(番外編:お風呂場じゃないけど大変!)
2000.08.19.
コウは、いつもの通りに自分の部屋で目を覚ました所だった・・・・夏休み中!
だらだら寝ているのはもったいない!
「・・・・っ、起きなきゃ!」
がばっとふとんをはね除けて飛び起き・・・・・・・・・・・そうして妙な事に気付いた。
「・・・・あれ?」
サイズがおかしい。
「・・・・・あれ?あれあれあれ?」
思わず手を見る。・・・・大きい。・・・っていうか、『マトモに物を考える事が』
出来る!!??
コウはおもわず勉強机の脇の鏡にむかって突進した。・・・・ああっ!
「・・・・何・・・・・僕・・・・うわあ、19才になってるよ!!!」
それに気付くなり、コウは部屋を一目散に飛び出した。・・・ガトーに。
ガトーに教えなきゃ・・・・!!
この世界は、多くの不条理に満ち満ちている不可思議なコメディの世界だったが、
『その中で生きるキャラクターの考え方』と言うのもまた不条理に満ちていて、複雑なのだった。
例えば、この世界でコウ・ウラキは管理人の都合で勝手に年を取らされたりするが、
彼はいつの年齢の時でも、自分がコウ・ウラキというキャラクターだということ『だけ』は
分かっている。・・・・分かっているのだが、発想はその時々の子供のレベルでしか無い。
つまり、コウ・ウラキとしての自覚は有るのだが、例えば口は11歳の子供のレベルでしかきけないのだった。
・・・だがしかし!!
今日目覚めたら、僕は19才だ!本編と同じ年齢だ!・・・ってことは、ガトーも喜んでくれるに違い無い!!
・・・・なんで19才になってるのか、深い理由は知らないが。
「ガトォーーーーっっっ!!!!!」
本編と、寸部違わぬ叫び声をあげて、コウはガトーの部屋に飛び込んだ・・・・・。
「・・・・あれ?ガトー??」
何故だろう。ガトーが居ない。しかも、そのガトーの私室である和室には、ふとんも敷いたままだ。
「・・・・・ガトー?」
一目その部屋を見て、コウは違和感を覚えた。子供だった時の記憶を辿る限り、ガトーはふとんも上げずに
外出するような人間では無かった。・・・・が、居ない。
「何処だ・・・・・?」
部屋の中に入り、ふとんに触れてみる。まだ暖かかった。そのうえ、寝たあともきちんと有る。
・・・・昨日までは、昨日の晩までは、確かにガトーはこの部屋に居た。いや、ついさっきまでかも。
「・・・・・・・・・・・・・」
コウは、なんとも言えない気分を味わっていた。・・・・自分が、19才になっちゃったから、
だからガトーはこの世界から消えたのか?
・・・・・・・・もう、自分を育てなくていいから?
・・・・そんな。
「ガトー・・・・」
・・・まだ、何も教わって無いのに。そう思って、コウが情けない声を上げかけた時・・・・ふとんが動いた。
「うへっ!?」
思わずコウは飛び退く。・・・・何だ!?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『誰も居ないように見えた』掛け布団の下から這い出して来たのは、どう見ても5歳くらいの
子供だった・・・・・・・しかも、銀髪で紫の目の!!!
「・・・・・・・・・・・・・・がっ、」
長い長い沈黙の後、コウは辛うじて声を絞り出した。
「ガトー?・・・・・・のわけ、無いよな・・・・・・・・・・・・・」
その子供は、何も言わずにコウをジッと見つめている。
それから、戸惑うコウから目を離してじっくりと自分の手を見、身体を見た。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ガトー・・・・・・なのか?」
「・・・・・・・・・・・」
子供は答えない。しかし、随分時間が経ってから・・・・ゆっくりと頷いた。
「!!!!!!!!!!・・・・・・って、そんなあ!せっかく、せっかくだよ!?僕が、19才になったのに・・・・・!」
コウは思わず頭を抱えた。
「・・・・・19才になったのに!」
・・・今度は、ガトーの方が5才になっちゃうなんて!!
