+ 月の見る夢 +
この、無意味な、毎日・・・。
ジオン軍宇宙攻撃軍所属、アナベル・ガトー(元)大尉が、
月面都市フォン・ブラウンで暮らすようになって、一月あまりが過ぎた。
名のあるエースパイロットということで、
目立たぬよう、それでいて大切に保護されてはいたが、為すことのない日々。
・・・いや、仕事そのものは、いろいろとあった。
ガトーと同じに、月に隠遁している元兵士たちの処遇や、
ここ以外にも、散り散りになってしまった者たちと連絡をつけたり、
士官であった以上、それなりの任務が与えられている。
だが、命のやり取りが当たり前だった戦場とは、それはあまりに、かけ離れていた。
街を歩くにも、ガトーは違和感を覚える。
つい一月前まで、本当に戦争をしていたのかと疑いたくなるほど、
明るさと喧騒に満ちた都市。
ここで暮らす人々は、何事もなかったかのように、
活気にあふれた生活を送っている。
折りにふれて、なぜジオン軍が負けねばならなかったのか?
と、考えてしまうガトーの逡巡など、誰も気づかない。
息苦しい・・・。
子供の頃、サイド3から見た月は、
地球よりも大きくて、
地球よりも地味だけど、
地球より大好きだった。
・・・月はアナベルに似てるわね・・・
懐かしい母の言葉。
だが、今は月の中庸さが、許せない。
これだけの質量を持ちながら、衛星として地球に囚われ、
1Gでも無重力でもなく、0.16Gだけの重力。
宇宙にありながら、地下都市に暮らし、
ルナリアンと呼ばれる人々。
息苦しい・・・・・・・・・。
戦争を過去のものにできないガトーにとって、
月は安住の地のようで、でも、そうではないのかもしれない。
戦いたい?
ただ血に飢えただけの獣と同じか?
私は、そんなにも愚かな人間なのか。
・・・月はアナベルに似てるわね・・・
もう、変わってしまいました、よ。
着慣れない私服で街を歩きながら、
アナベル・ガトーは、一人、息苦しさを堪えていた。
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