「うわあ・・・・こりゃ・・・・・・・・・」
「・・・・・ひどいな。」
 シャア・アズナブルとアナベル・ガトーの二人は、大学の中庭の木陰で、何とも表現し難い物体を見つけて言葉につまっていた。
「・・・どうする。」
「・・・・・こう言って良ければ・・・・どうにもしようがないな。」
 そういうと、シャアはコートのポケットから煙草を出して火をつける。・・・しかし、そういう暇つぶしの手段を持たないガトーにとって、こういう状況は手持ち無沙汰以外の何ものでもなかった。
 かなり肌寒い、一月のとある月曜日だった。・・・先週末から、ガトーとシャアと言う二人の留学生が留学して来ているこの京都の某私立大学は、後期試験の期間に突入していた。学生達は、誰もが目の色を変えて試験とレポートに明け暮れている。一応、シャアとガトーの二人もそうであった。・・・そうして、二人の共通の友人である、コウとアムロの、二人の日本人学生達も。
 しかし、そんな忙しいテストの合間を縫って、今日四人は一緒に夕食を食べる約束をしていたのだった。が、それにも関わらず理系の日本人二人は連絡が取れなくなっていた・・・レポートを書くのに必要な実験がまだすんでいない、ということで、コウとアムロは大学に4日ほど前から泊まり込み状態だったからである・・・しかし、いざとなったら適当に探せばいい。二人のフランス人留学生はそう考えていた。そうして、実際そうした・・・もちろん、コウとアムロは見つかった・・・もっとも、こんな状態で見つかるとは思ってもいなかったが。
「・・・・で、どうする。」
 足下を見つめながら、ガトーがもう1回そう言った。
「・・・・どうしようねぇ・・・・・?」
 シャアは、いつもの通りにふざけた口調でそう答えた。・・・コウとアムロは、見つかった。確かに大学に居た。庭の、木の影に。
 それは、シャアにいわせると『処女の中学生のごとくこっぱずかしい、甘ったるい』光景であったし、ガトーに言わせれば『手の付けようが無いほど軟弱で救い様の無い』光景であった・・・・・何の事は無い。
 大学の庭の目立ちづらい木の陰で、コウとアムロはどういう加減か、しっかり抱き合って眠っていたのである・・・・。







『バラ色の日々』思い付いたので書いてみた、
本当にみじかいですよ、な短編(笑)。



(イラスト:壱さん)







