(がとーらぶ姉様に捧げます。読んでから、怒らないでください/笑。)









第9話:夏の嵐編:2000.09.13.







・・・・何故かこの『ガトーさんちのおはなし』の世界では、まだ小学生が夏休みであった。・・・・何故かって?
だから『何故か』だ!!!聞かないでくれ、人生には失敗がツキモノなんだ・・・・そうして作者(管理人)は、
あまり人生の器用な人間では無かった。・・・・それはともかくである。




「うう〜・・・・・・」
夏休みの間に十一歳になったコウは、今ガトーさんちの縁側で、どんよりと曇った空を見上げながら
唸っている所であった。・・・・・風が強い。ガトーが手入れをしているおかげで立派な庭の木々の葉も、あまりに強い風に
ビュンビュン吹き飛ばされて飛んでゆく。
「うう、ううう〜〜〜〜〜〜・・・・・」
コウ(十一歳)は、ガトーの教え通りに縁側にちょこんと正座し、そんな庭を眺めていたのだが、ついに我慢出来なく
なったようで立ち上がった。
「・・・ガトー!!大変だよっ、嵐がっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んがっ!」
「・・・・分かっている。」
コウ(十一歳)が途中までそう言いかけた時、そんなコウ(十一歳)を見ていたガトーは無性に恥ずかしくなって
その口を後ろから押さえた。
「・・・・っっ、でもーーーー!嵐が来るよ!!!わー、嵐ー!!!!!」
しかし、それでもガトーの手を振払って最後までコウ(十一歳)はそう叫ぶ。その有り様に、ガトーは小さく頭を抱えた。
・・・・・嵐が来るのは分かっている。少し気の早い夏の終わりの台風が、
日本列島に接近しているのだ。伊豆の方から東京を直撃するらしい。
・・・・しかしだ。
「・・・・・あらしーっっっっっっっ!!!」
ガトーの気を知ってか知らずか、コウ(十一歳)はそう嬉しそうに叫び続けた。ガトーが止めなければ、
庭に駆けおりて踊りだしそうな勢いである。




・・・・・たかが台風が来る程度で、ワクワクして叫ぶバカがいるか・・・・!!!




ガトーは、いつもの事ながら自分の子育ての失敗を実感していた。そうして、興奮する
コウ(十一歳)をなんとかなだめると、『雨戸を閉めるぞ』と言った。・・・コウ(十一歳)を
外に出さないには、少し早いがそれしか方法は無さそうだった。




雨戸を閉めてしまうと当然の事ながら昼間でも家の中は真っ暗である。
コウ(十一歳)は、ガトーが縁側やらそれぞれの窓の木製の雨戸を引くのを実に興味深そうに見つめ、
それからガトーに聞いた。
「・・・・なんでこれを閉めるの?」
「雨戸を閉めないとな、台風だから、凄まじい風で物がいろいろ飛んで来て、硝子なぞ割れるかもしれん。」
午後三時ほどなのに真っ暗になった家の中で、ガトーはそうコウ(十一歳)に説明した。
「・・・・飛んでくるって、何が?」
「例えば・・・そうだな、瓦屋根の瓦などがだ。」
コウ(十一歳)は、家の中に閉じ込められたにもかかわらず、まだわくわくして仕方が無いようである。
台風の東京への最接近は天気予報によると午後九時・・・・まだ、六時間も先なのであった。
「・・・・分かった。仕方がない、コウ、ゲームをやってもいいぞ?」
このままでは、コウ(十一歳)は家の外に飛び出して嵐を満喫しかねない・・・そう判断した
ガトーは、部屋の電気を付けながらしぶしぶコウ(十一歳)にそう言った。
「本当!?・・・ありがとう、ガトー!」
コウ(十一歳)は、ゲームがしたい盛りの小学生の子供であったが、ガトーの厳しい教育方針の為、
たとえ夏休み中であろうとも一日二時間以上はゲームをやってはいけない、と言ってあったのである。
大体、将来モビルスーツに乗る人間が、テレビゲームのやり過ぎで目を悪くするなどとは洒落にならん。
・・・ただでも、コウ(十一歳)はにんじんが食べれないのだし。
案の定、コウ(十一歳)は喜んで、テレビの前に座り込んだ。今やっているゲームはスーパーロボット大戦αだ。
・・・やれやれ。すこしは、嵐の事を忘れてくれたらしい。
ガトーは、この隙にコウ(十一歳)の気をさらに台風から逸らす為、気合いの入った夕食を作るべく
台所に向かった。
・・・・・家の外で、どんどんと風はうなりを増していた。




