季節は秋。
食欲の秋・読書の秋・芸術の秋・スポーツの秋…。
秋は色々あるけれど、ともかくこの青年にとっては食欲と昼寝の秋であるようだった。
のどかな小春日和、そしてこの次の講義まで中途半端な空き時間…。
ご飯はちゃあんと食べたのだが、この中途半端な時間と季節が災いしたのだ。
「あぁ…腹減った…」
ぐるぐる鳴るお腹を抱えて、ぺたぺた歩いていたら向こうから誰か歩いてきた。
「アムロ何やってんだ?」
通りかかったのはハヤトだった。
柔道着なんかぶらさげているからこれから練習か、そうでなきゃ終わった後なんだろう。
何てゆ〜か…ハヤトも元気だよなぁ…。
なんて年寄り臭いコト考えてしまう自分を、ちょっと恨めしく思うアムロだった。
「次の講義まで空いててさ、暇つぶし〜」
「ふぅん」
そこで突然、ぐるるる〜…とアムロのお腹が騒ぎ出した…。
バツが悪そうに俯いてハヤトに訊ねた。
「悪い…ハヤトなんか持ってない…?俺、腹減って…」
そういう傍からすぐまたぐるる〜とお腹が鳴るので、アムロが苦笑い。
何だかハラペコの子猫みたいだなぁ…とハヤトもつられて苦笑い。
ごそごそとバッグの中を探って、取り出したものをアムロに手渡した。
「賞味期限近いってゆ〜んでウチからハネてきたヤツだけど」
「うん、ありがと」
「礼はイイからさ、今度なんか買いに来いよ?」
「おぅ!もちろんな〜!」
「じゃ俺、組稽古あるから行くな!」
「うん、がんばってな〜」
あぁ、若いな〜…やっぱりそう思わずにいられないアムロだった。
「あ〜アムロ、何食ってんの?」
そう聞かれて口の中がもぐもぐなアムロは、手に持ってる赤い箱を見せて返事をした。
「ん〜、んぅう!」
何を言ってるのかワカラナイが、赤い箱について説明しているのだろう。
言わなくても見れば一発なんだケドね。
「おぉ、ビスコだ!懐かし〜い!俺にも〜」
ん〜とアムロはコウに開けてない袋を手渡して、ペット紅茶をがぶ飲みする。
「やっぱ小腹減ったらコレだよな」
ようやく口の中がスッキリしたアムロが言う。
「んん〜?」
今度はコウの口の中がもぐもぐなので、アムロの方を向いて先を促す。
「こんな時間じゃコンビニ行ってもロクなモンねぇだろ?」
コウはこくこくと頷いて、同意を示す。
「んでもコレだったらさ〜、そこそこ腹に溜まるしさ」
「ふぉおは?おえふぁりはい〜(訳:そぉか?俺足りない〜)」
まだちょっともぐもぐしながら相槌を打つ。
てゆ〜かそれ、訳無しだと何言ってるかわかんないぞコウ!
頼むから食べ終わってから言ってくれ…。
「コウ身体動かしてるからじゃんよ〜」
「ん〜…かな?ところでさ、2つに割って食ったりさ〜アムロしなかった?」
「あ〜、それやったやった!」
言われてみると人間やりたくなるもので、アムロは早速割って食べ出した。
「やるよな?!な!そんでクリームだけ食うとか〜」
そう言ってコウはクリームだけペロリ。
幼少の砌、一度はやったコトと思いますが…お行儀悪いですコウ君。
「えっ?じゃビスケットどぉすんだよ?!」
「ビスケットだけ食う」
「ビスケットだけなんて味がねぇじゃん!」
泣きそうな顔をして反論するアムロ…てゆ〜か泣かないで、ね?
こんっなビスコの食い方云々で泣いちゃダメ!
「…ジャム付けたりとかさぁ…しない?」
「付けねぇよっ!」
うっきぃ〜〜〜!と、怒るアムロだが何とも箕面のお猿さんみたいで…。
あ、関東はニ〜コニコ日○さ〜るぐ〜んだんっ♪が有名ですが
関西は箕面のお猿さんが有名なのです、ローカルなネタですね。
「あぁ〜アムロ泣くなよ〜!俺が悪かった〜!」
終いにはぐしぐし泣きだしたアムロを抱き締めて慰めるコウ…。
それは傍目から見るとかなりステキv…じゃなかった、怪しい!
そう、怪しいね!うんうん…怪しい!怪しいんだって!
運悪くコウとアムロがひっしと抱き合っている瞬間を、ちょっとだけ遠くから
バッチリ目撃しちゃった人物がいたのだった。
ご存知、シャア・アズナブルとアナベル・ガトーの『見ただけで妊娠しちゃうよ!』コンビである。
「おやおや?珍しいモノを見たな」
「…楽しそうだな貴様は」
「そりゃあ楽しいさ、おもしろいモノが見れたじゃないか」
「………どこがだ?」
本当は流してしまいたかったのだが、一応突っ込んだ。
シャアのおもしろいと言う基準は、ガトーとは少し違うせいだ。
それくらいなら構わない、ああ!構わないのさ!
厄介なのはシャアにとって愉快なコトが、ガトーにとってはとても不愉快なコトだからだ。
「やっぱり2人と合流しようと言った君の意見は正解だった、見たまえ立派に青春してるじゃないか!」
「……………どこがだ?」
「それとも妬いているのかい?愛しのコウ君を盗られたコトを」
「誰がだ?何故アムロとコウがじゃれているだけで私が嫉妬せねばならん?」
「おぉ、愛しの…は否定しないんだね?」
「…貴様とはやってられるか…行くぞ」
いい加減シャアとの問答にも疲れたガトーが、スタスタとコウ達の方に歩いて行く。
「…やれやれ…一億総ホモにするつもりは無いが、いい加減進展しないものかね?」
残されたシャアはそう呟いた。
結局ビスコの食べ方云々は決着が着かなかったみたいだケドアムロは帰ってからシャアの凄まじい八つ当たりを食らって、次の日大変だったらしい…。
ぽくぽくぽく、ち〜〜〜ん…ご愁傷様です。
コウはコウで、夕飯を食べながらガトーに「私との事は遊びだったのか?」なんて
冗談なのかマジなんだか…どっちなんだかよくワカラナイしかめっ面でサラリそう言われてしまって…。
それから一週間くらい、ガトーの前でギクシャクして難儀したそうな…。
そんな平和な秋の日だった。
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