+ 生きてこそ +
ああ・・・あの立ち姿。
そこにいるだけで、見るものを圧倒するような。
そう・・・まるで、全身が闘気という名のオーラに包まれ輝いているかの如く。
(・・・・・・・・・ガトー少佐。)
「懐かしいぞ、カリウス。来てくれたな!」
耳に響く、懐かしい声。
その一言で、3年以上の年月を、無いものにしてしまう。
「少佐!・・・302哨戒中隊、わずか3機になりましたが。」
来ました。
やっと、・・・来れました。
あの日、あの時、グラナダでお別れしてから。
「他の連中も間もなくだ。私の心は、今の宇宙(そら)のように、奮えている。」
そうでしょう。
ア・バオア・クーで見た、
悔しそうな、悲しそうな、怒ったような少佐の顔は、
今も胸に焼きついています。
私は、正直、あきらめかけた時もありました。
でも、こうして少佐の元へ帰れて良かった。
生きるも死ぬも少佐となら・・・
「カリウス・・・大人になったな。」
目を細めて、アナベル・ガトーが言う。
一年戦争の頃、まだ少年の面影を残しながら、
共に戦い抜いてきた、昔の部下に対して。
「・・・少佐?・・・よしてください。」
照れたように、カリウスは頭をかく。
ガトーがわざとそんなもの言いをして、
この離れていた年月を埋めようとしているのが、カリウスにもわかっていた。
「あ・・・あの、レズナー大尉もいらしてるのですか?」
カリウスはもう一人の懐かしい人の名前を出す。
「ケリィ・・・か。」
ガトーの眉間に皺が寄ったのを見た瞬間、
カリウスは、悪い予感がした。
「・・・まだ、来てはおらん。
・・・・・・・・・間に合って欲しいのだが。」
「そうですか。」
急に、沈む雰囲気。
(・・・まさか、レズナー大尉は、)
亡くなったのだろうか?
と邪推する。
ガトーは、ただ、
『月の領域でガンダム1号機とヴァル・ヴァロが交戦。ヴァル・ヴァロが爆砕された』
ことを聞いていた。
ヴァル・ヴァロを操縦していたはずのパイロットは、
一人しか思いつかない。
肌では、恐らく『ケリィが死んだ』ことを感じているが、
推測であれこれ思い悩むのは、性に合わなかった。
(この作戦が終り、月へ行くことができたら、確認する。)
今は、これ以上、ケリィのことを考えるのはよそうと決めていた。
(こうして、カリウスがいることだけでも、光明とせねばな。)
力量も心根もよく知っている、手塩にかけて育てた、私の部下。
・・・いや、戦友だな。
少年のイメージと目の前の顔を比べて、一人前になったと思う。
「カリウス。」
「しょ、少佐・・・。」
突然、ガトーの手がカリウスの両肩を正面からがっちりと掴んだ。
「生きぬいてみろ。・・・この戦いも。
・・・・・・・・・おまえだけは。」
「・・・はい。」
生きぬけるか、どうか、カリウスにも当然わからない。
ただ、
・・・ただ、カリウスは、
ガトーが『はい』という答えを望んでいたから、
『はい』
と答えた。
3年の思いを遂げずに逝った者もいる。
3年の思いを遂げるには、さらに多くの者が逝くだろう。
そしてまた、無念の思いを抱いて生き延びる者もいるのだろうか。
二人とも、ケリィ・レズナーの豪放な笑顔を思い浮かべながら、
いま、ここに立てることの意味を、静かに噛み締めていた。
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