「・・・さてと。」
 シャアが、吸い終った煙草を携帯灰皿に放り込みながらそう言った・・・・この男でも、時にはポイ捨てではなく、吸い殻を片付ける気になるらしい。いや。ただ単に、今そういうことに細かい女と付き合ってるだけかもしれないのだが。
「何とかしよう。・・・普通に起こしてみるか?」
 言いながら、シャアは屈み込むとアムロに手をかけて軽く揺すった。
「・・・アムロ。起きたまえ。」
 ・・・しかし、当然返事は無い。いったい、何日間コウとアムロが不眠で実験室に閉じこもっていたのか知らないが、面白いくらい二人は熟睡していた。こう言っては何だが、寝顔がめちゃくちゃ幸せそうだった。
「・・・ダメだぞ。・・・コウ君は、眠りは浅い方か?」
「いや・・・地震があっても眠ってそうな男だな。」
 そのガトーの返事に、シャアは軽くため息をついた。・・・どうする。
 大体、からまっているこの二人をほどくだけでも骨が折れそうだった。もちろん、最初は二人とも別々に寝転がったのだろう。しかし、今どんな状態になっているかと言うと、それはもう簡単には話せないくらいの有り様だった。
 まず、コウが肩ひじを曲げてまくらにしたその胸に、アムロが顔をつっこんでいた。そうして、それはアムロの癖なのだが、しっかりとコウのシャツを掴んでいて、もう片手は首にしがみついていた。で、コウの方も引きずられる様にアムロを抱きかかえている。それだけでなく、足もしっかり絡みあっていた。
「・・・どうするか・・・・」
「アムロも、ちょっとやそっとじゃ起きないのか?」
 今度は、ガトーがシャアにそう聞いた。シャアは頷いた。
「寝起きはひっじょ〜〜〜〜〜〜〜〜に悪いな。目覚ましテレビを最初から最後まで見終ってしまうくらい悪い。・・・ああ、なっちゃん。」
 とりあえず、日本のサブカルチャー(しかも女子アナ限定)に思いを馳せているシャアは放っておいて、ガトーもコウとアムロの二人の脇に座り込んだ。
「・・・方法は、一つだけあるがな。」
 ガトーがそう言う。その言葉に、シャアも急にポンっと手を打った。
「ああ!・・・そうだ、アムロを起こす方法も、一つだけ有る。・・・試してみるか?」
「・・・悪い予感がするが。」
 その、シャアの妙な笑いを含んだ物言いに、不安を覚えたガトーはそう答えた。
「うん、それは適中するだろう。・・・『壁を作って』もらえるか?」
 もともと、ガトーは壁のように大きな男なのだが、そのシャアの言葉に苦い顔をしながらも他の学生達から見えないように庭に向かって壁を作る。
「・・・じゃ・・・・」
 言うなり、シャアは思いっきりアムロをコウから引き剥がした。そうして、案の定問答無用で・・・もちろん、アムロは寝ているのだが・・・キスをした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・」
 長い長いキス。・・・・非常に仕方が無いので、ガトーは腕を組んで難しい顔をし続けた。辛うじて、やっとアムロがなにやら反応を返しはじめる。
「・・・・んー・・・・」
「起きたまえ。」
 シャアはそう言ってから、角度を変えてもう1回アムロにキスをした。・・・気色が悪い。いくら、シャアが美形でアムロが子供みたいな顔をしていても、男同士のキスシーン(それもディープ!)など、目の前で見せられて楽しい正常な男はあまりいまい。
「・・・・・・・しゃあー・・・・・?」
 遂に、アムロがそう言って薄目を開いた。
「そうだ。・・・だから、起きろ。」
 シャアが無茶苦茶な事を言っている。・・・とにかく、早く終ってくれないだろうか。ガトーは、冷や汗が背中を流れ落ちてゆくのを感じた。コウが目を覚ますかもしれないし。・・・ここ、学内だし。
「・・・おきてる・・・・」
「ウソをつけ。」
 アムロが、腕を首に回して来たのでここぞとばかりにシャアは首からアムロをぶら下げたまま立ち上がった。
「・・・・・うー・・・・・」
 アムロはまだ寝ぼけているらしい。しかし、アムロを抱えたままのシャアが『次、どうぞ!』とふざけた事を言うのでガトーも鞄の蓋を開いた。
「・・・・・コウ。」
 脇では、首にぶら下がったアムロに向かって、シャアがまだなにやらぶつぶつ言い続けていた。・・・ええい、貴様ら腐っているぞ!!
「・・・コウ、起きろ。」
 そう言うと、ガトーは鞄からとりだした弁当箱をコウの鼻の真ん前で開けると、軽くちらつかせた。・・・とたんに、コウの鼻がひくひくしだしす。
「・・・・・う・・・・・」
「起きろ。・・・起きないと、もうメシを作ってやらんぞ。」
「・・・・たべるぅ!」
 とたんに、コウが跳ね起きた。・・・その頃には、シャアとアムロはべたついているのに飽きてやっと離れた所だった。
「食べます!食べる、お願いガトー!・・・御飯作って!!!」
 コウがそう言いながら、目を擦りながらも食料に飛びつこうとする。・・・それを、ガトーは軽く止めた。
「飯は・・・これから、食べに行くのだろうが。・・・面倒をかけるな。これは、たまたま作って来た昼飯の残りだ。」
「ああ・・・はぁい・・・ああ・・・・・眠いっ、くっそ・・・・俺寝てた?・・・・でももうちょっと寝たい・・・・。」
 コウはそう答えると、本当にもう1回横になって眠りかけたので、ガトーは慌ててコウの首根っこを掴んだ。










 ・・・・そうして、四人はなんとか晩御飯を食べに行く事が出来た。だから、それなりにシャアとガトーも苦労をしているって、そう言う話。















2000/08/12









この話の、本当のアップ日は、8/9なんですよね(笑)。
しかし、その後壱さんが、そりゃあもうなんで分かったんですか私が頭の中でこういうイラストをイメージしていたってぎゃー!!!
・・・・・っていうイラストを送って来てくださったので、8/12なわけです。
ありがとうございます。本当に好きだなあ、壱さんのイラスト・・・・私のサイトはほんと、物を頂き過ぎですね・・・それも、
身に余るようなものばかりを・・・・。この御恩は、一生忘れません。いつかえせるか、分かりませんが(オイ/笑)。









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