(がとーらぶ姉様に捧げます。読んでから、怒らないでください/笑。)









第7話:雨に歌えば編:2000.07.07.







ざあざあざあ、雨の音。





9才になったコウは、ガトーに自分の部屋を作ってもらった。
小学校三年にもなったら、1人で寝るのが当然だ、というのがその理由だ。
ともかくその日は日曜日で、学校はお休みだったので、コウ(9才)は家の廊下を
さっきからいったり来たりしていた。





ざあざあざあ、雨の音。





全国的に梅雨であった。梅雨明け宣言が出るのはいつも
7月も20日過ぎだ。
ガトーは茶の間で、目の前の廊下をコウ(9才)行ったり来たりするのを
本を読みながら見るとはなしに見ていたが、ついに声をかけた。
「・・・コウ。一体何をしているのだ。」
「えー?」
廊下の端まで行った所だったコウ(9才)が駆け戻ってくる。
「えっと・・・運動!今日も昨日もおとといも雨で、剣道の練習もしなかったでしょ?
だから、運動!」
コウ(9才)は茶の間に駆け込んで来ると、ガトーの座っているちゃぶ台の周りを
ぐるぐるぐるぐるとまだ回った。
「・・・茶の間では走るな。」
ガトーがそう言うと、コウ(9才)はピタっと足を止めた。ガトーの脇に、
半ズボンから伸びた足がつったっている。コウ(9才)は随分大きくなった。
手足も伸びて、小さい頃に心配したほど痩せぎすでも無くなった。
・・・私が飯を食わせている割にはまだ痩せているが。
ガトーはそう思って、突っ立ったままのコウ(9才)を見上げた。
「コウ?何を突っ立っている。」
「うーん・・・ねえ、ガトー、雨の日には何をしてればいいの?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ガトーは思わず返事につまった。





ざあざあざあ、雨の音。





「・・・私だったらとりあえず走り回ったりはせんな・・・」
ガトーがそう答えると、コウ(9才)は隣に座ってもいいですか、とガトーに聞いた。
ガトーが頷くと嬉しそうに座り込む。そうして、ガトーの読んでいる本を
隣から覗き込んだ。
「・・・読めない漢字ばっか。」
「よりによって森鴎外だからな・・・」
ガトーは思わず笑った。
「雨の日にやる事を考えようよ。この間、体育の授業が雨でつぶれた時も、
シーマ先生がそれをみんなでやろうって言って、やったの。」
「・・・どんな事をクラスで考えたんだ?」
雨の日に、授業が潰れてみんなで楽しい事を考える時間にするだとは
シーマにしてはやる。ガトーがそう思っていると、コウ(9才)が言った。
「えっと、違うよ、シーマ先生が楽しい事を、みんなでやる事にしたんだよ。
シーマ先生は、雨の日でも『まーじゃん』とか『ぱちんこ』は
できるってさ。でも、僕らがやったらつかまるって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ガトーは、やっぱりコウ(9才)を転校させようかと、毎日考えてしまう事を
また考えた。





ざあざあざあ、雨の音。





「・・・そうだな、アルバムを見るって言うのはどうだ。」
ふと思い付いてガトーは言った。
「アルバム?アルバムって写真の貼ってるやつ?」
「そうだ。」
コウ(9才)が興味を示したのでガトーは自分の部屋からアルバムを持ってくる。
「・・・ほら、これが小さい頃のコウだ。・・・今も小さいがな。」
コウ(9才)は何故か5才の時からこの家で育てられているが、それから
後の物はガトーがマメに整理整頓して来たのできちんと閉じてあった。
「えー。僕、こんなに小さく無いもの。」
「だから、昔のだ。」
コウ(9才)の台詞にガトーは笑った。
色々な事があった。コウを捨てようと思った事もあった。
バニングが引き取りに来た事も。
しかし、ここまで育てたからには後10年分、なんとしても死力を尽し、コウを立派な軍人に育てなければ・・・・!
ガトーが決意を新たにしている時、コウ(9才)はもう一冊のアルバムを見つけた。
「ガトー、こっちはなあに?」
「ああ、これは・・・」
それは、ガトーの個人的なアルバムだった。ここは、ガトーの家なのだから
そんなものがあってもおかしく無い。いや、ここがたとえどんな世界だろうとも。
「私のアルバムだ。見るか?」
コウ(9才)が面白いくらい頷いた。ガトーは笑ってアルバムを手渡す。
「あー・・・ガトーが小さい・・・!」
アルバムを覗き込んだコウ(9才)が叫び声を上げた。





