(がとーらぶ姉様に捧げます。読んでから、怒らないでください/笑。)
第4話:実父登場編:2000.04.20.
「やああ~!とおうっ!」
コウ(7歳)にコウが成長したので、ガトーは剣道の朝稽古を始める事にした。
そんなわけで、今日も朝早くから、ガトーさんちの庭には、元気なコウ(7歳)と
ガトーの朝練の声が響いていた・・・。
「・・・元気よねえ。お隣。」
その声を聞きながら、隣の家のニナとモーラの二人組みは目を覚ました。
「ほんっと・・・うちのキースも少しは見習えばイイのにねえ。」
キース(7歳)は、もちろんまだベットの中で爆睡していた・・・そう!
当然この世界では、コウ(7歳)が大きくなるのに合わせてキース(7歳)も大きくなるのだ!
「よし!今朝はこれまで!」
「はい!ありがとーございましたあ!」
隣の庭では、コウ(7歳)がそう言って、朝練が終った所であった・・・。
「ではいってまいります、ガトー!」
7歳になったコウは、小学校に通い始めていた。
「うむ。今日もちゃんと勉強しろよ。」
「はい!」
そう答えると、ランドセルを背負ったコウ(7歳)は玄関口で待っていたキース(7歳)と共に、
元気よく学校へと向かっていった。
・・・コウ(7歳)の居ない家は静かだ。
ガトーはひとりぼっちになった家で、しみじみそう思った。
最初、コウ(7歳)が小学校に通える事になった時、ガトーは嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
普通より一年遅れだが、ピカピカのランドセルを背負って半ズボンをはいて
学校へ出かけるコウ(7歳)の可愛い事、可愛い事!!
「おまけに・・・」
一人きりの茶の間でお茶を入れながら、ガトーは呟いた。
コウ(7歳)は、少し漢字とカタカナが話せるようになった!
相変わらず、となりのキース(7歳)より口は遅いが、まあ、自分の育てている子供が
成長するのを見るのは楽しい事だ。
・・・しかし。コウ(7歳)が転げ回らなくなった家は思ったより広いな。
ガトーがそんな事を考えていた時、家の前では一人の男が
くしゃくしゃの紙を広げ直していた。
「・・・ここか・・・」
その日に良く焼けた男はそう呟くと、静かにガトーさんちの木戸を押した・・・。
「なー、コウ。」
「なに?キース。」
その頃、小学校では同じクラスのコウ(7歳)とキース(7歳)が休み時間にこんな会話を交わしていた。
「ぼくら、なんだかおかしいとおもわないかぁ?」
「おかしいってなにが?キース。」
キース(7歳)の問いかけに、コウ(7歳)は全く無邪気に教科書をしまいながら答えた。
「だってさ~・・・さくしゃのつごうでてきとうに年をとらされるしさ、
よくわかんないけどニナとモーラにそだてられてるし、ぼく。」
「ぼくはガトーにそだてられてるよ?」
はあ、と、子供らしく無いそぶりでキース(7歳)が首を竦めるとこう言った。
・・・本当にこまっしゃくれたガキだ。
「だからさあ~。そだてるのはあ、ほんとうはもっとべつのひとのきがする。」
「なに?」
コウ(7歳)は、分からない、という顔をした。
「んー・・・だからあ・・・」
その時鐘がなって、コウ(7歳)達の授業がはじまった。
「今日は、かけ算の練習だよ!いいから黙って付いてきな!」
教室に入って来るなり、担任のシーマ先生がそう毒づいた・・・。
「・・・あなたは。」
その頃、ガトーさんちでは息詰まる戦いが幕を明けようとしていた。
「・・・サウス・バニングです。・・・ここに『うちの』コウが世話になっていると聞いて。」
ガトーは思わず、堅くなってその人物を出迎えた。なにも、そんなに『うちの』を強調しなくても良かろうに。
・・・連邦軍のサウス・バニング大尉!仮にも尉官だ。そもそものガトーの階級よりは下ると言っても。
「コウは・・・学校に行っている。」
「都合が良い。ハッキリ言おう、あのひよっこを育てるのは・・・」
ガトーさんちの茶の間に通されたバニングは深く息を飲むと言った。
「どう考えたって、誰が考えたって、私の方が適任だ!」
・・・もっともだ。
「・・・・。」
ガトーは、返事も出来ずにただ呆然とバニングとちゃぶ台を挟んで向かい合ってあぐらをかいていた・・・。
・・・・ああ!
そんな息詰まる家の様子を、つゆとも知りはしないコウ(7歳)とキース(7歳)は、
学校が終り家路についた所であった。
「・・・だからさ~、コウ。」
「なんだあ?キース。」
「ぼくたちさ~・・・なんかこう・・・」
その時、通学路の脇の草腹に春らしいツクシの芽を見つけて、コウ(7歳)は目を輝かせた。
「・・・キース!あれ、たべれるんだよ、しってる?」
「なに?・・・えー、草じゃん。」
「でも、ガトーがおひたしでうまいっていってた。」
「もう、おまえ、ガトーばっか・・・」
そんなキース(7歳)の言葉を、コウ(7歳)は全く聞かずにツクシを摘みはじめた。
「おみやげにするー。」
「がっこうがえりにおみやげなんかいるもんかよー。」
しかし、草原から嬉しそうに両手いっぱいツクシを持ってコウ(7歳)が駆けてくるので、
キース(7歳)は呆れつつもまあいいか、という気分になった。
そうして、二人はガトーさんちに戻ってきた・・・。
茶の間では、まだ静かな戦いが続いていた。
「ともかく、コウを一人前の軍人に育てるのは俺だ!」
「だが、あんたは『スケべ野郎のバニング』だろうが!そんな所にコウをやらせられるか!」
「ただいま~!!!いまかえりましたあ!」
その時、茶の間でどんな戦いが繰り広げられているかなど知りもしないコウ(7歳)と
寄り道のキース(7歳)が、元気よく家に帰ってきた。
「ただい・・・あー・・・!!!バニングたいい~!」
茶の間を覗いたコウ(7歳)は、バニングの存在に気付いた。そして、とたんに
バニングに飛びついた!
