十月になったばかりの頃だった。何曜日だったか忘れたが、外を飛び回る仕事の合間にわずかばかり恵比須のオフィスに戻り、必要な書類を探していた時のことである。
「・・・・・おい、ガトー。」
 凄まじいスピードで書類を漁るガトーがどこか鬼気迫っていたらしく、誰一人声をかけようとはしなかったが(実際ガトーは急いでいた、)そこへ、勇敢にもそんな声が響いた。猛者はいるものである。
「・・・・誰だ。」
 かなり不機嫌な声でうなりながらガトーが顔を上げると、キョウジが・・・友人のキョウジ・カッシュがオフィスの入り口でヒラヒラと手を振っていた。キョウジはこの会社の研究所勤めの学者だものだから滅多にこの恵比須のオフィスに来ることはない。・・・・不始末で上の方に呼び出された時くらいしか。
「なんだ。私は忙しいぞ、またなにかやらかして上に怒られに来たのか?貴様。」
「人聞きの悪い。普通にちょっと寄っただけだ。話があってな。」
「話があるならここまで来い、私は忙しい。」
「何を言う、お前がこっちに来い。」
 ・・・・ここで微妙な沈黙。・・・・この二人は、妙にウマがあい、仲はとても良いのだが、端から見ている分には逃げ出したくなるほどそのやり取りは恐ろしい。・・・・正確には、二人ともが異様な長身であるため、頭上で会話が交わされる光景が恐ろしいのだった。
「・・・・・・・しかたがない、」
 すると驚いたことに、書類を途中でほうり出したまま、ガトーがキョウジが待っている廊下の方に向かった。 ネクタイを緩めながら。・・・・これはまた珍しい光景だ!あのガトーが人の言うことを聞いている!
「なんだ。」
「まあ聞け。お前、彼女はいない、と言っていたな?」
 そんな同僚達の視線は一向に気にしないままで、キョウジとガトーはオフィス脇の廊下の壁に寄り掛かると妙にヒソヒソと会話を始めた・・・・が、声は小さくても態度はでかい(正確には図体がでかい)。
「・・・・・まあな、それがどうした。『彼女』・・・・は、確かにいないが。」
「そんな君に朗報。・・・・っていうか、研究所の女の子達にせがまれてな。こんなの企画してみました。」
 ビラっ、とキョウジがわざわざ持って来たらしい紙を広げる・・・・・パソコンで作ったらしいそのチラシ、には、こんな内容が書かれていた。



『アナベル・ガトー君を囲む会! 本社営業二課の超カタブツ、アナベル・ガトー君と懇意になりたい研究所のお嬢さん方は是非!日時:十月十三日(日)PM6:00〜 場所:六本木○○○ 会費:5000円 二次会:未定 詳細は樫井(第八研究室 内線0716)まで!! 料理は無国籍アジアンだよ〜ん。 店の場所は下の地図を参照のこと。』



「・・・・・・私達の友情もここまでだな。」
「ジョークの分からん奴だな。」
「・・・・いらん世話だと言っている!」
「彼女がいないのならいいだろう!お前と友達だと分かった瞬間に十中八九『紹介して!』と言われる私の身になれ!これで一気に片付くんだ!」
「お前がかわりに付き合えばいいだろう!」
「コブつきなのでそうもいかんのだ!!」
 そこまで怒鳴りあってから、二人はオフィス中の人間が自分達を見ていることにやっと気付いた。・・・思わず、気まずくなって腕を組んで口笛など吹いてしまう。・・・その脇を、非常に恐ろしそうに、一人の日本人スタッフが駆け抜けていった。
「・・・・・ま、ともかくだ。予定が無いなら決定だからな。いいな!」
「おい、ちょっと待てキョウジ・・・・!」
「これから予定作るとか言うなよ!じゃあな!」
 それだけ言うと、ガトーにそのふざけたちらしを押し付けて、キョウジはエレベーターホールに向かって走っていってしまう。・・・・・ええい、貴様など輸入菓子の安全検査を大人しくしていればいいのだ!ガトーは、チラシを思いきりまるめると壁に投げ付け・・・・それから、思い直して深いため息とともにそれをもう一回拾ったのだった。












