+ Last Will -1- +





遺言状





1.遺族一時金は、戦没者子女育英基金に全額寄付すること。


1.ガトー家固有の財産については、

 内、50%を、士官学校の奨学基金に寄付すること。

 内、25%を、コロニーに公園を作るための基金として、民間慈善団体に寄付すること。

 内、15%を聖母子教会・ジオン支部に、ガトー家墓所の管理委託費として寄付すること。

 内、5%を、302哨戒中隊所属で戦死した者の遺族の慰撫にあてること。
なお、実行責任者にはケリィ・レズナーを任命すること。
もしくは、彼も戦死の場合、302哨戒中隊で、最も階級の高い者に依頼すること。

 内、5%を、この遺言の執行者として、弁護士費用にあてること。





Dec,21,0079,Anavel Gato.






『トントン・・・・・・』

それを書き終えて、文面を読み返していると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。



「誰だ?」

「ガトー、俺だ。ちょっと話があるんだが。」

「入れ。」

・・・と、ガトーが言い終える前には、ケリィはドアを開けて、
体を部屋の中に入れる。

ケリィでなければ、怒るところだが、
もう、何年も二人はこうして付き合ってきた。



「新型の事前チェックも取りあえずは終った。・・・今から、宇宙(そと)に出る。」

「そうか、頼むぞ。」

ケリィが言う新型とは、『MAビグロ』のことである。



開発部から届けられた、その特異な形の乗り物は、
MSと比較して、何倍もの推力と、強力な火気と、巨大な質量を誇っていた。

グリーンの装甲に、2対の爪。

そのテストパイロットに任命された、ケリィ・レズナーが、
『慣らし』のため、宇宙に出ようというのだ。



「なあ、ガトー。
ほんとに、俺で良かったのか?
おまえの方が、あの化け物の力を、引き出せると思うんだが。」

いつになく、正直なケリィ。



ジオン軍の地球降下部隊が、どうやら敗北した(らしい)こと。
次々と宇宙へ撤退している(らしい)こと。

かなり信憑性の高い噂として、ドロワの艦内にも広がっていた。

特に、士官の間では、旗色の悪さが、
認めなければならない事実として、浸透しつつあったのだ。



「おまえでなくては、できんな。
私には、部隊の指揮があるし、一機に構っている訳にもいくまい。」

「そうか、・・・そうだ、・・・・・・・・・俺でなきゃな。」

急に納得したように、一人でうんうんと頷きだす。



ケリィもケリィらしく、振る舞おうとしているのだ。

こんなにも、どんなにも、戦おうと、
ジオンが負けるかもしれない。

・・・いや、負けるだろう、という事実の前で、
押しつぶされそうになりながら。

それでも、先に逝ってしまった者のためにも、
ここで、決して諦める訳には、いかないのだと。





「なあ、ケリィ。私も・・・」

ガトーは、書いたばかりの遺言のことを、ケリィに告げようとした。

・・・そして、止めた。

不意に、まだ早いような気になったからだ。

負けを、敗北を認めるには、まだ。

・・・・・・・・・こうして、ケリィの屈託のない笑顔が見れるうちは、まだ、きっと早い。



「なんだ?」

「いや、何でもない。・・・さあ、お披露目に付き合おうか。」



二人は並んで、格納庫へと歩き出した。














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