「ごちそうさまでした!・・・ああ、今日はなんだかごちそうだったね、なんで?ガトー。」
コウ(十一歳)は、そう言うと箸を置いた。きちんと手も合わせた。
「別に。理由など無い、台風の日はやる事が無くて、隙だから・・・・・」
そこまで答えて、ガトーはしまった!と思った。・・・見ると、コウ(十一歳)は忘れていた!と言わんばかりの
顔をして、鼻をピスピス鳴らしはじめている。
「台風・・・・」
・・・・ああああああ!せっかくコウ(十一歳)の気を他の事に散らそうと、これまで苦労して来たガトーの努力も
全て無駄になった。コウ(十一歳)はもう、全身全霊を傾けて家の外の物音に耳を澄ませている感じだ。
「たいふう・・・・嵐!ああ、僕なんで忘れてたんだろう!!??ガトー、嵐だよ!!」
ガタガタ、ピューピュー。
数時間前の比では無く、今や風は吹き荒れ、雨も舞い踊っている。
「嵐!あらし!ああっ・・・・どうしよう!」
まだ鼻をピスピス鳴らし続けるコウ(十一歳)を、どうにかこうにかガトーは押さえ込んだ。・・・立ち上がりかけていたからだ。
「落ち着かんか、コウ!・・・台風が来る程度でそんなに興奮するな!」
「でもぉ・・・・でもっ、ガトー、台風だって!!!」
その返事に、ガトーは思わず宙を仰いだ。・・・・知らなかった。
「・・・・分かった。落ち着け。そんなにわくわくしているのなら、今日は『特別なこと』をする日にしよう。
・・・・ふとんを部屋から運んで来い、今日はここで、非常時用リュックを抱えて眠る事にする・・・・
この茶の間でだ!・・・・準備!」
とたんに、コウ(十一歳)が『はいっ!』と返事をすると嬉しそうに部屋を飛び出してゆく。
・・・・知らなかった。
知らなかった、本編で出会った時には、コウ・ウラキという人間がここまで感動しやすい人間だとは!
・・・・なんと育てづらいことだろう。
「・・・持って来ましたぁ、ガトー!!!」
そんなガトーの思いとは裏腹に、コウ(十一歳)は嬉しそうに部屋から自分のふとんを抱えてよろよろ茶の間に戻って来た・・・・
だって、ええっと、わざわざ部屋が有るのに茶の間で寝るなんてちょっとしたキャンプみたいじゃないか!!
「よし・・・大人しくしていろよ?」
ガトーは小さくため息を付くと、ちゃぶ台を脇に片付け、自分もふとんを取りに部屋に向かった・・・・
とにかくこういう日は、コウ(十一歳)を早く寝かせてしまうに限る。・・・・そう思った。
・・・・・外に吹き荒れる風は強くなる一方だった。




「ねえ、台風が来るとどうなるの、ガトー?」
そうは言ったものの、こんな日に早く寝つける子供は居ない・・・それはコウ(十一歳)に限った事では
なく、だ。わくわくして寝られない子供は、きっとこの日本中にワンサカいるのだろう・・・・
電気を消した茶の間で、久しぶりにコウ(十一歳)とふとんを並べて寝ながら、ガトーは思った。
・・・まあ、これも子供らしくて良いのか。
「そうだな・・・・」
相変わらず風は強い。そうして時々、雨戸にきっと吹き飛ばされた木の枝などが、
パチパチと当る音がするのだった。
「そうだな。台風が来ると・・・・・綺麗になるのだ。」
「え?綺麗に???・・・綺麗にって、なにが綺麗になるの?」
小さい頃はまったく口の遅かったコウ(十一歳)が、こうやって自分を質問攻めにするのも面白い・・・・
ガトーはそう思いながら答えた。
「世界がだ。」
「世界が?」
コウ(十一歳)がまだ聞く。・・・まるでガトーの言う事は、何一つ残らず聞いてやるんだと言わんばかりに。
「そうだ、世界がだ・・・・風が吹く。それは、凄まじく強い風だ。人はみんな、嵐を嫌がる。
嵐に巻き込まれるのは、大変な事だからな。・・・・しかし、大風が吹いて、嵐が過ぎ去るだろう?
雨が全てを、洗い流したとするだろう?
何もかもが、終ってみたとするだろう?・・・・・そうすると・・・・」
ここでガトーは少し言葉を切った。
「そうすると、世界がとても綺麗になっている。・・・嵐とは、そう言うものだ。」
「ううん・・・・・」
コウ(十一歳)は考え込んだようだった。小さい腕をガトーの真似をして組んで、天井を見上げているのが、
廊下に付けられた小さな灯りのおかげで辛うじて見える。
・・・ガトーはその有り様に、思わず笑い出しそうになった。
「それじゃ、『嵐の後』には・・・・・」
・・・・・『嵐の後』には。
そこまでで、コウ(十一歳)の言葉は終わりであった。・・・・どうやら、考え込みすぎて眠ってしまったらしい。
それを見て、ガトーも眠る事にした。




