(がとーらぶ姉様に捧げます。読んでから、怒らないでください/笑。)
第6話:母の?日編:2000.05.13.
コウ(7才)がその日、学校から帰って来るなりニコニコ笑いながら
ガトーに飛びついて来たので、ガトーはちょっと嬉しく思いながらもため息をついた。
「・・・コウ。ただいまの挨拶は?」
「うん、今かえりました、ガトー!あのね・・・」
あまり怒られていることを気にするでもなくコウ(7才)はそう続ける。
まずい、とガトーは思った。・・・ここはきちんとしつけなければ、
コウは挨拶も出来ない子供に育つぞ・・・。
「あのだな、コウ。そこに座りなさい。」
ガトーは、その時縁側で将棋の本を読んでいたのだが、それをパタンと閉じるとそう言った。
「はい。ぼくも話があるんだよ、ガトー。」
すると、なんとコウ(7才)もそう言ってガトーに向き合って正座した!
「・・・ともかくだ。挨拶がきちんと出来ると言うのは人間の基本だ。
であるからして・・・」
ペースを乱されそうになったガトーは辛うじてそう続けたが、次のコウ(7才)の行動で
その話は完全に中断された!
「・・・・・はい、これ!ガトー!!」
そう言うと、コウ(7才)は後ろ手に持っていた何かをガトーに差し出した!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは?」
「カーネーションだよ!きょう、学校で作りました。シーマ先生がおかあさんに渡すように、って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私は母親ではないぞ・・・・?」
ガトーは気付いた。今日は、金曜日だが明後日の日曜日が母の日だ。
「うん、それはいいんだって。ぼくは、ガトーに渡すようにって。」
「・・・・・・・・シーマめ・・・・・獅子心中の虫が・・・!」
なんと、コウ(7才)が差し出したものは、折り紙で作ったカーネーションの花だった!
「・・・うれしく無いの?」
あまりに恐い顔でガトーが黙り込んでいるのに気付いたコウ(7才)が心配そうにそう言った。
「え?」
そう言われて、ガトーはやっと目の前のコウ(7才)が泣きそうな顔をして
自分を見ているのに気付いた。
「・・・いや・・・嬉しいぞ・・・嬉しいとも・・・しかしだな・・・・」
「・・・あ、えっとね、これもあります。」
ガトーが返事に戸惑っていると、コウ(7才)がランドセルの中をごそごそやって
更に何かを取り出した。
「はい!」
・・・・・泣かせるじゃないか。それは、『ごはんつくり券』と、『おふろそうじ券』だった!
「・・・・コウ・・・・!」
遂に、我慢できなくなってガトーはコウ(7才)を抱き上げた!
「わあ!」
コウ(7才)は、はしゃぎ声をあげて喜んだ。そして言った。
「あのね、だから、今日のばんごはんはぼくがつくるの!」
「ああもう、そうしろ。好きにしろ。」
ガトーさんちには、いつもと同じ平和な夕暮れが訪れようとしていた。
・・・話は飛ぶ。その頃のとなりのニナさんとモーラさんち。
チャック・キース(7才)は非常に頭を悩ませていた。
・・・・・・・何でうちには、母親が二人居るんだ・・・・・・!!??
これでは、どっちにカーネーションをあげればよいやら分からない!!
キース(7才)は、自分の部屋でため息をついた。困った・・・。
「シーマせんせえ・・・」
キース(7才)は子供らしく無いそぶりで天井を見上げると呟いた。
「もてる男はつらいよ・・・」
・・・だれか、キース(7才)に突っ込んでやってくれ・・・。
その頃、台所で夕食の用意をしていたモーラはふと気付いた。
今日は、キース(7才)が学校から帰って来てからやけに暗くないかい?
「・・・ニィナ!ちょっと、キースの様子見てきとくれよ!」
すると、何かの実験をガレージでやりかけだったニナが答えた。
「ええ?私今、ちょっと手が離せないのよ!・・・きゃあ!」
ニナさんとモーラさんちに派手な爆発音は付き物である・・・。
「・・・ううん。またやってら・・・」
二階の子供部屋では、キース(7才)がまだ頭を悩ませて居た。
「じゃあ、みちゃだめだよ、ガトー!」
そう言うと、コウ(7才)はお勝手にこもった。
「うむ。」
・・・見てちゃダメも何も。コウ(7才)は二種類しか料理を作れない。それも、料理と
言えるかどうか。
「うーんと・・・届かないの・・・」
コウ(7才)がぶつぶつ言いながらお釜の脇に踏み台を引っ張ってゆく音を、
ガトーは引き戸の陰からハラハラしながら聞いていた。
コウ(7才)が作れる料理は『おむすび』と『目玉焼き』なのだった!
「・・・あっついの〜」
引き戸の向こうからコウ(7才)の泣きそうな声が聞こえる。
・・・バカモノが!しゃもじを使え、しゃもじを!
きっとコウ(7才)は素手をお釜に突っ込んだに違い無いと思ったガトーは心の中で叫んだ。
手を直接お釜につっこむバカがいるか!