「・・・・・・・・・・・・・・」
ガトー(5歳)は何も答えず、ただなんとも言えない顔でコウを見上げている。
「・・・・・ガトー!ガトーだったら、今すぐ25才に戻って!」
コウがむちゃくちゃを言いながら、思わずガトー(5歳)の肩を掴む。と、その強さにガトー(5歳)は
怯えた顔になった。手を振払って逃げかける。
「・・・・って、やっぱ無理か!ああああああ!僕、これからどうすれば・・・・・!」
ガトー(5歳)が怯えているのがショックで、コウは頭を抱え込んだ。
「ごめん!掴んで悪かったな、ええと・・・・ああ!僕・・・・僕・・・・・子育てなんか出来ないよ!」
そう言って、コウはこの頭の混乱を何とかしようと部屋から飛び出しかけた・・・・・・と。
「・・・・え?」
誰かが、コウの足を掴んでいる。正確には、寝間着の裾を。おかげでコウはすっ転びかけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
振り返ると、案の定ガトー(5歳)がコウの寝間着に掴まっていた。
「・・・・ガトー?」
コウがそう言うと、ガトー(5歳)はちょっと悲しそうな顔をした。・・・いや、だから。何も言わずに
服の裾を掴まれても。
「・・・・・ええっと。僕と一緒に居たいの?」
すると、ガトー(5歳)が・・・・・頷いた!そうして、試しに、と思ってコウが広げた両手に飛び込んで来た!
「う・・・・うわああああああ・・・・」
コウは不器用にそのガトー(5歳)の身体を抱き上げた。・・・・小さい!柔らかい!子供って可愛い!
「と・・・とりあえず、御飯?お腹減った?ガトー。」
「・・・・・」
ガトー(5歳)は小さく頷く。コウはそれで台所に向かう事にした・・・・・料理なんて、
これっぽっちも自信が無かったが!
かなりの荒技でコウは朝食をやっつけてから、それをガトー(5歳)と二人で食べ、それから
まず最初にしたことは・・・・服を探す事だった。
「くっそ・・・・」
とりあえず自分は大きかった時のガトーの服を着てみた。・・・・デカい。19才になっても
ガトーの服はまだ大きい!
「ガトー、大き過ぎだよ!僕、大きくなったのに!」
コウは、むちゃくちゃを言いながら次にガトー(5歳)の為の服を探した・・・・これは、自分が5歳くらいだった時の
服を探すしかあるまい。
「よいしょっと・・・・・」
コウは押し入れに顔を突っ込むと、段ボール箱の中から自分の昔の服をひっぱりだした。
ガトーと言うのはマメな男で、そう言うものも捨てずに、きちんと分類してとってあったのであった・・・・
まあ、とりあえず適当に服を取り出す。その間、ガトー(5歳)はやはりまったく口を利かずに
じいっと黙ってコウを待っていた。
「さて!着替えるぞ。」
コウはそう言うと、ガトー(5歳)に服を着せようとした・・・・・が、上手く行かない。他人の服の
ボタンを嵌めるのは、案外と難しい事なのだ。
「う、ガトー・・・・むずかしいよ、これ。」
「・・・・・・・・」
が、ガトー(5歳)は、じいっと黙ってコウがボタンを嵌めてくれるのを待っていた。
「・・・・はい、なんとか出来上がり!・・・・さてっ、隣に助けを求めに行くぞ!!」
コウはかなり適当ながら・・・・ガトーの洋服のボタンを嵌め終ると、そう言って立ち上がった。
・・・・と。
「・・・・・・・・・何?」
相変わらずガトーがコウのズボンを掴む。
「・・・抱っこしろって・・・・・・・?」
すると、ガトー(5歳)がうん、といった顔でコウを見上げる。・・・・何故かやっぱり、口は利かないのだった。
「分かった・・・分かったけど・・・おんぶでいい?」
コウはため息を付くと、ガトー(5歳)を勢い良く抱き上げた。
ガトー(5歳)は声こそ上げずに、だが嬉しそうにコウの首にしがみついた。
「・・・・キースっ!大変だ!非常事態なんだ!」
となりのニナさんとモーラさんの家の前で、コウはガトー(5歳)を背中におぶってそう叫んだ・・・・ひょっとしたら
キースは子供のままかもな。ここまで来て、やっとチラっとコウはそう思い至った。
「今行くぅ!」
と、大きな破壊音と共にニナさんとモーラさんちからそんなキースの声が聞こえる。・・・・やった!
コウは思った。今のは、19才のキースの声だった!
