+ 休暇4 +





(んん・・・?)

クラッ。



2メートル近い、男の巨体が揺れる。

・・・巨体だが、決して太っているわけではない。

黒と赤と金のコントラストが美しい軍服の下にうかがえる引き締まった身体に、
きれいに剃られた頭、対照的に黒々と蓄えられた顔の下半分を覆う髭。



ちょっと近寄り難い雰囲気を持つ男。

エギーユ・デラーズ中将、
デラーズ・フリートの首謀者。独身。



「いかんな。疲れが溜まったか・・・」

立ちくらみ、だ。



腹心のアナベル・ガトーが地球に降りている間に、
あれやこれやと動き過ぎたせいらしい。



・・・儂も歳を取った、な・・・

意識したくはないが、事実は事実。



徹夜の2、3日も平気だった身体が、確実に衰えている。



ジオン”共和国”の敗戦。

散り散りになっていく残党の糾合。

茨の園の建設。

デラーズ・フリートとしての決起・・・



疲れた身体を休める為の一時の猶予もなく走り続けてきた。



「半日ほどならば・・・」

この後のスケジュールを詰めれば、いくらか時間が取れるかもしれない。



(無理を重ねても効率が悪いだけじゃ。)

あくまで合理的な判断で、今日の午後を休養に充てると決めた。





「・・・。」

執務室から自室へ戻り、最初にしたのは、上着を脱いで、ソファに腰掛けること。



背もたれに深く身体を埋め、ゆっくりとくつろごうとする。

・・・だが、落ちつかない。



一度立ち上がって、キャビネットからブランデーのボトルとグラスを取り出す。

琥珀の液体をグラスの中で揺らしながら、口元に運ぶ。

「・・・ふっ。」

高貴な香りがまず鼻腔にそれから口中に広がって、小さな幸せを味わう。

・・・・・・だが、やっぱり落ちつかない。



寝る前に、少しずつ読み進めていた小説本を取って、
ソファに座ったまま、熟読しようとする。

今日こそは読み終えよう、と。



「・・・おお、ここからだな。」

飛びかけた意識で読んだ部分と照らし合わせて続きを読む。

・・・・・・・・・だが、どうしても集中できない。



「はぁ・・・・。」

深い呼吸音。



どうしたことか?



身体がいくら疲れようとも、デラーズの精神は休息を拒む。



大恩あるギレン総帥の理想を、
もう一度、連邦の愚者共に知らしめるために、
あれからの年月を、全力で生きてきた自分。

だが未だに、それが遂げられない自分。



(必ずや、ガトーはガンダムを奪取して戻ってくる。)



・・・もう少し。

そう、もう少しなのだ。

誰が為でなく。



人生を振り返れば、全てが闘争に置きかえられる。



それこそが、我が道。我が理想。



それは続くだろう。

いつか訪れる永遠の休息の日まで、な。





・・・・・・・・・結局、

エギーユ・デラーズの休暇は、小一時間で、終った。














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