オークリーは夏である。
「・・・ニナってさ。」
「なあに?」
非番だと言うのに色気もなにもなく、基地内の食堂で昼食を済ませようとしていた時、急にコウが言い出した(そうは思えないかもしれないがこれでも『デート』である)。
「ニナってさ、スカート履かないよな。」
「あら、履くわよ。」
「いや、履かないって。」
「履くわよ!」
なんでこんな妙なことを急に言い出したのかしら、と思いつつも目の前のコウを見て、それから今日のランチであるパスタディッシュに目を戻す。北米の基地らしく、味はどこまでも大雑把で、量は多めだった。太るな、と少し思う。
「そうね、最近だったら・・・・三週間くらい前に本社からマネージャーが来た時に履いたじゃない。」
「三週間も前だろ。」
「出向先なんだもの普段は別になにを着たって構わないのよ。」
「・・・だからさ、」
コウは何故か言葉を濁している。おや?・・・と思いつつニナは聞き直してみた。
「なに。なんなの。」
「だからさ、月とかでは履いてたわけだろ、スカート。」
「・・・そうね、だってあれがアナハイムの制服だもの。ちなみに、男の人もあの淡いブルーの制服なんだけど、それってなんか笑っちゃわない?」
「それで、何故今は履かないのか、って話。」
「・・・動きづらいからかな。・・・ジーンズの方が楽だもの。」
「へーえ、」
・・・・あー・・・・。やっとニナにも分かった。これ、ひょっとしてアレかな。
「・・・・履いて欲しいの?」
コウは面白いくらい瞬時にむせた。食べていたのは『ステーキランチ』とかいう名前の、真っ昼間から有り得ない分量のセットランチだったが、ともかくむせて吹き出した。
「・・・そうは言ってないだろ!」
「ねえ、私にスカート履いて欲しいわけ?」
「だから、そんなこと一言も言ってない・・・!!」
言ってるわよ、思いっきり!・・・と思った。顔に、口調に、吹き出したランチに全部書いてある。
「履いて欲しいわけね、」
「だから、言ってないだろそんなこと!」
「私にスカートを、」
「だから・・・・!」
「履いてほしいわけね、デートの時くらい!」
年下の男の子って、こんなに面白いものだったかな、と思う。
「・・・ヤバい。」
「・・・えっ、そう?・・・えっ、悪かった・・・そんなにスカートって不便なのか?」
違うでしょ。そうじゃなくって。・・・愛おしいな、って思う。
自分にスカートを履いて欲しいと思ってくれる年下の男の子が、生半可なく愛おしいな、って思う。
「・・・ヤバいわ・・・」
「えっ、だからなにが・・・!?」
オークリーは今、夏である。
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