文責:アコさん
『バラ色の日々』、京都在住のアコさんが書いてくださいました、まーさーに御当地ネタ!編です(笑)。









 8月16日。京都ではこの日の夜、京都市民にとってはとても有名な、それ以外の人にも、まあそれなりに知られているちょっとした行事がある。
 五山の送り火―――通称『大文字焼き』
 文字通り、京都市内を取り囲む5つ(+1つ)の山に火を付けて、お盆に帰って来た先祖の魂をあの世へ送る・・・と言うのが元々の行事の目的だが、ただ山に火を付けるのではなく、それぞれの山に炎で文字や図柄を浮かび上がらせる為、今ではちょっとした観光行事にもなっていて、その日は祇園祭に次いで京都市内で浴衣姿の女の子が数多く見られる日でもあったりするのだ。
 そして、その微妙に有名な行事の五日ほど前―――世間ではそろそろお盆休みに入ろうかという時期だが、学生にはあまり関係ない―――忙しく部活動をこなしている合間のコウ(もちろんガトーも一緒のハズだ)の招集で、いつもの四人は食事をするために集まっていた。
「アムロはさ、軽井沢行く前、家に帰るのか?」
 10本目の焼き鳥の串に手を伸ばしながら、ふとコウが口を開く。この日は、良く行っているアムロがお気に入りの『鳥せい』ではなく、四人が通う大学の本校から歩いて20分程の所に、気まぐれな日程で出没する屋台の焼き鳥だ。
「特に決めてないけど、別にどうしても帰らなきゃならない理由もないし・・・軽井沢は18日からだよな?」
 ここの焼き鳥も結構イケる・・・などと言いながらアムロが答える。
「そうそう、18日。なら16日は京都に居る?」
「うん、まあ多分居ると思うぜー?」
 もし自分が実家に帰ったら、その間こいつはどこで生活するんだろう・・・などと思いながらアムロはチラリとシャアを見た。シャアの方は、日本に"帰省ラッシュ"などなどという言葉が存在することなど知らないのかもしれないが−−−
 基本的に学生には関係ない“お盆”だが、家を出て下宿している大学生であれば、お盆ぐらい実家に帰っていてもおかしくはない。しかし、質問の内容からしてコウはその日京都にいるらしいし、アムロも特に帰る気はないようだ。帰るためには恐ろしい程の交通費が必要になる二人には、敢えて聞く必要もないだろう。
「ならさ。その日、四人で送り火見ようよ!」
 相変わらずアムロに向けて話しかけているが、当然のように後の二人も頭数に入っている。
「良いね。俺も送り火見たことないし・・・で、どれを見る?」
 『五山の送り火』と言うが、昔、まだ京都市内の建物が低かった頃は五山全てがそれこそ四人の通う大学から一望出来たものの、それなりに高いビルなどが建つようになってからは(それでもせいぜい7階〜8階建てぐらいだが)、そういうビルの屋上からでなければ京都市内をぐるりと取り囲む五山全てを見ることは叶わない。そして、そういうビルの屋上なんかは、その日は『送り火特別料金』の割高ビアガーデンに変身するか、『関係者以外立入禁止』になるのである。つまり、一般庶民・・・それもお金のない大学生などは、どれかにターゲットを絞って、その山が見える場所で送り火を見るのが普通なのだ。
「それなんだけどさ。考えたんだけど・・・」
 コウはいつの間にか10本目の焼き鳥を食べ終え、メニューに視線を流しながら(追加注文を考えているに違いない)やはりアムロの方を向いて話しを続ける。
「俺ら全員、送り火なんて毎年見られるワケじゃないし、どうせなら全部見たくない?」
「そりゃあ、全部一度に見られるんなら最高だけど。コウ、どっかにアテでもあるのか?」
「まさか。俺そんなに偉くない。一カ所で全部見るのは無理だけど・・・」
 会話を続けながら、コウはメニューの中から注文する物を決めたらしい。会話していたアムロに「注文良い?」と断って、焼き鳥を焼いている大将に声をかけた。
「コウ。貴様、焼き鳥ばかりで腹を膨らますんじゃない!追加で食べたいのなら“おでん”や“うどん”も食べろ」