ざあざあざあ、雨の音。





「これは?これは?」
コウ(9才)が写真を次々と指差す。
「これは・・・そうか、今のコウと同じだ、9才の時のだな。」
「髪の毛長いの、女の子みたいだよ。」
「・・・時々間違われたな。」
コウ(9才)とガトーが二人で覗き込みながら、どんどんページをめくってゆくと、
次第に知っている人たちも出て来た。
「ああ、ケリィさんだ!」
「これは、士官学校の時のだな。」
「ケリィさんも若いねー。」
コウ(9才)が知った風な口を聞くので、ガトーは思わず笑った。
「デラーズのおじさん。」
「一年戦争の終わりの頃だな。」
「・・・お隣のニナさん。」
「月でちょっとつきあっていた。・・・血迷ってな。」
「・・・・これは?」
「−−−−−−−−−−−−−−・・・・ああ、」
思わずガトーはため息をついた。





ざあざあざあ、雨の音。





「・・・・これはお前だ、コウ。」
ガトー自身も、19才のコウを久しぶりに見たのだった。
「・・・僕?」
「そうだ。・・・初めてあった時のお前だ。」
「僕より大きいよ?」
「しかしお前だ。」
ガトーには、この世界の矛盾を小学3年生にも分かるように説明するにはどうすればいいのか
いまいち分からなかった。
「・・・僕、ガトーと会うの?」
「会う。」
「・・・それでどうなるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





ざあざあざあ、雨の音。





ガトーは少し考えた。・・・それからゆっくりこう言った。
「そりゃ・・・戦うんだ。」
コウ(9才)もしばらく考えていた。それから、こう言った。
「うん、戦う。・・・僕大きくなるよ。・・・それで、ガトーを倒す。」
それっきり、しばらく二人は何も言わなかった。
庭では、開き切ったアジサイの花の残りが、激しい雨に打たれ続けていた。





「雨が止んだら、散歩にいくか。・・・動きたくってしょうがないんだろう。」
随分時間が立ってから、ガトーが遂にそう言った。
「・・・うん!」
大きくコウ(9才)は頷いた。
「雨が降るとな、ほこりが掃除されて、空気が綺麗になるんだ。」
ガトーはそう言いながら、立ち上がりがてらコウ(9才)の脇に手を入れて
ぐるり、と回してやった。コウ(9才)はうわあ、と喜ぶ。・・・これ以上大きくなったら、こんな事も
出来まいな。・・・ガトーは思った。
外へ出る玄関端で、コウ(9才)が少し息をつめてから言う。
「あのね、ガトー・・・」
「何だ。」
ガトーが振り返ると、コウ(9才)は何故か泣きそうな顔をしていた。
「あの・・・僕頑張って大きくなるから、僕を置いていかないでね。
・・・1人で行っちゃわないでね。」





ざあざあざあ、雨の音。





ガトーは答えなかった。
その代わりに、コウ(9才)の手を掴むと、まだ雨はやみかけだというのに、
外へ散歩に連れ出した。
・・・歩き回っているうちに、虹が出て来た。
二人は夕暮れ近くになるまで長い散歩をしてから、家に戻って来た。















・・・あ〜ら、しんみり・・・(笑)。てなわけで、第8話、『海へ山へ編』に続く(><)!















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