(がとーらぶ姉様に捧げます。読んでから、怒らないでください/笑。)
第3話:にんじん克服編:2000.04.19.
ガトーさんちの茶の間では、今、静かな戦いが行われていた。
「・・・コウ。」
ガトーがそう言って声を掛けたが、コウ(5歳)はちゃぶ台の反対側で
むー、と眉根を寄せたままだ。
「コウ。何故食わんのだ。」
理由は分かりきっていたが、白々しくガトーはそう言った。
・・・ここは、一歩も引くわけにはゆくまい!!
「・・・にんじんなの・・・たべれないの〜・・・」
遂に、コウ(5歳)がハシを握りしめたまま泣きそうな声でそう言った!!
本来なら、一日を終えての楽しい夕食時のはずだ。しかし、ガトーさんちの
食卓には『コウ(5歳)が決して食べられない、にんじんを使った料理』ばかりが、
見事に並んでいたのだった・・・!
何も、ガトーもコウ(5歳)を苛めようと思ってこんな食事を料理したのではない。
コウ(5歳)が、にんじんを食べれない事に気付いたのは、かなり前だった。
しかし、可愛がって育てるあまりに今まで、わざわざにんじんの入っていない料理を、
ガトーは作って来てしまっていたのだ!
・・・しかしだ。よくよく考えたら。
「コウ、良く聞け。・・・にんじんも食べられん人間が、立派な軍人になれると思うか!」
「・・・でもぅ・・・」
さすがに、にんじんを使った料理しか作らなければ、他に食べるものがないから
コウ(5歳)も観念してにんじんを食べる事だろう。
子供が、お腹が減ったのを我慢できるはずがない!
・・・そう思ったがトーの考えは少し甘かった。
コウ(5歳)は実に、朝御飯も昼御飯も食べずにここまで来ていたのだ!!
つまりコウ(5歳)は、とても信念の強い子供ではあった・・・確かに。
「にんじんを食べんと、目が悪くなるのだぞ。」
「・・・きーすはにんじんたべれるけどめがわるいもん・・・」
「口答えをしない!」
「あい〜・・・」
もう、コウ(5歳)は空腹やらガトーに怒られるやらで、本当にしくしく泣き出していた。
ガトーはため息をついて天井を見上げた・・・。
「大体、何故にんじんが嫌いなんだ?」
更に、十分程睨みあいが続いた後、ガトーが急に思い付いたようにそう言った。
コウ(5歳)は、我慢強く下を向いて空腹に耐えていたが、
そう言われてひょこっと顔を上げた。
「・・・おいしくないから。」
「食べた事はあるのか。」
その問いに、なんとコウ(5歳)はふるふると首を振った。
「・・・何故食べた事のない物が、まずいと分かるのだ!!」
「・・・だって〜〜〜〜!!!」
遂に、コウ(5歳)は、この日一番だろうというくらいの盛大な勢いで泣き出した。
「たべれないの〜!!おなかへったの〜〜!!がとおおうう・・・!!」
烈火のごとくコウ(5歳)は駄々をこね、泣き続ける。もうこうなると、収集が付かない。
「・・・分かった!分かったから泣くな、コウ、こっちへ来い!」
仕方がないのでガトーがそう言った。
コウ(5歳)に本気で泣かれるのが、ガトーは一番苦手だった!
何故なら、その小さな身体の全てを振り絞る勢いでとにかくえんえんと泣き続けるからだ。
前に、やはりコウ(5歳)が本気で泣き出した事があった。間違って、
コウ(5歳)のガンダムのおもちゃをガトーが捨ててしまった時の事だ。
コウ(5歳)は朝から泣き、昼も泣き続け、夜も泣いた挙げ句に遂に疲れ果てて眠った。
ガトーは、小さな子供がこんなにも小さな事でショックを受ける物だとは
知らなかった。きっと、心の傷になってしまったに違いない。
あの時は、分けも分からず『軟弱な!』と思ってコウ(5歳)を放っておいたガトーだったが、
今はとにかく早く泣き止ませようと焦っていた。
「こっちへ来るんだ!」
ガトーがもう1回そう言う声に、コウ(5歳)はちょっとだけガトーの方を見た。
そうして、泣きじゃくったままガトーに向かって突進してきた!
