ま、世の中には容姿が端麗な為、本人の望む望まざるにかかわらずやっぱりもててしまう人間と言うのがいるのだった・・・今、京都の某私立大学にフランスから留学してきているアナベル・ガトーもその中の1人である。もっとも、本人は自分がもてようがもてまいが全く気にはしていなかったし、それに大概『見かけ』だけで抱く人への憧れは、直接的な恋愛行動には結びつかないのが世の常であった・・・・ガトーという留学生に関しては特の事。何故なら、ガトーは確かに見かけは非常に美しいが、簡単には人を寄せつけないような人物だったからである・・・もっと簡単に言おう。大きいのだ。身長が190センチ以上ある。いくら憧れていても、普通の人間ならちょっと声をかけるのをためらう。
「・・・・つまり、」
 と言うわけでガトーは、結局『非常に珍しく』、女性に声を掛けられることになったのだった。彼は、大学の前庭のベンチで本を読んでいた・・・行き過ぎる学生達は、ガトーをチラチラ盗み見はするものの、やはり声は掛けて来なかった。しかし、その女性はまっすぐに図書館の陰から庭を突っ切って歩いて来ると、ガトーに声を掛けて隣に座ったのだ。
「これを私に?・・・何故。」
 四月も終りの、葉桜が美しい季節だった。ガトーがそう言いながら顔を上げ、隣に座る女性をまっすぐに見つめると、その女性は面白いくらい真っ赤になった。
「・・・ええと、はい。きっと似合うだろうと思って。」
「しかしまた・・・何故?」
 聞いてから、ガトーはしまった、と思った。そもそも、その女性から渡された箱を、『開けてみて下さい』という言葉のままに素直に開けてしまったのが失敗のはじまりだ。ええと、これは・・・・。
「・・・貰って貰えませんか?それでも、あの、こうしてお話出来ただけで幸せだからいいんですけど。ええもう。」
 案の定、隣に座る短かめの髪の女性は、どうやら別世界に旅立ってしまっている。・・・これは、ほら。ガトーは慣れない頭で必死に考えた。これはほら、恋愛絡みのなんとやら、だ、おそらく。
「・・・ともかく、故なくこのようなものは貰えない。」
 そう言うと、ガトーは箱から取り出した綺麗なブレスレッドを、もう一回箱にきちんと仕舞い込んだ。・・・そうして、隣の女性に手渡す。頼むから、泣いたり騒いだりしないでもらいたいものだ。ガトーはそう思ったが、意外なことに女性はそんなに悲しんでいなかった。
「はい、分かりました・・・・お話出来ただけで嬉しいです。・・・じゃあ、また!」
 そう答えて、女性は箱を受け取ると立ち上がる。そのとき、初めてガトーは『おや?』と思った。・・・この女性は何処かで見たことがあるような。・・・しかし、女性は来た時と同じように庭を突っ切ると、図書館の脇に消えて行った。
「・・・・・・・・・・ああ。」
 更にしばらくたってから、ガトーはやっとポンっ、と手のひらを打った。あの女性は、あれだ、ほら。花見の時にいたような気がする。
 しかし、それだけであった。ガトーは大した感慨も無く、読んでいた古典の教科書に目を戻す。・・・故なく、プレゼントなど貰えん。










