+ 親友3 +





「・・・おっ!・・・・・・・・・ちっ、違ったか。」

何かぶつぶつと呟きながら、男が一人、赤い巨大な塊と格闘している。



「・・・・・・ここの配線が、・・・うーん。・・・・・・・・・パーツ探さないとな。」

どうやら、無口なタイプではないらしい。



・・・ポンッ!

「んん?」

「・・・久しぶりだな。」

ヴァル・ヴァロの装甲に張りつくようにして、
回路の一部を点検していたケリィ・レズナーの肩が突然叩かれた。



振り返ると、私服姿のアナベル・ガトーがそこに立っている。

・・・月で暮らすようになって、一年半以上が過ぎた今では、私服も見慣れてはいたが。



「よお、ガトー。・・・どっか行ってたのか?」

二ヶ月ぶりくらいになるだろうか、
フォン・ブラウン市でジャンク屋を営むケリィと違って、
ガトーの方は、月の上の都市をあちこち飛び回っている。



それでも、その合間をぬって、ケリィの元をこまめに訪れていた。

こんなに間が開いたのは、記憶にない。



「ん。まあな。・・・ちょっといいか?」

そう言いながら、ガトーは手に持っていた包みを胸の高さまで上げた。

・・・どう見ても、酒の瓶にしか見えない。



「・・・いいでしょう。」

にっ。



ケリィに異存があるはずもない。

二人は、連れ立って隣接するケリィの家へと歩き出した。





リビングルームにソファ、なんて気のきいた場所はない。

台所のテーブルで向かい合って杯を交わす。



二人の口から語られるのは、ひたすら雑談ばかり。

でもそこに、『そいつ』さえいれば、ウマい酒が飲める。

誰よりも、心が休まる・・・





そして、充分酒も回った頃、

「月を・・・去ることにした。」

ガトーが突然、言った。



淡々と、大したことでは、ないように。



「・・・?!」

去る?・・・・・・・・・そうか。



その意味は、一つしかない。

訊く前から、ケリィにはわかっている。



「『茨の園』へ行くのか?」

「・・・そうだ。ここでの私の仕事は終った。」

そこで、ガトーは手にしていた杯をテーブルの上に置くと、
真剣な表情を浮かべて、ケリィを見た。



「・・・一緒に、来ないか?」





考える。

ケリィは考える。



・・・今の俺がガトーと『茨の園』に行ったとしても、何ができる?・・・



不自由な腕も、まだ動かないヴァル・ヴァロも、戦えるかどうかも。



「・・・俺は、ただのパイロットだからな。今、付いて行っても手伝えることはない。」

暫しの沈黙の後で、穏やかにケリィは言った。



「ケリィ・・・。」

「あいつが直ったら、追いかける、さ。」

視線を窓の外の工場の方へと向けて、ケリィは笑った。



・・・必要とされる男に『戻れ』たら、喜び勇んで行く。きっとな・・・



「本当だな。・・・・・・・・・約束だぞ。」

「ああ・・・。」



もう、それ以上、二人はその話題をしなかった。



ただ、残りの酒を、笑って飲み続けた。










宇宙世紀0081年9月17日、
アナベル・ガトーは、デラーズ・フリートに復帰した。














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