第十三独立部隊だの、独立した自由な策敵行動部隊だの、外郭新興部隊だの。










 ・・・・・白い艦が。










 白い艦が、いつもひとりぼっちで宇宙に乗り出してゆく様が見える。















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0093
友達では無かったコウとアムロの物語(4)

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「・・・・・黙っていても有利にはならないぞ!」
 全く同じ言葉を前にも聞いた事があるな、と思いながらコウはその場所に立っていた・・・・あれはいつだっけ。そうか、ちょうど十年前になる。もうそんなに経つのか。
「・・・・もう一度質問をする。素直に答えて、その後に自分の『言い分』があるのなら発言するように・・・・君は、これまでの調書による取り調べを全て拒否したのだからな。」
「・・・・・・」
 コウは何も答えなかった。戦闘が終わって、気がついたらここに連れて来られていた。・・・・十年前もそうだった。ただ、十年前と今回では、何もかもが同じようで何もかもが違う。なにより、自分は十年前は顔をまっすぐに上げて立っていられた・・・・裁判を受けている間中だ。しかし、今回はまずそんな気がしない、そんな気すらしないのだ、しかたがないのでコウは、自分の足先を見つめたままずっと俯いて裁判官の話を聞いていた。
「コウ・ウラキ大尉。・・・君の罪状は、軍規違反による無断武器使用、無断出撃、および自身の直接の部下に対する無意味な煽動行為、その行為の結果として部下一名が戦死したことへの責任、更にその他の多大な部隊の同様の行為の引き金となったことに対する・・・・・」
 裁判官が延々と話し続ける自分の罪状を聞きながら、それでもコウはこの法廷の、つまり軍事法廷の行われる建物の造りだけは、十年前と全く変わってはいないのだなあ、などとふと思った。当然、この場所は十年前にコウが立った法廷とは『別の場所』だ。しかし、やけに古臭い匂いのする建物も、右手の高いところから差し込む光も、まったくそれだけはあの時と変わっていないように急に思えたのだった。
「・・・・以上、なにか反論のある場合は、自分の意見を述べるように。」
「・・・・・・」
 コウは、やはり何も答えなかった。・・・・何故十年前、自分は顔をまっすぐに上げて立っていられたのだろう。そう思た。・・・・そうか、そうだな。あの時俺は怒っていた、怒りのままにこの場所に立っていた。・・・・コロニーも止められず、友軍にはミラーを発射され、ガトーとの決着もつけられず、ただただ何もかもが中途半端なまま、為す術もなく終わってしまった自分自身の未熟さに。ひたすらに怒り、だからこそ顔も上げていられたのである。あの頃の自分には、まだやらなければならない事がたくさん有るような気がしていた。このままでは絶対に終わるものかと、見えない敵に向かって異様に怒っていた。それがガトーがずっと言っていた『信念』なのだろうとその時は思った。・・・・それから十年が経って、俺は何か変わったか。変わったような、変わらないような。・・・・ああ、ただ。










 俺は今回もたった1人生き残ってしまったな。・・・・・・・・また生き残ってしまったんだ、生き残ってしまうと、その先も生き続けなければならないんだ、十年とか二十年とか。










 そんな思いが、コウの頭の中にポカリと浮かんで来たちょうどその時、裁判官の先を急ぐ声がした。
「・・・・反論が無いのなら、もう一度だけもっとも重要な問題に対する確認をする。ネオ・ジオン軍との戦闘は、外郭新興部隊であるロンド・ベル隊に一任されていた。・・・・この一点を無視して、君がアクシズに向かった罪は中でも最も重い。あの時君が誰より先に、アクシズに無断で向かった事は確認が取れている。何故、君はそんなことをした?・・・・モビルスーツで隕石を押し返すなどという、馬鹿げたことはロンド・ベル隊にやらせておけば良かった。君が引き金になって数え切れないほどの別の部隊があの場へ向かわなければ、ずいぶんと戦死者も減ったはずだ。」
「・・・・・も、止め・・・じゃないか。」
 ・・・・何故かその言葉を聞いた瞬間に、全く返事をする気などなかったコウは急に言葉が口をついて出るのを感じた。・・・・うつむいたままでだったが。しかし、下を向いたままでも確かに何かが、体の奥から沸き上がって来たのである。
「何?・・・・何だ、ともかく、シャア・アズナブルの責任などは、アムロ・レイ1人に取らせておけば良かったのだ。今回の『単なる反乱』も、君が飛び出したおかげで、軍全体が動くような問題になってしまった。そう言っても過言ではな・・・・」
「・・・・・・・こに、いた。・・・・・・・あん・・・・にいた。」
 今度は、先程よりずっと明確にコウは言葉を口に出す。それは、うなり声のようだった。・・・コウはうつむいたまま、だがこの十年間言いたくて言いたくてしかたのなかった事を、言うならきっと今なのだろうな、とそれだけは感じていた。
「言いたい事があるのならはっきり・・・・・」
あんたは何処にいた。」
 遂にコウは、誰にも分かるような大きさで声を発した。もう、これ以上裁判官の話を聞くのはたくさんだと思った。法廷に入る時にちらりと見た、自分よりはずいぶんと年上に見えた裁判官達の顔を思い出す。・・・・・・・・・なら知っているだろう?
「あんたは・・・・・あんた達は何処にいた。・・・・ブリティッシュ作戦でジオン軍がオーストラリアにコロニーを落とした時、デラーズフリートが北米の穀倉地帯にコロニーを落とした時、ハマーン・カーンがダブリンにコロニーを落とした時、そして今回・・・・今回もだ、あんたは、あんた達は・・・・!!あんた達は一体何処にいたかと聞いている!」
「君に許可されているのは、自身の意見の発言であり我々に対する質問では無い!」
「ではこれが俺の意見だ!」
 そこで、法廷には一時凄まじいまでの沈黙が流れた。・・・・・よほど経ってから、裁判官はこう言う。
「・・・・・・・ともかく、特に反論が無いのなら、十分ほどの休憩を挟んで判決に移る。・・・・・君が何故、ニュータイプ同士の争いの手伝いなどをしてしまったのか知らないが・・・・」
「それは違う!!」
 そこで遂に、コウは顔を上げた。・・・・十年前と同じように、だがしかし全く違う感慨を持って目の前の裁判官を見た。いいやそれは違う、それだけは違うんだ。









