+ 静寂 +
展望室の窓の外には、星々の海が広がっている。
アナベル・ガトーの乗るドロワは、ア・バオア・クーを目指して進んでいた。
いや、正確には、進んでいるのではなく、『撤退中』なのだが。
対連邦とのソロモン戦に破れたジオン軍は、
次の拠点を要塞ア・バオア・クーに定め、
敗残の艦と兵をどうにか取りまとめて、落行の最中だ。
展望室では、何十人かの兵たちが、それぞれ思い思いの場所に陣取り、
激しい戦闘で疲れた身体を癒している。
ガトーも、また、
ここで、一時の休息を得ていた。
MSに乗っていなくても、仕事は山ほどある。
上官とのミーティングに、部下とのブリーフィング。
整備補給の確認に、情報の収集。
・・・そして、食べて寝て、体調を整えること。
15分だけだ、
と時間を決めて、窓の外を見つめるガトー。
体が重くて、疲れが取れない。
だが、眠れない。
眠れないのだ。
精神(こころ)が昂ぶっているのだろうか。
ベッドに横になって目を閉じても、
寝返りをうつだけの時間。
いつ出撃があるのか、わからない身では、
薬を用いるわけにもいかない。
見なれた、星の海。
今も、きっとどこかで誰かの命を飲み込みながら、
それでも輝きつづける、星の海。
そして、まだ足りないのだ。
この広い星の海は、欲している。
・・・静かな海に、波を立てた人間どもに、ふさわしい『罰』を・・・
「・・・ふっ。」
ガトーは頭を振って、そんな空想を追い払った。
(海の藻屑と消えようとも、自分に課せられた事を果たすのみ。)
・・・・・・・・・きっかり15分後、
星の海を背に、ガトーは展望室を出た。
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