「たいい~!!」
「おお!俺のひよっこ共!」
バニングは心から嬉しそうにコウ(7歳)と、キース(7歳)を出迎えた。
キース(7歳)が呟いた。
「そうだよ・・・バニングたいいだ、ほんとうはぼくらをそだてるの!」
・・・ガトーは。
ガトーは、その全ての有り様をなす術も無く見ていた。・・・そうか。
そうかも知れん。本当は、コウ(7歳)は、この連邦軍大尉に育てられるのが一番もっとも
なのかも知れない。
「コウ・・・。」
小さくそう呟いたガトーの声は、バニング大尉に会えて嬉しいコウ(7歳)には聞こえなかったらしい。
「ひよっこ共。俺と一緒に来るか?」
『いきますー!』
元気よく二人が返事をした。・・・それを聞いて。
それを聞いて、ガトーは静かに部屋を後にした・・・。
最初から、分かっていた事では無いか。
コウ(7歳)の夢は、『ガトーを倒す』事だった。
もっとちびっこい5歳のコウの時から、コウはそう言い続けていた。
・・・そうして、ガトーもそう教えた。・・・こんな切ない矛盾があるか。
「・・・ガトー?」
コウ(7歳)は、バニングに抱き締められながらも、唐突にガトーの居ない事に気付いた。
「・・・ツクシ・・・。」
「ウラキ?俺と一緒に来んのか?」
バニング大尉がそう言う。しかし、コウ(7歳)はツクシを握りしめて立ちすくんでいた。
「はい・・・いっしょにいきます。でも、ツクシ・・・。」
そう言うと、コウ(7歳)は茶の間を飛び出した。
「ウラキ!」
バニング大尉が叫んでいる。だが、コウ(7歳)はどうしても、手に持ったツクシをガトーに
渡したかった。・・・たとえそれが、永遠の別れだとしても。
「・・・ガトー。ガトー、どこ?!」
ガトーは、家の裏庭に立っていた。独り。ただ、空を見上げるように。
「ガトー・・・」
そうコウ(7歳)が呼ぶと、ガトーはふっと振り向いた。
「・・・コウ。バニング大尉と行くのではないのか。」
「これ・・・」
コウ(7歳)は、摘んできたツクシを差し出した。これは、ガトーにあげようと思った物だ。
あげてから行かなきゃ。
「・・・要らん。さっさとゆけ。」
「・・・でも・・・」
「ゆけ!」
あまりに冷たく、ガトーがそう言うので、コウ(7歳)は泣きそうな顔になった。
「・・・おひたしにすると、おいしいって・・・」
「そんなことは覚えんでいい!もっと他に、立派な軍人になる為に覚える事が有るだろうが!
・・・それを教えてくれるのがバニング大尉だ。・・・ゆけ!」
そう言うと、ガトーはしがみつこうとしたコウ(7歳)の手を振払った。
・・・ツクシが、ばらばらと宙に舞った。
「・・・ガトー・・・」
まだ立ち尽くしているコウ(7歳)に、ガトーはもう声をかけなかった。
「ガトー・・・ぼく・・・」
コウ(7歳)は、何を話し掛けてもガトーが振り返ってくれなそうなのを察して言った。
「・・・好きなの、ガトー。」
コウ(7歳)が走り去った裏庭で、ガトーは呆然と散らばったツクシを見つめていた。
・・・何だって?
思わず口元を押さえる。・・・表から物音が聞こえる。
どう考えても、育てる権利が有るように思える、バニングがコウ(7歳)と、
キース(7歳)を連れてゆく音だ。
「・・・コウ・・・!!」
ガトーは思わず呟いた。それから、走り出した。
「コウ!」
表の木戸から飛び出した時、既にコウ(7歳)とキース(7歳)は、もう随分遠くに歩みを進めている所だった。
「・・・コウ!!」
馬鹿みたいにガトーはその名を呼んだ。・・・ああ。なにをやっているんだ、私は!!
コウ(7歳)は、その声に気付いて後ろを振り返った。
「ガトー・・・」
コウ(7歳)はそう呟くと、バニング大尉の手をふりほどいた。
「・・・ガトー!」
そして、走り出した!ガトーの元へ。
「ウラキ!・・・・この先、どうする気だ!」
バニング大尉が叫んでいる。・・・知らない、そんなことは。
ただ、コウ(7歳)は、これだけは言わなきゃと思っていた。
「・・・コウ・・・!!」
凄まじい勢いで走ってきて、自分を抱き締めてくれたガトーに、コウ(7歳)は
こう言った。
「ガトー・・・おひたし、食べたいの・・・ツクシの。」
それから、コウ(7歳)とキース(7歳)がどうなったかって?
・・・そりゃ、次の物語・・・。
とりあえず、ため息をつきつつバニング大尉は諦めたらしい。
コウ(7歳)とキース(7歳)を育てる事は。
ガトーさんちには・・・今も、変わらずコウ(7歳)が住んでいる。
剣道の朝練をしたり、ツクシのおひたしを食べたりしながら。
幸せらしい。いいじゃないか。
・・・てなわけで、第五話、『上司来襲編』に続く・・・(笑)。
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