ああ、こんなことならば、もう少しコウ(7才)に料理を教えておくのだった。
「ああ・・・そうか。」
コウ(7才)も、やっとお皿に一度移してからおむすびを握る事を思い付いたらしい。
「だいじょうぶ、あつくない・・・」
そうつぶやきながら、たかがおむすびを握るコウ(7才)に、ガトーは思わず目頭が熱くなった。
その頃、隣の家ではキース(7才)がまだ悩んで居た。
「・・・キース!晩御飯だよ!何回言ったら分かるんだい!」
階段の下からモーラが叫んだ。モーラの子育てはワイルドだ。
「・・・きこえてるよぉ!」
キース(7才)は叫び返した。・・・生きるか死ぬかくらいの大問題だ、これは。
「う〜ん・・・」
そうして、カーネーションを服の下に、お手伝い券を半ズボンのポケットにつっこむと、
仕方が無いので階段を駆け降りた。
その頃、コウ(7才)の夕飯づくりは佳境を迎えようとしていた。
「・・・あぶら・・・ひけました。」
コウ(7才)は、ぶつぶつ呟きながら器用にハシでフライパンに油をひいたティッシュを生ごみ入れに
放り込む。まるで、実験をしているようだった。
「・・・たまご・・・」
そこで、コウ(7才)は恐ろしいことに気付いた!!コウ(7才)はたまごが綺麗に
割れないのだ!力の加減がおかしくて、いつもぐしゃっと潰してしまう。
「・・・・・・・・・・・・・」
ガトーは、お勝手の中の物音がしなくなったことでコウ(7才)がその難問に
ぶちあたったことに気付いた!
「・・・・コウ。」
遂に、ガトーは引き戸の向こうから声をかけた。
「はい、ガトー・・・まだなの、ごはん。まってて。」
「うむ・・・ところで、水が飲みたいのだが入ってもいいか?」
「・・・・・・・・・・・いいです。」
中では、ばたばたコウ(7才)が片づけをする音が聞こえた。そうして、ガトーが扉を
開けた時には、机の上の『どうやらおむすびらしい謎の物体』は拝むことが出来なかった。
「すまんな。」
ガトーはそう言うと、流しに向かって早足で向かう。そうして、途中で冷蔵庫を
あけると、すばやくたまごを二つ取り出し、コウ(7才)が『どうやらおむすびらしい謎の物体』を
見張っている間に近くの皿に割り落とした。そうして、適当に水を飲むとまたすばやく
お勝手を後にする。
「邪魔したな。」
「いいよー。」
・・・・引き戸を閉めたガトーは思った。
・・・・こっちの寿命が縮む・・・!!
そのとき、お勝手の中でコウ(7才)は素晴らしいものを発見した!
なんと、お皿に割られたたまごだ・・・・!!
「ああ、よかった!これ使おうー!」
そう言うコウ(7才)の無邪気な声に、ガトーは胸をなで下ろした・・・。
「・・・キース。あんた今日、ちょっとおかしいよ?」
その頃、お隣では食事が始まったところだった。モーラが、そうキース(7才)に声をかけると、
キース(7才)はいじけた返事をした。
「・・・なんでもない。」
「何でも無くはないでしょーが!ほら、言いな!何、悪さしたんだい!一緒に謝りに
行ってやるよ!同級生のスカートでもめくったんじゃないだろうねえ!?」
「・・・ねえ、モーラ。私、思うんだけど、あの実験は水素の過酸化計算が間違ってたわ。
明日、計算し直してみるわよ。」
全く、食事もキースも上の空で実験の失敗の事を考えていたニナがそう言った。
「・・・ほんとになんでもないったら!」
「そんなわけあるかい!・・・・・・・ニナ!ハンバーグのソースが垂れてるよ!」
「え?・・・きゃあ!」
・・・・・・こんなに噛み合わない家族も珍しい・・・。
遂に、キース(7才)が叫んだ!!
「もう・・・どっちがぼくのおかあさんなんだよー!!」
その叫び声に、さすがにニナもモーラも動きを止めた。
「・・・できましたー!!」
そう言って、コウ(7才)がお勝手から飛び出して来たとき、ガトーは心からほっとした。
ああ、良かった。これ以上寿命を縮めずに済む。
「それは良かった。では、夕食にするか。」
ガトーはそう言うと、駆けて来たコウ(7才)を抱き上げた。そうして、お勝手に入ってゆくと・・・
そこには、『かろうじておむすび?』と、『なんとかギリギリ目玉焼き?』があった・・・!!
「うむ、良くやったぞコウ。」
「うん!よかった、お腹減ったよ!」
「では、これを茶の間に運ぼう。」
「はいー。」
二人は、うきうきしながらおむすびと目玉焼きを茶の間に運んで行った。
「・・・いただきます・・・・!」
二人はそう言うと、その世にも不思議な晩御飯を食べはじめた。
・・・幸せだった・・・・!!
