・・・・見愡れる、って言うんだろーな、こういうの。







男の子
『バラ色の日々』・・・アムロが見かけたコウの話。







 最初、アムロは気付かなかった・・・・気付かなかったというより、まさか、それが自分の良く知る人物の背中だとは思わなかったのである。

 京都にある某私立大学の『田辺校地』と呼ばれる校舎は、最寄りの近鉄線興戸駅から歩いて十五分ほどかかる。その間、電車から降りた学生達はひたすら坂道を登ることになるのだった・・・理由は簡単だ。なんのことはない、山のてっぺんに大学があるからだ。で、その十五分を途中まで・・・・つまり、五分ほど歩いた時に、アムロは急に五メートルほど前を歩いている一人の学生の後ろ姿が気になりはじめた。・・・・何故だろう。学生は他にもたくさん歩いている。坂道は今日も長い。なのに、何故この男なんだろう。綺麗なオンナですらなく男、である、ともかく、アムロはどうしても気になったので、思わずその背中を凝視したまま更に二分ほども歩いてしまった。・・・・それから唐突に気付いた。

 ・・・・・ありゃ、コウだよ!俺の友達の、コウの後ろ姿だ!!

 気付かなくてしばらく凝視してしまった自分も笑えたが、じゃあ自分はそれがコウの後ろ姿だと思ったから気になったのだろうか。・・・・・あれ?とアムロは思った。なんだか、それも順番が違う気がする。ごく普通に何故か、最初に目がいってしまい・・・・それじゃあ、それは何故?
 もちろん、前を向いてスタスタ歩いているコウはまさか後ろからアムロが追い掛けて来ているなんてミジンコほども思っていないだろう。声をかけても良かったのだが、どうせ一限の授業から一緒なのだし、と思ってやめてしまった。そこでまた、アムロは思った・・・・ああ、そうか。普段『コウと一緒に』歩くことは多いのだけれど、『コウを見ながら』歩くことは確かにほとんど無いんだ。・・・・なんかコレってちょっと面白いな。
 そこでアムロは、残りの大学までの坂道を、「コウの観察をしながら」登ってゆくことに決めたのだった。

 その日、どうやらコウは部活動が無いらしかった。コウは体育会系の剣道部に所属しているが、一限前のこんな時間にこの坂道を歩いているのだから絶対だ。朝練があったのならこんな場所に居るわけがない。防具の入った大きな袋も、竹刀の入った細長い袋も今日は持っていなかった。・・・・・あ、かわりにアクセサリーが多いな。そういうことにアムロは気がついた。コウはシルバーのアクセサリーに詳しいのだが、普段は単純に運動をやるのに邪魔なのと、ガトーという友人にに苦い顔をされるので、最低限にしか身につけない。しかし今日は、指輪も、ネックレスも、ブレスレッドも(これはアムロがなりゆき上あげたヤツだった)、それからジーンズの後ろのポケットにつっこんだサイフに繋がったシルバーチェーンまで、しっかりと一揃い身につけていた。・・・・ジャラジャラうるさいほど、という量ではなかったが。
 さて、その他の服装は、といったらこんな感じだ。Gジャンを羽織っていて、後ろからだと良くは見えないが、黒っぽいTシャツだかロンTを着ている。その上に何故かたすき掛けでウェストポーチをかけていて・・・・何故本来腰にまくべきウェストポーチを背負っているのかというと、説明が難しいのだが、これが意外に便利なのだ、アムロも時々やる・・・・そのウェストポーチの色も黒だった。
 下は、今日ももちろんジーンズだった・・・・コウは、ジーンズにもこだわりがあるらしいのだ。そのへん、あまりに聞かされ続けたのでアムロも少し詳しくなってしまった、おそらく穿いているのはまたリーバイスのヴィンテージとかなんだろう。ちょっとダボっとしたシルエットの復刻版のそれを、やや腰穿きで落として穿いている。足下はスニーカーで、これはアムロにもメーカーが分かる。コンバースのだ。ハイカットで色は白。俺は今日はVANSのスニーカーだからお揃いにはならなかったなー。一足持ってるんだけど、白のコンバースも。
 そこまで観察して、アムロは恐ろしいことに気付いた・・・・上下ともデニムだよ!Gジャンとジーンズ!・・・・って、超ダサくねぇ?なんだか、洋服考えるのが面倒臭かったオタクとかがやりそうな格好だ。
 そこで、しみじみコウの後ろ姿を見てみるのだが、別に・・・・ダサくはないな。なんと言うか、絶妙なバランス感覚でコウはそれを着こなしているのだった。というか、多分着こなしなんて考えて無い。きっぱりコウは『オシャレ』とは違うよな・・・とアムロは思った。『オシャレ』って言うだけなら多分シャアとかのがずっと『オシャレ』だ。様々な洋服を着るし、あときちんと流行りものとかを揃えてるから。・・・・要するに、コウの場合は好きなものを着ているだけ、なのだ。コレクションしてしまうほど大好きなものを。十年経ってもやっぱりGジャンにジーンズ・・・・のような気がする。いや、そうなるとある意味男らしいな。
 男らしい、ってところまで考えて、アムロはまた気付いた。・・・・そうか。そうだ、実に男らしい・・・・っていうか、『男の子』っぽい趣味なんだ、コウの趣味が。シルバーアクセだの、ヴィンテージだの、スニーカーを集めるとかって、男の子の夢そのままだ、コウは『オシャレ』ではない、そのかわりに実にさりげなく、意識もせずにそれらを身につけているのだ。なんだ。どっちかっていうと俺は時々行動が女々しいし(シャアと寝るから、とかそんな理由ではない)、ときどきシャアも女みたいな格好をする(しかも顔が綺麗だから妙に似合う)・・・・と、そんなことをアムロが思った時だった。ああ、もう校門が見えて来た。
 十五分の長い山道を登りきって、これまた広い校内に入る為に校門をくぐったあたりで、だった。前庭の手前にある石畳で、何故かコウが足を止める。このままだと追い付いてしまうので、アムロもしかたなく足を止めた。コウはというと、何かを思い付いたらしく、胸の手前にあるウェストポーチのジッパーを開いて何かをひっぱりだそうとしている・・・・実に楽し気に。まさにその時だった。