「キース!」
ドアを開けて出て来た、案の定19才のキースに・・・・コウは、背中におぶっている物体を見せた。
「大変だぜ、キース!!・・・・ガトーが小さくなっちゃって・・・・・・!」
「そんなの、大変じゃない!」
意外な事に、キースがそう答えた瞬間に、半分開いたドアのむこうから凄い勢いでちいさな二つの物体が
駆け出して来た。
「・・・うちなんか、二人とも子供に戻っちゃったぜ!?」
見ると、それは5歳のニナとモーラなのだった。・・・女の子が二人で、凄い勢いでガレージの前の庭先を
駆け巡っている。
「・・・・・確かに・・・・・・・・・・・・」
それを見て、コウは一瞬言葉を失った。・・・・こりゃ、本当に一大事だ!
「うっわ、これがガトーさん?・・・・あの『ソロモンの悪夢』か!?」
キースがそう言うと、コウの背中におぶわれているガトーを見た。
ガトー(5歳)は、必死でコウの背中にしがみついていたが、
キースが近寄って来ると少し怖がってコウの背中を強く掴む。
「・・・・おい、コウ・・・・・・・・・ガトーさん、めちゃくちゃお前に懐いてるぞ・・・・・?」
「・・・・そうなんだ。」
コウも、思わずそう言ってなんとも言えない顔をした。
「・・・・ともかく、おまえんちも大変だって分かったから、僕帰るよ・・・・」
それだけキースに言うと、コウはまたガトー(5歳)を背負って自分の家に戻って行った・・・・。
コウは、縁側でため息をついていた。ガトー(5歳)は、今自分の膝の上で丸くなって眠っている。
・・・・自分が5歳の頃、良くガトーの膝の上でそうしたように。
「ガトぉー・・・・・どうしよう、元に戻ってよ・・・・・」
コウはさっきから、ジオン軍についての調べ物をしていたのだった。
・・・ガトーは、自分をちゃんと軍人に育てようとしてくれていた。
ということは、自分もガトー(5歳)をなんとしても立派なジオンの軍人に・・・・育て上げなければ
いけないということだ!!!
「う〜・・・・・・・」
コウには、情けないくらいその自信が無かった。・・・どうする、ガトー(5歳)がこのまま
元に戻らなかったら!!!
「まず、剣道を教えて・・・これは大丈夫、僕、得意だから・・・それから、ガトーらしく
するために料理も教えて・・・・って、僕が!?うっわー、花嫁教室通うかな・・・・んで、
ジオンの魂を・・・じ・・・・ジオンの魂って何?ジオンの塊くらいなら辛うじてなんとかなりそうだけど・・・・」
そこまで考えて、コウは全く自分がガトー(5歳)を育てられるような人間ではないとつくづく思い至った。
いや、もう冗談言ってる場合じゃない。
「・・・・・ガトぉー・・・・・」
ふと、ガトー(5歳)の起きた気配がある。コウは思わず、その5歳の子供に泣きつきそうになった。
「・・・・・・・・・」
ガトー(5歳)は、相変わらず何も言わない。・・・口すらきいてくれないんだもんな。
コウはめちゃくちゃ情けなくなって来た。・・・・思わず、子供のレベルに戻って泣きかけた。
ガトー(5歳)はと言えば、コウの膝の上で座り直してまっすぐに自分を見つめている。
「あの・・・お願い・・・・・・・・せめて口をきいて?・・・ガトーったら。」
そうコウが言うと、ガトー(5歳)は少し考えているようだった。・・・そうして、
小さな手のひらを広げて何故かぺたっとコウの顔を触った。
「わあ、何???」
「・・・・・・」
ガトー(5歳)はコウの頬を、口元を、面白いように触り続ける。・・・コウは少しくすぐったくて、
笑い出しそうになるのを我慢していた。・・・子供って、行動がよく分からない!
「・・・・・・・・・・・こ、」
その時、小さな声でガトー(5歳)がやっと何かを言った。
「こう。・・・・こうは、ぼくをそだててくれないの?」
・・・・・・鈴が鳴るような声だった!!!!!
「・・・・育てます。」
思わず、真顔になってコウは答えた。・・・いつも聞いて知っているガトーの声とは全く違うのに、
その声を聞いただけで背筋が伸びた。
「育てるよ、絶対!あんまり上手く無いだろうけど、頑張って子育てするよ!
あったり前じゃ無いか、何言ってんだよ、ガトー!」
そうして、ガトー(5歳)が怯えようがなんだろうが力一杯その小さな身体を抱き締めた。・・・ああ、もう!
・・・・そう言えば、自分が大きくなってゆく時の魔法があったような気がする。
何だっけ?
