宇宙歴0083年、11月11日。
 実に数日ぶりに手に入れた休息時間を思いきり寝て過ごしたチャック・キース少尉は、それにしたって眠るだけじゃ無くシャワーでも浴びようかと思って風呂道具をたずさえ自室のドアを開いた瞬間に・・・・・・・・・・・・ビビって立ちすくんだ。何故なら目の前の通路に、同僚のコウ・ウラキ中尉が浮いていたからである。・・・・浮いて。よくみると、どうやらコウは半分眠っているらしかった。それで変な格好で、通路にプカプカ浮く羽目になっているのだ。
「・・・・・・・・・・、」
 キースは一瞬どうしようかと思ったが、放っておくのも友人として悪いような気がしたので一応声をかけてみた。
「・・・・・・おい、コウ。・・・・・お前、何やってんだこんなとこで??」
 すると、軽く肩を揺さぶられたコウがぼんやりと目を開く。
「・・・・・ああ、キース・・・・・いや・・・・・それが俺、このところ眠れなくて・・・・・」
「いま寝てたじゃねーか。」
「いや、だからそう言うんじゃなくて・・・・・・・だからキースもそうじゃないかな、と思ってそれでここまで来てみたんだけど良く考えたらキースは寝てるかもしれないから声をかけるのも悪いかなと思ってそれでドアの外で待ってたんだけどそしたらいつのまにか俺」
「・・・あー!!!なんだかよく分からねぇけどもっと人間の言葉を話せ!!!・・・・つまりなんだ!?」
 コウのそんな半分寝ぼけた返事を聞いているのが我慢出来なくなったキースは、その腕を掴むと自分と一緒に連れて動き出した・・・・・・正確には、プカプカ浮いているコウをひきずって自分は通路のハンドグリップを握って動き出したのだった。今回の休息も短い、だからマトを得ない話をしている時間も惜しい。ここはひとつコウの頭をスッキリさせるためにも、一緒にシャワー行った方がいいんじゃないかと思った。
「いや、だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待てよキース、俺自分で行けるし!」
 しばらくの間はおとなしくキースに引きずられていたコウだったが、すこし行った先の角でそう言うと、掴んでいたキースの腕を振払って自分もハンドグリップを握る。
「だからなんだよ?」
「うん、だからつまり・・・・」
 二人が連れ立って移動してゆくアルビオンの内部は、どこもかしこも疲弊して見えた。・・・そりゃそうだろう。この数日の間、休む間などほとんど無かったのだ。誰もが今は、本当は身動き1つしたくないに違い無い。
「・・・・・眠れなく無いか。それが、俺は眠れないんだ、あれから。」
 その、少し低いコウの声を聞いた瞬間に、思わずキースはハンドグリップのブレーキボタンを押していた。宇宙空間を航行中の戦艦の内部でそんな事をすると実は危ない。案の定、後ろから来ていたコウがキースの背中に、思いきり顔を突っ込んだ。
「・・・・って、何だよ!急に止まるなよ!」
「・・・・あれから、って・・・・・」
 コウの言う『あれから』がいつからのことなのか、キースは一瞬考えてしまったのだ。・・・・振り返ってしみじみコウの顔を見てみる、いや、本当は分かってた。・・・・・・『あれから』か。コンペイトウでガトーが核を撃つのを止められなかった昨日、どころの話じゃない、そうか。あれからか。あれから眠れて無いのか。
「・・・・・そうなのか?」
「・・・そうなんだ。キースはその・・・眠れるか?」
 そう言って、目の前で少しうつむいたコウは、ちょっと疲れている・・・程度にしかキースには見えなかった。ちょっと疲れたくらいの顔なら俺もしていることだろう。ともかく切羽詰まっているようには見えない。そこで、少し考えてからキースはこう答えた。
「俺は眠れてる。・・・・さっきも寝てた、だからお前も・・・・・・・・寝た方がいいぞ?」
「いや・・・・それは分かってるんだけど・・・・・」
 そのキースの台詞を聞いてコウはますますうつむく。その有り様をみてキースは、思わず溜め息をつきそうになった・・・・・・・どうする。シャワーを諦めて、こいつを医務室に連れて行くか?・・・・そんなことを考えながらコウの頭から視線を外して横を見ると、宇宙が見えた。・・・・・これはたまたまだ。二人が通路の壁面に埋め込まれた小さな窓の隣で立ち止まっていたからだった。
「・・・・・ああ、」
 すると、キースが窓の外を見ている事に気付いたコウが同じように視線をその窓に向けて、そして呟く。
「・・・あぁ、あれ。あれ、南十字星だぞ、キース。」
「ばっか、お前、俺だってそれくらい知ってる。っていうか、南十字星の場所だけは何があっても忘れないと思うぞ?だってさぁ・・・・・・・」
 そこまで言って、キースは思わず言葉を切った。見ると、さっきまで窓の外を指差していたコウも目を見開いて自分の顔を見ている。・・・・・・そうか。そうか、そうだったんだ。そうして顔を見合わせたまま、二人は通路の片隅でまったく動けなくなってしまった。・・・・・・・・・そうだ。そうだったんだ。もう、一言一句残らず思い出してしまった。




