+ ルンガの海でダンスを +





コウ・ウラキ少尉は、
宇宙用に換装したガンダム試作1号機フルバーニアンを
少しでも自分のモノにするため
毎日取れるだけの時間を
母艦アルビオンの外で過ごしていた。

本番はソロモン海に着いてからになるだろう。
少しは身体も休めておけ。
という上司のありがたい忠告も無視して
偵察に直援にめいっぱい活動している。



「コーウ!もういい加減、戻ってきて。
そろそろデータも取りたいの。」

そう試作1号機の名前の通り、
これは新型ガンダム開発のための実験機で
フィードバックした情報は
正式な新型機や量産機の
開発のために使われる。

自分がこうして乗っている機体が
基本になったりするのかと思うと
少しの感激もあるが、
そんなことより
まずはガトーだ!
・・・のコウである。



「・・・わかったよ、ニナ。」

この索敵も空振りだった。
アルビオン目指して転進する。

ソロモン海も間近で
一年戦争の残骸がうようよ浮いている。
戦闘時は避けられなくても仕方ないが
平時には機体へのダメージを減らす点からも
ひとつひとつ回避して飛ぶ。

ぬうように、泳ぐように。

ゼフィランサスで滅多打ちされた時と違って
フルバーニアンのブーストポッドは
気持ちいいほどに機体を自由に動かしてくれる。

右に左に、上に下に。



やがてアルビオンが目視できるほどになる。
宇宙で母艦に帰るのは
ホッとする瞬間だが、
今の自分はまだまだコイツに
乗っていたい気がする。



(・・・ニナがモニターで見てるんだろうなぁ。)

どうしてだろうか。
こんなに扱えるようになったよと
見せたかったんだろうか。

コウは不意にフルバーニアンを
くるくると回転させる。

足先に床があるみたいなラインで。
バレリーナのグランフェッテみたいに。

それから着艦用のハッチに向かって
両腕を広げてお辞儀をした。



「馬鹿やってないで帰ってこい!」



不意に割り込んだ声は、バニング大尉。

「はいっ!」

どこで見てたんだろう。
コウは背筋を伸ばして返事する。

・・・それから予定通り、着艦した。










「・・・どうだった、ニナ?」

フルバーニアンから降りるなり、
ニナのところまで流れていって、これだ。

「軸がぶれてて美しくなかったわ。」

冷静な返答。

「えー。」

ちょっと不満げなコウ。

「でも・・・」

「でも?」

「上手くなったわよ。」

「だろー!」

コウが帰ってきたら、
小言のひとつも言わなきゃと思ってたのに
単純に不服そうなコウを見て
誉めてあげないといけない気がした。

この人のこういうところがいいと思う。

・・・・・・・・・この人のこういうところがあの人と違うと思う。



「ニナなら喜んでくれるかと思って。」

「やぁね。」

二人して笑うしかない。



ルンガの海のダンスは
他人から見ればひどく馬鹿馬鹿しくて
でもコウとニナにはちょっとした記憶になった。














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