 食べ物に関しては博愛主義のガトーに注意され注文した“おでん”をつつきながら会話再開。
「それで俺、調べたんだけどさ。送り火で山に火が着けられるのって、5つの山同時じゃないんだよね・・・あ、俺ニンジンいらないよ」
 おでんの中に紛れ込んできたニンジンをアムロの方へ押しのけ(ガトーの方へ押しのけると返ってくる可能性が高いためだ)話しは続く。
「だからさ。一つ目の山に火が着いたのを見てから、次の山に火が着くまでにどんどん移動していけば、全部の山を見られるんだよ」
「移動していけばって・・・簡単に言うけどさ」
 コウに押し付けられたニンジンを口に運びながらアムロは少し困ったような顔をした。
 その日は当然ながら京都市内の道は大変混み合っている。バスや電車の臨時便も出るが、送り火の山が見える道路では自家用車が列を作っている為、一旦山に火が着き出したら市内の交通は麻痺に近い状態になってしまうのだ。
「一つの山に火が着いてから、次の山に火が着くまでどれぐらいのタイムラグがあるのだ?」
「あ、それ、もちろんちゃんと調べたよ」
 コウの無計画性を叱るような口調で質問してくるガトーに、“俺だってバカじゃないぞ”と言わんばかりのコウ。
「まず一つ目、メインの“大文字山”に火が着いて、その10分後に“妙法”、で、また10分後に“舟形”、更に10分後に“左大文字”、で、それから10分空けて最後の“鳥居”―――その“鳥居”の火が消えちゃうまでに見られれば全部制覇したことになるから、1時間以内に移動できれば作戦成功なんだ!」
 いつの間に『作戦』になったのやらよく分からないが、コウは自分の思いつきにご満悦らしく、ひどく嬉しそうな表情で自分の調べた情報を披露した。
「なるほどね。だが作戦参謀くん。1時間で市内一周は少し難しいのではないかね?」
 楽しそうに語るコウに興味を惹かれたのか、シャアも会話に混ざってくる。
「いくらコウの車が小回り利いても、渋滞を擦り抜けるのは無理だぞ?」
 アムロのツッコミももっともで、道が空いている時ならともかく渋滞している京都市内を1時間で駆けめぐるのは先ず不可能だろう。なんせ、五山全部を見ようと思ったら、京都市の東の果てから北の果てを経て、西の果てまで行かなければならない。
「分かってる。もちろん車なんて無理!だけど俺の計算だと、自転車なら行けるんだよね」
「自転車?」
 聞き返す三人の声がユニゾンしたが、そこに込められた感情はキッチリ三色―――どういう計算をしたら自転車で1時間で京都市内を一周出来るのかと言いたげなアムロ、自転車と聞いて面倒くさそうな表情をしたシャア、なかなか検討する価値のある提案だと思ったらしいガトー―――に別れた。
「そう、自転車!学生の足!!って、この四人は誰も持ってないけど、レンタサイクルって手があるし」
 三人の表情を特に気にする風でもなくやはり嬉しそうに続けるコウ。
「面白そうだな。京都の風情を満喫出来て、おまけにトレーニングにもなる。貴様にしては良い案だ」
(あーー、もう分かってました。ガトーが賛成することは。日本文化オタクだし。体力には自信あるだろうし。おまけに、寡黙で真面目なフリして実は結構バカなイベントにも付き合える“ノリ”のあるヤツだってこと、最近分かってきたし)
「その『貴様にしては』って枕詞は何だよ、ひでーっ!」と文句を言うコウの横でアムロが溜息をつく。いや、アムロだってコウの提案はなかなか良い案だと思うのだ。自分にそれだけの体力さえあればの話だが。アムロには8月16日の夜、市内某所で自転車を引きずっている自分が想像出来た。ここは何としても反対しなければ・・・だが、楽しそうなコウを見ると、親友の提案を自分が否定することは躊躇われる。そこでアムロはもう一人の人物に期待した。自他共に認める面倒くさがりやで、アムロの体力のなさを熟知していて、おまけにその相手の身体のことを少しは心配してくれてもいいハズの立場の男を。





