余呉湖、というのは滋賀県でも最も北の方、つまりもう福井に近いようなところにある湖である。琵琶湖とは別の湖だ。もっとも、別とは言っても、とても小さな湖で琵琶湖の真上に位置しているから、まあ子供みたいなもん?
「・・・・・寒い。」
「・・・・・言うな。」
さて、その湖の片端、観光用の駐車場に止めた車から、のっそりと出て来た男二人連れはまず第一声にそう言った。
「・・・・・だって寒い!!」
「そんなことは分かっている!!・・・・しかし、『どうしても行きたい!』と言って私を家から引っぱり出したのは貴様だろう!!」
「でも寒いー!!!!!」
「言うな!なお一層寒くなる!!」
湖面を渡ってくる風が否応無しに吹き付けるそれは冷たい午前六時(!!)。・・・・さて、ずいぶんとポンコツのフィアット500から這い出して来たのは、コウという日本人大学生と、その友人のガトーというフランス人留学生だった。他には誰もいない。・・・・・季節は一月。いや、一月もまだ三日!
「・・・・・・しかも、氷が張ってないー!!!ウソだろ、これじゃどうやって釣りをするんだよ、釣りを!!」
「氷が張っていると釣りが出来ないのではないのか。・・・・逆なのか?」
「ワカサギは氷の上に乗って、それで氷に穴をあけて釣らなきゃ意味がないんです!くっそー、こんな遠くまで来たのにー!これじゃあサギだ!」
そう、冷たい風に頬を真っ赤にして怒るコウに、ガトーは冷たく言い放つ。
「ああもう、本当にサギのようだな。・・・・・正月休みは短くて、十日過ぎからはテストが始まるというのに、午前三時に留学生会館に向かえに来るなんて。・・・・・いや、もうこれはサギだ!!」
「−−−−−−・・・・・」
その言葉を聞いて、さすがにコウは少し気まずくなったようだった。
「・・・・・ガトー『さん』。気を取り直して釣りをしましょう。ええ。もう今すぐに。」
「気色悪い。そういう慣れない台詞を吐いているのは・・・・・・この口かぁああ!」
「ふぎっ・・・・・・むごーっっ!!うぎゃーっ!!!!!」
ガトーが怒りにまかせてコウの口をつまみ上げたので、思わずコウは謎の奇声を発した。とにかく二人は大騒ぎをしながら、小さな車の後部座席に積んであった釣り道具を取り出す。・・・・・だって寒い!動いて無いと、死んでしまうよこのままじゃ!!
「・・・・・・おい、コウ。釣り竿は分かるが、何故カセットコンロがある?・・・・あと、料理油と空揚げ粉も。」
そう聞いてくるガトーに、コウはほっぺたをひねられたままで大層答え辛かったのだが、それでもなんとか答えた。
「・・・ええっ!それはもちろん、釣った魚をその場で揚げて食べる用に、で・・・・・!!」
「・・・・・・しかし、中華鍋がないぞ。」
「!!」
「よし、ではちょうど良いから、このカセットコンロで暖をとるか・・・・・」
「ああっ、ひでぇー!いじわる、ガトー、ふざけんな、クソー!!!」
しつこい様だが場所は余呉湖、一月三日、そして・・・・午前六時!!
こうして、世にも騒々しい『ワカサギ釣り』は始まった。
『バラ色の日々』 これ、むっかしタイトルだけ予告で載ってたんですよね、どなたか覚えてますか・・・・(笑)。
うつらうつら、というような状態が近かったかもしれない。ともかく、鳴り出した携帯の音に、アムロは飛び起きた・・・・と、手に取る余裕も無く電話は鳴り止む。同じく、新年早々、一月三日の午前六時。
「・・・・・んだよ、メールかよ、ってか今何時・・・・・・・・・・・ろくじぃ!?っざけんな、人がいつ寝たと思って・・・・・・」
アムロは何枚も積み重ねたふとんから腕だけを伸ばしてメールの内容を確認すると、またふとんに潜り込んだ。
「・・・・・・誰からだ?なんだって?」
と、そこへ声がする。
「・・・・・・コウから。」
「ふーん、で、内容は?」
その声は、となりに寝ていた人物が発していたもので・・・そうして、その人物もアムロと同じようにふとんに丸くなって潜り込んでいたのだが、その呑気な声を聞きながら何故かアムロはだんだんと気が滅入ってきた。
「・・・・・・『俺は今ガトーと釣りに来ていますが、中華鍋を忘れてとても寒いです。』」
「・・・・・・凄まじい暗号文だな・・・・」
「・・・・・・っていうか、だぁああああ!やっぱ嫌だ、今って、仮にも三賀日なんだぞー!!なのに何で俺、」
そうだよ、なんで俺!