ちゃぶ台の回りを回るだけの事だったのに、正座し疲れたコウ(5歳)は
三度も躓いて転びかける。そして、すごい勢いでガトーの懐に飛び込んだ。
「おなかぁ〜、おなかへったの〜〜・・・!!」
そう言って、コウ(5歳)はガトーの膝の上でまだうるさく泣き続ける。
おそらく、意地を張っていた緊張の糸が解けたのだろう・・・その有り様と声に、
何とかガトーはコウ(5歳)の口を塞がねば、と思い倦ねた。
「あー、もう・・・分かった!」
・・・そして、イイ方法を思い付いた!!泣き止ませて、にんじんを食べさせる一石二鳥の方法を!
「よし、コウ。ちょっと目をつむっていろ。」
「・・・?」
ガトーがそういうので、コウ(5歳)はしばし泣くのを止めた。しかし、ガトーの服には
しっかりとしがみつき、しかもすぐにも泣くのを再開出来そうな情けない顔で見上げたままだ。
「目をつむっていろと言っただろう。」
「あい・・・?」
コウ(5歳)は、ぐしゃぐしゃの顔をしながらも素直に目を閉じた。その隙に、ガトーは自分の口に
にんじんの煮しめを放り込んだ。しばらく噛んでから、更に念のためコウ(5歳)の鼻をつまむ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
口の中に何かが入って来たので、コウ(5歳)はびっくりして目をあけた。
泣く事は、いつの間にやら忘れていた。
目を開けて何が起こったのかを見る・・・が、そこにはガトーの顔があっただけだった。
口の中に入って来たものは別に不味くもなかったので、コウ(5歳)はそれを飲み下して
しまった。・・・それから聞いた。
「・・・いまの、なに?がとー。」
「にんじんだ。」
「・・・にんじんじゃないの。だってたべれたもん。」
「不味かったか?」
ふるふる、とコウ(5歳)は首を振った。そう答えるコウ(5歳)の顔があまりに
泣き痕でひどかったので、ガトーは苦笑いしながらそれを拭ってやった。
すると、コウ(5歳)はすごい勢いでハシを掴むと近くにあったにんじんの甘酢漬けを摘む。
いいかげんお腹が減っていたのだろう。
そうして、観念したようにそれを口の中に入れた。
・・・が。
「・・・まずいの〜・・・」
あまりに悲しそうな顔でコウ(5歳)がそれを吐き出したので、ガトーは何だか
焦りも怒りも忘れて面白くなってきてしまった。
「さっきのは本当ににんじんだぞ?ほら、見ていろ・・・」
そう言うと、コウ(5歳)が取ったのと同じ甘酢漬けをハシで摘む。
そうして自分の口に放り込み、しばらく噛んだ。
コウ(5歳)は、人が食べているのも見るのがいや、という表情でそれを
見ていたが、なんとガトーがコウ(5歳)に顔を近付けてくる。
「・・・んー・・・」
何をするんだろう?とコウ(5歳)が考える間もなく、
ガトーはコウ(5歳)の口に自分の口をくっつけると、何かをその中に流し込んだ。
それは、見ていた通りだと確かににんじんのはずだ。
が、コウ(5歳)は、不思議とそれは不味く感じなかった。
「・・・不味いか?」
ふるふる、と、またコウ(5歳)は首を振った。
そうして、自分でハシを掴んで、今度は短冊切りのにんじんと
とうふの挟み揚げに挑戦をした・・・・!