「そうだな。私もコウ君の作戦に乗ろう」





 予想外の台詞。
「―――っ!?何でだよ?あんた、さっきコウが提案したときは面倒くさそうな表情してたじゃないかっ!?」
「考えてもみたまえ。五山全てをまわると言うことは、京都中の浴衣姿の女性を拝めると言うことだぞ?どこかで取材に来ている女子アナにも会えるかもしれない。ああ。これはなかなか素晴らしい作戦だね」
 胸ぐらに掴みかからんばかりのアムロに動じる様子もなく、シャアは淡々とコウの提案を褒め称える。誉められたコウは、シャアが口にした理由についてはどうでもいいのか「そうだろう?」なんて言いながらニッコリと笑っていた。
(そうだよ。すっかり忘れてたけど、こいつは“ものぐさ”なくせして体力なんか俺の倍はあるし、自分がやりたいことに関しては結構積極的なんだよな)
 もうすっかり作戦に異議を唱えることを諦めたアムロは、目の前の皿に残っていた卵に自分の箸を刺す。
「あ・・・俺の卵」
 楽しみに最後までとって置いたらしいコウの悲しげな声も耳に入らず、アムロは二口で卵を食べてしまった。仕方なくコウはもう一度おでんを追加注文し、アムロは多数決で物事が決まる民主主義の形態について疑問を持ったが、アムロとシャアはレンタサイクルの手配、コウとガトーは当日自転車で走るルートの決定と役割分担まで決まってしまって、コウ発案による『自転車で疾走!五山の送り火ツアー作戦』は発動されてしまった。




 8月16日、作戦当日。
 アムロの祈りも虚しく朝から空は良く晴れ渡っていて。絶好のサイクリング日和だ。
 空がすっかり暗くなって、予定時刻より少しだけ早めに最初の山に火が灯る。
「あ、火が着いた!!」
 コウが指さす山には、火で作られた『大』の文字が鮮やかに浮かび上がっていた。シャアの予定通り、周りには浴衣姿の女性の姿も沢山見える。
「綺麗なものだな」
「情緒溢れる風景だね」
 ガトーとシャアの視線の向く先は微妙に違う感じだが、そんな事はどうでもいい。アムロにとっては、ここが京都市の東の端で、これから北の端を通過して西の端まで自転車で走らなければならないことの方がよほど重要なのだから。






 そして、予想通りアムロは、北の果てにある『妙法』(この山は『妙』と『法』の字が刻まれた二つの山をあわせて五山の一つとみなされている)を過ぎた辺りで作戦からの脱落を宣言したが、
「作戦というのは全員で成し遂げなければ意味がないのだ!頑張れ、アムロ」
と、半ば脅迫めいたガトーの励ましにより脱落することも許されず、コウとガトーによる素晴らしいルート設定のお陰でどうにか作戦は成功した。





