(がとーらぶ姉様に捧げます。読んでから、怒らないでください/笑。)









第8話:海へ山へ編:2000.08.08.







梅雨が終って、7月の終わりから、当然だがコウ(九才)の小学校も夏休みに入った。
「ただいま帰りました、ガトー!」
そう言って、コウ(九才)がばたばたと玄関の三和土(たたき)から駆けあがってくる。
「おかえり。・・・ハンコは?」
「もらった!」
嬉しそうにコウ(九才)が朝食の用意をしていたガトーに紙を見せる。・・・それは、何故か夏休みなると
全国の小学校で行われる『ラジオ体操』の、出席表だった。そうだ。ハンコを押してもらって、
最後にはノートやエンピツが貰えたりするアレだ。
「・・・よし。今日は忙しいんだろう。・・・準備!」
「はい!」
コウ(九才)は元気にそう答えると、朝ごはんにありつくべく手を洗いに洗面所に急いだ。
・・・そうだ。今日は忙しいのだ。・・・何故なら!





「ほらほらほら、全員そろったかい!!」
小学校の校庭では、シーマ先生がそう言って皆をどやしつけていた。そうなのだ。
今日は、保護者と一緒に、みんなで夏のレクリエ−ション(1泊2日)に出かける日であったのだ・・・!
「・・・おやまあ、『保護者の』ガトーさん?」
その時、シーマ先生がコウ(九才)と、その隣に並ぶガトーを見つけて近寄って来た。
「・・・何か悪いか。」
ガトーが苦々しげにそう言った。・・・本当はシーマには会いたく無かった。・・・が、今回の
旅行を楽しみにして毎日毎日スキップしそうになっているコウ(九才)を見ていたら、
とても『私は行かない』とはガトーにも言い出せなくなったのである。
「別に。何も悪く無いともさ!」
ふん!と、シーマ先生は鼻で笑うと、更に隣に立っていたキース(九才)と保護者のモーラに挨拶しに行ってしまう。
「・・・絶対何か企んでるな・・・」
ガトーがそう小さく呟いたのを、コウ(九才)は聞き逃さなかった。
「・・・ガトー?・・・ガトーって、シーマ先生と仲悪いの?シーマ先生の事嫌いなの???」
ガトーがふと下を見ると、コウ(九才)が心配そうに自分を見上げていた。・・・随分と知恵が回るように
なったものだ。
「いや。別に。・・・そりゃ、確かに好きでは無いが。」
「えっと・・・えっと、僕はシーマ先生のこと好き!楽しい先生だよ?」
「・・・人の事は心配せんでいい。」
ガトーは、そう言って思わずコウ(九才)を抱え上げそうになった。しかし、人前でそれは
まずかろう。・・・というか、小さい時からのくせで、自分はコウ(九才)をあまやかしすぎだ、おそらく。
見れば、隣ではキース(九才)がモーラに頭をひっぱたかれている所であった。
どうやら、自然学習なのにゲーム機を持って来たらしい。・・・これが普通だろう、九才の男の子を
育てるなら。
「さてと!じゃ、さっさとバスに乗ってもらうよ!行き先は海も山も有る、神奈川県は大磯だよ!
大磯ってのはね、『ドキッ!女だらけの水泳大会!』をやるので有名な、大磯ロングビーチっていうプールが
ある所さ!・・・ガキども、嬉しいかい!」
おおー、と子供達が分からないながらも時の声を上げた。
・・・ガトーは、夏休みが終ったらコウ(九才)を転校させようと、また思った。





