(番外編:ぞうさん)
2006.05.13.
隣の家にキース(5歳)というこまっしゃくれた子どもがいるので、コウ(5歳)は良いことも悪いことも、
両方大量に教わってくる。四月の末にコウ(5歳)が覚えて来たのは一つの歌で、それをコウ(5歳)は飽きもせず、
縁側に一人で座って歌っているのだった。
「・・・ぞ〜うさん、ぞ〜うさん、」
俗にいう『ぞうさん』の歌である。
この辺りまでは別にいい。・・・ガトーはそう思いながら洗いものの手を止めた。
コウ(5歳)の声の聞こえてくる縁側へと、台所から向かう。
・・・・・・何故こんなことになったのだろうか。
ガトーは、最近コウ(5歳)が『ぞうさん』の歌を、『歌うのを止めさせたくてしかたが無かった』。
最初、コウ(5歳)の『ぞうさん』の歌にはへんな身ぶり手ぶりがついていた。
手を、下半身のあたりでブラブラさせるのである。
聞いてみると、キース(5歳)はそうするという。これは『クレヨンしんちゃん』のえいきょうだ、という話だった。
しかし、ガトーは『クレヨンしんちゃん』がなんだか知らなかったので、とにもかくにも止めさせた。
何しろ下品だったからである。コウ(5歳)をそんな子どもには育てたくなかった。そこまではなんとかうまくいった。
「・・・コウ?」
縁側へと向かう障子の手前で声をかける。
「・・・・あい!」
すると『はい』と返事の出来ないコウ(5歳)は、しかし実に嬉しそうに振り返った。
・・・・ガトーしごとすんだの、ガトーいっしょにあそんでくれるの?・・・・と、言わんばかりの笑顔とともに。
「・・・・退屈だったか。」
「ううん!」
「歌を歌ってたのか。」
「あい!ガトーもうおさらあらうのおわり?いっしょ?」
「まあな・・・」
ガトーはコウ(5歳)の脇に座り込むと、念のために一応聞いてみた。
「もう一回、歌ってみろ。・・・『ぞうさん』を。」
「あい!」
コウ(5歳)は楽しそうに、縁側に足をぶらぶらさせて歌い出した。
「・・・ぞ〜うさん、ぞ〜うさん、」
「・・・お〜〜〜〜はながいのね〜〜〜」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・大問題である。
「・・・ちょっと待て、コウ。」
ガトーは前からこの一点にツッコミたくってしかたが無かった。・・・・しかし、どうやったらコウ(5歳)を傷つけずに、
その言葉を伝えられるのか、どうしても思い付かなかった。
「私が思うのに・・・その、その歌は少し歌詞が足りないと思うのだ。」
「あいー???」
コウ(5歳)は何のことやら分らず、首をかしげてガトーを見上げてくる。ガトーは耐えかねて、
自分の膝の上をポンポンッと叩いた。すると、コウ(5歳)が嬉しそうに飛びついて、その膝の上にのってくる。
「あい、なにガトー!」
「・・・・本当の『ぞうさん』の歌は、こうだと思うのだ。」
ガトーは仕方が無いので自分で歌った。
「ぞ〜うさん、ぞ〜うさん、おはながながいのね〜」
「・・・・・あい?」
「・・・・・いいから、もう一回歌ってみろ、コウ。」
「あい!」
コウ(5歳)は勢い良く頷くと、元気に歌い出した。
「・・・ぞ〜うさん、ぞ〜うさん、お〜はながいのね〜」
・・・・何故だ!!・・・・なぜ勝手に歌詞を略すんだ・・・・!『なが』が、一つ、足りないではないか・・・・!!!
「そ〜うょ、かあさんも、な〜がいのよ〜〜〜」
最後まで歌い上げると、コウ(5歳)は実に満足そうにガトーを見上げた。
「・・・おしまい!・・・ガトーもこのおうたすきなのー?」
・・・・無事訂正することが出来たら、好きになれたかもしれなかった。
『ぞうさん』を歌うコウ(5歳)は、楽しそうだし可愛らしい。
しかし、それは夢に終わった。
・・・・どうやってこれ以上ツッコめばいいというのだ・・・!!
こうして、ガトーさんちのぞうさんの歌は『なが』が一つ(勝手に)少ないこととなった。
コウ(5歳)はよほどその歌がお気に入りらしく、思い出したように歌ってはガトーの頭痛のタネを増やしている。
・・・頑張れガトーさん!・・・先は長いぞ!