「ちょっと消えかかってるけど、何とか間に合ったな!」
 既に火床が燃え尽きたのか所々歯抜けになってはいたが、最終目的地の“鳥居”の山は、鳥居の形が判別できる程度には火が残っている。
「消えかけの火も風情がある」
 京都情緒を満喫できた満足感と作戦成功の達成感からか、ガトーの声は上機嫌で・・・
「女性は浴衣を着ると魅力が3割はアップするね。アムロも着てみないか?」
 そんなシャアの台詞に
「確かに・・・浴衣というのは情緒があって良いものだ」
などと言い出す始末。
(何で俺が浴衣なんか着なきゃならないんだよ!!)
 まだ息が切れて声の出せないアムロは心の中で呟きながら、妙な夢を見るシャアを睨み付けてやったが、ガトーの台詞でコウがある事を決心したことも分かっていた。
「なあなあ、アムロ。来年は俺達も浴衣着よう!」
 はい。そう言い出すと思ってました。コウはいつでも素直で一生懸命だ。
「・・・・・そうだな」
 ようやく息が整ってきたアムロがそう答える。シャアの希望を叶えてやるのは癪だが、少なくとも浴衣を着ていれば自転車で京都市内を疾走しようなどという作戦は提案されないだろう。いくら大学生が暇と体力を持て余している人種とは言え、2年連続して自転車耐久レースに参加することは避けたいアムロだった。
 何年かしたら、四人一緒に自転車で京都の街を疾走したことも良い思い出になるのかもしれないが。










 ちなみに―――
 その日はその後、最終目的地の“鳥居”の山がある嵐山の屋台で夕食を済ませ、明日返す予定になっている自転車に乗ってガトーとコウは留学生会館に、後の二人はいつものワンルームマンションに帰った。
 作戦の成功でテンションの高くなっていたコウは、帰り道、有り余る体力でガトーに勝負を挑んだとか。
 すっかり体力を使いきったアムロは、いつもの成り行きで覆い被さってきた男を、既に筋肉痛の兆候が現れ始めた足で蹴り飛ばし、その夜はあっと言う間に熟睡した。
















(2002.09.21)




■コメント■
こーらぶさま、並びに『ばらいろ」ファンの皆様、スミマセン。もう最初に謝っちゃいます・・・
せっかくお誘い頂いたのにこんなモノしか書けなくて(><)
でも、書いてる本人はすごく楽しかったです〜!文才の無さは地元ネタの強さでカバー(ダメ(笑))。
ただ、この話って、思い切り日が限定されちゃってて、しかも、例の修羅場直後ですよね・・・これからこーらぶさんがお書きになるご予定の『ばらいろのことしのなつ。』とかと時期がかぶりそうなので、マズイかな?とは思ったのですが・・・どうしても京都の街を自転車で疾走する四人を想像したら楽しくなってしまったので、このネタで押し切ってしまいました。もし話の流れ的にマズイってことになりましたらボツにしてやってくださりませ(^^;
そうメッセージしたら、こーらぶさまが本編の方のカレンダーの方を訂正までしてくださって・・・なんて罰当たりなんでしょう、私(滝汗)
アムロとシャアが選んだレンタサイクルは『赤』だったのか『白』だったのか・・・(笑)
なにはともあれ、大好きな『ばらいろ』シリーズで書かせていただけてホント楽しかったです。ありがとうございました♪
















2002/10/10




お疲れ様ですー(^^;)!
さて、ばらいろファンクラブ会長(笑)のアコさんに、こういう企画が持ち上がったからには是非一本書いていただこう!
っておもいまして、さっそくお願いしました、そうしたらアコさん本当に早かったです・・・・!(日付けみてください)
更に、トップページを見ていただくと分かるのですが、他にももう一本頂いているんです・・・・(><)!!
ほんとうにほんとうにありがとうございます!!
こちらは、御当地ネタ、ということで、ある意味私には絶対書けないお話で(何故なら私は夏休みに帰省して京都にいない
大学生だったからです・・・/笑)、わくわくしてしまいました。アムロがつらそうっ(笑)!コウめちゃ元気!
そうしてシャアの自転車は赤くて三倍速だったのか、ガトーさんが乗れるような自転車は貸し自転車屋に存在したのか!!??←(それはいくらなんでも失礼/笑)。
ささいな出来事をすぐにお祭りに変えてしまう、大学生ノリがとっても素敵な、爽やかなお話だと思いました!
さて、もう一本はですね・・・・一体どんなお話なのかですね・・・・フフフ・・・・・お楽しみにです(笑)!!
では、そっちのコメント返しでまた(笑)!!











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