とにかく、順調にバスは走り、ついに大磯にやってきた!コウ(九才)たちは、ここで
2日間砂浜でキャンプファイヤーをしたり、裏手の山に登ったりするのだ。
「・・・じゃ、宿に荷物をあずけたら、浜辺に集合だ!ダレてんじゃないよ!
シーマ先生は、とにかくいつもワイルドであった。子供達は、そのどやし方に慣れていたが
保護者の方はそうはいかない。
「・・・シーマ先生ってのは、えらく威勢のいい先生だねえ・・・」
それでも言葉を選びながらモーラがそう言う。と、その時となりにガトーがいるのに気付いたらしく、
声をかけて来た。
「どうも!・・・確か本編じゃお知り合いでしたよね、シーマ先生と?」
「やむを得ず。」
ガトーも、そう言ってモーラに軽くおじぎした。この、体格のいい女性とはそれなりに
気が合いそうだ。
「・・・ガトーの分も、僕運んでおくよ!」
その時、バスから遅れて飛び下りたコウ(九才)が、凄い勢いで走って来ると
ガトーの荷物もううん、と持ち上げて海辺の宿に向かいかけた。
「大丈夫か?」
「大丈夫−!大きくなったしー!」
ガトーのかけた声にコウ(九才)がそう答えると、よろよろしながらも荷物を二つ抱えて
歩き始める。・・・その後ろ姿を、ガトーはすこし嬉しく見つめた。
「あのう・・・」
見ると、モーラがなんとも言えない顔でガトーを見ている。
「何か?」
「ええ、はい。仲がいいですよね、そちらさん、いつも思うんですが。このくらいの年になると、子供はわりと
話をしてくれなくなりますよね?」
モーラが、ちらっとコウ(九才)と一緒に宿に入ってゆくキース(九才)を見ながら言う。
「まあ・・・」
確かに、仲はいい。それが問題なのだが。・・・そもそも、コウ(九才)はどうしてここまで
自分になついてしまったのだ?
・・・ともかく、そんなわけでモーラは後から宿に自分の荷物を置に入って行ったが、
ガトーは宿に入らなかったので、そこにシーマが仕掛けた大きな罠が有る事に気付かなかったのだ・・・。
数分後、浜辺は水着に着替えた子供達の声でいっぱいになった。





「うみーーーーーー!!!!」
当然の事を叫びながら、嬉しそうにコウ(九才)が海に駆け込んでゆく。・・・ああ。
こんなに喜ぶのならば、もっと早く海水浴に連れて来てやれば良かった。ガトーは、
他の保護者と共に浜辺で待機しながらそう思った。
「やめろよー、コウ!!」
子供達は、この午後の数時間を目に届く範囲の浜辺で遊んでいいことになっていた。
コウ(九才)に海水を思いきりかけられたキース(九才)が叫んでいる。
「ガトー!!」
その時、コウ(九才)が振り返るとガトーに向かって手を振った。しょうがないので、ガトーも
振り返す。・・・それを、シーマ先生と他の保護者が面白そうに見ている。
「・・・ニヤケすぎだよ、アナベル・ガトー。」
シーマ先生が、近くまでわざわざ歩いて来るとそうガトーに耳打ちした。
「・・・笑止な。そんな事は無い。」
・・・確かに。この、杞憂すべき事態を・・・『自分になつきまくっているコウ』を、
何とかしなければ・・・・。
「・・・・・・ガトーっっ、はいっ、これ!」
そこへ、折悪く問題のコウ(九才)が、何も考えない風で息を切らしながら駆け上がって来た。
「・・・・・?」
コウ(九才)が両手を差し出すので、ガトーも手を広げる。・・・すると、コウ(九才)は、その手のひらに
何かをたらした。
「・・・・これは?」
「海の水!」
それだけ言うと、コウ(九才)はまたキース(九才)の待つ波打ち際に駆け戻っていく。
さすがに、周囲が笑い出し、シーマ先生に至っては腹を抱えそうな表情なのを見て
居心地が悪くなったガトーは少し離れた堤防沿いの道路に上がった。
・・・なんとかせねば。





その時、堤防沿いの道路で考え込んでいたガトーは、下の浜辺でざわめきが起こったのに
気付くのがワンテンポほど遅れた。
「・・・・・・・?」
確かに、何か騒ぎが起こっている。
「・・・ガトーさんっっ!」
凄まじい勢いで、モーラに名前を呼ばれてガトーは浜に駆け下りた。
「何です?」
「コウ君が・・・!!」
その台詞を半分ほど聞いた時には、もうガトーは波打ち際に向かって走り出していた。
「・・・・・コウ!?」
「ああ、ガトー!大変だよ、コウのヤツめ・・・何も考えずに背の届かない深い所までいっちまって・・・!」
見ると、シーマ先生ですら少し青ざめた顔でガトーを見ている。それから、脇につったって
泣きそうな顔をしているキース(九才)。
それらのモノを、やけに遠い音声とスローモーションのような映像で見ながら、ガトーは人込みをかき分けた。
・・・・なんて事だ。
海水浴場監視員のライフセーバーの脇に、コウ(九才)が青い顔をして横たわっている。
・・・なんて事だ。
「・・・コウ!!!」
全ての人間をその体格で押し退けて、ガトーはコウ(九才)の脇に飛びついた。