じゅうがつじゅうさんにち、二度目。














 マンションに戻ってくるとコウが来ていて、そして勝手にテレビを見ていた。
「・・・・・それは誰だ。」
「んー・・・・小雪・・・・小雪、イイよね・・・・・・」
 あまりにうっとりした表情でコウがテレビを見ているのでガトーが思わず聞くと、コウはそう答えて画面を指差す。画面には、最近ではわりと珍しいのだろう素直に黒髪で控えめな感じの、女優が一人映っていた。なるほどな。
「飯は。」
「食った。・・・キースとドモンと。ガトーは?・・・・今、何時だ?」
 キースとドモンというのは確かコウの友人達の名前である。良く話に出てくるので、それは覚えた。そして、いつもいつも思うのだが、こいつはよくこの家に一人でボーっとしていて飽きないよな、と思う。
「九時を少し回ったところだ。・・・・・こいつ、お前に似てはいないか。」
「え、誰が?」
 そこでやっと、コウはテレビの前から立ち上がりガトーの方に歩いてゆく気になったらしかった。
「小雪、っていうこの女優だ。」
「えー、似てないだろー!!それは似て無いだろ。」
 いや、和風なところが似てる。・・・とは思ったものの、そんなことは言わないでおく。日本人相手にわざわざ『和風』であることを誉めるのも変な話だ。もちろんコウの方が、もっとかわいらしいと思っている。しかしそんなことは言わなくていいのだ・・・とスーツのジャケットを脱ぎながら男のコウ相手にそこまで考えたところで、今日の昼間にわざわざキョウジが女を紹介しようとしてくれていたことを思い出した。
「ともかくおかえりおかえり!・・・・で、結局御飯は。」
「ある程度食ったからいい。」
「ふーん、んじゃ飲む??」
 そこで、二人でソファに座り込み酒でも飲むか、となって初めてガトーは言ってみた。
「コウ、次の日曜のことなんだが・・・・」
「次の日曜・・・・うん、日曜はヒマだぜ、俺部活やってないし。」
「いや、次の十月十三日の日曜のことなんだが・・・・」
 すると、驚いたことにコウが急に腕を掴んで来た。
「・・・・・・・うそっ!」
「・・・・何が。」
 見ると、コウは何やら興奮した様子でガトーを熱く見上げている。・・・・何だ?
「うそっ、ガトー覚えてたのか!!??すげっ、珍しいっ・・・・!!ホントに、十月十三日が何の日か覚えてたのか!!?俺、嬉しいっ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 まずい。ガトーは思った。まずい、何だって?では、十月十三日と言うのは何か重要な日であったのだ。しかし当然何の日であったのか自分はまったく覚えていない。
「・・・・・そうか。嬉しいか。」
「そりゃ嬉しいよ!どうしよう!何する?どっか遊び行くかー?!」
 コウは一人で盛り上がっている。・・・ガトーは軽く後ずさりすると、取りあえず仕事用のノートパソコンを掴み、そして立ち上がった。
「・・・ちょっと待て、コウ。そのことについては後で話し合おう。時に、トイレに行って来てもいいか。」
「もちろん!・・・・うわーうわーうわー、楽しみ、十月十三日!!」
 ガトーはもちろん逃げ込むようにトイレに駆け込んだ。慌てて、パソコンを開く・・・ええい、さっさと立ち上がらないか!すぐさま、カレンダーを調べてみたものの十月十三日はただの日曜日で、祝日にも祭日にもなっていない。・・・・・一体なんだ!しかたないのでスケジュール帳を立ち上げた。仕事のスケジュール帳である。・・・・・心当たりは去年だ、去年!・・・・去年の十月十三日!!
「・・・・・あぁ。」
 思わずガトーは息をついた。外からは、コウの陽気な「遊園地もいいね、遊園地行ったことねーじゃん俺達!」という叫び声が聞こえてくる。・・・・・去年の十月十三日。その日のスケジュール帳には『浦木氏、ガーデンプレイスタワー、PM2:00』・・・・と書いてあった。つまり、コウの父親との約束である。ということはつまり、
「・・・・・ディズニーランドってどうだろう!!ベタベタで面白く無いか!!」
 ドアの外でコウはまだ叫んでいたが、ガトーは軽く首を振ると形式上飛び込んでいたトイレから外に出て、そしてパソコンを洗濯物の中に放り込んだ。・・・・つまり、
 コウの父親と仕事で出会った日、ということはコウと初めて出会った日、ということである。
「・・・・・分かった、ネズミーランドだろうがどこだろうが・・・・」
「ディズニーランド!」
「・・・・行ってやる、ただ一つ問題があってな・・・晩からなんだが、仕事絡みの飲み会の予定が出来てしまい・・・・」
「・・・・ぇえー。」
 一日一緒だと思っていたらしいコウはあからさまに落胆した。ガトーはどうしたものかと思った。
「・・・・・出来てしまったんだがな。まあ、飲み会なのでお前がいても構わないだろう、一緒に行くか。お前はタダだぞ、多分。」
「えっ、ウソ、マジ!?何処!!??」
「六本木。無国籍アジアン料理だそうだ。」
「・・・・行く〜!!!」
 キョウジには悪いが、まあ確実にコウを連れて行けば訳の分からない女と付き合わされることも無いだろうし、会話にも困らないだろう。・・・・とりあえず、あのチラシはコウの目に止まらないうちに捨てよう。飛びついて来たコウを受け止めながら、ガトーはそんなことを考えたのだった。