 遠くから、昨日の戦闘の後片付けだろうか、物をガンガンひっぱたいて直すような物音が聞こえてくる。





 ・・・・・一言一句残らず思い出してしまった。
























おおきな星
























 宇宙歴0083年、8月23日。
「・・・・よし!では今日のミーティングはここまで、初日から御苦労だった!」
「はいー・・・・・・」
 士官学校の卒業生に辞令が下り、それぞれが赴任先へ配属されるのは何ごとも無ければ毎年8月の末の事である・・・・・何ごとも無ければ、というのは戦時下だったりすると略式であっという間に学校を卒業させられたりすることがあるからだ。少なくとも、今年は平和で、そしてそれぞれの基地には順調に新人達が到着していた。
「そうだ、そう言えばお前らに説明してばっかりで、質問を聞いて無かったな。・・・よし。質問のあるものは、挙手して内容を言うように!」
 そう言って、実に男振り良く日に焼けたサウス・バニング大尉は、自分の小隊を見渡す・・・と言っても、オーストラリア・トリントン基地に所属する彼の小隊に配属された新人のテストパイロットは二人きりだった。
「質問・・・・・・・・・・・」
「・・・・ええっと!」
 その二人、チャック・キース少尉とコウ・ウラキ少尉は分かりやすく言うと『バテて』いた。初日から、嵐のようなステジュールだったからである・・・・・・・・昨日までの全体オリエンテーリングとは違い、あまりに過酷な、もっと言ってよければモビルスーツ小隊と関係有るのか、これは!?というくらいの小隊のミーティングの内容だった。基地内全体の徒歩による説明だの(ちなみにもちろん新人以外は車に乗っている。)その更に外に有る演習地の説明だの(これまた、他の人間は車に乗っていて、新人のみ徒歩である。)小隊割り当ての格納庫内の細かすぎる説明など(これに至ってはそんなことを士官学校で教える訳がないだろう、という内容を試しに質問され続け、答えられないごとにペナルティで腕立て伏せが十回づつあったのだった。何処に、換装されて連邦軍で使用されているジオニクス社製ザクの細かなパーツの名前を答えられる士官学校出がいることだろう!)。・・・・それら全てが、前々から噂に聞いていた『手荒い歓迎』の一環なのだとは分かりつつも、ともかくキースもコウもバテていたのである。
「はい・・・・はい、質問があります!」
 ともかく、同じようにバテてはいるもののまだ元気で楽しそうなコウが自分の隣でそう言って手を上げたので・・・キースは心底うげえ、っと思った。確かに俺はコウが好きで、ナイメーヘンを卒業した後も一緒にいたいから同じ赴任先を希望した。まさかなあ、と思ったが、小隊まで見事同じになった。・・・・・がっ、今はただもう宿舎に戻って眠りたい!だから質問なんかするんじゃねぇ!!・・・・・と、まあそう思ったわけだ。
「なんだ・・・ええっと、ウラキの方か。」
 そう言って、面白そうにバニング大尉はコウを見た。・・・・まさに、歴戦の猛者、と言った風情のバニングにそうやって見下ろされるとミーティングルームの中でもキースは何故か気がへこむ。しかし、コウはそんな事は無いようだった、そして、もうとっぷりと暮れきっていた窓の外を指差すとこう言った。
「・・・・・・・・・『南十字星』はどれですか?どこにありますか!!」
 一瞬、不思議な沈黙がミーティングルームの中に流れる。キースも、すぐにはコウの言った言葉の意味が分からなかった・・・・・南十字星?
「・・・・・・・っつ、えっ!!」
 が、更に次の瞬間、前からの小隊メンバーであるアレン中尉とカークス少尉が思わず笑い出すより早く・・・・バニングが、コウの横っ面をいきなり殴っていた。コウは、座っていた椅子から思いきり床に転げ落ちる。
「・・・・バカか貴様は!!ここは軍隊だぞ、俺は『軍に関しての質問はあるか』と聞いたんだ!・・・・・・星の場所を聞く奴がどこにいる!!」
「・・・・・・−−−−−−−−−−、」
 コウは、何とか床の上には起き上がったもののバニングが自分を急に殴りつけた理由が分からなかったらしく、ただポカンとその指揮官を見上げるばかりだった。
「・・・・今日はもう終わりだ!お前ら、とっとと帰って寝ろ!」
 それだけバニングが叫ぶと、ついにアレンとカークスが笑い出し、三人はそのまま部屋を出て行く。・・・・あーあ、と思いながら、キースは頭を抱えてその有り様を眺めていた。・・・・いや、ほんとバカかお前は、コウ。
「・・・・・・・何だよ、キース、僕なんか変なこと聞いたか?」
「・・・・・・・・うん、変だったと思うぜ。」
「どこが!」
「あのなあ、コウ!・・・・・・あー、もういい、とりあえず宿舎に戻ろう!!」
「くっそ、なんだよ、どこが変だったって言うんだよキース!!」
 まだ納得出来ないようで、そしてだんだん悔しそうに顔が赤くなってゆくコウをひっぱって、キースはどうにか宿舎に戻った。