 学生達は、今日も青春の日々を送っている。









『バラ色の日々』・・・いや、だから、本当に息抜き編(笑)。
イロモノなので、念のため、ヨロシク・・・











 図書館の裏では、1人の背の低い女が煙草をふかしながら座り込んでいた・・・眠そうだった。まっ茶色に脱色した頭が、春の風に鳥の巣のごとくはためいている。
「・・・ただいまっ!」
 そこへ、先ほどガトーの所にいた女性が戻って来たので、彼女も慌てて立ち上がった。そうして開口一番、こう言った。
「・・・で!!どうだった?『ガトー様』、貰ってくれた!!??」
 なにやら彼女らの間では、ガトーは『様付け』の存在ですらあるらしい。ともかく、ガトーは知る由も無かったがそのもう1人の女性も、花見の時にちらっと顔を合わせた人物であった。
「ダメだった!・・・・でもさあ!すっごい、隣で話出来ちゃったよ〜、ああもうどうしよう私!?」
「あー、やっぱダメかぁ・・・!『クロムハーツ』のブレスレッドでもなびかないとは、どうすりゃいいのガトー様、って感じだね!」
 待っていた女は、その報告に調子のいい返事をしたが、やはりちょっと悲しそうに首を振った。そうして、吸いかけの煙草を近くの灰皿に放り込む。それから二人は、学内を歩き始めた。
「なびかないからいいんだよね〜〜〜〜!!」
「・・・分かった。わかったから戻って来てよ・・・・・・・・・おーい!!」
 煙草を投げ捨てた女は、そう言って大袈裟にもう1人の耳もとでそう叫ぶ。そして続けた。
「いや・・・私いくら浦木君の事好きでも、なんか大枚注ぎ込む気にはなれないなあ。なんか、ほら、ホントにずっと近くにいるとなるとすっげぇ疲れそうな・・・ところでさ、そのブレスレッドどうすんの?男物だよ?」
「ああ!」
 その言葉に、おーい!と大声で耳もとで呼ばれた女性は正気に戻ったようであった。
「・・・ふっふ、ちゃんと後の事も考えてあるのよ!」
「なに?なになになに!?面白い話なら、教えて!」
 とたんに、小さな女の方が面白そうに目を輝かせる。そうして、顔を近付けて来たので、その耳にもう1人は小さく舌打ちしてやった。
「・・・・ああ!なんてナイスアイディア!!」
 小さな女はそう言うと手を打つ。
「・・・じゃ、探しに行こう!」
 そうして、その妙な二人連れは学内を景気よく風を切って歩き出した。










「・・・これを私に?」
 案の定、目の前にいるシャア・アズナブルはそのブレスレッドを貰ってくれそうであった。思わず二人の女はこくこく頷いた。
「ダメですか?」
「似合うと思うよ−!!」
 調子がいいとはこの事である。が、シャアはガトーと同じ人種とは思えないほどこれまた調子のいい男であった。
「いやあ・・・いただけるのなら貰うけど。これ、『クロムハーツ』のだろう?・・・四万くらいするんじゃないのかい?」
 さすが、撃墜王と呼ばれるだけの男ではある。プレゼントにありがちなブランドには詳しかった。きっとガトーは、『クロムハーツ』の『ク』の字も知らないだろう。しかもシャアは、値段までぴったり言い当てた。
「いや、それもう、十分役には立ったんで!」
 思わず、背の低い方の女がそう言うので、そもそもガトーにこのブレスレッドを上げようとしていた方は、急いで肘で彼女をつつく。
「とにかく、貰ってもらえるんですね?」
「・・・ああ、ありがとう。」
 シャアは、このブレスレッドがどうやら訳ありだと気付いたらしい。ま、花見の時くらいしか顔を合わさない女性達からのプレゼントではあったが、貰わない理由も無い。・・・そう思ったシャアはやんわりと笑いながらお礼を言ってこう続けた。
「しかし、このところ私はあまりアクセサリーを付けないんだよ。それでもいいかい。」
「そりゃもう、好都合!」
 背の低い方の女はまだそんな事を言っている。更に、頭の中では『出来たらガトー様の前では付けないで!』と叫んでいた。もう1人は、もう彼女を止めるのを諦めたらしい。・・・・かわりに聞いた。
「最近アクセサリーを付けないって・・・・何故???」
 シャアは、ガトーよりよっぽど話しやすい男である。・・・しかし、彼がその言葉に少し変な顔をして固まったので、彼女は不信に思った。
「何故付けないって・・・そりゃあ・・・あの・・・困ったな・・・・・・・・」
 しかし、シャアは小さく苦笑いをしながら結局こう答えた。
「・・・私がアクセサリーを付けていると、『食う』ヤツがいるものでね。」
 その返事に、今度は二人の女性が変な顔をした。・・・・しかし、シャアは軽く片手に持ったブレスレッドの箱を上げて挨拶するとあくまで美しい動作で歩いて行ってしまった。
「・・・ともかく、第二目標に手渡し成功!」
 小さい女はいいかげん懲りない性格らしく、そんな軽口を叩いた・・・しかし、もう1人も頷いた。
「うん!・・・今はなんだけどね、あと4年!27才くらいになれば、シャアさんにもあのブレスが似合うようになるはずなのよ!・・・男は筋肉!
・・・『クロムハーツ』のアクセサリーほど男の筋肉と色気に似合うものは無いはずっ!」
「おお・・・27才のシャアさん・・・計画は遠大だね・・・しかし、その頃には安室君もカッコ良かろうね・・・ひひひ。」
 ・・・どうやら、この二人は決定的に好みのタイプが違うらしい。・・・だから仲が良いらしかった。