「男となんか寝てなきゃならないんだ、むさ苦しいー!!!出てけよあんた、今すぐに!!」
「断る。今、ふとんから出たら凍死する。・・・・間違い無く!」
「それでも出て行けぇ!!!とうりゃー!!」
「おや、ひょっとしてアレかい、有名な『姫はじめ』っての、君だった事になるのかな、今年の私は!」
「・・・・・・・殺すぞ!!」
しばらくシャアとアムロの二人は、小さなベットの上で掛け布団を取り合っていたのだが、やがてその行動が実に無意味なことに気付いてやめる。・・・・なにしろ、二人は素っ裸だったのだった!下手に動くと生死に関わる。
「落ち着きたまえ。・・・・まあ、ここは正月番組でも見て気を取り直して・・・・・というか、何故コウ君は釣りになど出かけているんだ?」
「・・・・・さあ!しらねーよ、ガトーと釣りに行く、っていうのは前から叫んでたような気がするけど、何でか、とかそんなの・・・・・ああっ、俺のふとんー!!!」
「この寒空の元、釣りなんて、元気だねぇ・・・・」
ふとん合戦に負けたアムロが、ふとんをゲットした自分にしがみついてきたことに気を良くしながら、正月番組に詳しいアヤシいフランス人は、テレビのスイッチ入れた・・・・今年のテレビ東京の大型時代劇はなんだっけ。・・・・あ、っていうかここは京都だから、テレビ大阪で放送するテレビ東京の大型時代劇はなんだっけ????アムロの家は京都にあるのだが、大坂、淀あたりが近い京阪沿線にあるので、テレビ大坂も勝手に見れるのだった。あ、ちなみに神戸のサンテレビはさすがに見れない。
まったく、正月気分も失せるようないつも通りの風景だった。
「・・・・帰りは高速で帰ろうな。」
「そんなことを今さら言っても、サギには変わり無い。」
さて、余呉湖ではコウとガトーの二人が、桟橋から釣り糸を湖面に降ろしたところだった。・・・・本来『ワカサギ釣り』ってのは、こんな感じじゃないはずなんだか!しかし、あたりを見渡すと他の釣り人もそうしている。では、仕方ない。ポチャン、と湖面に釣り糸を垂らす頃には日もずいぶんと上がって、到着した当初よりは幾分か過ごしやすくなってきていた・・・・・が、やはり寒い!!
「大体何で、釣りなんだ、釣り・・・・・」
「約束したじゃ無いか、去年!」
「去年のことなぞもう忘れたぞ!」
「んじゃ、去年って言い方が悪かった!一週間くらい前!」
さて、年の始めなのでこんな妙な言い争いになってしまう。湖面を渡ってくる風は相変わらず冷たく、それは思考能力を麻痺させるような不思議な働きを持っていたのだが、それでもガトーはいつそんな約束をしたものやら思い出そうと努力した・・・・・と、
「・・・・・ああっ!かかってる、かかってるガトー!」
まず、ガトーの釣り竿に反応があった。・・・・ああ、そもそも釣りとは、もうちょっと優雅でのんびりとした趣味のはずなんだが!ガトーは騒々しいコウの声を聞いてそう思いつつも、急いで竿を上げた・・・・と、かかっている!それは小さな、銀色の魚!
「ああ、ガトー!これがワカサギだぜ、ワカサギ!!」
コウは実に嬉しそうにその魚を外す・・・・・・思ったより釣れるものだな。思わず、無理矢理釣りに釣れて来られた不機嫌も忘れてガトーがそう思い始めた時に、コウの動きがぱたり、と止まった。
「・・・・・・コウ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・どうした?」
「・・・・・・ガトー・・・・・・俺、釣った魚を入れるものも忘れて来た・・・・・・」
ガトーは一瞬開いた口が閉まらなくなりそうになった。が、さすがに「料理油」を捨ててその中に入れろ、とも言えまい。それでは、さすがにコウが可哀想だ。
「貴様な・・・・・何をそんなに急いで釣りに来たかったというのだ・・・・・この寒空の元・・・・・」
「・・・・・だってさ!」
すると、コウは顔を上げて猛烈な勢いでガトーに何かを話しかけ・・・・・そして思い付いたように口をつぐむ。そして、怒った風な真っ赤な顔でガトーを睨んだ。・・・・なんだ。らしくない上に、気持ちが悪いじゃ無いか!!