 これで寝られる・・・・と思ったキースの考えは甘かった。シャワーを浴びて着替えたところで、ドアを叩く者がいたからである。・・・・・分かりきってはいるものの、誰だよ、と呟きながらキースは扉を開いた。
「・・・・・・・・」
 そこには当然コウがいた。しかも、さっきの非では無く不機嫌そうに顔がふくらんでいる。まだ制服を着たままだ。おまけに、手には小学生じゃあるまいし星座早見板を持っていた。
「・・・・・・なんだよ、俺は寝るぞ。」
「・・・・南十字星を見に行かないか。」
「俺は行かないぞ!寝る!」
「なんだよ、友達がいの無い奴だな!!」
「そういう問題じゃない!!!・・・・なんだよ、お前ほんとにバカかよ!!!」
「だって悔しいだろ、質問しろっていうから質問したのに・・・・っ!」
 ついにコウは本当に泣きそうな顔になった。こいつは悔しがってよく泣くのである。・・・・というかこれ以上ここで会話を続けたら俺まで恥ずかしい目に合わないか!!??そう判断したキースはともかく今にも爆発しそうなコウの背を押して、結局急いで宿舎の外に出ることにした。
「・・・・・くっそ、何だよ!!!僕・・・・ほんとに南十字星がどれか知りたくて・・・・!」
 宿舎から出た瞬間に、遂にコウは大泣きではないものの鼻をすすりあげ始める。・・・あーもう、どうするか。
「いや、そりゃ分かるけどさ・・・・・」
「それなのに、なんで急に殴られなきゃならないんだよ!」
「いや、だってお前、ありゃあバニング大尉が正しいよ。」
「どうして!」
 見ると、言いながらもコウは涙のたまった目で星座早見板と空を見比べ、上を向き下を向きしてはまた泣きそうになっている。
「僕は北半球で・・・・・それも旧ヨーロッパ地区のあたりで生まれて育ったから今まで南十字星って見た事無かったんだ!・・・だからこの基地に来るの楽しみで、見たかったのに、そんなに悪い事だったのか!?」
「チガウって!お前が旧ヨーロッパ地区出身なのなんか大昔から知ってるよ、だからさぁぁあああ、もーっっ・・・・!!!!あそこで、あの質問をしたのが良く無かったんだよ!お前、俺ら、軍人になったんだってば!・・・・・もう、学生じゃないんだってば!!仕事なんだ、これ!」
 ああ、俺にしてはめちゃくちゃマトモなこと言ってるよ・・・・とキースが自分の台詞に感動しかけた時、遠くから数人の人間の声が聞こえて来た・・・・誰だろう、夜勤の見回り兵にも思えないな。陽気に、鼻歌みたいなものまで聞こえて来るからだ。
「・・・・分かんないよ!」
 まだそんなことを言って、コウは基地のサーチライトであまりよく見えはしない夜空の星を見上げ続けていたが・・・・キースは聞こえてくる声が酒保帰りの同僚兵士達の声だと分かって少し焦りはじめた。こんなところを見つかったら、本当にバカだと思われるに違いない!!!
「・・・おい、コウ!!!分かった、また明日の晩付き合ってやるから・・・・だから今日はもう戻ろうぜ!」
 キースが小声でそう言った時、有り難い事にその数人の人影のうちほとんどが二棟並んだうちの1つ手前の宿舎の入り口に消えてゆき・・・・・・それを見てキースは少しほっとしたのだが、残る1人の人物はどんどんと自分達のいる宿舎の入り口に近付いてくる。
「・・・おい、コウったら!」
「なんだよ、僕は南十字星見つけるまで戻らないからな!!」
 コウが結構な大声でそう叫び、キースのコウを連れ戻そうという努力がムダになった時・・・・・・・・かなり近くまで歩いて来ていたその人物の足が止まった。
「・・・・・・・・・右端の司令棟は分かるか。」
 その人物はそう言った。・・・・・いや、この声は知ってる。その声を聞いてキースは思わず硬直した。
「えっ!!??・・・・あ、はい、分かります大きいから。」
 コウは分かっていないらしく、そう答えている・・・というか、キース以外の人間が近くにいる事にもうちょっと驚いても良さそうなものなのだが、あまりに星を見るのに必死で気付かないらしかった。
「その、司令棟の上の一番大きい通信用アンテナは分かるか?・・・屋上の真ん中あたりだ。」
「ああ、はい!ありますね、赤くてチカチカ光ってる。」
「・・・・・そのアンテナの、すぐ真上にあるのが、一番下の星だ。・・・・南十字星の。」
「・・・・・ああっっ!そうかあ、あれが!!!あそこから十字に明るい星を結んで・・・・・・・ああ、すごいキース、あれが南十字星だってさ!!」
 キースはもう絶句して身動き出来なくなっていた。何故なら、今宿舎の入り口に座り込んでいるコウと、その脇に突っ立っている自分に南十字星の場所を教えてくれたのは・・・・・まぎれもなく、サウス・バニング大尉その人だったからである。