 シャアは、その日もいつものごとく留学生会館には戻らず、アムロの家に転がり込んでいた・・・何故か?それは、二人が実は恋人同士だったからである。
「たっだーいまー・・・・」
「おっかえりー・・・・・・・・・とかっ、俺が言うと思ったか!えぇ!?」
 何やら、アムロは珍しく忙しいようであった。机から顔も上げずにそう答える。しかし、シャアは気にせずにアムロの狭いワンルームマンションを更に狭くせんばかりの勢いで上がり込んだ。
「・・・相変わらず何も無い・・・ああ、神様!私はお腹が減って死にそうだ!」
 冷蔵庫を勝手に開けたシャアは、そう大袈裟に言うとそれでも辛うじて入っていた缶ビールを手に持つと、これまた勝手にアムロのベットに飛び乗る。
「私は腹が減ったぞ。アムロ。」
「今忙しいんだ。」
「はーらーがー、へってー。」
「今忙しいんだってば!」
 シャアのふざけた口調にも、アムロは机から顔を上げようとしなかった。・・・ふざけるな。シャアは自分の口調もかえりみず思った。この私が、お腹が減ったと言っているんだぞ!?
「御飯を食べに行くぞ。」
 そうすると、飲みかけのビールはベットの脇に置いたまま後ろからアムロの首根っこを掴む。
「いーやーだー!このレポート、提出しなきゃマズイことになるんだよ!1人で行って下さい!」
「一緒に食べに行く!早く準備をしたまえ!」
「いーやーだー!」
 しかし、アムロは相変わらず机にしがみついたままである。本当に、物理的に持ち上げられない様に机の角を必死で掴んでいる。・・・このっ!シャアはそんなアムロの背中を見ながら思った・・・・カワイイじゃないか!
「・・・じゃ、私も行かない事にする。」
 そうして、シャアは作戦を変え後ろからアムロを抱き締めた。アムロは、うひゃあ、というような声を上げやっとシャアを振り返る。
「・・・それもやめろ!・・・・勉強出来ないだろっ、ちょっと!あんた何考えてんの!」
 しかし、シャアは抱きついたままだ。
「何考えてるって・・・そうだな、イヤラシイ事を考えてみるかな。」
「!!!・・・本当にやめろー!」
 しかし、シャアは面白がってアムロの背中に頭を擦り付け続ける。・・・アムロは泣きたい気分になった。
「さぁて、何を考えるかなー・・・そうだな、うんとヤラシイ事の方がいいな。えっと・・・この前の晩、アムロが・・・」
「考えるな−!!ヤメロー!!やめて下さいー!!」
 アムロはそう叫ぶと遂に立ち上がった。・・・と、その時つられて立ち上がったシャアの春物のコートのポケットから、ころり、とブレスレッドの箱が転がり落ちた。
「・・・あ。」
「・・・・何、これ?」
 アムロがしゃがみ込んでその箱を拾う。
「・・・今日貰った。」
 中からは、例の『クロムハーツ』のブレスレッドが出て来た。アムロは無言のまま、それを腕にはめてみた。・・・金具を外すまでも無く、それは手首にするりと入った。何の事は無い・・・ぶかぶかだったのだ。
「・・・うーん、アムロがはめたら肘までくぐりそうだな。」
 シャアが笑いながらそう言う。すると、アムロは顔を上げてシャアを見た。
「・・・・女だろ。」
「妬いてるのか?」
「んなわけねーじゃんっ!」
 アムロは本当に何となくそう聞いただけだったのだが、シャアはいたく満足したらしかった。とたんに、今度は正面からアムロを抱き締める。
「・・・っがあ、やめろー!!だからレポート−がぁー!!!」
「・・・君にあげよう。それ。私はいらないからな。・・・食うなよ?」
「誰が食うかっ!」
 アムロが叫んで腕の中で騒ぐ。しかし、シャアの腕は振りほどけなかった。
「・・・前科があるからな。計画変更だ。・・・・腹が減ったので君を食わせてもらおう。」
「聞けよ、人の話!!なんだ、前科って!!!」
 シャアが少し腕を緩めたので、アムロは大急ぎで後ずさった。・・・あああ!この人頭おかしい!俺、レポート書かなきゃって・・・!
「これが前科だ。」
 シャアが、面白そうに低く笑うと、真っ赤になって自分を見つめているアムロの首筋に手をやった。そこには、もともとシャアの物であった指輪が、チェーンに通して吊るしてあった。
「これは・・・とにかくっ、俺はレポート書くんだ!」
 シャアが全く人の言う事を聞かない人間だと言う事はアムロも知っていたが、それでもそう言ってみる。・・・その間中、シャアはしみじみその鎖になぞるように触れていたが、急に何を思ったかその紐をグイ!っと自分の方にひっぱった。
「・・・ってぇ!」
 首をつられるような格好で、アムロがシャアの胸に転がり込む。
「なにす・・・息止まる・・・っ」
 ・・・・次の瞬間、アムロの息は本当に止まった。・・・シャアがキスをしたのだ。
「・・・・これが前科。で、今の私達が結論だ。・・・ところで、レポート書くのか?」
 長い時間経ってから、やっとアムロを離したシャアが思い出したようにそう言ったが、アムロは小さく首を振った。・・・ふざけんな。