「あのだな、貴様・・・・・・・・・・・・・って、ああ!!お前の竿にもかかってる!引いてるぞ!!」
「え、マジ!ああ、この湖とてもいい湖だな!・・・・やった、ワカサギばんざい!」
ワケの分からない事をコウが叫んで、あっという間にいつもの表情に戻って、慌てて自分の釣り竿に飛びつく。・・・・・あぁ。ガトーは少し頭を悩ませながらも、なんとかしなければ、とあたりを見渡して、何故か湖の際に落ちていた、一本の一升瓶を拾ってくるとその中に水と、それから釣ったワカサギを放り込んだのだった。
「・・・・・あ、またメールだ。」
シャアとアムロの二人は、と言ったら、本当にテレビ東京の(関西ではテレビ大坂で放送している、)正月の大型時代劇を見ていたのであった。と、そこへまた携帯メールが入ってくる。
「・・・・・『釣れました!俺は今5で、ガトーは3です。俺ガトーに勝ってる、頑張ってるだろ!』」
「また暗号だな・・・・・こっちからも打ち返してやれ。『今年の大型時代劇は「五稜郭」です。』」
「あのね・・・・・」
恐ろしい事に二人はまだ裸で、そうしてベットの上でふとんの取り合いを続けていたが、何故かシャアはいたく感動してその時代劇「五稜郭」に見入ってしまっているようだった。
「『・・・・「五稜郭」です。』・・・・打ったけど、これコウ、悩むぜー・・・・」
「・・・・君、私は今感動している。」
シャアはテレビの画面をじっと見つめたままでそういった。大型時代劇三日連続計十八時間一挙放送!・・・・も、正月三日となったらまさに佳境、というところで、五稜郭が今にも陥落しそうになっている。
「・・・・・もしもーし。・・・・感動って、何に・・・・・」
アムロは半分以上呆れながらそう言った。五稜郭、ってのはつまりあれだ。北海道にある、お城の名前なのである。で、その五稜郭にまつわるエピソード、つまりドラマの内容とはあれだ。
「私はね・・・知らなかったんだよ、まさかね、新撰組の残党が、五稜郭にまで落ち延びて、そして戦っていたとは!!」
新撰組とは言うまでも無く、幕末に京都にいた、幕府寄りの集団である。彼等は今シャアとアムロの二人がいる京都は竹田にほぼ近い、鳥羽伏見での戦いで『ほぼ全滅』したのだが、中には生き延びて、最後まで北海道で明治新政府に抵抗したものがおり・・・・とまあ、ドラマはそんな内容だった。そりゃ、外国人は知らないだろうよ!・・・・・アムロは思った、更に、ヒトコト言わせてもらえるならこの先の人生でも全く知らなくて過ごせるような、それは知識なのでは!!??
「・・・・・あのね、あんた・・・・」
「ああっ、無性に『新撰組』名所めぐり、とかしたくなってきた!」
「全滅した場所なら近いぜ。大手筋の、ほら、あそこ。御香宮って寺の前が、激戦地だもん。」
「君、意外に知っているね!・・・・しかし全滅では無かった、見ろ、遠く生き延びて再起の時を待ち望んだ人々を・・・・!!」
「・・・・・いや、再起してねぇじゃん・・・・負けてるじゃん、五稜郭で・・・・」
シャアはまったく負け戦の気分になってしまったらしい。・・・・・ああ。そこで、コウにメールを打った。・・・・・今、部屋に新撰組の残党がいて困っています。
「・・・・今年の大型時代劇は『五稜郭』だってさ!」
コウはまったく悩まなかった!
「日本語を話せ・・・・・・」
とりあえずメールの内容を報告したコウに、ガトーの方が頭を抱えてそう言う。・・・・・気がつけば小一時間ほどが経っていて、拾って来た一升瓶もいつのまにやらずいぶんとちいさなワカサギでいっぱいになっていた。
「時に、お前は釣りが好きだったのか?」
「え、いや!?・・・・・うーん、小さい頃から剣道ばっかりしていた子供だったから、あまり釣りとかはまった記憶が無いな・・・・俺、じっとして待ってるのとか苦手で。」
だろうな・・・・とガトーは思う。しかし、この湖はよく連れる。中には、餌に食い付いたわけではなくて、シッポにひっかかって上がってくるワカサギまである。たくさんワカサギがいる湖、ということなのだろうか。ワカサギという魚については良く知らない。フランスにはいない魚だったからだ。
「・・・・・こういう湖よりさー。俺んち、海に近かったから、海釣りのほうがまだやったな、防波堤に座ってさ。・・・・ガトーは?」
「え?」
そう聞かれてガトーの方が戸惑った。・・・・何?