「・・・・っていうかおめぇら、こんな時間まで何してやがる!!」
 キースが思っていた通りに、次の瞬間にはバニングの口から罵声が飛んだ。それを聞いて、さすがにコウも脇にいる人物が誰だか分かったらしく、飛び上がった。
「えっ、あの・・・はい!星を見ようかと・・・・・・!!」
「そんななことは分かっている!・・・・問題は、『明日も仕事がある連邦軍人としての心構えがあるのか』どうかだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・!!」
 それを聞いて、コウはやっと謎が解けたようであった。・・・・何故自分は、昼間殴られたのか。何故今、酒に酔っているらしいバニングに怒鳴られているのか。
「あります!・・・・・じゃなかった、はい、寝ます!もう、すぐ寝ます!!!」
「もちろん自分も寝ます!」
 キースも、慌ててそう言った・・・・冗談じゃない、コウに付き合って自分までここで似たような人間だと思われたらオシマイだ!!
「・・・・・・今年の新人は一筋縄じゃいかねぇな。」
 バニングはそんな二人をしばらく見つめた後で・・・・・・面白そうに笑ってそう言った。片方はパジャマで突っ立ってるし、片方に至っちゃ手に星座早見板を持ってやがる。・・・・・・が、きっと楽しい生活になることだろう。
「ええっと・・・・これは、今が休息時間では無いかと思っての質問であります!」
 その時、コウが何を思ったのかバニングにまた話しかけた。うえー!!!っとキースは思った。俺、寝れるのか。いつになったら?っていうか本当に寝れるのか・・・・!?
「何だ、ウラキ。」
 バニングは、コウの名前を完全に覚えたらしくそう言った。
「はい!・・・・大尉は、なんでそんなに星の場所について詳しいのですか。」
「あぁ?・・・・・・・・・・寝ぼけた質問だな、そうだな、まあ、無理矢理こじつけりゃあ、星の位置を分かっていれば、宇宙空間での戦闘に幾ばくかは役に経つ・・・・が、そんなことはモビルスーツのコンピューターがまったくイカレちまった場合の話だから現実的じゃあねぇな。」
 それから、バニング大尉は南十字星を指差して、こう言った。
「俺にあの星の場所が分かる理由は単純だ。・・・・・・・・俺は、南(サウス)アフリカで生まれ育った。だから、その土地の名前をつけられたんだとずうっと思ってたのさ、で、ある日そうなんだろ?と母親に聞いてみた。・・・・・そうしたら、母親が違うっていうんだ。なんと俺の名前は、あの星からつけられたんだそうだ。」
 キースとコウは、妙に黙ってその話を聞いていた。
「・・・・・・・・だから、俺は何処にいたって南十字星だけはすぐ分かる。・・・・さあ、もう話は仕舞いだ!とっとと寝ないか、このヒヨっこ共!!!」
「・・・・・はい!」
「はーい!!!」
 そこで、コウとキースの二人は長かったトリントン基地生活初日を終えてついに眠る事にした。