コウは、しばらく考えてからそれがなんだったか思い出した。
「・・・・いや、しかし何で僕、キスのこと『にんじん』なんて名前で覚えてるんだ・・・・?」
ともかく、コウはガトー(5歳)をしっかり抱き直すと、キスをしてみた。
おでこに。両の頬に。・・・それから軽く唇にも。
「・・・・って、こんな方法で、ガトーは大きくならないよなあ・・・・」
くすぐったそうな顔をしているガトーを見つめて、コウは苦笑いをした。
・・・・蝉がミンミン鳴いているけだるい夏の午後。
縁側の軒先きに吊るしてある風鈴の鳴る音を聞きながら、コウは簾の陰に
ごろんと横になってため息をついた。
「・・・・よし!いいや、もう考えてもしょうがないから、昼寝しようガトー!」
そう言って、ガトー(5歳)を持ち上げる。そして、強引に自分の隣に寝かせた。
・・・・そう言えば、あの風鈴もガトーが付けてくれたんだった・・・・・・・ガトーが大きかった時。
そんな事を考えながら、コウはガトー(5歳)と共に午睡に入って行った・・・・・。
ガトー(5歳)は、しばらく自分より先に眠ってしまったコウを見ていたが、やがてとんでもなく
暑いのにコウにすり寄ると、更に・・・しがみついて自分も眠りに落ちた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・何ごとだ?」
ガトーが目を覚ましたのは夕暮れ時であった。・・・・蜩(ひぐらし)が鳴いていた。・・・・綺麗な夕焼け。
「・・・・・どうして、私はこんな所でコウと寝ている?」
何故かは分からないが、ガトーは気がつくと縁側で、コウ(十一歳)と抱き合って眠っていたのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・うー、ガトー・・・・・?」
と、その時コウが目を覚ました。
「夕飯作らなきゃね・・・僕下手だけど・・・・・・・・・お腹減った?ちょっと待っててね・・・・」
「おい、コウ?何を寝ぼけている。・・・目を覚まさんか。」
「・・・・・・・・・・・・!!!!!!!」
そのガトーの台詞に、コウ(十一歳)は凄い勢いで飛び起きたのだった。・・・・ああっ!!??
「僕・・・元通りだね!?十一歳だ、ああ、頭がそんな感じだもの、絶対だよ、ガトー!」
言うなり、急にコウ(十一歳)はガトーに飛びつく。・・・・何だ?
ガトーは一瞬、コウ(十一歳)が日なたで眠りこけて頭がすこしボケたのでは無いかと心配した。
が、見る限りそんな風でも無い。
「コウ・・・?一体、何を・・・・・」
「ガトー、ガトーが5歳になったんだよ、確か!それでね、となりの家のニナさんとモーラさんも5歳で、
僕とキースが大変だったんだ!ああ、元に戻って良かったよー!!」
コウ(十一歳)はそう言いながらも。ガトーにしがみつくのを辞めない。
「・・・・何だって?」
「ガトーが5歳だったの!うん、確かそう。ぼやっとして、良く覚えてないけどさ!」
「−−−−−−−−−−・・・・・」
「それで、僕頑張ってガトーをジオンの魂に育てる事にしたんだよね、でも、ガトー元に戻ったし良かったよ!」
「−−−−−−−−−−・・・・・」
ガトーは、なんとも答えない。そこで、少し不安になってコウ(十一歳)は言った。
「・・・・覚えて無いの?僕は、ええと大きくなっても、もっと小さかった時の記憶をある程度は覚えてるよ。
・・・・ガトー?」
その時、ガトーが急に口元を抑えた。・・・・・真っ赤だ!!
「・・・・・・ガトー?」
「聞こえている!」
・・・・凄い大声だった。・・・・僕だって聞こえてる。コウ(十一歳)は思った。
「・・・・私は・・・あまり話さない子供だっただろう。・・・親にもそう言われた記憶がある。
・・・そうか、このもやっとした記憶は5歳の時の記憶か。・・・・コウが出てくるので変だとは思った。」
「・・・・・・ううん・・・・でもね、あのさ・・・・・」
コウは、長らく考えてからこう答えた。
「・・・・凄く可愛い声だったよ。」
それから、星が出るまでしばらく二人は口を聞かなかった。・・・・なんだろうな。
こうやって、いろんな年のお互いに会って、それより何より、こんなに沢山の時間を一緒に過ごせる自分達は・・・・・
幸せなのかなあ。
その後二度と、ガトーが小さくなる事は無かったが。