「・・・・・次の日曜は、兄さんヒマか?」
「・・・・・へ?」
 久々に恵比須の本社に出向いたその日の晩、兄弟二人っきりの適当な夕食を食べたあと(即席ラーメンだった、)そんなことを弟に言われて兄は少しビビっていた。
「なんでだ?・・・・次の日曜、つまり十月十三日は何かあったっけか。」
 するとドモンは何故かブスっとした様子でお椀をテーブルに置く。・・・・・ああ、ネギしか無かったのでそれしかラーメンに入れなかったのは悪かったかもしれないが、友達と夕飯は食べて来たと言って無かったか?
「・・・・・別に、覚えて無いならいい。」
「何っ。・・・・覚えていないも何も、理由を言わないと分からないだろう、理由を!」
 キョウジは焦った。・・・何を忘れていたかな!ガス代は振り込んだし、電気も止まっていない、ええっと・・・・。キョウジときたら、からきし弟には弱いのだった。端からみたら『コブつき』と称される、そのコブに弱いのである。
「・・・・・・ 七月二十四日。」
 ついにボソっとドモンは呟いた。・・・・・おお、それはドモンの誕生日・・・・!と手のひらを打ってからキョウジはサッと血の気が引いた。
「・・・・・あ。」
「その頃、兄さんはとても仕事が忙しいと言うことでした!俺は夏休みでヒマでした。でも兄さんはぜんぜん俺の誕生日を祝ってくれませんでした!」
「待てっ、ドモン・・・!!」
「父さんと母さんからも国際電話かかってきたし、レインはその・・・いろいろくれたけど兄さんは何もナシ!そして三ヶ月!」
「待つんだ!話し合おう!話し合えば分かる!」
「・・・・・・くそぉううううう!でも次の日曜も忙しいんだな!」
 キョウジは思わず立ち上がった。
「ぜんっぜん忙しくないとも!・・・・しかし、六本木で飲み会があることになってしまっている!」
「忙しいじゃないか!」
 うわあっ!キョウジは頭を抱えそうになった。・・・・ガトーの為にセッティングなんぞしている場合では無かった!・・・・家庭崩壊の危機だ!
「・・・・落ち着け。落ち着かないか、ドモン!」
 ドモンはまったくスネてしまったらしく、部屋の隅で壁に向かって拳を振り上げている。・・・・家庭崩壊どころか、家が崩壊しそうだ!!
「・・・・分かった!なあ、多分お前の分はタダだから、十月十三日の飲み会にお前も来るといい!」
「ついでっぽい・・・・・」
 ドモンは、やけに勘のいい台詞を吐いた。キョウジは天に祈った。
「そう言わずに!!学生の飲み会なんかと全然違うぞ、食い放題だぞ〜・・・・」
「・・・・・本当か?」
 少しドモンは機嫌を直した。そして、ちゃぶ台の前まで戻ってくるとこう言った。
「ホントにほんとか?食べてもいいの?」
「・・・・・そりゃもう、好きなだけ・・・・」
 キョウジには幹事として、アシが出た分だけ余計に金を支払う自分の姿が予言のように見えた。・・・が、仕方あるまい!!
「食え・・・・」
「・・・・兄さん、ありがとう!!」
 こうして、福生市の片隅で二人の兄弟の夜は暮れていった。





