+ ソロモンの悪夢 +
『ソロモンよ!私は帰ってきた!!』
・・・男が吠える。
ひとつのスイッチを押しながら。
その言葉を聞いたのは、
ただ一機、RX-78GP02Aガンダム試作2号機だけだ。
では一体、男は何に対して叫んだのだろう。
男はかつて、その神算たる戦いぶりから、
『ソロモンの悪夢』
と、異名をつけられた。
もちろん悪夢は敵にとってであり、
味方にすれば、このうえない良夢、というわけだ。
だが、この3年間、男が見つづけたものこそが、悪夢だった。
未来を掴めぬまま、戦場を去ったあの日、
戦って戦って戦い抜いたのに、敗北したあの日、
理想も大儀も消えそうになったあの日、
多くの仲間を失い、それでも自分は生き残ったあの日、
・・・あの日から、男はずっと悪夢を消し去ることを望んでいた。
自分自身によって。
そこは、激戦の行なわれた場所。
多くの命を失った戦いの場であるのに、こんなにも懐かしいのは何故だろうか。
平和だの人道だのを唱える人間からすれば、唾棄すべきこと。
が、男は胸を張って言うだろう。
恥ずべきことなどない。
戦うことでしか得られないものがあることを、私は知っている。
愚かと誹られようと、人殺しと罵られようと。
だからこそ、全身全霊をささげて敵と戦う。
力もなく、戦場に立つことなど許さない。
それがせめてもの、私の礼儀だ。
ひとつの弾頭が軌跡を作る。
男が狙った通りに。
宇宙艦隊旗艦という名の敵の象徴そのものへ向けて。
一秒と立たず、白い光が眼前に広がる。
男は強靭な盾に隠れて、磁気と放射能の嵐から身を守る。
襲いゆく高熱は、男の悪夢を跡形もなく消していく。
3年の労苦と忍耐と試練と怒りと哀しみと・・・全てを飲みこんで。
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