「・・・・・・・・・コウ?」
ガトーが隣のふとんに眠っているはずのコウ(十一歳)の姿が無い事に気が付いたのは、真夜中の事であった。
慌てて飛び起き、時計を見る。・・・・十二時少しすぎ。台風のピークは過ぎたものの、まだ外に強い
風が吹いているのは、雨戸越しの音からも明らかであった。
「・・・・コウ・・・・まったく・・・・・・!」
ガトーは、寝間着の前を適当にあわせると急いで玄関に向かった・・・やっぱり、コウ(十一歳)の草履が無い!
「何を考えてる・・・・・・・!!!」
ガトーは、妙な怒りを覚えたまますごい勢いで玄関を飛び出した。引き戸を開いた瞬間に、
凄まじい風と雨が自分の身体にぶちあたってくる。
「・・・・・・コウ!何処だ、返事をしろ!」
叫ぶ端からその言葉すら吹き飛ばされるような風の中で、名前を呼ぶのも無意味な気がしたが、それでも
一応ガトーは呼んでみた・・・・どんなに大声で叫んでも、三メートルも離れていたら声は聞こえ無さそうだ。
近所の迷惑にはなるまい。・・・それだけが救いであった。
「・・・・・コウ!・・・・・・・・!!」
が、あっけないくらい近くに、コウ(十一歳)は居た。・・・・何のことはない、家の前の道路だ。
何を考えているのやら、道路の真ん中で、びしょびしょに雨に濡れながら、コウ(十一歳)は
両手を広げて仁王立ちになっていた。
・・・・何故か、ガトーの気配を感じたらしく、コウ(十一歳)は振り返る。そうして、ガトーいる事に気付くとちょっと笑った。
「・・・・ガトー!」
そうして、飛び出して来たガトーに、コウ(十一歳)は走って来ると飛びつく。
「・・・何をやっている!真夜中だぞ、家に入らんか!!」
ガトーは凄まじい剣幕でそう言った。・・・吹きすさぶ風のせいで、どうしても大声になる。
すると、コウ(十一歳)も怒鳴りかえした。
「嵐にねー!!嵐にあってたんだよ、ガトー!」
「それは見れば分かる!・・・バカかお前は!」
すると、コウ(十一歳)はにっこり笑ってやっぱりこう叫んだ。
「だってさ、ガトー!!嵐が来ると、世界が『綺麗になる』んでしょー!!?
世界が綺麗になって、全てが洗い流されて、それでさー!!!・・・ねぇガトー、それで、『嵐の後』で・・・・!」
・・・嵐の中で、怒鳴り合う二人。
コウ(十一歳)が、ぎゅっとガトーの着物の袖を掴む。




・・・・・『嵐の後』で。




「『嵐の後』の、綺麗になった世界で!!!!・・・その世界だったら、僕とガトー・・・・もう一回やり直せるんでしょ!!!?」




「−−−−−−−−−−−−−−−−・・・・・」
その、あまりのコウ(十一歳)の言葉に、ガトーは思わず答える事が出来なかった。・・・いや。
一瞬、声も失った。
・・・・そんな無言のガトーを残して、そこでコウ(十一歳)は何を思ったのか、バッと踵を返してガトーから離れると
少し遠くまで走ってゆく。家の前の道路を。・・・・そうして、呆然と立っているガトーにむかって、わざわざ手を振ると、
今度は一目散にこちらに向かって走って来た。









・・・・走って来た。コウが。嵐の中を、全てを洗い流しながら。自分だけを目指して、一直線に。・・・脇目も振らずに。









「・・・・・・・・コウ・・・・・!」
思わず、ガトーはそれだけ言うと、走って来たコウ(十一歳)を思いきり抱き締めた。・・・嵐の中で。
びしょ濡れになりながら。




・・・・知らない、こんなコウは。一体何処まで、コウは自分達が本編で迎える結末を知っていると言うのだろう。




「・・・はい、ガトー。」
コウ(十一歳)は、ちいさく呟くと、ガトーの首に嬉しそうに力一杯ぶら下がった。




・・・・・嵐の後。




そして嵐の後、何もかもが吹き飛ばされて真っ白に綺麗になった世界で。・・・・・他には何も無くなった世界で。














・・・・・ただもう一度、あなたに会いたい。














気の早かった夏の嵐は、次の日の朝にはすっかり過ぎ去り、ただただ世界だけが美しかった。
その世界の夜明けを、ガトーとコウ(十一歳)は、雨戸を開けながら一緒に見上げた。
そうだ、その何も無くなった世界で。














・・・・・ただもう一度、出会いたかったんだ、お互い。・・・・・・・・・・そんなおはなしは、ダメなの?














うん、すごい話になって来た(笑)。てなわけで、第10話、『自由研究編』に続く(><)!














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