「・・・・・・・・たった二ヶ月前なんだ。」
 おそらく、まったく同じ事を思い出していたのだろうコウが目の前で苦しそうな表情になってゆくのを、キースはただ黙って見ていた。
「・・・・・・まだ、たった二ヶ月とちょっとなんだ!!!・・・・・教わらなきゃならないこととか、教わりたい事とか、たくさんたくさんあったんだ、なのにっ、なんで・・・・・!!!」
 ・・・・・・バニング大尉が戦死したのは、11月8日の午後三時過ぎだ。その後戦闘が雪崩のように立て続けにあって、ガトーも止められず、コンペイトウは核の炎に包まれ、ガンダム試作一号機は損壊、爆発炎上し・・・・・・そして休息がとれたのがやっと今日のこと。・・・・今は11月11日になって二時間ほどだ、もう二日と半分。二日と半分、コウは眠っていない事になる。
「・・・・泣け!お前、泣いてないだろ、バニング大尉が死んで泣いてないだろうっ!」
 かろうじてコウの肩を掴んで、そう叫んだキースの声の方がよっぽど泣き声のようになった。
「だってさ・・・・!!だって、キース、何で・・・・!」
「誰も知らねぇよ!!!・・・・俺も知らねぇ、だから泣け!それくらいしか方法は無い、そうしたら寝れる、絶対寝られるからよ!」
 何故か通路の途中で立ち止まってバカみたいに怒鳴りあうモビルスーツパイロット二人を、通りすがった整備兵が怪訝な顔をして見る。・・・・が、ツナギの袖口で顔を拭いながらカートを押して、すぐに立ち去っていった。
「・・・・・本当に寝られるのかよっ・・・・!」
「・・・・本当だ、絶対だ。・・・・・・・・・・・泣いた後に、シャワーを浴びるって手もある。」
 それだけ答えるとキースは、もう誰がなんと言おうと、当初の予定通りコウをシャワーにひきずって行く事にした。・・・最後にもう一回だけちらり、と窓の外に輝く南十字星を見る。
「・・・・くっそぉおおおおおおおおおおお!!!」
 コウはキースよりもはっきりと、その何処までも輝く星を見た。・・・・少し、涙に霞みはじめた瞳で。



















 本当の星になったあの人と、泣いていたあの日の自分の背中を。




















 ・・・・・ いつか。




















 いつか自分は越えることが出来るのだろうか。

























2001.11.08.










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