+ 髪を洗う +





ペール・ギュントとのランデブー地点から
暗礁宙域にある茨の園までは一週間ほどの旅程である。

長いな、と思う。
が、ここであせっても早く着くというものではない。

オーストラリアからアフリカまで、
地球軌道上から茨の園まで、
この旅では待ちの時間が多い。
それでも、

(この三年に比べれば・・・)

はるかに短い。





ペール・ギュントはガトー専用の艦として
デラーズから下賜された船である。

ビィリィ・グラードルという艦長もいるが、
士官用の個室で一番広い部屋をガトーのものとしていた。

地球の垢を(そして疲れを)落とそうかと
ガトーはシャワーを浴びる準備をする。

制服を脱ぐのはもちろんだが、
後ろ首にひとつに束ねた髪をほどくと
ふわりと銀髪が広がって
少しだけオフモードに意識が切り替わる。

・・・その瞬間が好きである。



シャワールームの扉が密閉されるとすぐ
ぬるい水が吹き出る。

少し温度をあげて
頭から足まで全身を濡らしていく。

水量は一定に抑えられている。
艦内でリサイクルされるといっても
一度に大勢の人間が使いたいだけ使うほどの量はない。

それでも気持ちのいいものだ。



どこから洗うかといえば
最初に髪の毛から。

さっと手櫛で指が引っ掛からない感じを確かめて
シャンプーをはじめる。

指の腹でやわやわと頭皮を撫で
髪の根元から毛先まで
泡で包み込むように。

二度洗わないと洗った気がしない。





一年戦争の末期、
長い髪をゆっくり洗う時間も無く。

月に潜伏した頃には、
ばっさりと髪を切った。



・・・そして三年後の今、
ようやくあの時と同じ長さになった。



こうしてゆっくりと
髪を洗い
身体を洗い
乾かして
眠れるのも
あと数日。



ガトーは、この貴重な時間を
ほんの少しだけ
いつもより長く楽しんでいた。














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