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最初、とても急いでいるのだろうと思った・・・マンションのドアを開いて飛び込んで来たその勢いがあまりに凄まじかったからである。
「・・・・・おかえりー。あのさ、今日の晩メシなんだけど・・・・」
いつも通りに勝手に上がり込んで、テレビなどだらだら見ながら帰りを待っていたコウは驚いて顔を上げたが、一声もかけないままにガトーは居間を突っ切って寝室に飛び込む。・・・・ありゃりゃ。居間の壁に掛かった時計を見上げてちょっと考えた。まだ九時にもなってない。普段の帰宅時間より全然早い。・・・・ってことは、もう一回出掛けるのか。
そう思った瞬間に寝室のドアがもう一回開いて、ガトーが顔をだした。
「・・・・・居たのか。ちょうどいい。」
「・・・・・いました。だからおかえりって、さっき。」
見るとパソコンも背広も寝室に放り投げて来たらしく、シャツの前を広げてネクタイはほどきかけ、という適当な格好である。・・・・ってことは、今日は仕事はもうないのか。
「・・・・・今日だな、」
そのままの格好でガトーが居間に出て来たので、コウはあぐらをかいて座っていたソファを少し譲った・・・・が、何故かガトーは座ろうとしない。
「・・・・・今日?」
訝しく思って聞いてみる。今日?今日・・・・って言ったら、俺は外に晩メシを食べに行きたかったんだ、でもなんだか今日のガトーは人の話をぜんっぜん聞かなそう。
「今日、まとまったんだ。・・・・商談が。・・・・かなり長い時間かけて、手こずっていた話が、やっと。」
「おぉー・・・・それは、おめでとうございます。」
そう言ったコウの隣に、やっとガトーはドカリ、と腰をおろす。
「・・・・あぁ。嬉しいものだな。」
「そうか。・・・・うん、良かったな、俺よく分からないけど、なんか良かったな。」
「・・・・あぁ。・・・それで、貴様がいてちょうど良かった・・・・・・」
俺がいて?・・・・・コウは少し考え込む。なんか今日は様子がおかしい。最初は、急いでいるのだろうかと思った、でもそういう訳でも無いらしい。そうしているうちにもガトーは片手でシャツのボタンを幾つか外して、もう片手でコウの髪に触れてくる。・・・・うわ、なに。
「・・・・・ちょうど良かった。私は今仕事が成功して、とても嬉しくて、どうしたらいいか分からないでいる、だから、頼む・・・・」
頼む、と言っている割には強引に頭を掴まれた。次の瞬間にはまぶたの上あたりにキスが降ってきて、耳もとでこう囁く声が聞こえた。・・・・うわ、なに。
「・・・・・頼む、コウ。・・・・・・・抱かせてくれ。」
・・・・・・・・声、かな。
・・・・・・・・声、だな。
・・・・・・・・声、だよなあ・・・・・・・・・。
とりあえずクソつまらない月9のドラマが始まったばかりのテレビは消そうと思った。あんまりにそのままの台詞を言われたのでかなり呆れた。恥ずかしくなったので目を逸らした。・・・・・それから、コウも、なんだか嬉しくなってしまって、
・・・・・・・・・・・ゆっくりと、瞳をとじた。
2003/05/13
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