「コウ!目を覚まさんか!!」
顔を叩くが、反応が無い。
「・・・コウ!まだ、何も教えていないのだぞ!これからなんだ、何をしている!!」
だが、やはり反応は無い。
「・・・人工呼吸をします。まだ、間に合うかも知れない。その少年が引っぱり上げて来たのですが、
もう随分水を飲んで・・・・」
「何故もっと早くに気付かないんだ!お前はそれが仕事だろう!」
ごちゃごちゃ話し出すライフセーバーに、思わずガトーは掴みかかりかけた。
「・・・そんなこともあります。本当にすいません。退いて下さい、とにかく今は・・・」
遂にガトーはそのライフセーバーに掴みかかった。そうして軽く突き飛ばした。
・・・・ああ。





『なつきまくっているコウ』で構わない。





とにかく死ぬな、と思った。・・・これから、ちゃんとガンダムに乗って、私と戦うんだろう、お前は!!
「・・・・・・っ」
ええと、確か心臓マッサージが5回に人工呼吸が1回。
コウ(九才)の鼻を摘むと、口に思いきり空気を吹き込む。・・・反応は無い。





なんとかするのも後でいい、まだ時間はある。





もう1回。心臓マッサージ5回に、人工呼吸が1回。
・・・その時、コウ(九才)の胸がやっと少し持ち上がった。・・・そうして、
大きく息を吸うとむせて海水を吐き出す音。
「・・・・・・・・・が・・・・・・・・・・・・」
「・・・・話すな!」
辺りに、安堵のため息が漏れた。シ−マ先生などは、『ちっ、これで教職の首が繋がったよ!』などと
憎まれ口を叩いた。・・・その割には、本気で嬉しそうだったが。
「がとおぅ・・・・・・」
「ここだ。」
それだけ小さく答えると、遂にガトーは周りが見ているのも構わずにコウ(九才)を抱え上げた。
「・・・休ませる。・・・部屋は。」
シ−マ先生が、案内する、と小さく顎をしゃくった。





「・・・というわけで、『コウ・ウラキと、将来コウがお嫁にしたがっているガトー』は
二人だけ別の部屋にさせてもらったよ。」
「・・・・・・・・・」
ガトーは、その部屋割りに呆れ果てた。が、さすがに
コウ(九才)を抱え上げていてはシーマ先生を殴る訳にもいかなかった。
「・・・とっとと出て行け。」
「しょうがないねえ、そうするよ。」
シーマ先生は軽く首を竦めると出て行く。・・・この部屋について文句をいうのは明日にしよう。
ガトーはそう思った。そうして、とりあえずコウ(九才)をおろすと押し入れからふとんを出す。
「・・・・シーマ・ガラハウ?まだ何か用か?」
その時、民宿の廊下にまだシーマ先生が居る事に気付いたガトーがそう言った。
「・・・コウはさ。泳げりゃ、海賊の私の手下にしたいくらいなんだがね。・・・だめかい。」
「・・・・・・・・・・・・断る。」
ガトーは、しばらく考えてからそう答えた。シーマ先生は今度こそ本当にしょうが無さそうに首を振って
歩いて行った。
「・・・・がとぉー・・・・・・・」
ふとんに寝かされたコウ(九才)が、まだ具合悪そうに首を振りながらそう言った。
「何だ。」
ガトーはそう言って脇に座り込む。
「・・・・ごめんなさい・・・おどろいた、僕溺れたね・・・・」
「だめだ、謝っても許さん。お前は海水浴も出来んのか。」
「うー・・・・ごめんなさい・・・あのう・・・・・でも・・・・」
コウ(九才)はふとんのなかで丸くなりながらまだ何か言おうとする。
「なんだ。・・・寝ろ。」
「・・・・・・・・・・・・にんじん・・・・・・・・・・・」
・・・・ああ、もう。





『なつきまくっているコウ』で構わない、多分、今はまだ。





コウ(九才)はガトーにキスをしてもらうと嬉しそうにこう言った。
「・・・えっと。生きてて良かった・・・・」
ガトーは思わず、頭を抱えそうになったが、それは我慢した。





・・・そして、案の定次の日に起きるとコウは十一才になっていたが、
それはまた別の話・・・・・・・・。















ところで、ここはコウサイトです(笑)。てなわけで、第9話、『夏の嵐編』に続く(><)!















HOME