+ 休暇2 +
『やった!!!!!!!!!』
サイド3の、とある宇宙港で、思いっきり伸びをする一人の少年。
防水の利いたカーキ色のナップサックひとつを肩から下げて、
シャキシャキとした足取りで入国ゲートへ進む。
それは、カリウス伍長にとっての、はじめての長期休暇だ。
徴兵されたのではなく、自ら望んで入隊したのだけれど、
戦艦生活の味気なさは如何ともしがたく、時に無聊を感じさせる。
「よく帰ったな!」
「さあ、母さんにも、抱かしてちょうだい!!」
「お帰り!、カリウス!!!」
「元気そうじゃない!!!!」
「うわー、いっちょまえになって!!!!!」
「兄ちゃん!!!!!!」
「・・・ただいま。」
あっという間に家族に取り囲まれた。
父と母と三人の姉と歳の離れた弟。
大人な自分をこんなに大勢で出迎えるなんて、恥ずかしくもあるけれど、
・・・やっぱり、イイな。
うん。暖かい。
それが、家族。
「父さん。工場に戦争の影響はあるの。」
久しぶりに一家七人で囲む夕食。
パンに、鳥の丸焼きに豆のスープ、カラフルなパプリカのサラダに、
とっておきは、自家製のプディング!
「ん・・・まあ、そりゃあ、軍から色々と言ってくるが、こうして家族が元気に暮らしてるんだ。」
ジャンク屋を営む父親は敬虔なカソリック教徒で、
商売上手とはいかないけど、家族が食べていくには困らない程度には収入がある。
毎日の糧と家族の笑顔。
父親の幸せの範疇はその域から出ない。
「さあ、不景気な話は、そこまでにして。もっと食べなきゃ。」
カリウスの皿が空いたとたんに、香ばしい肉を取り分ける、母親。
「母さん、そんなに食べれないって。」
父親よりもちょっと大柄な母親は、大きな声で体を揺らして笑い、
父親以上に子供たちを叱り、父親以上に子供たちを抱きしめてきた。
「・・・・・・・・・でも、母さんの料理がやっぱり一番おいしいよ。」
豪華じゃなくても、特別じゃなくても。
「あら、私だって手伝ったのよ。」
長姉のマリーア。3歳違いの。しっかり者。
「あれ、ジョックは今日、一緒じゃないの?」
一年前に結婚したばかりの、姉の夫の名だ。
「・・・まだ手紙が届いてないのね。ジョックは2ヶ月前に、入隊したの。」
「!!!ほんと、それ?」
「ええ。」
カリウスは俄かには信じられなかった。
ペット屋を営む、優しそうな義兄の笑顔しか思い浮かばない。
・・・そんなジョックが、軍に?
「大丈夫なのかしら?
・・・最近、テレビでも入隊案内ばかり放送してるのよ。」
不安そうなマリーア。
「ほら、姉さん!せっかくの夜なんだから。
・・・さあ、プディングを切るわよ。」
次姉のルル。2歳違いの。母親に似て、元気いっぱい。
「このプディングだけは、母さんのが最高よ。
どうしても真似できない。」
「あたり前よ。年季が違うんだから。」
7人が囲むにしては、小さめの食卓。お皿が溢れんばかりに、並べられて。
「もっと、ちょうだい。」
「これ!」
3人目の、つまりカリウスのすぐ上の姉、リディア。1歳違いで、食いしん坊。
「・・・だって、おいしいんだもーん。ね、カリウス。」
「うん。」
クックックッ・・・笑いながら、食べるプディング。
どうしてこんなにおいしいんだろう。
最高の調味料は、やっぱり・・・・・・・・・
「兄ちゃん!お土産ないの???」
どうも、さっきから、ドアの向こうのリビングのソファーばかり見てると思ったら、
そこに置かれている、カリウスの荷物が気になるらしい。
10歳違いの弟のファド。
カリウスの小さい頃にそっくりだ。クルクル巻き毛に大きな瞳。
一家のアイドル。
「なんか、あったかなー。・・・じゃあ、持っておいで。」
「うん!!!」
元気いっぱいの返事で、口の回りを汚したまま、椅子から飛び降り、駆け出して、
まだその小さな体には不似合いな大きさの荷物を、
引きずるように運んでくる。
「はい。これが、父さん、で、こっちが母さんの。」
「ありがとう。」
「ありがとう。」
ありがとうの言葉は絶対に欠かさない両親。
「これが、マリーア姉さんにルル姉さんにリディアのお土産。」
そこで、カリウスは手を止める。
「・・・・・・・・・兄ちゃん、僕のは?」
「ごめん、忘れちゃった。」
「えー!!!」
本気で悲しそうなファドの声。
もっと焦らそうかと思ってたのに、
その声音に、カリウスは、すぐ降参してしまう。
「ははは、・・・ほら。」
「わーーーーーーーーーあ!ありがとう!!!」
ガサガサと開かれる包み。
「あっ???すごーい。ザクだ。ザクだよね。これ!!!
こんなの誰も持ってないよ!!!」
弟が一番喜びそうなものを・・・と考えたあげくに、
ちょっと場末な店で出回ってるザクのフィギュアを購入した。
軍が禁止しているのに、いつの間にか出回っているものだ。
もちろん、細部はいいかげんな作りだけど。
「どっかーん!!!ダダダ。」
さっそく、手に握ったザクを宙に飛ばして、ファドはとっても誇らしげ。
・・・そんな姿を見ながら、カリウスは少しだけ、後悔らしきものを感じている自分に気づく。
もっと戦争に関係のないものを選ぶべきだったのでは、と。
『ポンッ!』
「父さん・・・」
そんなカリウスの後ろに、いつの間にか父親が立ち、肩に両手を置いた。
(父さんには、何もかもお見通しだね。)
・・・その夜、カリウスの家ではいつまでも部屋の明りと話し声が絶えなかった。
休暇は、まだ10日、ある。
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