 振り返った学生がいたのだ。・・・・コウを、である。・・・・シャアやガトーを、ではない!コウを、だ!!

 立ち止まったおかげでさらに良くコウを観察することが出来るようになっていたアムロは、はっきり言ってかなり焦った・・・・しかし、一人だけではなかった。シャアやガトーほどの比率ではないものの、しかし確かに、確実にコウを振り返る人間がいる。女だけではない。男も振り返って見ている。当然のことながら、当の本人であるコウはその視線に全く気付いていない。・・・・何だって!一緒に歩いていた時には確かに俺もこんなことには全然気付かなかった!コウはどちらかというと地味な顔だちで、パッと人目を惹くようなところはどこもない。身長が百八十センチ近いのは日本人にしては高い方かもしれないが、自分とどれくらい違うって言ったら五センチくらいのものだ。急に立ち止まってウェストポーチから何かを引っ張り出そうとするのは・・・・唐突な行動かもしれないけど、それくらいはアムロもよくやる。コウが引っ張り出したのは携帯だった。そして、どうやらメールを打ちはじめる。・・・・相変わらず楽しそうに。・・・・じゃあなに。
 ・・・・じゃあ、なに。そこまで考えてアムロは急に答えに思い当たった。・・・・じゃあなに。じゃあ、何故自分は今日坂道の途中でコウに目がいってしまったのか。それを、コウだと気付かず数分眺めてしまったのは何故。・・・・それは多分、『男の子っぷり』に、だったんだ。

 派手なところなどどこにも無いが、あまりにシンプルでさりげない、その分かりやすいガツンと来るような男の子っぷりに、だ。ジーンズが好きでスニーカーが好きで、腰でダボっとしたヴィンテージ・ジーンズを穿いていて、日焼けした腕にシルバーのブレスレッドをはめてるような、確実な男の子っぷりに、だ。・・・・それで目についたんだ。知らないうちに見愡れてたんだ。ああそうか、なんだ。・・・・・なんて。コウはメールを打ち終えたらしく、あいかわらず楽し気に携帯をバックの中に戻す。

 その時、驚いたことにアムロのトートバックの中で携帯が鳴った。・・・・なんだよ!メールって、俺にかよ!!慌てて携帯を取り出す。・・・・そこに書かれていたメールの内容を読んで、アムロはさすがに苦笑いをした。





『いままでヒミツにしてたんだけど、実は俺って・・・』





 そこで、さぞかし驚くだろうなあ、と思いつつそのままコウへ向かって走り出すと背中に飛びつく。・・・・ああ、なんて!





『・・・・俺って、ボブ・サップのモノマネが出来るんだ!』





 なんて分かりやすい『ただの男の子』なんだろう!・・・・すげえよ、コウって!!



 

「・・・・・コウ!」
「・・・・・うっわ!何!!??・・・・・あっれー、アムロいつから後ろにいたんだ!!??」
 コウはかなり驚いたらしくて、目を丸くして俺を振り返る。
「てか、コウ・・・・・ヒミツにしてたけど、実は俺もボブ・サップのモノマネ出来るんだ。」
「うっそ!昨日のk1見た?・・・・でも、俺の方がきっと上手いぜ、モノマネ。」
「見た見た。えー。・・・・でも、そんじゃさぁ、どっちが上手いか誰かに見てもらおうぜ。カイさんとかに。」
「えー!!・・・・そりゃ、いいけどさ。俺、負けねぇ!」
 ・・・・それから、コウは体を回してきちんと俺の方を向くと、










 そりゃあやっぱりすごい男の子っぷりで、ニッコリ笑ったのだった。・・・・どっちのモノマネがよりボブ・サップに似ていたか、なんてのはもちろんヒミツだ。


















2003/04/25



去年の二月にやった100質、とかと同じノリですね。なんというか、ほんっっきで彼等の絵を描いて、そして彼等がどういうキャラクターなのか
考え直してみたくなってしまって・・・・そういう話です。そういう話を四人分書くつもりです。










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