「・・・・なーんか、二人とも機嫌が良くて、俺気持ち悪いぜ・・・・・」
「気のせいだ、キース!」
「そうだよ、気のせいだよ!!」
 さて、そんなことのあった次の日の朝のことだった。ドモンとコウの二人はそう言って明大前の駅でキースに笑いかけたのだが、いや、確かにあからさまに機嫌は良かった。
「・・・・そうか?気のせいか?・・・・・んじゃそうしとくか・・・?」
 もちろん、陽気な大学生活のことである。楽しいに越したことはない。キースは、二人の友人達の少し浮かれまくった姿にわずかだけ疑問を覚えたものの、まあ放っておくことにした。・・・・それぞれに、何かいいことがあったということなのだろう。まあいーよ。俺もそこそこ楽しいし。三人は、大学に向かって歩いて行った。明大前の駅と明大和泉校舎は徒歩三分ほどである。





「・・・・・キョウジか。」
『おっ、ガトー・・・・・昨日は悪かったな。』
「貴様、反省するくらいなら最初からあんな話は持ってくるんじゃない。」
 その午後、恵比須のオフィスでは、ガトーが自分の携帯で私用電話をかけていた。
『やあ、それが反省ぜざるを得ないような事態が起こってな・・・・ちょっと、断らないといけないことが。』
「私もある。・・・・ええっと、知り合いを連れて行っても良いか、その『飲み会』とやらに。」
『・・・・え、お前もか?私もだな、あの、弟を・・・・弟を連れて行っていいか。事情によりどうにもならん・・・・・』
 フィフティーフィフティー。二人の談合はここに交渉が成立した。
「なんだ、そっちもか。・・・・人に勝手に女を紹介しようなどと考えるからこうなる。」
『お前に女が居なくて回りが騒ぐからこうなる。・・・じゃあな!』
 ガトーは軽く首をすくめて電話を切った。・・・・とはいえ、キョウジは実に素敵な、愛すべき友なのである。