「・・・なに?」
「どうしたんだい、いきなり?」
その頃隣の家では、家族大問題が発生しようとしていた。
「だから・・・どっちがぼくのおかあさん・・・?」
キース(7才)は、もう泣きそうだった。ああ!おかしいよ、ぼくんち。
「・・・何でそんなことを?」
「・・・これ!」
モーラがそう聞くので、キース(7才)は遂にカーネーションとお手伝い券を机の上に叩き付けた。
「・・・・・・・・・。」
ニナとモーラの二人は、暫く黙ってそれを見ていた。それから、顔を見合わせると
これまで一度も見たことのないような顔で笑った。
「・・・花はニナにやんな、キース。ニナのが似合うからね。」
モーラがわざわざ机を回って来ると泣きそうなキース(7才)の俯いたままの顔を、
座り込んで下から覗き上げた。
「そうして、お手伝い券はモーラにあげるといいわ、キース。」
ニナも、立ち上がってキース(7才)の脇に来るとその頭を撫でた。
「・・・きっとこき使ってくれるわよ?」
そう言って笑うニナも、心配して自分の手を握ってくれたモーラも、キース(7才)には
とても素敵なおかあさんに見えた。
「・・・ぼく、しあわせなの?」
「そうだねえ・・・」
モーラが立ち上がりながら、ふむ、と言った感じで腕を組んだ。
「・・・幸せだと思うよ?・・・二人お母さんがいるんだから、二倍ね。」
・・・キース(7才)は、じゃ、いいか・・・と、納得することにした。
「ごちそうさまー!」
ガトーさんちでは、夕食が済んだ所であった。おむすびと目玉焼きだけじゃお腹が減るんじゃ無いかって?
心配する事勿れ!ちゃんとガトーが、『夕食そのものよりも立派なデザート』を
用意した・・・・。
「・・・ううん、つかれたよ、ガトー。おふろそうじ、今度でいい?」
「そうだな、別に構わんとも。」
ガトーがそう言うと、コウ(7才)はほっとした顔をしながら、急に何かを思い出したように
半ズボンのポケットに手をやった。
「そうだ・・・これ、ガトー・・・」
「?」
ガトーは不信に思いながらも、そのしわくちゃの紙を受け取った。
・・・・・そこにはなんと、『にんじんしてあげる券』と書いてあった・・・・・・!!!
「・・・・コウ、これは?」
「ううん・・・シーマ先生が、お前はこれも特別に作れって。」
「シーマ・・・獅子心中の虫め・・・・・!!!」
ガトーは思わずもう一回そう言った。
「がとー、これ、つかう?シーマ先生、これねるまえにつかえって。」
「・・・・・・・・・・」
ガトーは、言葉も出なかった。いや、しかし。
「・・・これは、後でな。」
「えー・・・」
慣れない仕事をしたので疲れて今にも眠りそうな勢いだったコウ(7才)が不服そうな声をあげた。
「・・・・あのな、コウ。その、にんじんと言うのは・・・・」
「いうのは???」
・・・言えない。『にんじん』がキスのことだと思ってしまっているコウ(7才)に、
何をどう説明すればいいと言うのだろう・・・!!
「・・・・・つまりだな。」
「つかって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
遂に、ガトーは根をあげた。
「・・・ほっぺたにな。」
「うん・・・でもなんで?」
「・・・お前がしていいのは、そこだけなのだ。分かったか!」
コウ(7才)はまだ不服そうだったが、ともかく眠い目を擦りながらガトーの元に
走って来た。そうして、ガトーのほっぺたにちゅうっ、とキスをした。
「おやすみなさいなのー・・・」
・・・いいかげん、夕食作りで疲れたらしい。
とたんにガトーの膝の上に転がり込むと眠りに落ちたコウ(7才)を、ガトーは
しばし頭を痛めながら見つめた。
「・・・冗談では無いぞ。・・・シーマめ・・・!」
三回目の『獅子心中の虫』発言は止めておいた。ガトーは、ため息をつくと
眠り込んだコウ(7才)を抱き上げた。
・・・ともかく、ふとんに運ばなければ・・・。
真夜中を過ぎた頃、ガトーは腕に何かが当るので目を覚ました。
・・・何かも何もあるまい。きっとまた、隣のふとんからコウ(7才)が転がり込んで来ているに
決まってる。
「・・・あのな、コ・・・・」
そこまで言いかけて、ガトーは思わず言葉を切った。
「・・・コウ・・・?」
「・・・んー・・・何?ガトー・・・」
寝ぼけながらそう言うコウは気付いていない。・・・しかし!
「お前・・・また大きく・・・」
・・・こうして、コウ(7才)はコウ(九才)になった!
「・・・明らかに、キスする度に大きくなってるぞ、おい・・・」
ガトーのため息は、綺麗な五月の月の元を吹き抜けてゆく夜風にかき消された・・・。
・・・てなわけで、第7話、『雨に歌えば編』に続く・・・(笑)。
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