「・・・・釣りはそんなにしなかったぞ。」
「そんなんじゃなくていい。・・・・フランスの話をしてよ。」
コウにそう言われて、そういえば自分はあまり、コウとフランスの話などしたことがないな、ということに改めてガトーは気付いた。・・・・・ではなにか?
「・・・・・お前、なにか話がしたくて・・・・」
「何でもイイから話が聞きたいなあ、フランスのとか!」
すると、面白いくらい早口でコウがそう言った。・・・・・なんだ。なんだというんだ今日のコウは、急に人を睨み付けて黙ってみたり、いつもに増してそそっかしかったり!!
「・・・・・そうだな、釣りとは少し話がずれるかもしれないが、日本に来て驚いた事ならある。」
ガトーは、自分が釣ったワカサギを器用に一升瓶に放り込みながら少しだけ話し出した・・・・とたんに、コウが嬉しそうな顔になる。
「うん!・・・・・何をだ?」
「カキだ。」
すると、ガトーが何を思ったのかそんな話をしだした。
「・・・・カキ?カキって、牡蠣?・・・・あの、広島の名産品の?」
「そのカキだ。」
今度はコウが自分の釣ったワカサギを一升瓶の口に放り込んでいる。・・・・・・ああ、なんだか不思議な光景だな。・・・・あと、私は良く考えたらこの一升瓶をきちんと洗わなかったように思うのだが、
「・・・・・・牡蠣はな。・・・・・フランスでは『緑色』なのだ。日本では白いな。」
ひどく驚いたような顔をしてコウがガトーを見た。・・・・・・・・さて、ワカサギは一升瓶に残っていたアルコールで酔っ払ったりはしないのか?
「・・・・・えー。釣りに行っているらしいコウから報告です。」
「・・・・・五稜郭にも行かなくちゃ・・・・・君!君はこのドラマを見て何も感じない、っていうのかい!!」
アムロのアパートでは、相変わらず微妙に噛み合わない会話を、アムロとシャアが交わしていた。・・・・あーあ。ガトーほどじゃないにせよ、『時代劇を見ている外国人』なんてのは、俺に言わせると本当に手のつけようがないね!そう思いながら、アムロはいい加減服を着る事にする・・・・そうだ、トランクスくらい履こう、正月ももう三日目なんだから!
「『ガトーは牡蠣は緑色だと言っています。俺は白だと思います。魚は30くらい。』」
「ああっ、しかし五稜郭は北海道だよ、遠いよ・・・・!!」
「寺田屋なら近いぜ。」
アムロは遂に諦めてそう言った・・・・もちろん、トランクスはしっかり履いた後でだ。
「寺田屋とはなんだ・・・・・あっ、君いつの間に服を着ているんだ!フライングだぞ。」
そう言いながら、ついにシャアもベットを飛び出して、洋服を探しだす。・・・・なんせこの部屋は汚い、
「坂本竜馬が襲撃された旅籠だよ!・・・・・ほら、あそこさ、月桂冠の本社の近く・・・・・・」
「え、あんなところが名所なのかー!そりゃ君、どうして教えてくれないんだい・・・・ちなみに、牡蠣は確かに緑色だぞ。」
「えっ、ウソ!」
やっと服を見つけだしたシャアはそれを身に付けながらアムロに、しかしハッキリとこう言った。
「・・・・では、五稜郭は無理だけど、寺田屋でも後で見に行こう。『緑色に一票!シャア・アズナブル』とメールしてくれたまえよ。」
アムロは呆れながらもセーターに腕を通しながらそうした。
「・・・・・うそっ。シャアさんも緑色って言ってる!」
「だから言ったろう、フランスの牡蠣は緑色なのだ。特殊な藻のせいでな。」
「やだっ。・・・・・牡蠣は白だろ!!」
「いいや!緑だ!」
「白だろ!緑なんて、お腹壊しそうだ!」
「緑だと言っているだろう!!・・・・・あっ!」
二人共の釣り竿にワカサギがかかったので、そこで会話中断。・・・・・・黙々と一升瓶に魚を移して、ついにそのあたりで、コウがポツリ、とこう言い出した。
「・・・・・あのさ。今日、ごめん、忙しいの分かってたんだけど・・・・・」
「『貴様が』主に急いでいたな。・・・・中華鍋を忘れてくるあたり。」
ガトーがそう言い放つと、コウはひどくしょんぼりした様子で下を向いた。
「・・・・あの、でも『初もうで』、ガトー喜んでたじゃんか。」
「・・・・・確かにあれは感動した。・・・・が、それとなにか関係あるのか?」
今度はガトーが首をかしげる番である。すると、コウはおくびもなくこう言ってのけた。
「あの、あの・・・・・氷に穴を開けて、釣り糸を垂らして、ってそういうワカサギ釣り。・・・・珍しいかと思ったんだ。珍しい、っていうか『日本っぽい』っていうか。」
「・・・・・というと?」
「あの、ガトー、初もうで喜んでいたから、ワカサギ釣りも喜んでもらえるんじゃないかって・・・・でも俺、失敗してしまって・・・・・」
・・・・・・・馬鹿かこいつは!コウは、悔しそうであった。ああ、実に悔しそうにそう言ったのだ。・・・・・・ガトーに喜んで貰えるんじゃ無いか、と思って!!