「・・・・・すげぇー!!!!」
 果たして、『女紹介コンパ』だというのにガトーは、男の恋人であるコウを連れて六本木の会場に現れることと相成った。その店、多国籍バーのようなその店に入った瞬間から、コウはドキドキして仕方なかった・・・・すっごい!大学生の、白木屋とか養老ノ滝でやる飲み会と、なんかレベルが違うっ!!・・・ガトーが外資系企業に勤める外人なのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが、客のほとんどが外国人というその場所に足を踏み入れたコウの興奮は物凄かった。
「・・・・ああっ、ガトーさん!」
「おっそーい!」
 浦安から(ガトーは本当にディズニーランドに連れて行ってくれた、)から六本木まで移動するのに手間取って六時を随分回ってから現れたガトーに、黄色い歓声が飛ぶ。・・・日本人と外国人が半々くらい。それが、ガトーの勤める会社の研究所に所属する女性達の内訳だった。・・・・今回の催しの本来の目的である、『アナベル・ガトー君と懇意になりたい』女性達である。
「・・・・って、え?」
 コウは、自分が紹介されるのもままならないうちに、信じられない姿をそこに見つけて固まっていた。・・・大きな肉の固まりをくわえた相手も同じだった。
「・・・・・・・・・・・ドモン?」
「コウ!!??・・・・・・って、え、なんでここに居るんだ!?」








 驚いているコウとドモンより大きな沈黙。








「・・・・・え?何だ、お前の友達か?」
 まずそう、キョウジが言った。なので、ドモンはぶんぶんと頷く。
「うん、コウ。・・・・ええっと、大学の友達のコウ。」
「樫井さんの弟さんなんですって。・・・・土門くん。」
 ドモンの事をガトーは知らないだろうと思ったらしい参加者の女性が、丁寧にもそう教えてくれる。そこで、ガトーも頷いた。
「・・・・あぁ。ではコウが良く話している『ドモン』というのは・・・・キョウジの弟のことだったのか?」
「・・・えぇー・・・・えっ?・・・・・何だ、つまり何だ??」
 面白いことに、キョウジが一番分かっていなかった。
「そちらは?」
「ああ、ほら、電話で話しただろう、キョウジ、一人連れてゆくと・・・・こいつはコウという。浦木 巧。・・・・取り引き先の浦木さんとこの息子さんだ。」
「・・・・休みの日まで接待なのか!浦木さんて・・・あぁ、あの面白いお菓子とか地道に仕入れて来る個人企業の・・・・」
 キョウジは驚いて叫んだが、ドモンが意図せず助け舟を出した。
「・・・・あー、それじゃああれか、コウが仲良くなったガトーさんて、兄さんの友達のガトーさんと同じ人だったのか!」
「・・・ああっ、俺もなんとなく話繋がった!ドモン、こんなとこで会えて嬉しいー。」
「俺もだ!」
 とたんに、ドモンとコウの二人は一緒になって盛り上がり始める。・・・ガトーはこっそり冷や汗を拭った。・・・・この飲み会の、本当の主旨がコウにバレたらどうなることだったろうか!
「・・・・って、やだ、カワイイわー!!ドモン君は二十一才なんでしょ、コウ君は幾つ!!??」
 驚いた事には、ガトー目的で参加していたハズの女性達の視線のほとんども、飛び入りで入って来たドモンとコウの二人に釘付けになってしまっているのだった。・・・・・なにしろカワイイ!
「え、俺は、に、二十歳・・・・」
 コウがドモンから食べ物をわけて貰いながらそういうと歓声があがる。
「・・・・若いわっ。いいわ、素敵だわ!!」
「なんなの、家にいる樫井さんとかガトーさんはどんな感じなの!!」
「樫井さんって誰・・・・」
 コウが分からないという顔をするとドモンが説明した。
「あ、それ俺と兄さんの名字だ。カッシュ、って南米の方で呼ばれてた、そのままの読み方なんだ。もともと、日本から移民した時の名字が樫井。だから俺、戸籍上は樫井 土門。兄さんは樫井 恭治。」
「・・・・えっ、俺知らなかった、ドモンと一年以上一緒だったのに・・・・」
「・・・・確かにあまり使わないし・・・・」
「・・・・それはいいから、樫井さんとガトーさんの日常を教えて!!」
 必死な女性のパワーというのは凄まじい。
「えっ、兄さんは・・・・家では良く寝てる、疲れて・・・・と、得意料理は即席ラーメン・・・」
「・・・・が・・・ガトーは家でも良く仕事をしています。遊びに行くといつもそう・・・」
 圧倒されたドモンとコウの二人は答えた。・・・・もちろん、その合間にも普段はありつけないような高価な料理を食べるのは忘れなかったが。
「キャーーー!!ステキ、もっと教えて!ガトーさんちに遊びにいけたりしちゃうのね!」
「ラーメン以外は作らないの!!お姉さんが御飯つくりに言ってあげないこともないわよ!!」
 響きわたり続ける黄色い歓声。・・・・・ドモンとコウの若さと、それから人気は、絶大なものだった!!
「・・・・オイ・・・・・」
「・・・・あぁ・・・・・」
 よほど経ってから、キョウジとガトーの二人は、この飲み会が意図しなかったまでも大成功であったことに気付いた。・・・・っていうか、主旨が変わってしまっているし。