 どうも、もうレポートは書けそうになかった。・・・アムロは、セックスの間にぶかぶかのブレスレッドが腕から抜け落ちないか少しだけ気になった。










 次の日の朝、アムロが学校に行くと校地の先に友人のコウの姿が見えた。
「コーウ!!」
 そう大声で叫んでぶんぶんと手を振る。すると、コウも気付いたらしく振り返って軽く片手を上げた・・・と。
「?」
 何を思ったのか、百メートルくらい離れた所にいる自分に向かって、コウがすごい勢いで走ってくる。・・・アムロはちょっと恐くなって逃げようかと思った。それくらいの勢いだったのだ。
「・・・・アムロ!それっ・・・・・・!!」
 コウは、間近にくるなりアムロの腕をひっぱりあげた。
「なななな何!?何だ!!??」
 アムロが答える。すると、コウは息を切らしながら言った。
「・・・やっぱり!クロムのブレスレッド!うっわあああああ、四万くらいするやつ!!」
 その言葉に、アムロは思いきりぎょっとした。・・・四万!?
「うそっ!・・・・うそ、俺、これいらない!こんなの返す!!」
「返す!?何だとー、貰いモノか!?女か!?・・・うっわあ、俺もこういうのくれる女と付き合いたいー。紹介してー!!」
 意外だ、とアムロは思った。っていうか、『クロム』って何?・・・こういうのをくれる人間は、紹介してもいいけど、きっとコウが困るだろう。・・・女じゃ無いしな。
「・・・コウって、こういうの好きだったんだ。」
「うーん・・・割と・・・・」
 割と、と言う割には、コウの目はじっとブレスレッドに注がれたままだ。
「ちゃらちゃらしたもの付けてると、ほら、部活で怒られるからいつもはしないけど・・・ううん、でも、クロムのだったら一つは欲しい!」
 そう言われて、アムロはやっと思い出した。・・・そうだ。コウは、なんだかんだ言って凝り性で、こういうものにこだわりが有るのだった。たしか、持っているジーンズもビンテージとか、そういうのばっかりで、雑誌とかネットオークションにも詳しかったような・・・。
「ううん、じゃ、これあげる。」
 アムロが急にそう言うと、コウは驚いた顔をしてアムロを見た。
「・・・へっ!?」
「・・・あげる。俺、落としちまいそうだし。ほら、ぶかぶかで。」
「・・・えっ!?」
 コウはもう一回そう言った。
「だって・・・プレゼントだろ!?ダメだよそんなの!」
 ううん、プレゼントじゃないんだ、正確には。アムロは思った。大体、あんな歩いているだけでプレゼント攻めに合うような男はこれを惜しいと思わないだろうし、自分にも似合って無いし、シャアにあげた女の子には悪いが、ヤってる最中にじゃまだし・・・・・ま、それはどうでもいいが。欲しい人間がいるならあげる。それでいいじゃないか。
「ほんとにやる。俺、いらない。」
 それだけ言うと、アムロはさっさと腕からそのブレスレッドを抜いた。そうして、コウの腕に回した。
「えー・・・」
 コウは、呆然とその有り様を見ていた。・・・確かに欲しかった。しっかしなあ。
「・・・おう、似合うじゃん。」
 コウの腕にはまったブレスレッドを見て、アムロは本当にそう思った。日焼けして、筋肉がついて、男の子らしいその腕にそれは良く似合う。自分がはめてた時とは別の物体みたいだ。
「えー・・・・マジでいいのかぁ?」
 コウは、まだそう言って呆然としていたが、アムロは構わず校内を歩き始めた。・・・コウは立ち止まったまま、腕にあるそのブレスレッドを見てみる。・・・うわあ。
「すっげ・・・嬉しい!サンキュー、アムロ!」
 結局、そう叫ぶとコウはアムロに後ろから飛びついた。・・・二人はつつきあってはしゃぎながら、授業に向かった。









