(番外編:嫁にこないか)
2000.04.08.
お花見をした午後に縁側で、コウ(5歳)は眠くなって
寝てしまっていた・・・子供はとにかく眠るものなのだ。
ガトーは、軽い上掛けを持って来るとコウ(5歳)にかけてやり、
自分はあいかわらず庭の櫻を眺めていた。
・・・良い天気だ。
するとその時、玄関にお客がやって来た・・・。
「よお!花見やってるか?」
やって来たのは、ガトーの友人のケリィ・レズナーだった。
御丁寧に、酒瓶持参だ。
「ケリィ。あのなあ、まっぴるまから酒なんぞ持って・・・そういえば、
いつも一緒のカリウスは。」
「おう、捨てて来た。お前ひとすじだ。」
ガトーは苦笑いしたが、ケリィは親友であったし、それ以上何も言わずに
うちに上げた。そうして、コウ(5歳)の寝ている縁側まで
戻って来ると結局二人はケリィの持って来た日本酒で、
櫻をつまみに盃を上げることにした。
「ちびコウは寝てたのか。こりゃ騒げないな・・・」
ケリィが苦笑いしながら言うと、ガトーも笑った。
「そうなんだ。子供は、良く寝るな。こんなんじゃ、すぐに大きくなるだろうな。
・・・・そう言えばな、ケリィ。さっき、不思議な事があってな・・・。」
そう、優しくコウ(5歳)を見つめながら言うガトーに、
ケリィは櫻を見る振りをしながら、その実櫻の事なんかちっとも目に入らなく
なっていた。・・・ガトーが。コウ(5歳)の上掛けを直してやっている
ガトーの方がよっぽど櫻より見ていて幸せな気分になれる。
「・・・不思議な事って何だ。」
それでも、ケリィはそう答えた。ガトーの事を見ているのは秘密だ。
「うむ・・・さっきな。一瞬だけ、コウが大きくなったんだ。」
「・・・あぁ?」
思わず言っている事が理解できずに、ケリィはそう言った。
「なんだって?」
「だから、一瞬だけ、コウが大きくなってな。・・・それで。」
そこで、ガトーが不思議な沈黙をするので、ケリィは妙に思って、ガトーの方を向き直った。
・・・驚いた。ガトーが、何を想ったか櫻のように顔を染めている。
ガトーはひどく色が白かったので、ケリィにはもうどうしようと思うくらいに、
それは素敵に見えた。
「・・・あのだな、ガトー。」
「何だ。」
「何があったかは知らんが・・・嫁に来ないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
思いきり沈黙したあと、ケリィの言葉にガトーはそう答えた。
「え?ああ、だからその・・・コウにも、父親が必要じゃないかと思ってな。」
「・・・・・・・・私が育てているぞ?立派に。」
「いや、だから、お前が母親役で、俺が父親役ってどうだ?ガトー。」
ケリィは、もう混乱してしまって自分が何を言っているのか分からなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
ガトーは、もう一回長い沈黙の後にそう答えた。
と、その時、櫻の樹の脇の木戸を押し開けて、すごい勢いで誰かが庭に
転がり込んで来た。
「・・・ケリィさん!ひどいじゃ無いですか、なんでガトー少佐の家に行くのに
自分を柱に縛り付けて1人で先に行っちゃうんですか!!」
それは、ケリィにおいてけぼりを食らわされたカリウスだった。
「自分だって、少佐と花見がしたいです!!っていうか、こう言ってよければ愛してます!
ちびコウになりたいくらいです!!」
「一足遅かったなカリウス!、俺が今ガトーにプロポーズしたところだ!!」
ケリィがそう叫んで、とたんに縁側はド修羅場の戦場と化した。
「こういうのは早い者勝ちなんだ、分かったか!」
「えー!!自分だって少佐に育てられたいです!!」
「・・・止めんか、二人とも!!」
遂に、ガトーがそう叫んだ。
「 コウが起きてしまうだろうが!!!」
・・・しかし、その時には時遅く、コウ(5歳)はあまりの騒々しさに
目を丸くして飛び起きたところだった。
目の前の三人の大人が、恐る恐る自分を見ている。
理由は分からなかったが、コウ(5歳)は何だか恐くなった。
・・・そして泣き出した!!
「がとぉ〜・・・」
「ああよし。分かった。男がそんなに軽々しく泣くな!私はここにいる。」
ガトーは、怒りつつもむずがって泣くコウを抱き上げた。
「がとーはぼくのなの〜・・・ぼくのぉ〜」
「ああそうだな。そのとおりだ。分かったから泣いてくれるな。」
決着はあっさりついた。
・・・コウ(5歳)の圧勝であった!!
ケリィとカリウスは、しぶしぶ退散することにした・・・。
アナベル・ガトー(25歳)。子育て姿を男にまで惚れられてしまうような男であった。
・・・ガトーが嫁に行こうが嫁を貰おうが、もれなくコウ(5歳)はついてくるだろう。
御用心・・・。