・・・何回か、同じ事がくり返され、結局分かった事は、
コウ(5歳)はガトーの口移しでないとにんじんが食えないと言う、
衝撃の事実だけであった・・・!!
・・・数日後。
「いよお、ガトー!ちびコウが、にんじん食えるようになったって言うじゃねーか!」
ガトーの家には、いつも通りケリィとカリウスと、それから隣の家の
キース(5歳)が遊びに来ていた。
「まあな・・・」
心無しか、ガトーはやつれて見えた。
「なんだ?喜ばしい事じゃないか!これでまた一歩、ちびコウは一人前に近付いたな!」
「早く子育て終えて、戦線に復帰して下さいよ、ガトー少佐!」
そんなケリィとカリウスの声にも、ガトーの顔色は良くならなかった。
と、縁側でジムのおもちゃをいじくっていたコウ(5歳)とキース(5歳)が、
こんな会話を交わしているのが大人3人の耳に入って来る。
「こう〜、おまえ、にんじんくえるようになったんだって〜?」
「うん、そう〜。」
「どうやって〜。」
「えっとね〜。がとーが・・・」
「・・・それ以上言うな!!!」
そこまで言った時、ガトーが思いきり青い顔をしてコウ(5歳)の元に駆け寄った。
そうして、コウ(5歳)をを横っ面から抱き上げる。
「いいか、コウ!『にんじんの食べ方』のことは誰にも言うのではない!分かったな!」
「・・・・あい。・・・でも、なんで?」
・・・そんな二人を見ていて、ケリィが何かを悟ったのか、こうボソッと言った。
「・・・ガトーよ。こういう言葉を知っているか?」
「何だ?」
すこし焦りぎみに、コウ(5歳)を抱えたまま、ガトーは縁側からちゃぶ台の脇に座る
ケリィとカリウスを振り返った。
「『若紫計画』」
「・・・あぁ?若紫って、なんだ?源氏物語のか?」
「そうだ。・・・目を付けた相手をだな、自分の好みに調教して育て上げてゆく事を、
そう言うんだよ。」
「・・・何が言いたい、ケリィ・・・」
ガトーが、更に青い顔をしてそう言うと、カリウスが小さく呟いた。
「・・・いいなあ・・・良く分からないけど・・・ちびコウ・・・」
・・・それから、更に数日後。
夜中だった。いつもの通り、奥の和室にふとんを二枚並べてガトーとコウ(5歳)は
静かな眠りに付いていた。・・・と。コウ(5歳)は急に何かに気付いた。
「・・・・・・・・・・・・・?」
真夜中だと言うのに、起き上がる。起き上がって、自分の手を見て、そして・・・
「・・・ガトー!」
知っているような、だが聞きなれないその声に、ガトーは目を覚ました。
誰かが、自分を揺り動かしている。誰か・・・誰かもなにも、コウ(5歳)しか
この家には居ないな。そう思ったガトーは、怒りつつ目をさました。
「何だコウ・・・今何時だと思ってる。寝ないか。」
「ガトー!みてよ!ぼく、ちょっと大きくなった!」
「・・・・・・・!!??」
その言葉に、ガトーはがばっとふとんをはねのけ飛び起きた。
「・・・コ・・」
月の綺麗な夜だった。その明かりが障子の桟を不思議な模様で、畳に浮き上がらせていた。
そんな夜中に、自分のふとんの上に嬉しそうに飛び乗っているのは・・・。
「・・・・コウ。」
「はい!・・・ぼく、ちょっとだけ大きくなったみたいだ!みて!」
コウ(7歳)だった!
コウ(5歳)はこうしてにんじんを辛うじて克服し、コウ(7歳、簡単なカタカナと
漢字なら話せる)に成長した!!
・・・それがにんじん口移しならぬ、ガトーのキスのおかげだったかは誰も知らない・・・。
混迷を深めるガトーさんち(爆笑)!!第四話:実父登場編、お楽しみに(笑)!!
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