「ガトー!」
 昼前の授業が終った瞬間、ガトーは待ち伏せしていたコウに掴まった。・・・そうか。確か、コウは前の時間が空き時間だったのだ。それで、教室の外でずっとガトーの授業が終るのを待っていたらしい。
「ごはんごはん!昼食いに行こうぜ!」
 同じ授業の人間達は、もうコウがガトーを迎えに来るのに慣れてしまっている。くすくすと笑いながら先にドアを抜けてゆくその同級生達を、ガトーは少し苦い思いで見つめた。
「・・・コウ。一緒に飯なら食ってやるから教室まで迎えに・・・・」
 と、そこまで言ったところでガトーはコウの腕で光るものに気付いた。
「・・・これは?コウ。」
 普段、自分がどんな格好をしていようが気にも止めないガトーが急に自分の腕を掴み上げるとそう言ったので、コウは驚いた。・・・が、ガトーが興味を示したのが嬉しくて、もちろんこう言った。
「貰った!今朝!クロムハーツのブレスレットなんだー、いいだろー!?」
「・・・・・・・」
 ガトーは沈黙して、そのブレスレッドを見つめたままである。・・・これには見覚えが有る。いや、きっぱり昨日見た。
「・・・ガトー?」
 あまりにガトーが沈黙したままなので、コウが遂に不安になってそう言った。
「・・・こんなちゃらちゃらしたものを付けて剣道をする気ではあるまいな?」
「まさか!」
 ガトーに嫌われては大変、とコウは即答した。もちろん、自分もそんな気は無かった。
「・・・なんだあ。気に入って見てるのかと思った・・・気に入らなくて見てたのかぁ。・・・外そうか?」
「・・・いや?好きにすればいいだろう、貴様の。」
 しかし、ガトーは機嫌が悪いままだ。なにしろ、コウを置いてさっさと教室を出て行ってしまう。
「・・・って、怒ってるじゃ無いか!何だよ、ガトーったら!!外すったら!それでいい?」
「好きにしろ!」
「ガトーったらー!」
 コウは、ガトーの機嫌の悪い本当の理由を知らなかった。・・・別にいい。自分が受け取らなかったものを、あの女性が誰にあげようと。・・・しかし、コウにやることはあるまい!!
「外す!」
 遂に、後ろからコウが必死でそう叫んだ。
「いや、似合うからそのままにしておけ!」
 もはや、ガトーも何を自分が苛立っているのか分からなかった。自分は別にいらないから良いのだが・・・あの女性は、コウを好きだったのか?・・・コウを?
「どっちかにしてよー!!ガトー!ちょっとっ・・・・!」
「・・・はめておけ。くれた女性に悪いだろうが。」
 遂に、ガトーは振り返るとそうコウに言った。すると、その返事にコウがポカンとした顔でガトーを見た。
「え?・・・俺、これ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アムロに貰ったんだけど。」
「−−−−−−何だと?」
 不思議な顔で、二人はしばらくお互いの顔を見つめ合った。・・・それから、急にガトーが空を仰ぐとコウの頭を後ろからひっぱたいた。
「・・・ばからしい・・・!!行くぞ!」
「ってえ、何!?ガトー!」
 ガトーは、昨日自分が見たブレスレッドとコウがはめているものは別物という結論に至って納得する事にした。・・・大体、コウが誰にプレゼントを貰おうと、それこそ人の事では無いか!!・・・・コウにプレゼントをあげる人間がいるかもという事実に腹を立てている自分がバカみたいで信じられなかった。・・・ウソだろう?
 ・・・学生達は。









 学生達は、今日も青春の日々を送っている。














「例のブレスレッドなんだけどさあ・・・クロムの。」
 数日後の放課後、例の女性二人組が空き教室で話をしていた。
「なんだか・・・浦木君がつけてるらしいんだよね・・・・」
「・・・ええっ!?なんでまた!?」
 茶髪の背の低い女の言葉に、もう1人は驚いた顔をあげる。
「・・・・ああっ、でも待って!それって、いつもガトー様があのブレスを見てるって事!?・・・それでも嬉しいー!」
「うーん、それにさあ・・・浦木君にそれがまた似合うんだなあ・・・」
 茶髪の女も、今日は何だか浸っている。
「しかしさあ・・・シャアさんに上げたブレスレッドが結局浦木君に辿り着くって・・・あの四人、いったいどうなってんの?・・・って、思わない?」
「・・・・・・・・」
 その言葉に、二人はとりあえず顔を見合わせた。・・・確かに。
「・・・・帰ろっか。」
 恐い想像になってしまいそうなので、茶髪の女は『喫煙禁止』の筈の教室内で吸っていた煙草を、持っていたジュースの空き缶に放り込んだ。
「・・・そだね・・・・」








 ・・・だから、学生達は、今日もそれぞれの青春を送っている。














2000/08/02










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