで、
ジャンク屋で地道に稼いで、
家を少し広くして、
私は・・・、
「いい奥さんになれたのに。」
何を間違ったんだろう。
頭の中でどうどうめぐり。
ベッドから起きる気にならない。
残された私のことを
死の瞬間、少しでも考えてくれたの?
それほどの価値もなかったの?
泣くつもりはないのに
涙がこぼれる。
何度も何度も泣いて
いつの間にか泣き止んで
シーツには大きな染み。
顔にもパリパリと涙の跡。
「・・・馬鹿みたい。」
(何かを間違った。)
そしてまた泣いてしまう。
元から愛されてなかっただけ?
「そんなの惨めすぎるわね。」
ラトーラがどれほど泣いても
ケリィには伝わらない。
それでもラトーラは泣き続けていた。
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