+ 理由 +
・・・ひそひそひそ。
(ん?)
アナベル・ガトー大尉は、
2,3日前から、戦艦ドロワの中のどこへ行っても、
兵士たちが自分の姿を見て、声をひそめるのを感じていた。
・・・ひそひそひそ。
(なんだ?)
気のせい・・・では、ないようだ。
どうも、自分の噂をされているようで、むず痒い気がする。
つい先だっても、親友のケリィ・レズナー大尉の流した無責任な噂のせいで、
ドロワに着任した新兵たちに、次々に髪の毛を抜かれるハメになったばかりだ。
『ガトー大尉の髪の毛を御守りにすれば、撃墜除けになるらしい。』と。
20人近くの新兵に、髪の毛を渡したあげく、
これ以上はたまらぬとばかり、とうとう真相を明かした。
「貴様ら、何事もただ真に受けずに、自分で判断できるようになれ。」
暗に、御守りの価値を否定した訳である。
真っ先に貰いに来たカリウス伍長などは、心底がっかりした顔をしていたものだ。
(しょうがない。今度、陸(おか)に上がったら、
ケリィの奢りで、どこか本当の『御守り』が貰えそうな店にでも・・・)
ちょうど、食堂の入り口でカリウスを見つけたガトーは、
「・・・ちょっと確認したいのだが、レズナー大尉が、また『何か』言わなかったか?」
訊いてみた。
カリウスはバツが悪そうな顔をしていたが、
どうしても気になっていたので、思いきって上官に告げた。
「あのっ、大尉殿は、ドロワのMSパイロットの中で一人だけ長髪にされてますよね・・・。」
「・・・ふむ。」
「それで、レズナー大尉が、あれは彼女から、
『私、長い方が好き(ハート)』って言われたから、伸ばしてるんだゾ・・・って。」
「!!!」
これにはガトーも驚いた。
さらに・・・
「他にも、『願掛け』だとか、『床屋が嫌い』だとか、『ナルシスト』だとか、『寒がり』だとか、色々と。
でも、そう言ってる兵たち全員が・・・
全員がそれぞれ、レズナー大尉から訊かされたみたいなんです。」
「・・・よし、よーく、わかった。」
眉間の皺が一段と深くなったガトーが、食堂に入るのを止めて、来た路を戻っていく。
その背中に向けて、
「ガトー大尉!・・・それで、本当の理由はどれなんでしょう?」
「・・・。」
ガトーは振り返ってカリウスをにらむと、その質問には答えず、問題の男を捜しに消えた。
『ボカッ!!!』
「痛ってぇ!!!」
ケリィ・レズナー大尉は、後頭部に激しい痛みを感じた。
髪の毛を引っ張られたどころじゃない。グーで殴られたみたいな。
「・・・ふん。」
後ろを見ると、ガトーが仁王立ちしている。
「・・・・・・・・・意外と早かったなぁ。やっぱりエース殿の噂は早く流れるもんだ。」
「いいかげんしろ。」
悪びれる様子もなくそう言うケリィに、ついついガトーの怒りも解けてしまう。
「おお〜ブリーフィングの時間だ。行きましょう、ガトー大尉。」
そう言って、ガトーの肩に手を回した。
・・・耳打ちする。
「ところでさ、何で伸ばしてるんだ?」
「・・・死んでも、教えん。」
ガトーはケリィの手を外すと、さっさと先に歩き出した。
「おい、待てよ。」
後を追うケリィが呟く。
「ちっ・・・いい作戦だと思ったのに。」
どうやら理由は、藪の中らしい。
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