 自分が何故アクシズを止める手伝いをしてしまったのか。・・・・それは、『アムロ・レイ1人に任せるのが嫌だったから』なのである。それなのにこの裁判官は何を言う!!・・・・ふざけるにも程がある。俺はアムロ・レイは嫌いだった、そして今も嫌いだ、だが奴はもう居ない、静かな声で、「誰かが覚えていてくれればさ」なんて話す男はもう居ない。死んだのだ、だけど自分は生き残った。今回も生き残ってしまった、そしてこれから先の人生をまだ生きることだろう。
 じゃあなにか、アムロ・レイという人間は、こんなバカな連邦軍の上層部を生き残らせる為に死んだのか?
 ・・・・もうコウは、何に対して自分が腹を立てているのか分からないままに叫んでいた、ああもう、何もかもどうでもいい、この先どんな判決を受けようと、どんな人生に自分の人生がなろうと、それも構わない、ただ・・・・・・・・・ただ今、これだけは思う。




















「・・・・・・アムロ・レイの悪口を言うな!!それを言っていいのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺だけだ!!!」




















 第十三独立部隊だの、独立した自由な策敵行動部隊だの、外郭新興部隊だの。










 ・・・・・白い艦が。










 白い艦が、いつもひとりぼっちで宇宙に乗り出してゆく様が見える。・・・ああそうだ、俺には見える。いつもいつも正しかったのに、いつもいつも誰も認めてはくれなかった。





















「・・・・・もう一回言う。アムロ・レイの悪口を言うな、それを言っていいのは俺だけだ・・・・・いや、あの時戦場にいた、戦場にいて落下するコロニーを止めようとした、そういう人間だけだ!!!あんた達にはそんな権利も資格も無い!!!」
「一時閉廷!」
 裁判官が嵐のように閉廷を告げ、裁判は一時中止になった。・・・・・・ニュータイプも凡人も関係無く、誰もが必死に生抜こうとしたというのに。どの戦場でも。・・・・・・・それなのに。









 ・・・・その後、コウ・ウラキがどんな判決を受けたか、それは詳しく歴史に残ってはいない。いや、そもそもコウ・ウラキの記録自体が、ほとんど残っていないのである。歴史にも残らない程度の人間であった。




















 第十三独立部隊だの、独立した自由な策敵行動部隊だの、外郭新興部隊だの。










 ・・・・・白い艦が。










 白い艦が、いつもひとりぼっちで宇宙に乗り出してゆく様が見える。






















 コウ・ウラキは自分の未熟さに腹立ちながら、いつも必死で生き、アムロ・レイに耐え切れない怒りを子供のように覚え、だがしかし。










 だがしかしそのアムロ.レイの人間としての真っ当さすら否定されると思わず怒鳴らずにはいられないような人間であった。・・・・彼のその後の服役中に、妻と友人と部下達から手紙が来た。ニナからの手紙には「あなたが出てくる頃には子供は成人しちゃうわよ。」と、キースからの手紙には「ニナの面倒もしょうがねぇから俺が見てやる、このバカめ、心配するな。」と、そして部下からの手紙には、「ウラキ大尉は正しかったと思います。」と書いてあった。
 それを見て初めてコウは、










 十年ぶりに泣いた。・・・・これが、0093のコウ・ウラキに関する物語の全てである。

























2001.08.29.