「・・・・・」
ガトーはしばらく考えた。・・・・・まあな。それから、いつの間にやら口きりいっぱい、ワカサギだらけになってしまっている拾った一升瓶を見た。・・・おおワカサギよ、酔っ払っているか?ともかくな、今はテスト前だったんだぞ!!??
「・・・・・・・・・・あぁ、」
よほど経ってからガトーは一言だけ言った。非常に簡潔で分かりやすい言葉だった。
「・・・・・・・・・ありがとう、コウ。」
え、ほんとう?
「・・・・えー。コウからまた連絡です。こうなると、もはや要求?」
「なんだって。」
散らかりまくったワンルームマンションでは、洋服を着た二人が騒々しく動き出したところだった。
「『結局80くらいです。今から行きます。』」
「来るのか!!」
シャアはゴミ袋を抱えて新撰組に思いを馳せている。アムロは続けてこう言った。
「あともう一つ来てる。『高速で戻るよ、テンプラ鍋ある?』」
「ある、って答えてやれよ!」
ええっ、無いのに!とアムロは思わず自分の部屋の小さなキッチンを見渡した・・・・・っていうか、汚いなぁああああ!!!
「いや、もちろん無いことは知っている。・・・・しかし、コウ君達がここに来るには、まだ時間があるのだろう?・・・・・寺田屋を見に行ったついでに、イズミヤででも買えばいい、いつもの生協でも構わないな・・・・・・・初売りはもちろん、始まっていることだろう!!」
ねえ、無理をしてかっこいよいところを見せようとか。そんなのって、まあ無理なものでした。
「・・・・でさ、知ってる?緑色の牡蠣をどうやって食べるかは知らないけどね、ともかくワカサギってのは、空揚げで食べるものなんだ。」
アムロの『はいよ、テンプラ鍋ね!』の返事に気を良くしたコウは、帰りの車の中でそんなことを話していた。まあ、自分がコロリと持ってくるのを忘れたのはさておき。
「・・・・空揚げで食べるんだな?よし、それは知らなかったぞ、是非やってみたい。」
ガトーときたら、だから今日はコウの話に、心から賛成してやるような気分に陥っていた・・・・・だって、真っ赤な顔で自分を睨むコウといったら!!
「・・・・・・・・・うん!カラアゲ、カラアゲ!!」
「・・・・・・カラアゲだな。」
ああ、俺は落ち着かなきゃ。・・・・・コウは思っていた。少しずつ伝えてゆけば。・・・・知ってゆけばいいじゃないか。
「・・・・・鍋っ!寺田屋よりなにより、中華鍋が、中華鍋が無いとめちゃくちゃヤバいんだってー!!!」
「・・・・・落ち着きたまえ、君!ほら、イズミヤが見えてきた・・・・!大丈夫、中華鍋はきっとあるよ!!」
もちろん四人は、アムロのちいさなワンルームマンションで、おせちに負けず劣らず実に『日本的』らしい、素敵なワカサギの空揚げをたらふく食った。ああもう、中華鍋に値札が付いていたなんて、そんなのはヒミツ!!・・・・ともかく、
・・・・・・・・今年もすてきな一年になりそうだった!
2002/09/19
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