「ふい〜、おなかいっぱいで〜す!!」
「俺もだ!」
 二次会、という話にもならず、午後九時頃には、キョウジもガトーも女性達から解放されることに成功した・・・お互い、コブつきであったところが利いたらしい。
「もう食べられません!」
「・・・・・俺もだ・・・・・!」
 コウとドモンを、それぞれ腕にぶら下げて、キョウジとガトーは駅への道を急いでいた。腕の中の二人は、互いに幸せそうに前後不覚のイキオイである。
「・・・・・・・・・・・・おい、ガトー。」
 よほど駅に近くなってから、キョウジがボソリ、とそう呟いた。
「・・・・・なんだ、キョウジ。」
「・・・・・・・・・・・・」
 すると、キョウジはちらり、とガトーの腕の中でくたばっているコウを盗み見てからこう言った。
「・・・・女を紹介してほしく無いなら最初にそう言え。」
「別に、そうは言って無い。」
 ガトーもそう返す。・・・・むにゃ〜・・・とひどく幸せそうな声を、コウがあげた。ドモンも似たかよったか、である。・・・・とにかく、食った!年上の凄いおねーさん方にめちゃくちゃ食わされまくった!だいにんきでしたぁ〜〜、うわははは!
「・・・・・でも、別に『浦木さん』ところは気を使って接待しなきゃならないような営業相手、じゃなかったかと思う。」
「営業畑のことに口を出すな。」
「・・・・でもな。」
 よほど言いにくそうなキョウジが笑えて、思わずガトーは腕の中のコウをひっぱり上げると腕に抱えなおす。・・・・それはしっかりと、しっかりとコウを抱き締めたのだった。
「・・・・まあ、言うな。それなりに楽しい。・・・・・・・男と付き合ったのもこれが初めてだ。」
「・・・・・・・・・・・ま、人のことだからな。お前が良ければ、別に俺もいい。」
 キョウジのこういうところが最高だよな、とガトーは思う。
「・・・・兄さん、メシ・・・・!!」
 次の瞬間には、ドモンがキョウジの腕の中でそう叫んでいた。
「食ってただろうが、さっきまで死ぬほど!!おまけに一人じゃ歩けないほど飲んだだろうが!!・・・ドモン!!」
 もっとも、それは寝言に近いようなたわごとだったらしい。
「おやすみ〜・・・またあしたコウ〜・・・・」
「はぁい、また、あ・・・した〜、ドモン〜・・・・・・」
 周囲で交わされた、深刻な内容の会話など知りもしない二人は、そう言って互いの家路へとついたのだった(註:担がれた状態で)。





 こうして、波瀾に満ちた十月十三日は終わった。ドモンとコウは、飲み会で意外な感じで顔を合わせたのは覚えていたのだが、それ以上のことはメデタイことに二人とも覚えていなかった。キースには、もちろんその面白い出来事を報告した。・・・・たらふく食って幸せなカンジだったかな、うん!





 そういう、役得っぽい十月十三日(二度目。)だった・・・・もちろん、その後もガトーとキョウジは、いい感じな友人関係を続けている。



















2002/12/23 









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